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解説記事2015年07月27日 【税制改正解説】 平成27年度における国際課税関係の改正について(2015年7月27日号・№604)

税制改正解説
平成27年度における国際課税関係の改正について
 中村達也

改正の背景

 近年、多国籍企業が税制の隙間を利用した節税対策により税負担を軽減していることに国際的な批判が高まっている。この問題に各国で協調して対応するため、経済協力開発機構(OECD)の租税委員会において、G20メンバー国との協働の下、「税源浸食と利益移転(BEPS: Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクト」の取組みが進められている。また、外国の金融機関を通じた国際的な脱税及び租税回避に対処するため、OECDは、非居住者に係る金融口座情報を各国税務当局間で自動的に交換するための国際基準(「共通報告基準」)を策定した。平成27年度税制改正では、こうしたG20/OECDが推進しているBEPSプロジェクトや金融口座情報の自動的交換といった国際的取組みを踏まえ、主として以下のような措置が講じられた。
 第一に、外国子会社配当益金不算入制度の見直しを行い、内国法人が外国子会社から受ける配当等が当該外国子会社の本店所在地国の法令上、課税所得の損金の額に算入することとされている場合には、本制度の適用対象から除外する措置が講じられた。
 第二に、外国の金融機関の口座を通じた国際的な脱税及び租税回避に対処することを目的として、共通報告基準を国内法制化し、国内金融機関に対し、非居住者が保有する口座の情報について国税庁に報告することが義務付けられた。
 また、上記の改正のほか、国外転出をする場合の譲渡所得等の特例(二重課税調整関係)の創設、外国金融機関等の店頭デリバティブ取引の証拠金に係る利子の課税の特例の創設、外国子会社合算税制等の改正、適格合併等の範囲等に関する特例(クロスボーダーの組織再編成に係る適格性判定の特例)の改正、法人税改革に関連する改正、マイナンバー制度の導入に伴う改正が行われた。
 以下、これらの改正について、解説を行う。

1 外国子会社配当益金不算入制度の改正
益金不算入の対象から除外される剰余金の配当等の額
(1)原則法
 内国法人が外国子会社(持株割合25%以上等の要件を満たす外国法人をいう。)から受ける剰余金の配当等の額で、その剰余金の配当等の額の全部又は一部がその外国子会社の本店所在地国の法令においてその外国子会社の所得の金額の計算上損金の額に算入することとされている場合には、その受ける剰余金の配当等の額を益金不算入の対象から除外することとされた(法法23の2②一)。
(2)実額法  内国法人が外国子会社から受ける剰余金の配当等の額で、その剰余金の配当等の額の一部がその外国子会社の所得の金額の計算上損金の額に算入されたものである場合には、上記(1)にかかわらず、その受ける剰余金の配当等の額のうちその損金の額に算入された部分の金額(損金算入対応受取配当等の額)をもって、益金不算入の対象外とされる金額とすることができることとされた(法法23の2③)。
 実額法は、剰余金の配当等の額を受ける日の属する事業年度に係る確定申告書、修正申告書又は更正請求書に実額法の適用を受けようとする旨並びに損金算入対応受取配当等の額及びその計算に関する明細を記載した書類の添付があり、かつ、一定の書類を保存している場合に限り、適用される(法法23の2⑦、法規8の5②)。

2 非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度の整備
(1)新規特定取引を行う者による新規届出書の提出
 平成29年1月1日以後に報告金融機関等との間でその営業所等を通じて特定取引を行う者は、特定対象者の居住地国等を記載した届出書を、その特定取引を行う際、その報告金融機関等の営業所等の長に提出しなければならないこととされた(実特法10の5①、実特令6の2、6の6~6の9、実特規16の2、16の7~16の10)。
(2)報告金融機関等による既存特定取引に係る特定対象者の住所等所在地国と認められる国又は地域の特定手続  報告金融機関等は、平成28年12月31日以前に特定取引を行った者で同日においてその特定取引に係る契約を締結しているものにつき、平成30年12月31日(一定の特定取引に係る契約については平成29年12月31日)までに、所定の特定手続を実施した上、その報告金融機関等の保有する特定対象者に関する情報に基づきその特定対象者の住所等所在地国と認められる国又は地域を特定しなければならないこととされた(実特法10の5②、実特令6の3、6の10、実特規16の3)。
(3)報告金融機関等による所轄税務署長に対する報告事項の提供  報告金融機関等は、その年の12月31日において、その報告金融機関等との間でその営業所等を通じて特定取引を行った者が報告対象契約を締結している場合には、特定対象者の居住地国等及びその報告対象契約に係る資産の価額、当該資産の運用、保有又は譲渡による収入金額を、その年の翌年4月30日までに、その報告金融機関等の本店等の所在地の所轄税務署長に提供しなければならないこととされた(実特法10の6①、実特令6の12、実特規16の12)。
(4)その他 ① 報告金融機関等は、新規届出書等の提出を受けた場合又は特定対象者の住所等所在地国と認められる国若しくは地域の特定を行った場合には、特定対象者の特定居住地国に関する事項等一定の事項に関する記録を文書等により作成し、保存しなければならないこととされた(実特法10の7①、実特規16の13)。
② 税務職員は、報告事項の提供に関する調査について必要があるときは、その報告事項の提供をする義務がある者に質問し、帳簿書類その他の物件を検査し、又はその物件(その写しを含む。)の提示若しくは提出を求めることができることとされた(実特法10の8①②、実特規16の14)。
③ 届出書の提出義務及び報告事項の提供義務に対する違反行為等について所要の罰則を規定することとされた(実特法13④)。

3 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例(二重課税調整関係)の創設
(1)外国転出時課税の規定の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例
 居住者が外国転出時課税の規定の適用を受けた有価証券等又は未決済デリバティブ取引等の譲渡又は決済をした場合における事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その外国転出時課税の規定により課される外国所得税の額の計算において収入金額に算入することとされた金額をその有価証券等の取得に要した金額とし、又は未決済デリバティブ取引等の決済損益額からその外国所得税の額の計算において算出された利益の額の減算等をすることとされた(所法60の4①②、所令170の3)。
(2)国外転出をする場合の譲渡所得等の特例に係る外国税額控除の特例  国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用を受けた個人で納税の猶予を受けているものが、その納税の猶予に係る期限までに、その特例の対象となった有価証券等又は未決済デリバティブ取引等に係る契約の譲渡又は決済等をした場合において、その所得に係る外国所得税を納付することとなるとき(その外国所得税に関する法令において、その外国所得税の額の計算に当たってその特例の適用を受けたことを考慮しないものとされている場合に限る。)は、その外国所得税を納付することとなる日から4月を経過する日までに、更正の請求をすることにより、その外国所得税の額のうちその有価証券等又は未決済デリバティブ取引等に係る契約の譲渡又は決済等により生ずる所得に対応する部分の金額として計算した金額は、その者が国外転出の日の属する年において納付することとなるものとみなして、外国税額控除を適用することができることとされた(所法95の2①、153の5、所令226の2、所規43)。

4 外国金融機関等の店頭デリバティブ取引の証拠金に係る利子の課税の特例の創設
(1)中央清算されない店頭デリバティブ取引の証拠金に係る利子の非課税
 外国金融機関等が、国内金融機関等との間で平成30年3月31日までに行う店頭デリバティブ取引に係る証拠金で一定の要件を満たすものにつき、その国内金融機関等から支払を受ける利子については、一定の要件の下、所得税を課さないこととされた(措法42①、措令27、措規19の14の2)。
(2)中央清算店頭デリバティブ取引の証拠金に係る利子の非課税  外国金融機関等が平成30年3月31日までに行う店頭デリバティブ取引に基づく相手方の債務を金融商品取引清算機関が負担した場合にその金融商品取引清算機関に対して預託する一定の証拠金につきその外国金融機関等が支払を受ける利子又は国内金融機関等が同日までに行う店頭デリバティブ取引に基づく相手方の債務を外国金融商品取引清算機関が負担した場合にその国内金融機関等に対して預託する一定の証拠金につきその外国金融商品取引清算機関が支払を受ける利子については、一定の要件の下、所得税を課さないこととされた(措法42②、措令27、措規19の14の2)。

5 特定外国子会社等に係る所得の課税の特例(外国子会社合算税制)等の改正
(1)
特定外国子会社等の判定における租税負担割合の基準(いわゆるトリガー税率)が20%未満(改正前20%以下)に変更された(措令措令25の19①二、39の14①二)。
(2)特定外国子会社等の課税対象金額の益金算入制度に係る適用除外基準について、次の見直しが行われた。
① 事業基準の判定における被統括会社の範囲に、特定外国子会社等が発行済株式等の50%以上を有する等の要件を満たす内国法人が追加された(措法40の4③、66の6③、68の90③、措令25の22②、39の17②、39の117②)。
② 事業基準の判定における統括会社の要件のうち、2以上の被統括会社に対して統括業務を行っていることとする要件が、複数の被統括会社(外国法人である2以上の被統括会社を含む場合に限る。)に対して統括業務を行っていることに改められた(措法40の4③、66の6③、68の90③、措令25の22④一、39の17④一、39の117④一)。
③ 事業基準の判定における事業持株会社の要件に、統括会社の有する外国法人である被統括会社の株式等の帳簿価額の合計額のその統括会社の有する全ての被統括会社の株式等の帳簿価額の合計額に対する割合又は統括会社の外国法人である被統括会社に対して行う統括業務に係る対価の額の合計額のその統括会社の全ての被統括会社に対して行う統括業務に係る対価の額の合計額に対する割合のいずれかが50%を超えていることが追加された(措法40の4③、66の6③、68の90③、措令25の22④、39の17④、39の117④)。
④ 非関連者基準の判定における卸売業を主たる事業とする統括会社が行う取引に係る非関連者の範囲が外国法人である被統括会社に限定された(措令25の22⑩、39の17⑩、39の117⑩)。
(3)適用除外に該当する旨を記載した書面の添付がない確定申告書の提出があり、又はその適用がある旨を明らかにする資料等の保存がなかった場合においても、税務署長がその添付又は保存がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その書面及び資料等の提出があった場合に限り、適用除外基準を適用することができることとされた(措法40の4⑧、66の6⑧、68の90⑧)。
(4)特定外国子会社等が持株割合25%以上等の要件を満たす子会社から受ける損金算入配当等の額(その受ける配当等の額の全部又は一部が子会社の本店所在地国の法令においてその子会社の所得の金額の計算上損金の額に算入することとされている場合におけるその受ける配当等の額をいう。以下同じ。)については、特定外国子会社等の合算対象とされる金額の計算上控除しないこととされた(措令39の15①四、39の115①四)。
(5)特定外国子会社等が他の特定外国子会社等(上記(4)の子会社に該当するものに限る。)から受ける損金算入配当等の額のうち、当該他の特定外国子会社等の合算対象とされた金額から充てられた部分の額は、その特定外国子会社等の合算対象とされる金額の計算上控除することとされた(措令39の15③三・四、39の115③三・四)。
(6)内国法人が外国法人(外国子会社配当益金不算入制度における外国子会社に該当するものに限る。)から受ける損金算入配当等の額のうち、その内国法人の損金算入配当等の額を受ける日を含む事業年度及びその事業年度開始の日前10年以内に開始した各事業年度においてその外国法人につき合算対象とされた金額に達するまでの金額等は、その内国法人の所得の金額の計算上益金の額に算入しないこととされた(措法66の8③⑩、68の92③⑩)。
※ 特殊関係株主等である内国法人等に係る特定外国法人に係る所得の課税の特例(コーポレート・インバージョン対策合算税制)についても同様の趣旨の改正(上記(2)を除く。)が行われた(措法66の9の2⑧、66の9の4③、措令39の20の2⑦二、39の20の3①)。

6 国際課税原則の帰属主義への変更の円滑な実施のための改正
(1)法人税法関係
 ① 外国法人の法人税
 イ 課税所得の範囲の変更等
  外国法人が設立されたものとみなして欠損金の繰越控除制度等を適用することとされる場合から、外国法人を合併法人とする適格合併によりその適格合併に係る被合併法人である他の外国法人の恒久的施設に係る事業の全部又は一部の移転を受けたことによってその合併法人である外国法人が恒久的施設を有することとなった場合等が除外された(法法10の3④、法令14の11⑥)。
 ロ 国内源泉所得の範囲   外国法人が得る履行期間が6月未満の売掛債権等に係る利子は、法人税法に規定する国内源泉所得である国内資産の運用・保有所得に該当しない旨を明確化する等の整備が行われた(法令177②)。
 ハ 恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算 (イ)外国銀行等の資本に係る負債の利子の損金算入
  外国銀行等の資本に係る負債の利子の損金算入制度による損金算入額は、確定申告書等に記載された金額を限度とすることとされた(法法142の5②)。
(ロ)特定の内部取引に係る恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算
  外国法人の恒久的施設と本店等との間で、恒久的施設に帰属しなくても課税対象となる国内不動産の譲渡所得や貸付対価等の国内源泉所得を生ずべき資産のその恒久的施設による取得又は譲渡に相当する内部取引があった場合には、その内部取引は、その資産の内部取引の直前の帳簿価額に相当する金額により行われたものとして、その外国法人の恒久的施設帰属所得に係る所得の金額を計算することとされた。また、この場合の外国法人の恒久的施設における内部取引に係る資産の取得価額は、その内部取引の直前の帳簿価額に相当する金額とすることとされた(法法142の9、法令190の2)。
 ニ 外国法人の中間申告   恒久的施設を有する外国法人が恒久的施設を有しない外国法人になった日の翌日の属する事業年度については、中間申告書の提出が不要とされた(法法144の3②)。
 ホ 外国普通法人となった旨の届出等   恒久的施設を有することとなった外国法人である普通法人の課税対象となる国内源泉所得に係る所得の金額の全部につき租税条約等の規定により法人税を課さないこととされる場合等には、外国普通法人となった旨の届出書の提出を要しないこととする等の改正が行われた(法法149①②、法令211)。
 ② 内国法人の外国税額控除   内国法人の外国税額控除における国外所得金額について、国外事業所等帰属所得とそれ以外の国外源泉所得に区分して計算方法を定めるとともに、国外事業所等帰属所得に係る所得の金額の計算について明確化のための所要の整備が行われた。
 イ 国外所得金額   国外所得金額は「国外事業所等帰属所得」と「その他の国外源泉所得」に係る所得の金額の合計額とされた(法令141の2)。
 ロ 国外事業所等帰属所得に係る所得の金額の計算   国外事業所等帰属所得に係る所得の金額は、内国法人の国外事業所等を通じて行う事業に係る益金の額から損金の額を控除した金額とすることとされた(法令141の3①)。また、「国外事業所等を通じて行う事業に係る益金の額」及び「国外事業所等を通じて行う事業に係る損金の額」は、別段の定めがあるものを除いて、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算に関する法人税に関する法令の規定に準じて計算することとされた(法令141の3②)。
 ハ その他の国外源泉所得に係る所得の金額の計算   その他の国外源泉所得に係る所得の金額は、その国外源泉所得に係る所得についてのみ法人税を課するものとした場合に課税標準となる所得の金額に相当する金額とされた(法令141の8①)。
 ニ 連結国外所得金額   連結納税制度における外国税額控除に係る連結国外所得金額は、「国外事業所等帰属所得」と「その他の国外源泉所得」に係る連結所得の金額の合計額とされた(法令155の27の2)。
 ホ 国外事業所等帰属所得に係る連結所得の金額の計算   連結法人の国外事業所等帰属所得に係る連結所得の金額は、連結法人の国外事業所等を通じて行う事業に係る益金の額から損金の額を控除した金額とされた(法令155の27の3①)。「国外事業所等を通じて行う事業に係る益金の額」及び「国外事業所等を通じて行う事業に係る損金の額」は、別段の定めがあるものを除いて、連結法人の各連結事業年度の連結所得の金額の計算に関する法人税に関する法令の規定に準じて計算することとされた(法令155の27の3②)。また、単体納税制度における国外事業所等帰属所得に係る所得の金額の計算に関する規定により国外事業所等帰属所得に係る所得の金額を計算した場合に益金の額となる金額又は損金の額となる金額は、連結事業年度の国外事業所等帰属所得に係る連結所得の金額の計算上益金の額又は損金の額に算入することとされた(法令155の27の3③)。
 へ その他の国外源泉所得に係る連結所得の金額の計算   その他の国外源泉所得に係る連結所得の金額は、その国外源泉所得に係る所得についてのみ法人税を課するものとした場合に課税標準となるべき連結所得の金額に相当する金額とされた(法令155の27の4①)。
(2)所得税法関係
 ① 非居住者及び法人の納税義務・源泉徴収
 イ 国内源泉所得
(イ)恒久的施設帰属所得
  ⅰ 非居住者の事業場等
   恒久的施設帰属所得は、恒久的施設がその非居住者から独立して事業を行う事業者であるとしたならば、その恒久的施設が果たす機能、その恒久的施設において使用する資産、その恒久的施設とその非居住者の事業場等との間の内部取引その他の状況を勘案して、その恒久的施設に帰せられるべき所得とされている(所法161①一)。今回の改正では、事業場等の範囲について定められた(所令279)。
  ⅱ 特定の種類の内部取引の取扱い
   恒久的施設と事業場等との間の資金の借入れに係る債務の保証、再保険の引受けその他これらに類するものは、内部取引として認識しないこととされている(所法161②)。今回の改正では、これらに類するものとして、その他の取引に係る債務の保証等が定められた(所令290)。
  ⅲ 国際運輸業所得
   恒久的施設を有する非居住者が国内及び国外にわたって船舶又は航空機による運送の事業を行う場合には、その事業から生ずる所得のうち国内において行う業務につき生ずべき所得をもって、恒久的施設帰属所得とされている(所法161③)。今回の改正では、この国内において行う業務につき生ずべき所得の具体的な内容について定められた(所令291)。
(ロ)国内にある資産の譲渡により生ずる所得
  国内源泉所得とされる国内資産譲渡所得は、国内不動産、国内不動産関連株式及び事業譲渡類似株式の譲渡所得その他の譲渡所得で、従来、わが国に恒久的施設を有しない非居住者において課税対象とされてきた国内資産の譲渡所得のみに限定された(所令281)。
(ハ)租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得
  恒久的施設を有する非居住者の恒久的施設帰属所得を算定する場合において、その非居住者の恒久的施設と事業場等との間の内部取引から所得が生ずる旨を定める租税条約以外の租税条約の適用があるときには、内部取引には、利子の支払に相当する事実その他一定の事実は、含まれないこととされている(所法162②)。今回の改正では、内部取引に含まれないこととされる一定の事実として、無形資産の使用料の支払等の事実が定められた(所令291の2)。
 ロ 非居住者の納税義務 (イ)恒久的施設帰属所得についての総合課税に係る所得税の課税標準等の計算
  非居住者の課税標準及び所得税の額につき、居住者に係る規定に準じて計算する場合に、非居住者に適用するための所要の修正規定が定められているが、今回の改正において、恒久的施設帰属所得についての総合課税に係る所得税を計算する場合の規定と恒久的施設帰属所得以外の所得についての総合課税に係る所得税を計算する場合の規定がそれぞれ定められた(所令292)。また、恒久的施設帰属所得についての総合課税に係る所得税につき、居住者に係る規定に準じて計算する場合の修正規定について、帰属主義に即した整備が行われた。
(ロ)恒久的施設に帰せられるべき純資産に対応する負債の利子の必要経費不算入
  非居住者の恒久的施設に係る純資産の額が、その非居住者の純資産の額に相当する金額のうちその恒久的施設に帰せられるべき金額として一定の方法により計算した金額に満たないときは、その非居住者の恒久的施設を通じて行う事業に係る負債の利子の額のうちその満たない金額に対応する部分の金額は、その非居住者のその年分の恒久的施設帰属所得につき居住者に係る規定に準じて計算する事業所得の金額等の計算上、必要経費等に算入しないこととされている(所法165の3)。今回の改正では、必要経費等に算入しない金額の具体的な計算方法について定められた(所令292の3、所規66の3~66の6)。
(ハ)配賦経費に関する書類の保存がない場合における配賦経費の必要経費不算入
  非居住者の恒久的施設を通じて行う事業とそれ以外の事業に共通する販売費等及び育成費等並びに支出した金額をこれらの事業の内容及び費用の性質に照らして合理的な基準で恒久的施設に配賦した場合には、恒久的施設を通じて行う事業における費用として必要経費又は支出した金額に算入されるが、この場合に保存が必要となる書類は、配分の基礎となる費用の内容、その費用が恒久的施設を通じて行う事業とそれ以外の事業に共通することについての説明、配分計算の方法及びその配分計算が合理的であることを説明する書類とされた(所法165の5①、所規66の7)。
(ニ)特定の内部取引に係る恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算
  非居住者の恒久的施設と事業場等との間で、国内不動産の譲渡所得又は貸付対価等の国内源泉所得を生ずべき資産のその恒久的施設による取得又は譲渡に相当する内部取引があった場合には、その内部取引は、その資産の内部取引の直前の価額とされる一定の金額により行われたものとして、その非居住者の恒久的施設帰属所得に係る所得の金額を計算することとされた(所法165の5の2、所令292の4①)。
(ホ)その他の国内源泉所得に係る所得の金額の計算
  恒久的施設を有する非居住者の総合課税の対象となる恒久的施設帰属所得以外の国内源泉所得及び恒久的施設を有しない非居住者の総合課税の対象となる国内源泉所得については「その他の国内源泉所得」として、その課税標準及び税額については恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算に準じて計算することとされた(所令292の5)。
(ヘ)恒久的施設を有する非居住者の総合課税に係る所得税の課税標準の計算
  恒久的施設を有する非居住者が恒久的施設帰属所得及びその他の国内源泉所得を有する場合の総合課税に係る所得税の課税標準については、恒久的施設帰属所得に係る所得及びその他の国内源泉所得に係る所得を、それぞれ各種所得に区分し、その各種所得ごとに計算した所得の金額を基礎として、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額を計算することとされた(所令292の6)。
(ト)非居住者に係る外国税額の控除
  恒久的施設を有する非居住者が各年において外国所得税を納付することとなる場合には、恒久的施設帰属所得に係る所得の金額につき計算した所得税の額のうち、その年において生じた国外所得金額に対応するものとして計算した金額(控除限度額)を限度として、その外国所得税の額(恒久的施設帰属所得につき課される外国所得税に限られ、一定の外国所得税の額は除かれる。以下「控除対象外国所得税の額」という。)をその年分の所得税の額から控除することとされている(所法165の6①)。今回の改正では、控除対象外国所得税の額、控除限度額及び国外所得金額の計算方法等の細目が定められた(所令292の2、292の7~292の14、所規66の8)。
 ハ 申告、納付及び還付 (イ)非居住者の青色申告の帳簿書類
  非居住者の帳簿書類については、青色申告の承認を受けている非居住者は、一定の帳簿書類を備え付け、これにその取引を記録し、かつ、その帳簿書類を保存しなければならないこととされている(所規55~63、67)。恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算において内部取引を認識することとされたことに伴い、青色申告の帳簿書類への記録の対象となる取引につき、内部取引を含めることとされた(所規57、67)。また、その内部取引について、証憑類に相当する書類を作成、保存しなければならないこととされた(所規68の3)。
(ロ)恒久的施設に係る取引に係る文書化
  恒久的施設を有する非居住者は、他の者と行った取引のうちその取引から生ずる所得が恒久的施設に帰せられるものに係る明細を記載した書類及び事業場等と恒久的施設との間の内部取引に係る明細を記載した書類を作成しなければならないこととされている(所法166の2①②)。今回の改正では、これらの書類の具体的な内容が定められた(所規68の2、68の3)。
 ニ 法人の納税義務   恒久的施設を有する外国法人の受ける国内源泉所得に係る課税の特例
  外国法人が恒久的施設を有するなど一定の要件を備え、かつ、その要件を備えていること及びその支払を受ける一定の国内源泉所得が法人税の課税の対象となることについてその法人税の納税地の所轄税務署長の証明書の交付を受け、その証明書をその国内源泉所得の支払をする者に提示した場合には、その証明書が効力を有している間に支払を受ける国内源泉所得については所得税を課さないこととされている(所法180①)。帰属主義への移行によって、本制度の対象となるのは、恒久的施設に帰せられる一定の国内源泉所得に限られることとなったことを踏まえ、本制度の適用要件に関する整備が行われた(旧所令304六)。
 ホ 源泉徴収   源泉徴収を要しない非居住者の国内源泉所得
  非居住者が恒久的施設を有するなど一定の要件を備え、かつ、その要件を備えていること及びその支払を受ける一定の国内源泉所得が総合課税に係る所得税の課税の対象となることについてその所得税の納税地の所轄税務署長の証明書の交付を受け、その証明書をその国内源泉所得の支払をする者に提示した場合には、その証明書が効力を有している間に支払を受ける国内源泉所得については所得税の源泉徴収を要しないこととされている(所法214①)。帰属主義への移行によって、本制度の対象となるのは、恒久的施設に帰せられる一定の国内源泉所得に限られることとなったことを踏まえ、本制度の適用要件に関する整備が行われた(所令330七)。
 へ その他 (イ)恒久的施設の定義
  恒久的施設については、所得税法全般にわたる用語の意義を定める規定において次のとおり定められている(所法2①八の四)。
  ⅰ 非居住者又は外国法人の国内にある支店、工場その他事業を行う一定の場所
  ⅱ 非居住者又は外国法人の国内にある建設作業場(非居住者又は外国法人が国内において建設作業等(建設、据付け、組立てその他の作業又はその作業の指揮監督の役務の提供で一年を超えて行われるものをいう。)を行う場所をいい、当該非居住者又は外国法人の国内における当該建設作業等を含む。)
  ⅲ 非居住者又は外国法人が国内に置く自己のために契約を締結する権限のある者その他これに準ずる者で一定のもの
  今回の改正では、恒久的施設の定義に関し、事業を行う一定の場所、契約締結代理人等の具体的内容が定められた(所令1の2)。
(ロ)事業所得等を有する者の帳簿書類の備付け等
  事業所得等を生ずべき業務を国内において行う非居住者(青色申告の承認を受けている者を除く。)は、帳簿を備え付けて、これにこれらの業務に係るその年の取引のうち総収入金額及び必要経費に関する事項を記録し、かつ、その帳簿(関連する帳簿や書類を含む。)を、一定期間保存しなければならないこととされている(所法232)。そして、恒久的施設を有する非居住者にあっては、帳簿に記録する対象となる取引には、内部取引に該当するものが含まれる(所法232)。今回の改正では、その内部取引について、証憑類に相当する書類を作成、保存しなければならないこととされた(所規68の3)。
 ② 居住者の納税義務
 イ 居住者の外国税額控除
  居住者の外国税額控除について、国外源泉所得の範囲、国外所得金額の計算、控除限度額の計算、外国税額控除の対象とならない外国所得税の額並びに国外事業所等帰属外部取引及び内部取引に関する文書化について、帰属主義の円滑な実施に向けて政省令の整備が行われた(所法95、所令221の2~221の6、222、222の2、225の2~225の16、所規40の11~40の16、42の2、42の3。)
 ロ 非永住者の課税所得の範囲   非永住者の課税所得の範囲は、原則として国外源泉所得については外国に課税を譲歩しつつ、そのうち国内で支払われたもの及び国外から送金されたものについては、わが国の課税の範囲とされています(所法7①二)。今回の改正では、国内で支払われたもの及び国外から送金されたものの範囲について、規定の整備が行われた(所令17)。
 ハ 年の中途で非居住者が居住者となった場合の税額の計算   非居住者に係る外国税額控除制度が創設されたことを踏まえ、年の中途で非居住者が居住者となった場合の外国税額控除の適用の方法が定められた(所令258④)。
(3)租税特別措置法関係
 ① 内部取引に係る課税の特例等
 イ 非居住者の内部取引に係る課税の特例
  恒久的施設を有する非居住者の事業場等と恒久的施設との間の内部取引の対価の額とした額が独立企業間価格と異なることにより、その非居住者の恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算上、収入金額とすべき金額が過少となるとき、又は必要経費に算入すべき金額が過大となるときは、その非居住者の恒久的施設帰属所得に係る所得に係る所得税法その他所得税に関する法令の規定の適用については、その内部取引は、独立企業間価格によるものとされている(措法40の3の3①)。今回の改正では、次のとおり、独立企業間価格の算定方法等の細目が定められた。
(イ)独立価格比準法及び再販売価格基準法による独立企業間価格の算定の前提となる「特殊の関係」の細目について定められた(措令25の18の3①)。
(ロ)内部取引に係る独立企業間価格について、再販売価格基準法又は原価基準法における通常の利益率の算定方法及び利益分割法又は取引単位営業利益法による算定方法の細目が定められた(措令25の18の3③~⑤)。
(ハ)内部取引に係る独立企業間価格の算定に必要と認められる書類の提示又は提出が遅滞なく行われない場合には、比較対象者への質問検査や推定課税がなされることとなるが(措法40の3の3③④)、この提示又は提出されるべき書類の細目について定められた(措規18の19の3)。
 ロ 内部取引に係る課税の特例に係る納税の猶予   非居住者が租税条約の規定に基づきその非居住者に係る条約相手国等の権限ある当局に対しその租税条約に規定する申立てをした場合には、その申立てに係る更正決定により納付すべき所得税の額(その申立てに係る条約相手国等との間の租税条約に規定する協議の対象となるものに限る。)及びその所得税の額に係る加算税の額として計算した金額を限度として、その納付期限からその条約相手国等の権限ある当局との間の合意に基づく更正があった日の翌日から1月を経過する日までの期間に限り、その納税を猶予することができることとされている(措法4の3の4①)。今回の改正では、更正決定により納付すべき所得税の額及び加算税の額の計算方法、相互協議が合意に至らない場合等の納税猶予期間、納税の猶予を受けるための申請書の記載事項等について定められた(措令25の18の4①~③、措規18の19の4)。
 ② 国外所得金額の計算の特例   居住者の外国税額控除における控除限度額に係る国外所得金額の計算上、その居住者の事業場等と国外事業所等との間の内部取引の対価の額とした額が独立企業間価格と異なることにより、その内部取引に係る収入すべき金額が過大となるとき、又は損失等の額が過少となるときは、その国外所得金額の計算については、その内部取引は、独立企業間価格によるものとすることとされている(措法41の19の5①)。今回の改正では、上記①の非居住者の内部取引に係る課税の特例と同様に、独立企業間価格の算定方法等の細目が定められた(措令26の28の7、措規19の11の5)。
(4)租税条約等実施特例法関係  内部取引に係る移転価格課税に係る対応的調整において還付加算金を付さないことができる要件として、国外事業所等に係る租税の課税標準等につき財務大臣が相手国等の権限ある当局との間でその相手国等との間の租税条約に基づく合意をしたこと等が規定された(実特令6②)。
(5)地方法人税法関係  恒久的施設を有する外国法人の地方法人税における外国税額控除の控除限度額は、恒久的施設帰属地方法人税額に当該事業年度の恒久的施設帰属所得金額のうちにその事業年度の調整国外所得金額の占める割合を乗じて計算した金額とされた(地方法人税法施行令3③④)。
(6)復興財確法(復興特別所得税)関係  恒久的施設を有する非居住者の復興特別所得税における外国税額控除の控除限度額は、恒久的施設帰属所得に係る所得の金額につき所得税の税額の計算に関する法令の規定(非居住者に係る外国税額の控除の規定を除く。)により計算した所得税の額のみを基準所得税額として計算した場合の復興特別所得税の額に相当する金額のうち、その年において生じた国外所得金額に対応する金額とされている(復興財確法14②)。今回の改正では、この控除限度額の具体的な計算方法について定められた(復興所令3②)。

7 適格合併等の範囲等に関する特例(クロスボーダーの組織再編成に係る適格性判定の特例)の改正
(1)
外国子会社合算税制におけるトリガー税率が20%未満(改正前20%以下)に変更されたことに伴い、特定軽課税外国法人に該当することとされる著しく低い租税負担割合の基準が20%未満(改正前20%以下)に変更された(措令39の34の3⑤二)。
(2)特定軽課税外国法人に該当することとされる外国法人の要件について、その外国法人が、合併等が行われる日を含む事業年度開始の日前2年以内に開始した事業年度がない外国法人である場合には、その合併等が行われる日を含む事業年度において行うこととされている主たる事業に係る収入金額から所得が生じたとしたときに適用される本店所在地国の外国法人税の税率をもってその外国法人の租税負担割合とすることとされた(措令39の34の3⑤二ロ)。

8 法人税改革関係  内国法人の各事業年度の所得に対する法人税の税率が引き下げられたことに伴い、外国法人の各事業年度の所得に対する法人税の税率が23.9%(改正前25.5%)に引き下げられた(法法143①)。

9 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の施行に伴う国際課税関係の改正  マイナンバー制度の導入に伴い、振替国債等の利子の課税の特例等に係る非課税適用申告書等の記載事項に個人番号又は法人番号が加えられたほか、所要の整備が行われた(措令3②⑮、3の2⑲、3の2の2⑪、26の20 、26の30⑪、27④、27の2⑪、39の12の2③、39の112の2③、措規3の18②③⑤⑫⑭⑯~⑱、3の19①⑬、3の20①~④、19の7①⑬、19の12①④⑥~⑧、19の13①、19の14①②、19の14の2④⑨⑪~⑬、19の15②⑦~⑩、所令305①、331①、所規40の14一、66の5一、89①②、90②、別表第五(十七)~(二十三)、(二十七)、法規28の8一、29の2一、37の5一、60の4①一②一、60の9一、61①一②一、61の2①一②一、61の4①一②一、61の8一イ二イ、実特規1の2①⑤、1の3①②、2①⑩⑲、2の2①⑨⑱、2の3①⑧⑱、2の4①⑧⑱、2の5①⑨⑲、3①⑤、3の2①、3の4①④⑦、4①~③⑪⑮、5①⑤、6①⑤、6の2①③⑤⑦、7①⑤、8①②⑩、9①⑤、9の2①、9の3①、9の4①、9の5 、9の6⑯、9の7⑪、9の8⑪、9の9⑪、12①③、13、13の2①、14③、認定省令2②、日米相続税条約実施特例法施行規則3)。

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