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コラム2015年04月20日 【税理士損害賠償訴訟判決紹介】 決算支援業務に保有株式の評価に関する助言義務なし(2015年4月20日号・№591)

税理士損害賠償訴訟判決紹介
決算支援業務に保有株式の評価に関する助言義務なし
非上場株式の評価をめぐり税理士法人側が勝訴

 本誌独自取材によりお伝えしている税理士への損害賠償請求事件(税賠訴訟)について、事実関係や裁判所の判断内容などを詳しく知りたいという問い合わせが編集部に多数寄せられた。そこで、本誌が特集やニュース記事などで紹介した税賠訴訟について、その判決全文を一部加工のうえ随時紹介していく。

○被告税理士法人が作成した株価算定報告書により、原告会社が所有する非上場株式を著しく不当な価格で売却することになったなどと主張して、原告会社が被告税理士法人に対し損害賠償を請求していた訴訟で被告税理士法人が勝訴した事件(本誌585号6頁で紹介)。裁判所は、原告会社と被告税理士法人の間で締結されていた決算・税務申告支援業務に「原告会社保有株式の評価に関する助言・説明義務」は含まれないなどと判断した。

事案の概要  本件は、原告が、一般社団法人A(以下「A法人」という。)に対して、原告の所有していた株式会社B(以下「B社」という。)の株式19万8,000株を売却するに当たり、被告らが、上記株式の正当な価額は1株当たり約8,500円であるにもかかわらず、1株当たり約5,000円が相当である旨記載された株価算定報告書を原告に提示したこと等により、上記株式の売買単価を1株当たり5,000円という著しく不当な価格に決定させたことが、被告法人及び被告Y1については債務不履行又は不法行為に該当し、被告Y2については不法行為に該当するとして、正当な株価との差額である6億9,300万円の一部である1億円の損害賠償請求並びにこれに対する遅延損害金(被告法人に対しては商事法定利率である年6分の割合、被告Y1及び被告Y2に対しては民法所定の年5分の割合)の連帯支払を求める事案である。

前提事実
(1)
原告は、B社が××する×××の××等を目的とする株式会社であり、平成23年×月下旬頃まで、B社の発行済み株式総数の約41パーセントに当たる75万6,735株を有する筆頭株主であった。
 C(以下「C」という。)は、平成20年2月××日から平成25年5月×日までの間、原告の代表取締役の地位にあり、平成20年6月××日から平成22年8月××日までの間、B社の代表取締役の地位にあった者である<証拠略>。また、Cは、B社の代表取締役名誉会長であるDの娘婿である。被告法人は、被告Y1を代表社員とする税理士法人である。被告Y1は、公認会計士及び税理士の資格を有する者であり、被告法人の代表社員であるとともに、平成22年8月××日以降、B社の代表取締役を務めている。被告Y2は、税理士資格を有する者であり、被告法人の社員である。
(2)原告と被告法人は、平成21年4月××日、業務委託契約を締結した(以下「本件業務委託契約」という。)。
 本件業務委託契約の契約書(第1条)には、原告が被告法人に対し、下記の①から④までの業務を委託する旨記載されている<証拠略>。
① 月次業務として、経理業務に係わる助言及び指導その他これらに付随する業務
② 決算業務として、財務諸表作成支援業務(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、勘定科目内訳明細書、附属明細書、事業報告)その他これらに付随する業務
③ 税務申告等業務として、税務官公署(税務署、都道府県税事務所、市役所等)に対する届出書の作成支援、法人税、法人住民税、法人事業税、消費税等の確定申告書の作成支援その他これらに付随する業務
④ 税務調査への対応業務として、税務官公署による税務調査がある場合には、原告とともに対応する業務
 本件業務委託契約は、平成24年4月××日に終了した。
(3)原告は、平成21年1月××日、株式会社E社(以下「E社」という。)と合併し、E社がB社に対して負っていた貸金債務(元金11億4,546万8,645円、利息年1.285パーセント。以下「本件貸金債務」という。)を承継した。上記の貸付は、B社からE社に対して行われたものであり、その当時、B社とE社の代表取締役は、共にDが務めていた<証拠略>。
 原告は、平成23年2月、B社との間で、本件貸金債務の弁済等に関して協議を行った。この協議は、当時原告の代表取締役であったCと、当時B社の代表取締役であった被告Y1との間で行われた。
(4)被告Y2は、平成23年3月30日、B社の依頼を受けて、被告法人の従業員として、B社の株式の時価を算定した株価算定報告書(以下「本件報告書」といい、被告Y2の本件報告書における株価算定を「本件株価算定」という。)を作成した。本件報告書には、B社の株式の評価額として、類似業種比準価額(修正後)、純資産価額(相続税評価額ベース)、純資産価額(時価ベース)、配当還元価額の四つが記載されているほか、これらの評価額のうち3価額を併用する方式で算定された1株当たりの時価である4,832円及び4,928円が、取引価格の一つの目安として妥当である旨が記載されている<証拠略>。なお、B社の株式は譲渡制限株式である<証拠略>。
(5)原告は、平成23年5月27日、B社との間で、本件貸金債務について、原告が、①原告所有のB社の株式のうち19万8,000株(以下「本件株式」という。)を、1株当たり5,000円でA法人に譲渡(売却)し、その代金9億9,000万円を本件貸金債務の弁済に充てること、②同日、原告所有の土地を5,021万円でB社に売却し、その売買代金債権と本件貸金債務に係る債権とを対当額で相殺すること、③本件貸付債務の利息全額を含む1億1,997万7,917円をB社に対して現金で支払うこととする債務弁済契約を締結し(<証拠略>。以下「本件弁済契約」という。)、同日、本件株式を1株当たり5,000円でA法人に譲渡した(<証拠略>。以下「本件株式売買」という。)。

争点及び争点に関する当事者の主張
(1)被告法人又は被告Y1が本件株式の価格の決定に関して債務不履行責任を負うか否か(争点1)
(原告の主張)
 ア 被告法人が本件業務委託契約に基づいて負う義務
 被告法人は、原告との間で本件業務委託契約を締結していた税理士法人であるから、被告法人並びにこれに所属する税理士である被告Y1及び被告Y2は、委託者である原告からその所有する資産の評価等について相談を受けた際には、その資産を適正に評価し、当該資産評価に対する適切な助言を行う義務を負っていた。
 特に、本件のように、業務委託を受けている会社が多額の債務を弁済するためにその保有する株式を売却するに当たり、業務委託を受けた税理士法人である被告法人自身が株式評価を行い当該売却に関わるなどの事情があるときは、被告法人は、株式評価等について相談を受けた際、委託者に対し、業務委託契約の趣旨に従い、株式評価の方式、内容等について適切な説明を行うのは当然のことであり、その場合に、被告法人が負うこととなる注意義務は、なおさら重いというべきである。したがって、被告法人は、原告に対し、株式の評価について、適切な助言、指導、説明等を行う高度な義務を負っていたというべきである。
 イ 被告法人及び被告Y1が原告との間の株価算定合意に基づいて負う義務  被告法人の代表者である被告Y1は、本件株式売買における株価の算定に関して、当時原告の代表者であったCとやりとりをした際、Cから株価の算定を頼まれ、これを承諾した。
 すなわち、被告Y1は、平成23年3月29日のCとの協議において、Cからの株価の算定依頼に対して、専門家の意見を踏まえた上で、根拠を明確にして株価の算定を行う旨を口頭で回答した。
 そして、上記協議が行われた後である同月31日に、被告Y1からCに対し、本件報告書が提示されたことから、被告Y1がCに述べた専門家が被告Y2を含む被告らを示すことは明らかであるから、被告Y1又は被告法人がCの依頼を承諾したと考えるのが自然である。
 したがって、被告法人と原告との間には、B社の株式に関する株価算定契約が成立したというべきであり、また、仮にそうでなかったとしても、被告Y1と原告との間に株価算定契約が成立したことは明らかである。
 ウ 被告法人及び被告Y1の義務違反 (ア)前記及びのとおり、被告法人及び被告Y1は、原告に対し、本件業務委託契約及び株価算定契約に基づき、正当な算定方法により本件株式の正当な価額を算定し、その算定方法や価額について原告に説明する義務を負っていた。
(イ)しかし、被告法人及び被告Y1は、本件株価算定において、類似業種比準方式、純資産方式及び配当還元方式の三つの方式を併用して算定するいわゆる国税庁方式により算定を行い、本件報告書を作成した上で、原告に対し、その算定結果が相当である旨説明した。
  国税庁方式は、事業承継における後継者への株式の贈与や相続の場合における課税のための基準として使用されるものであり、本件のような会社支配権の移転等に関わる株式譲渡取引では使用されない方式であるから、同方式による本件株価算定は不当である。また、本件株価算定における配当還元方式の評価額が222円と、その他の方式による評価額よりも著しく低額となっており、B社の配当金額がその純利益に対して3から6パーセントと極めて低い数字であることに照らすと、配当還元方式により算定された株価がB社の株式価額を正確に反映しているとは到底考えられないから、被告法人が配当還元方式を採用したことは不適切である。さらに、被告Y1は、当初Cに対し、B社の株価を「1株あたり7,000円ぐらい」と説明していたにもかかわらず、その後本件報告書をCに示し、急きょ株式単価を5,000円に変更してきたのであるから、本件報告書における株式価額が不当であることは明らかである。
(ウ)よって、被告法人及び被告Y1による本件株価算定及びこれが相当である旨の説明は、本件業務委託契約及び原告との間の株価算定合意に基づく義務に違反するものであり、被告法人及び被告Y1は、原告に対する債務不履行責任を免れない。
(被告らの主張)
 ア 原告主張の本件業務委託契約に基づく義務は存在しないこと
 本件業務委託契約の範囲は、業務委託契約書<証拠略>の第1条(前記前提事実(2))記載のとおりであり、本件においては、原告が主張するような、株式の評価について適切な助言、指導、説明等を行う高度な義務を負う根拠は存在しない。
 イ 原告と被告法人又は被告Y1との間に株価算定合意は存在しないこと  本件報告書の基礎となる株価算定契約の当事者は、被告とB社であり、原告はその当事者ではない。したがって、原告と被告法人又は被告Y1の間における株価算定合意は存在しないから、原告の株価算定合意に基づく義務違反の主張は、その前提を欠くものである。
 ウ 本件株価算定が不当なものではないこと  任意の株式売買において、国税庁方式による評価額を参考とすることは排除されるものではないし、そのことは、原告が本件訴訟で証拠として提出した本件報告書以外の株価算定書において国税庁方式が採用されていることからも明らかである。
 また、原告のような経営権を握っているわけではない株主については、少数株主として配当を受け取ることが主な経済的価値であり、そのような株主の保有株式の評価にあたっては、配当還元方式に比重を置くのが一般的であるから、本件株価算定にあたり、配当還元方式を併用したことも不当ではない。
 さらに、原告は、過去に被告Y1からB社の株式16万4,155株を1株当たり約3,832円で譲り受けているほか、他にもB社の株式を1株当たり2,385円から3,300円の範囲で譲り受けており、過去に原告がB社の株式を取得した価格を前提とすれば、本件株式売買における1株当たり5,000円という価格は何ら不当なものではない。
(2)被告らが本件株式の価格の決定に関して不法行為責任を負うか否か(争点2)
(原告の主張)
 被告らは、それぞれ、公的な資格を与えられた税理士法人、税理士、公認会計士として、職務を行う過程で知り得た情報に対し守秘義務を負い、税理士及び公認会計士の信用を失墜させる行為の禁止義務を負っていた。また、被告法人は、原告との間で会計業務に関する委託契約を締結しており、原告との間に信頼関係が形成されていたところ、その信頼関係を不当に破壊する行為を禁止する信義則上の義務を負っていた。そのような関係の下で、被告らは、本件報告書を作成し、B社の配当性向が著しく低いことを知りながら、あえて配当還元方式を採用し、平成20年当時よりも平均単価で1,500円程度も低い株価を原告に提示した上、Cからの算定の根拠の説明を求められても、適切な説明を一切行わなかった。しかも、被告Y1は、B社の代表取締役である立場を利用し、原告がB社との関係で不利な立場にあることを認識した上で、Cに対し、B社の株式の価額について、1株当たり5,000円が妥当であり、この金額でしか買い取らない旨告げて、本件株式売買における株式の価格を1株当たり5,000円と決定させ、原告に損害を与えた。以上の被告らの行為は、専門業務を行う税理士法人、税理士及び公認会計士が負う守秘義務に反するほか、信用失墜行為に該当し、原告との信頼関係を不当に破壊する行為であるから、原告に対する不法行為が成立することは明らかである。
(被告らの主張)  ア 税理士法及び公認会計士法は、直接私人間に何らかの権利義務を発生させるものではないから、被告らがこれらの立場にあることは、原告が主張する義務の根拠とはなり得ない。また、信義則についても、私人間における何らかの法的権利義務の関係を前提とするものであるから、被告らが何らかの信義則上の義務を負うことはない。そして、本件においては、原告と被告法人又は被告Y1との間の株価算定合意は存在しないし、本件業務委託契約から原告の主張するような被告法人の義務が導かれることもない。したがって、被告らには原告の主張するような義務は存在しない。
 イ 本件弁済契約が締結されたのは、本件報告書の提示から約2か月ほど後のことであり、原告の当時の代表者であるCは、その間に別の専門家に評価額の算定を依頼した旨の通知書を被告Y1に送付しているのであるから、原告は、本件報告書に依拠して本件株式売買の売却代金を決定したわけではない。そもそも本件株式売買は、原告とA法人との間の任意の契約であり、原告はこれに応じないことも可能であったし、他に売却先を探して、譲渡承認を求めて売却するなどの様々な方法を採り得たにもかかわらず、原告は本件に関する事情を総合的に判断して、売却を決断したものである。したがって、被告らが本件報告書の提示によって本件株式売買の価格を決定し、原告に本件株式を売却させたとする原告の主張は、その前提を欠くものである。
(3)原告の被った損害の有無及びその額(争点3)
(原告の主張)
 ディスカウントキャッシュフロー法によるB社の株式の株式評価額は1株当たり8,000円から9,000円であるから、本件株式売買における相当な株式価額は1株当たり8,500円となるところ、原告は、被告らの善管注意義務違反及び不当な助言、進言によって、B社の株式を1株当たり5,000円で売却させられた。したがって、原告には1株当たり3500円の損害が生じており、売却株式は19万8,000株であるから、合計6億9,300万円の損害が生じている。
(被告らの主張)  本件株式売買を行うか否か、その際に何を価格決定のベースとするかは、全て当事者の自由であり、本件株価算定がB社の株式の唯一の評価額ではないのであって、原告においても、別の専門家に評価額の算定を依頼するなどして、本件株価算定が適正か否かを検討している。このような事情の下で、原告は自ら任意に本件株式売買を行ったのであり、ディスカウントキャッシュフロー法によるB社の株式の評価額と本件株式売買における売却価格との差額は、原告の損害とはならない。

裁判所の判断
1 認定事実
(1)
原告は、平成21年1月××日、E社との合併に伴い、本件貸金債務を承継した。
 本件貸金債務の弁済期は、当初は同年3月31日とされていたが、その後、B社が原告に対し、1年ごとに契約を更新する形で本件貸金債務の弁済を猶予した結果、本件貸金債務の弁済期は平成23年3月31日とされた<証拠略>。
(2)Cは、平成22年6月××日にB社の代表取締役に再任された後、Dの妻であるFから、自らをB社、原告又はB社の関連会社であるG株式会社のいずれかの社長に就任させて欲しい旨を告げられたが、Cは、Fが過去に経営に関与したことがないことを理由として、これを断った<証拠略>。
(3)Cは、平成22年8月××日、被告Y1及び当時B社の顧問弁護士であったH弁護士から、Cが×××と関係がある人物であるという理由で、B社の代表取締役を辞任するよう告げられた。そして、同月××日に開かれたB社の臨時取締役会において、C以外の取締役の全員の賛成により、Cを代表取締役から解任する旨の決定がされた<証拠略>。
(4)Cは、平成23年2月×日、Cの後任としてB社の代表取締役に就任した被告Y1と、本件貸金債務の弁済の猶予及び弁済方法について協議を行った。被告Y1は、同協議において、Cに対し、B社の取締役会において本件貸金債務の弁済の猶予はしないという決定がされることになること、原告の資産状況を踏まえると、原告が保有しているB社の株式を売却する他に弁済の方法がないと思われること、B社から原告に対して本件貸金債務の弁済請求をすることになる前に、契約という形で、原告が保有するB社の株式をD又はB社に譲ってもらいたいと考えていることを告げるとともに、Cに対し、B社の株式の時価は1株当たり7,000円くらいという記憶である旨を述べた<証拠略>。
(5)平成23年3月××日、Fを代表理事として、A法人が設立された<証拠略>。
(6)Cは、平成23年3月29日、被告Y1と本件貸金債務の弁済方法に関する協議を行った。被告Y1は、同協議において、Cに対し、原告が保有するB社の株式をD又は同人が指示する者に譲るという形にして欲しいこと、一度B社の株価を算定した上で、譲渡価格を提示するつもりであることを述べた<証拠略>。
(7)被告Y2は、平成23年3月30日、B社の依頼を受けて、B社の株式の時価を算定した本件報告書を作成した。本件報告書には、B社の株式の価額について、前記前提事実(4)のとおり、1株当たり4,832円及び4,928円が取引価額の一つの目安として妥当である旨記載されている。
(8)Cは、平成23年3月31日、被告Y1と本件貸金債務の弁済方法に関する協議を再度行った。被告Y1は、Cに対して本件報告書を提示し、原告の保有するB社の株式の価額を算定した結果、1株当たり大体5,000円という価額になった旨を伝えた。これに対し、Cは、B社の株式については7,000円という価額を前提に計算しており、5,000円という価額は若干低いと感じるが、原告の役員らと検討する旨を述べた<証拠略>。
(9)その後、Cは、平成23年4月4日、同月11日及び同月19日に、被告Y1と本件貸金債務の弁済に関する協議を重ね、これらの協議において、被告Y1に対し、本件貸金債務は元々E社の有していた債務を原告が承継したものであり、原告がB社の株式を手放すことについては心情的に納得できない面があること、本件株価算定については原告としてその妥当性を検証したいこと等を述べた。これに対し、被告Y1は、承継したものであっても本件貸金債務が原告の債務であることには変わりないこと、本件貸金債務の弁済期は既に過ぎており、B社としてこれ以上待つことはできないことを述べた<証拠略>。
(10)平成23年4月28日に開かれたB社の定例取締役会において、本件貸金債務の弁済に関してB社の株式の価額を算定して原告に提示するために、B社が被告法人にB社の株価の算定を依頼し、被告法人が本件株価算定を行ったことが報告されるとともに、被告法人に対する本件株価算定の報酬84万円の支払が承認され、B社は、同日頃、被告法人に対し、上記報酬を支払った<証拠略>。
(11)原告は、平成23年5月27日、B社との間で、本件株式を1株当たり5,000円でA法人に譲渡(売却)し、その代金を本件貸金債務の弁済に充てることとする本件弁済契約を締結し、同日、A法人との間で、本件株式売買を行った。
2 争点1(被告法人又は被告Y1が本件株式の価格の決定に関して債務不履行責任を負うか否か)について
(1)被告法人が本件業務委託契約に基づいて負う義務について
 原告は、被告法人が本件業務委託契約に基づき原告から業務委託を受けているのであるから、原告に対し、株式の評価について適切な助言、指導、説明等を行う義務があると主張する。しかし、前記前提事実(2)のとおり、本件業務委託契約に基づく被告法人の業務は、原告の会計や経理業務の支援業務であるから、本件株式の評価のような、原告の所有する資産の評価等の業務は、被告法人が本件業務委託契約に基づいて行う業務に含まれるとはいえないし、被告法人が原告から継続的な業務委託を受けていたことをもって、被告法人が原告の主張する義務を負うということもできない。そして、他に、被告法人が、本件業務委託契約に基づき本件株式の価額の算定に関して何らかの義務を負うことを認めるに足りる主張及び証拠はない。したがって、本件業務委託契約に基づき、被告法人が上記の義務を負うということはできないから、原告の上記主張は採用することができない。
(2)原告と被告法人又は被告Y1との間における株価算定合意について  原告は、平成23年3月29日に行われたCと被告Y1との協議等によって、原告と被告法人又は被告Y1との間で、B社の株式に関する株価算定合意が成立した旨主張する。そして、Cも、被告Y1に対してB社の株価の算定を正式に依頼したと認識しているとともに、原告が被告法人と本件業務委託契約を締結していたことから、被告法人にもその範囲内で算定を依頼したと認識している旨の証言等をする<証拠略>。
 この点について、証拠<証拠略>によれば、同日の協議において、被告Y1は、Cに対し、「売る相手だとか、その金額をどうするかだとか、というようなことをまず決めておきたい。」、「金額は、まあ、あのー、計算、きちっとしますので。」と述べた上で、Cの「もう1回、じゃあ、株価算定をして。」との発言に対し、「そうじゃないと、ま、やっぱり困るでしょ。」と発言したこと、被告Y1が、Cの「しっかり株価算定した金額にしましょうというのがなんか、まあ、納得がいきますよね」との発言に対し、「うん。そうですね…。」、「根拠のあるような形にした方がいいと思いますよね。」、「専門家に聞きますので、」、「あのー。それはそれで連絡します。」と発言したことを認めることができる。
 しかしながら、証拠<証拠略>によれば、本件報告書の名宛人は、B社代表取締役会長Dのみとなっており、名宛人として原告の社名等は記載されていないことが認められる。また、前記1(10)のとおり、B社は被告法人に対して本件株価算定の報酬84万円を支払っているのに対し、原告が本件株価算定に関して被告法人に何らの報酬を支払っていないことは、C自身が認めるところである<証拠略>。
 そして、被告Y1が、当時、原告の本件貸金債務の弁済先であるB社の代表取締役であり、原告と被告Y1とのやりとりは、被告Y1がB社の代表取締役として、本件貸金債務の弁済に関する協議の一環として行ったものとみる余地があることをも併せて考慮すれば、Cの前記証言等及び上記の口頭のやりとりをもって、被告法人又は被告Y1が原告との間で原告のためにB社の株式の価額を算定することについて合意したものとは認められないというべきであり、他にこのような合意が成立したことを認めるに足りる証拠はないから、原告の上記主張は採用することができない。
(3)以上によれば、被告法人又は被告Y1が、本件株式の価格の決定に関して、原告に対して債務不履行責任を負うものということはできない。
3 争点2(被告らが本件株式の価格の決定に関して不法行為責任を負うか否か)について
(1)
原告は、被告らが公的な資格を有する税理士法人、税理士、公認会計士であり、被告法人が原告の会計業務を受託していたものであることを前提として、①被告らが、原告に対し、B社の株式価額を不当に低く算定した本件報告書を提示し、そのことについて説明を行わなかったこと及び②被告Y1が、原告がB社との関係上不利な立場にあることを認識した上で、B社の代表取締役としての地位を利用して、本件株式の価格を1株当たり5,000円と決定させたことが、原告に対する不法行為に該当する旨主張する。
(2)ア しかし、前記1で認定した事実によれば、Cは、被告Y1との協議において、被告Y1から本件報告書において提示された1株当たり約5,000円という本件株式の評価額が低いと告げ、原告としてその妥当性を検証したい旨を被告Y1に述べている上、C自身も、本件報告書の株式価額が安すぎると思った旨証言している<証拠略>のであるから、Cが、被告Y1から提示された本件株価算定の内容が正当なものであると誤信して、本件株式売買に至ったものと認めることはできない。そうすると、原告は、本件株価算定が正当な価額であると信じた上で、これに基づいて本件株式売買における売却価格に合意した訳ではないから、被告らは、本件報告書を提示し、そのことについて説明を行わなかったことについて、原告に対する不法行為責任を負うものではないというべきである。したがって、原告の上記①の主張は採用できないというべきである。
  また、前記1で認定した事実によれば、被告Y1は、平成23年の2月から4月までに行われた協議の際、Cに対し、本件貸金債務の弁済について更なる猶予は行わないこと、原告が本件貸金債務を弁済するためには原告が保有するB社の株式を手放すほかないことを告げた上で、被告Y1の提示したB社の株式の株式価額に原告代表者であったCが納得していないことを認識しつつ、1株当たり5,000円という株式価額の提示を維持したことを認めることができる。しかし、被告Y1による上記の言動は、被告Y1が、B社の代表取締役として、B社に対して本件貸金債務の弁済をしなければならない立場にある原告の代表取締役であるCに対して、本件貸金債務の弁済に関して自らに有利な条件を提示したものというべきであって、企業間の正当な交渉の範囲を逸脱したものと評価することはできない。また、前記1(8)及び(9)で認定した事実によれば、Cは、本件株価算定の内容に納得せず、原告においてもその妥当性を検討すると述べながら、結局、交渉の末、本件株式売買において1株当たり5,000円で本件株式を売却しているのであるから、原告は、最終的に、本件株式売買を任意で行っていると認めるのが相当である。そうすると、被告Y1の上記の言動をもって、被告Y1が強制的に本件株式の売却価格を決定したということはできないし、本件株価算定の結果を提示したことが不法行為に該当するということもできない。
 したがって、原告の前記②の主張も採用することができないというべきである。
4 結論  以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求にはいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する(東京地方裁判所民事第41部・平成27年1月28日判決・控訴あり)。

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