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解説記事2015年08月31日 【未公開裁決事例紹介】 公社債の150%基準、全利払期間を通して必要(2015年8月31日号・№608)

未公開裁決事例紹介
公社債の150%基準、全利払期間を通して必要
公社債の発行時点で判断

○発行条件に定められた各利払期間の利子の利率を比較検討し、全利払期間を通して150%基準を満たさない可能性がある場合には、措置法施行令25条の15第2項4号に規定する公社債には該当しないと判断された事例(平成26年8月20日裁決、棄却)

事  実
(1)事案の概要
 本件は、審査請求人が、平成23年分の所得税の確定申告を行った後、債券の譲渡による譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額を、他の所得の金額と損益通算すべきであるとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該損失の金額を他の所得の金額と損益通算することはできないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたのに対し、請求人が同処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)審査請求に至る経緯(略)
(3)関係法令の要旨(略)
(4)基礎事実
 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、下記ロの条件により発行された利子が支払われる社債(銘柄名:××)について、日本国内において、平成18年12月19日に××(××)から100,000,000円で購入し、平成23年8月22日に同社に44,440,000円で譲渡した(以下、請求人が譲渡した社債を「本件債券」という。)。
ロ 本件債券の発行条件は、要旨、以下のとおりである。
(イ)形態
 私募債(ユーロミディアムタームノートプログラム)
(ロ)発行体
  ××
(ハ)発行地
  ユーロ市場
(ニ)券面表示金額
  10,000,000円
(ホ)発行価格
  券面表示金額100.00%
(へ)発行日
  2006(平成18)年12月18日
(ト)満期償還日
  2036(平成48)年12月19日
(チ)利子計算開始日
  2006(平成18)年12月19日
(リ)利率(年率)
  券面表示金額に対して以下の利率による。
 A 利子計算開始日を含む同日から2007(平成19)年6月18日までは10.00%
 B 2007(平成19)年6月19日を含む同日から満期償還日の前日までは以下の計算式による。
 ××
(ヌ)利払日
 A 上記(リ)のAの利率による利払日
  2007(平成19)年6月19日
 B 上記(リ)のBの利率による利払日
  2007(平成19)年12月19日以降満期償還日までの間の両日を含む毎年6月19日及び12月19日
(ル)満期償還額
 券面表示金額10,000,000円ごとに××(期限前償還等の場合を除く。)

争点および主張  本件債券は、本件規定に規定する公社債に該当するか否か。当事者の主張はのとおり。
【表】当事者の主張
請 求 人 原処分庁
(1)本件規定は、「その利子の利率のうち最も高いものを最も低いもので除して計算した割合が100分の150以上であるもの」と規定しているにすぎないので、発行時点において利率が数値として明示されている必要はなく、条件を用いて算定する利率についても、150%基準の判断の基となる利率に含めるべきであり、利率の算定条件により発行時点において150%基準を満たすことが確実に見込まれる公社債については、本件規定に規定する公社債に該当するというべきである。
(2)本件債券は、平成18年12月19日から半年後までの期間の利率は年10.00%と決まっているから、対米ドル円の為替相場が約××を下回るか、約××を上回れば、150%基準に該当することとなるところ、過去10年間及び過去40年間の為替の推移からすると、その利子の利率のうち最も高いものを最も低いもので除して計算した割合が100分の150以上となることが確実であると見込まれ、本件債券は、150%基準を満たす蓋然性が高く、実質的に150%基準を満たすから、本件債券は本件規定に規定する公社債に該当する。実際、本件債券の利払実績においても、150%基準を満たしている。
(1)本件規定に規定する公社債は、「その発行時点において定められた利率で、最も高いものと最も低いものを用いて150%基準を満たすか否かを、発行時点において算定することができ、かつ、その結果、150%基準を満たすもの」をいうと解するのが相当である。
  そして、発行時点後の一定の基準日ごとに条件を用いて利率を算定するものは、当該基準日にならなければ利率を具体的な数値として算定することができないから、当該利率を判断の基として、150%基準を満たすか否かの算定を発行時点において行うことはできない。
(2)本件債券は、発行時点において平成18年12月19日から半年後までの期間の利率は定められているものの、以後半年ごとの利率は一定の基準日における為替レートに基づいて利率が定められるものであるため、その発行時点において定められている利率は、平成18年12月19日から半年後までの期間の利率年10.00%のみであり、その他の期間の利率は発行時点において定められていない。したがって、150%基準を満たすか否かの算定を発行時点において行うことができないから、本件債券は本件規定に規定する公社債に該当しない。

審判所の判断
(1)法令解釈
 イ 公社債の譲渡による所得に対する課税についての措置法の規定について
 措置法第37条の15第1項第1号は、公社債の譲渡による所得については、所得税を課さない旨規定している。その趣旨は、利子が支払われる公社債の譲渡により得るキャピタルゲインの大部分は、経過利子を反映しているものであると考えられるところ、個人において、利子が支払われる公社債を利子の計算期間の中途で法人に譲渡した場合には、経過利子に対応する所得税相当額を負担していると認められ、また、個人間の譲渡の場合には譲受人が支払を受ける利子は源泉分離課税の対象とされているので、いずれの場合も、実質的に公社債の譲渡益に所得税を課税したのと同様の状態にあるからと解される。
 一方、割引の方法により発行される公社債で国外において発行されるもの(以下「ゼロ・クーポン債」という。)は、券面額と発行額との差額が、償還期間全体を通じた利子相当額となり、個人がこのような公社債を償還時点まで保有していた場合においては、その償還差益は雑所得として所得税の課税の対象とされるものの、発行から償還までの間に譲渡した場合には、発行から譲渡までの期間に対応する利子相当額がキャピタルゲイン化して譲渡価額に含まれることになるにもかかわらず、上記のとおり、公社債の譲渡による所得については、所得税が課されないため、格別の規定がなければ、当該利子相当額は課税されないこととなる。
 しかし、割引の方法により国内で発行されている一定の公社債については、措置法第37条の16第1項第3号により課税の対象となっていることと比較した場合にバランスを失しているのみならず、国内外の利子が支払われる公社債の利子に対する課税との権衡上も問題があること等を考慮して、ゼロ・クーポン債の譲渡による所得については、同項第1号に掲げ、課税対象とすることとしたものと解される。
 そして、措置法第37条の16第1項第2号は、利子が支払われる公社債であっても、ゼロ・クーポン債と同様の経済効果を有し、利子相当額が課税されない公社債については、割引の方法により発行される公社債に類するものとして、その譲渡による所得について所得税を課すこととし、具体的な課税対象について、同号の委任政令である措置法施行令第25条の15第2項各号(本件規定を含む。)により規定したものと解される。
 ロ 本件規定について (イ)本件規定の趣旨について
 本件規定は、利子の利率のうち最も高いものを最も低いもので除して計算した割合が100分の150以上であるもの(150%基準を満たすもの)を課税対象としている。
 これは、例えば、毎期の利子を少額にするとともに償還時点に多額の利子を支払うことにして、利払いを遅延させている国外発行の公社債を償還時点より前に譲渡すれば、償還時点までの利子の一部(譲渡時点までの利子相当額)がキャピタルゲイン化して譲渡価額に含まれることになるが、このような公社債の譲渡による所得を課税しないこととした場合には、その公社債を一定の外国法人に譲渡することにより、譲渡時点までの利子相当額について課税されず、かつ、償還時点までの利子についても我が国の課税権が及ばず、一切課税されないこととなり得るため、実質上非課税で利子相当額を受け取ることができることになるから、利子の利率のうち最も高いものを最も低いもので除して計算した割合が100分の150以上であるものは、利払いを遅延させることによりゼロ・クーポン債と同様の経済効果を有するものとして課税の対象とし、当該割合が100分の150未満のものは、およそ利払いを遅延させたとまではいえないことから課税の対象としなかったものと解される。
(ロ)本件規定の「利率」に、変動利率が含まれるか否かについて
 利率には、発行条件等により将来支払われる利子が確定し、利率が具体的な数値として確定しているもの(固定利率又は確定利率というべきもの)と利子が利子の契約後変動し得るもの(以下「変動利率」という。)とがあるところ、本件規定が単に「利率」として、変動利率を除外していないこと、租税特別措置法施行規則第18条の16が、措置法施行令第25条の15第2項第1号に規定する財務省令で定める公社債は、確定利率により利子が支払われる公社債で一定の条件を満たすものである旨規定しており、割引の方法により発行される公社債の譲渡による所得の課税に直接関係する法令において、「利率」と「確定利率」を区別して規定していることからすると、本件規定の「利率」に変動利率が含まれるものと解するのが相当である。
(ハ)本件規定に該当するか否かの判断時期について
 A 上記(ロ)のとおり、本件規定の「利率」に変動利率が含まれると解すべきところ、変動利率の性質上、利率が具体的に決まるのは、発行時点よりも後になるから、本件規定に該当するか否かの判断時期をいつにするかという問題が生じる。
  この点、本件規定に該当するか否かの判断時期は、発行時点とするのが相当であると解されるが、その理由は以下のとおりである。
  本件規定は、その括弧書において「利子を付さない期間があるものを含む。」と規定し、「利子を付さなかった期間があるものを含む。」とは規定していない。そうすると、「利子を付さない期間があるものを含む」か否かについての判断に当たっては、事後的客観的に判断するのではなく、あらかじめ判断することを想定しているものということができ、「利子を付さない期間があるもの」か否かの判断時期については、当該公社債の発行時点と解するのが相当である。
  そして、本件規定の本文と括弧書において、その判断時期を異にする必要は格別見当たらないことからすれば、本件規定本文において、「その利子の利率の最も高いもの」と「最も低いもの」を、また、「100分の150以上である」か否かをいつの時点で判断するかについても、当該公社債の発行時点と解するのが相当である。
 B なお、判断時期を償還時点とした場合には、償還時点までにされた利払いの状況を基に、過去の譲渡所得について、遡及して更正等をすることになるものと考えられるから、予測可能性、法的安定性、担税力等の観点から、相当でない。
  また、判断時期を譲渡時点とする場合には、譲渡時点までにされた利払いの状況を基に遡及して更正等をすることになるものと考えられるので、判断時期を償還時点とした場合と同様の観点から相当でなく、さらに、譲渡者ごとに当該譲渡者の保有期間中の利払いの状況を基に課税・非課税を判断すると、同一の公社債について、課税・非課税の判断が異なることになり、予測可能性及び法的安定性の観点から適切ではない。
  したがって、本件規定に該当するか否かの判断時期は発行時点と解するのが相当である。
(ニ)本件規定に該当するか否かの具体的な判断基準について
 上記(ロ)のとおり、本件規定の「利率」に変動利率を含めるのが相当であり、上記(ハ)のとおり、本件規定に該当するか否かを公社債の発行時点で判断するのが相当であると解されるところ、発行時点において、変動利率の利払期間については、その利率が具体的な数値として確定しないことから、変動利率の利払期間を含む公社債が本件規定に規定する公社債に該当するか否かについて、一見しては明らかでないことになるため、この点を明確にする必要がある。
 そこで検討するに、上記イのとおり、公社債の譲渡による所得については、原則非課税とされているにもかかわらず、例外的に一定の公社債に限定して課税することとしていること、また、課税庁の恣意的な判断を防止して、課税関係の法的安定性と予測可能性を高める必要性があることからすれば、本件規定に該当するか否かは厳格な基準で判断すべきである。
 そして、ゼロ・クーポン債は、その性質上、利払いを遅延させる経済効果を持つことが必然的であることから、これに類するものとして課税の対象とするか否かは、発行時点において、発行条件に定められた各利払期間の利子の利率を比較検討し、150%基準を満たすことが必然である公社債であるか否かによって本件規定に規定する公社債に該当するか否かを判断すべきである。
 換言すれば、発行条件に定められた各利払期間の利子の利率を比較検討し、全利払期間を通して150%基準を満たさない可能性がある場合には、150%基準を満たすことが必然とはいえないから、本件規定に規定する公社債には該当しないというべきである。
(ホ)具体的には、変動利率について、ある利払期間の利子の利率については年率2%以下(上限を2%)とし、同利払期間に遅れる別の利払期間の利子の利率については年率10%以上(下限を10%)とするものについては、10%を2%で除して計算した割合が5(=500%)となるところ、10%以上になる「最も高いもの」を2%未満である「最も低いもの」で除して計算した割合は、100分の150以上になるほかないのであるから、上記以外の利払期間の利子の利率がいかなるものであれ、150%基準を満たすことが必然であるということができる。したがって、このような公社債は、本件規定に規定する公社債に該当するというべきである。
 一方、例えば、各利払期間の利子の利率が、10%又は2%のいずれかとなる変動利率については、利子の利率が全利払期間を通して10%である可能性や、2%である可能性があり、全利払期間を通して150%基準を満たさない可能性がある。したがって、150%基準を満たすことが必然とはいえないから、このような公社債は、本件規定に規定する公社債には該当しないというべきである。
(2)当てはめ  本件債券は、最初の利払期間(2006(平成18)年12月19日から2007(平成19)年6月18日までの期間)の利子の利率は10%の固定利率であり、その他の利払期間の利子の利率は0%以上の変動利率である。本件債券については、例えば、全利払期間の利子の利率が10%になる可能性があるなど、全利払期間を通して150%基準を満たさない可能性があり、発行時点において、「最も高いもの」を「最も低いもの」で除して計算した割合が150%基準を満たすことが必然であるとはいえない。
 したがって、本件債券は、本件規定に規定する公社債に該当しない。

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