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解説記事2015年09月21日 【未公開裁決事例紹介】 取締役相談役に分掌変更も実質的な退職の事実なし(2015年9月21日号・№611)

未公開裁決事例紹介
取締役相談役に分掌変更も実質的な退職の事実なし
審判所、役員として主要な地位にあったと指摘

○請求人の前代表者が代表取締役から取締役相談役となったこと(分掌変更)により支給された退職慰労金を損金に算入することはできないと判断された事例(平成26年10月16日裁決)。審判所は、①月額報酬が50%以上減少した事実のみをもって給与の「激減」があったとはいい難いこと、②前代表者は分掌変更後も役員として主要な地位にあったことなどを指摘したうえで、分掌変更により前代表者が請求人を実質的に退職したと同様の事情があったとは認められないと判断した。

事  実
(1)事案の概要
 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁の調査を受けて、請求人の前代表者の分掌変更に伴い支給した金員に相当する額を損金の額に算入せずに法人税の修正申告をした後に、前代表者には実質的に退職したと同様の事情があったことから、当該金員に相当する額は損金の額に算入されるべきであったとして更正の請求をしたのに対し、原処分庁が、前代表者は代表取締役を退任後も請求人の取締役として退任前と同様の業務を行っており、当該事情があったとは認められないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたところ、請求人が、前代表者には当該事情があると認められるから当該処分は違法であるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。
(2)審査請求に至る経緯(略)
(3)関係法令等の要旨
イ~ホ(略)
へ 法人税基本通達9-2-32《役員の分掌変更等の場合の退職給与》(以下「本件通達」という。)は、法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる旨定めている。
(イ)常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。
(ロ)取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で法人税法施行令第71条《使用人兼務役員とされない役員》第1項第5号に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。
(ハ)分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
(4)基礎事実 イ 請求人は、平成2年4月2日に設立された、プラスチック製品の製造販売等を業とする株式会社であり、本件事業年度を通じて、××××××××(以下「請求人親会社」という。)が請求人の発行済株式の全部を保有していた。
ロ 請求人は、会社法上の取締役会設置会社であり、平成23年5月30日開催の請求人の定時株主総会において、任期満了に伴う役員の改選を行い、代表取締役の××、取締役の××及び請求人親会社の代表取締役を兼務する取締役の××の計3名のうち、××及び××の両名を取締役に再任し、××を監査役に新たに選任するとともに、××を取締役に新たに選任する旨の決議を行ったことから、当該定時株主総会の終結の時をもって、××、××及び××の請求人における取締役の任期が満了し、当該再任又は新たに選任された3名が取締役に就任した。
  また、上記定時株主総会終結後の取締役会において、■■■が代表取締役に選任され、その就任をもって□□□は代表取締役を退任した(以下、■■■を「甲」と、□□□を「乙」といい、乙が代表取締役から取締役(相談役)になったことを「本件分掌変更」という。)。
  なお、乙は、平成16年5月28日から平成23年5月30日までの間、請求人の代表取締役であった。
ハ 請求人は、平成23年6月15日に、乙に対する退職慰労金として56,096,610円を支給するとともに、同月30日付で当該支給した金員(以下「本件金員」という。)に相当する額を退職金勘定に計上し、これを本件事業年度の損金の額に算入した。
ニ 請求人は、本件金員に相当する額について、本件修正申告書の提出に当たり損金の額に算入しなかったが、損金の額に算入されるべきであるとして本件更正の請求をした。

争点および主張  本件更正の請求は、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当するか否か。具体的には、本件分掌変更により乙に実質的に退職したと同様の事情があったか否か。当事者の主張は、のとおり。

【表】
請 求 人 原処分庁
 以下のとおり、本件分掌変更により「実質的に退職したと同様の事情」があり、本件金員は本件事業年度の損金の額に算入すべきであったから、本件修正申告書に記載した納付すべき税額が過大であるので、本件更正の請求は、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当する。
(イ)乙が請求人親会社の××に代表取締役退任の意思を伝えたところ、平成23年3月24日開催の××合同役員会において「乙辞任について」とする審議事項として上程され、乙が代表取締役の退任の意思を表明し、併せて当時営業部長であった甲を後任の代表取締役として推薦したところ、いずれも承認された。そして、平成23年5月30日開催の請求人の定時株主総会において甲の取締役就任が承認され、同日開催された取締役会において甲が代表取締役に選任されたことから、乙は代表取締役を退任した。
(ロ)総会後、乙は甲を伴って請求人の取引関係者を回り、退任の挨拶及び社長交代の引継ぎの挨拶に連日出向いた。退任の挨拶状も取引関係者に送付されている。
(ハ)乙に支給された退職慰労金の算定は、請求人の退職慰労金規定により算定されているが、取締役在任期間、専務取締役在任期間、代表取締役在任期間が全て反映されたものである。
(ニ)請求人が契約当事者となっている土地賃貸借契約書や銀行との間の金銭消費貸借契約書の名義も甲に変更された。
(ホ)乙の月額報酬は退任前の2,050,000円から3分の1に相当する700,000円に引き下げられており、報酬額がこれほど激減しても同様の職務を行っていたということはあり得ない。乙の月額報酬は、退任前と比較して50%以上の減少であり裁判例及び本件通達の客観的基準も充足する。
 以下のとおり、乙の職務内容は代表取締役退任をもって激変したと認めることはできず、本件分掌変更により「実質的に退職したと同様の事情」があったとは認められないので、本件更正の請求は認められない。
(イ)乙が代表取締役を退任し、取締役に再任されているところ、このような場合には、たとえ乙が代表取締役を退任したことにより会社の代表権を喪失したとしても、同人は単に役員としての分掌が変更されたにすぎず、本件金員について乙に対する退職慰労金として損金の額に算入することが認められるためには、他に乙の地位又は職務の内容が激変した事実があり、実質的に退職したと同様の事情があることを要する。
(ロ)甲は、代表取締役に就任した以降も代表取締役としての業務は全く分からなかったことから、乙から段階的に経営の判断基準等の引継ぎを受けたものであり、判断に迷う決裁事項については、乙に相談をし、乙が判断した後のりん議書に決裁をしていたことなどからすると、乙は代表取締役退任後も引き続き請求人の経営判断に携わっていた。実際に、請求人の社内で作成された各りん議書は、乙退任の平成23年5月30日以降は同年6月2日付パソコン1台購入に係るものを除いて甲の押印があるところ、同年7月12日付りん議書以降のものには、新たに設けられた「相談役」欄に乙の押印がある。
(ハ)乙は、代表取締役退任後も請求人の取引銀行である××の担当者と面接していたところ、その内容は、資金調達や資産運用など、請求人の経営における重要事項に関するものが含まれているなど、単なる引継ぎや相談の範囲を超えて、引き続き請求人の経営判断等の職務に従事していた。

審判所の判断
 イ 法令解釈
(イ)通則法第23条第1項第1号と各租税実体法の関係について(略)
(ロ)役員に対して支給する退職給与の法人税法上の取扱いについて
 法人税法第22条第3項及び第34条第1項ないし第3項は、上記事実(3)のハないしホのとおり規定することから、役員に対して支給する退職給与については、同条第3項に規定する、事実を隠ぺいし、又は仮装して経理することによって当該役員に支給されたものでなく、また、同条第2項に規定する不相当に高額な部分の金額がない場合には、法人税法第22条第3項の規定に基づき、損金の額に算入されることになる。さらに、役員に対して支給する退職給与とは、役員が会社その他の法人を退職したことにより支給される一切の給与をいうと解するのが相当であり、法人が退職給与や退職慰労金などといった名目で役員に対して支給した給与であっても、当該役員に退職の事実がない場合には、当該支給した給与は、原則として当該役員に対する臨時的な給与として取り扱われることとなり、法人税法第34条第1項に規定する役員に対して支給する給与に該当することとなるため、同項各号に掲げるいずれかの給与に該当しない場合には、損金の額に算入されないこととなる。
 一般に、法人の役員については、一定の任期が定められており、その任期が到来する都度役員の改選が行われるので、形式的にはその任期が満了する都度一旦退職しているようにもみえるが、通常は再任されることが多く、そのような場合、退職ではなく役員委任契約が継続しているものとして退職したとの取扱いはされていない。
 同様に、会社の代表取締役の地位にあった者がその地位を辞任し、代表取締役以外の当該会社の取締役等の役員として引き続き従事している場合には、たとえ代表取締役を辞任したことにより会社の代表権を喪失したとしても、その者は単に役員としての分掌が変更されたにすぎないのであるから、当該会社を退職したということはできない。
 しかしながら、役員の分掌変更又は改選による再任等がされた場合であっても、例えば、常勤取締役が経営上主要な地位を占めない非常勤取締役になったり、取締役が経営上主要な地位を占めない監査役になるなど、役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合には、その分掌変更又は改選による再任等に際して退職給与等として支給される金員については、法人税法上も退職給与として取り扱うのが相当であり、本件通達は、このような点を踏まえて、どのような場合に実質的に退職したと同様の事情があると認められるかという一定のケースを示したものであって、当審判所においても相当と認められる。
 そして、本件通達が具体的に定めている事情は飽くまで例示にすぎないのであるから、分掌変更又は再任の時に支給される給与を法人税法上の退職給与として損金の額に算入することができるか否かについては、当該分掌変更又は再任に係る役員が法人を実質的に退職したと同様の事情にあると認められるか否かを、具体的な事情に基づいて判断する必要があるというべきである。
 ロ 認定事実 (イ)乙は、本件分掌変更の後も、平成25年5月30日の再任時に非常勤の取締役になるまでの間、請求人の取締役相談役として常勤していた。
(ロ)本件分掌変更後において、請求人の取締役は、××、乙及び甲の計3名であったところ、××は、長年にわたり請求人に勤務し、平成22年5月31日まで専務取締役として経営に関与してきた者であり、同日にその分掌を外れた後も請求人の取締役統括本部長として執務し、乙と同様、平成25年5月30日の再任時に非常勤の取締役となるまでの間、請求人の取締役として常勤していた。
(ハ)甲は、平成23年5月30日に請求人の代表取締役に就任するまで請求人の役員の経験はなく、代表取締役就任前は請求人の使用人として営業部長の地位にあり、代表取締役就任後も、トップセールスを推進するとして、自身が直接に請求人の営業面をけん引する方針を示していた。
(ニ)乙は、相談役として、おおむね以下のとおりの職務を行うこととされていた。
 A 代表取締役の相談役として、経営上の諮問その他相談に応じ、助言を行うこと。
 B 請求人において、乙が代表取締役として実施してきた事項、代表取締役の地位にあった者として把握している請求人の経営に関する状況等について、適宜、新しい代表取締役に説明し、助言すること。
 なお、乙の上記相談役としての職務を遂行するため、本件分掌変更後、乙の座席は、社長室として仕切られていたスペース内において、甲の席の横に設けられた。
(ホ)本件分掌変更後、乙が取締役相談役として行っていた具体的な執務の内容は、以下のとおりであったと認められる。
 A りん議書決裁への関与等  (A)請求人のりん議書の決裁は、担当者から回付されたりん議書を甲が確認して押印欄に押印し、その前又は後に乙が押印することとされていた。
   そのため、請求人におけるりん議書には、代表取締役社長の押印欄の隣に「相談役」の押印欄が設けられていた。
   甲は、押印の前又は後において、適宜に乙に相談しており、甲が決裁に先立って乙の意見を求めた場合には、乙の助言を得た上で、りん議書への押印を行っていた。
 (B)請求人の各経営事項に関して、一定以上の職責にある者が出席することとされていた営業会議、合同会議及び代表者会議の各会議の議事録には、各会議の終了後に、作成欄に当該議事録の作成者が押印し、甲が押印した後に乙が押印していた。
 (C)以上の事実から、乙は、各経営事項に関する会議に係る経営関連事項の報告を受けていたことが認められ、また、請求人におけるりん議事項の決裁過程に関与していたことが認められる。さらに、乙は、当該りん議事項の決裁においては、請求人における最高決裁権者である甲に対する助言者として関与していたことが認められる。
 B 人事関係  (A)平成23年7月支給の賞与に関する評価
   平成23年7月支給の従業員賞与の査定について、甲は、乙に相談しながら評価を行い、乙のやり方に倣って査定した。このとき、甲は、乙から助言のあった従業員に対する評価については、その助言のとおりに、その従業員の評価に反映させた。
 (B)平成23年12月支給の賞与に関する評価
   乙は、平成23年12月支給の従業員賞与について、甲が行った査定に対し、その確認を行い、当該査定に基づき作成された「賞与平成23年冬季手当」の表に押印した。
 C 財務(資金・予算)関係  (A)予算作成への関与
   甲は、「2011年下期売上予算」の表の作成について、乙に相談をし、予算を算定する際に何か月分の平均を採った方がよいか等につき提案を受けるなど、一定の事項について乙に確認をしながら行った。
 (B)資金調達への関与
   甲は、平成23年7月支給の従業員賞与の総額決定の後、賞与支払のための銀行借入額について、乙の助言を得て念査、再計算を行い、借入額を下方修正した。
 (C)取引銀行との対応
   乙は、平成24年4月25日までの間、複数回にわたり、請求人の主要な取引銀行である××の請求人の担当者と面談し、請求人の資金調達等に関し、請求人側の人員として対応していた。
 (D)請求人親会社からの資金調達の要求等についての関与
  請求人親会社から資金調達の要求があったとき、甲は、乙に相談し、乙は甲と請求人親会社との間の調整の役割を果たした。
(へ)請求人における取締役の月額報酬の概要は、以下のとおりであった。
 A 平成22年6月から1年間
 (A)乙(代表取締役) 2,050,000円
 (B)××(取締役統括本部長) 400,000円
 (C)××(取締役) 0円
 B 平成23年6月から1年間
 (A)乙(取締役相談役) 700,000円
 (B)××(取締役統括本部長) 600,000円
 (C)甲(代表取締役) 850,000円
 ハ 当てはめ (イ)通則法第23条第1項第1号に掲げる税額が過大であるという実体的要件が満たされているか否かは、適用される租税実体法の規定に照らし、税額が過大である場合には更正の請求が認められることになるので、法人税法上、乙に対して支給された本件金員が乙に対する退職給与として損金の額に算入されるか否かが問題となる。
(ロ)乙は、平成23年5月30日開催の請求人の定時株主総会の終結時をもって取締役としての任期が満了しているが、当該定時株主総会において取締役として再任されており、乙は単に役員としての分掌が変更されたにすぎないのであるから、これによって請求人を退職したということはできない。
  しかしながら、役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情があると認められる場合には、分掌変更に際して支給される金員は、法人税法上も退職給与として取り扱われることから、本件分掌変更により乙に「実質的に退職したと同様の事情」があるか否かを、具体的な事情に基づいて判断する必要がある。
(ハ)そこで、まず、乙の月額報酬についてみると、本件分掌変更前の2,050,000円から700,000円に変更されており、50%以上の減少となっている点で、当審判所においても相当と認められる本件通達において示されている「給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと」の給与の「激減」という点は満たしているように見える。
  しかしながら、本件通達では、その対象として示している「役員」については、「その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く」こととされていることから、形式的に、乙の月額報酬が50%以上減少していたとしても、直ちに、本件通達に定める形式的な要件を満たしているということはできない。
  そして、本件分掌変更後の乙の月額報酬は甲の月額報酬と近似した額となっており、乙の職務に対する報酬額が甲の職務に対する報酬額と遜色のないものとなっていることからすると、乙の月額報酬が50%以上減少していることによって、直ちに、乙の地位又は職務の内容が激変したことを認め得るものとはならない。
  また、この時期に請求人における取締役全員の報酬水準が上記の(へ)のとおり変更されており、乙の本件分掌変更後の報酬は請求人における常勤取締役として相応の報酬水準であるとも評価できる。
  したがって、乙に対する月額報酬が50%以上の減少となっているという事実のみをもって、本件通達の趣旨に沿った給与の「激減」があったとはいい難い。
  さらに、本件通達の趣旨は、役員の分掌変更後の給与がおおむね50%以上減少すれば、直ちに、当該役員が退職したと同様の事情にあり、当該役員に対して当該分掌変更時に支給された退職給与等を損金の額に算入することを認めるという定めではないのであるから、本件分掌変更に係る役員が法人を実質的に退職したと同様の事情にあると認められるか否かを、具体的な事情に基づいて改めて判断する必要がある。
(ニ)そこで、本件分掌変更における具体的な事情をみると、乙は、本件分掌変更後も請求人の取締役相談役として引き続き常勤していたこと、株式会社における経営の意思決定機関である取締役会の構成員3名のうちの1名であること等を総合すれば、本件分掌変更後の乙の地位ないし役割は単に名目的なものではなく、常勤の敢締役としての実質を伴ったものであることが認められる。
  また、乙の取締役相談役としての職務は、おおむね上記の(ニ)のA及びBのとおりのものであり、本件分掌変更後、乙は、請求人の経営上の事項に関して甲に直接に意見の具申ないし説明を行う立場にあり、代表取締役退任後の乙の分掌からは、その性質上、代表取締役の直接の相談に応じることにより請求人の経営において乙の意見が反映される状況が当然に想定されるものといえる。そして、社長室に相当するスペース内において甲の席の横に座席を設けられて請求人に常勤していた状況も併せ考慮すれば、乙は、本件分掌変更後も、甲の側近の役員として請求人の社内に実質的な影響力を持つ地位にあったことがうかがわれる。
  さらに、乙が請求人において行っていた執務の内容を具体的にみても、乙は、請求人社内のりん議書の決裁において、決裁事項につき、請求人における最高決裁権者である甲に対する助言者として、請求人の経営の主要部分に関与していたことが認められる。
  また、株式会社における経営上の重要な事項である人事面及び財務面についても、最高責任者である甲とともに関与する状況にあり、これらを考慮すれば、乙は請求人の経営の主要部分に関与していたものといえる。なお、営業面については、甲が直接けん引する方針としていた事情があることから、乙の特段の関与がないとしても不自然ではなく、当初から乙の分掌の範囲外の状況であったというべきである。
  以上を踏まえれば、乙は、本件分掌変更後も請求人においてその役員として主要な地位にあったものというほかなく、本件分掌変更により、乙が請求人を実質的に退職したと同様の事情があったとは認められない。
(ホ)(略)
 ニ 請求人の主張について (イ)請求人は、実質的な退職と認めるべき事情として、乙の代表取締役退任の経緯や、取引関係者に対する退任の挨拶及び社長交代の引継ぎの挨拶、退任の挨拶状の送付、請求人が契約当事者である契約書類の名義の変更等を主張する。
  しかしながら、これらの事情は、請求人における代表取締役の交代を示すものであるにすぎず、乙が請求人を実質的に退職したと同様の事情があったことを示す根拠となるものではない。したがって、当該主張には理由がない。
(ロ)また、請求人は、本件金員につき、自社の退職慰労金規定により、取締役在任期間、専務取締役在任期間及び代表取締役在任期間が全て反映された退職慰労金である旨主張するが、上記の(ロ)のとおり、請求人が本件金員を退職慰労金として支払えば、直ちに、本件金員が損金の額に算入されるということではないのであるから、当該主張には理由がない。
(ハ)(略)
 ホ 結論  以上のとおり、本件金員は、法人税法上の退職給与であるとは認められず、かつ、法人税法第34条第1項各号のいずれにも該当しないことから、本件金員は、本件事業年度の損金の額に算入することはできず、本件修正申告書の提出により納付すべき税額等が過大であるとはいえないから、本件更正の請求は、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。

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