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解説記事2016年01月11日 【税務マエストロ】 米国デラウエア州LPSと「法人」該当性②(2016年1月11日号・№625)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
米国デラウエア州LPSと「法人」該当性②
#154 品川克己
PwC税理士法人

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#155 資産の譲渡等の範囲(1) 税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
 e-mail:ta@lotus21.co.jp

3 最高裁判決の検討及び疑問点
(1)「法人」の意義について
 本件判決では、特定の組織体の「法人」該当性の判断基準を示しているが、その前提として、まず「法人」の概念について整理している。これまでは、法人税法等の租税法一般において、特に別段の規定がない限り、「法人」は私法上の「法人」の借用概念として捉えられてきているところ、本件判決においては、租税法における法人とは、構成員とは別個に租税債務を負担させるべき納税義務者の一形態として整理し、単純な借用概念論とは別の解釈を示している。さらに、法人が構成員とは別個の納税義務者たる根拠として、組織体が権利義務の帰属主体であることが挙げられている。
 このように、本件判決の論理展開ではいきなり「組織体」の法人該当性に焦点があてられているが、そもそもこの「組織体」とはいかなるものを指すのか不明瞭である。たとえば匿名組合契約はどのように捉えるのであろうか。営業者と出資者をあわせて組織体と捉えるのか、一つの営業者と各出資者をばらばらの存在(つまり非組織体)と考えるのであろうか。どのような状態、どのような存在が本件の議論の前提となる「組織体」なのであろうか。法人に該当しない「組織体」の具体的な存在を想定することも難しい。
 次に、構成員とは別に租税債務を負担すべき対象が納税義務者であり法人であると整理されているが、この租税債務を負担すべき対象か否かの判断基準が不明確である。つまり、どのような場合・状態なら租税債務を負担すべきなのかという基準である。これは納税義務者としての適格性・該当性の問題と捉えることができるが、構成員レベルで課税するか組織体レベルで課税するかという問題は、納税義務者としての属性の問題ではなく、適時・確実な徴税の担保等の観点を踏まえた課税方法ないしは課税方式という技術的な論点との整理もできよう。どのような基準で、構成員レベルで課税されるのではなく組織体レベルで課税されるべきとするのかが不明である。
 なお一方、納税義務者としての属性の判断について「権利義務の帰属主体であるか」否かが基準となると述べられ、同時に「権利義務の帰属主体」とされることが「法人の最も本質的な属性」とされている。権利義務の帰属主体足り得るものが法人とするのであれば、この論理展開に納税義務者の適格性・該当性について議論する必要性は見いだせないとも言えよう。
 また、「権利義務の帰属主体」が法人の最も「本質的な属性」であるとする根拠が不明瞭である。これは法人と認定するための必要条件ではあろうが十分条件ではないと考えられる。つまり法人であれば権利義務の帰属主体となろうが、法人でなくとも権利義務の帰属主体となり得るケースも想定できよう。こうした場合、課税技術論としては法人税法の対象となろう(例えば、日本の「人格なき社団」には、法人とみなして法人税法が適用される。)。しかしながら、そのことが同時に、法人ではない当該組織体を「法人」と判断する根拠となり得ないのではないだろうか。
 なお、「権利義務の帰属主体」が法人の最も本質的な属性としながら、「権利義務」の範囲、程度については何も示されていない。ある権利義務は帰属するが、別の権利義務は帰属しないということもあり得よう。ある一定の範囲の法律行為までしか組織体の名義でできないような場合の権利義務はどのように考えるのであろうか。こうしたことを考えると、「権利義務の帰属主体」といえるかどうかは、一見簡単なようであるが、明確に判定できる基準とは言い難いようにも感じる。
(2)設立根拠法令の文言等について  本件判決では、組織体の「法人」該当性について2ステップの判定基準を示し、第一の基準として、組織体の所在地国の設立根拠法令の文言等の形式面からの判断を求めている。具体的には「設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白である」か否かで判定することとなる。
 しかしながら、本件判決では、そもそも「日本法上の法人に相当する法的地位」とはどのような地位を指すのか具体的な説明はされていない。仮に、法人としての最も本質的な属性とされた「権利義務の帰属主体」を法人の法的地位と考えるのであれば、そこでは(1)で述べたように「権利義務」の範囲が問題となるであろう。また、「……は法人である。」などの文言が設立根拠法令の中にある場合は法人と捉えるという単純明快なことであれば、それはわかりやすい基準であろうが、現実的にはそうしたケースは存在しないように思える。また、どの程度であれば「疑義のない程度に明白」なのかという論点も、非常に難しい判断が求められよう。
 本件判決における第一の基準は、設立根拠法の文言等の形式面からの判断を求めている点では、一見、単純・明快であるが、結局はその文言をどのように捉えるかという実質判断の要素が多く、実務上、第一の基準で判定できるケースは無いのではないかと考えられる。また、仮に「……は法人ではない。」とされているような場合に、第二の基準による判定をまたず法人該当性を否定してしまってよいものかかどうか疑問の残るところである。
(3)設立根拠法令の趣旨等について  本件判決では、第一の基準で判定できない場合に、「当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から」判定することが示されている。具体的には、「権利義務の帰属主体」であるか否かを、「組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律行為が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点」から検討することとなる。
 この第二の基準は、設立根拠法令の趣旨等からの実質判断を求めるものと考えられるが、この場合にも、「権利義務の帰属主体」としての程度、範囲の問題が生じよう。特定の取引や特定の場合のみ特定の権利義務が帰属するような組織体を「権利義務の帰属主体」と判定できるかどうかの問題である。つまり、第二の基準においても「権利義務」の範囲、程度が明確である必要があろう。本件判決ではその点には触れていない。
 結局のところ、本件判決は、外国の組織体を我が国の租税法上の外国法人と扱う場合についていろいろな考えがある中で一定の基準を示した点では評価できるところであるが、この判断基準を一般的、普遍的なものではなく、高裁段階で判断が分かれた「デラウエア州のLPS」という対象に限定してその外国法人該当性に結論を出したものと捉えるべきと考える。したがって、他州のLPSやGPS(General Partnership)又は他国の組織体については、依然として、その取扱いについて判断が分かれることが想定できよう。

4 今後の実務への影響  本件判決では、デラウエア州のLPSは法人(外国法人)に該当するとし、その結果、構成員たる日本からの投資家の個人所得税における損益通算が否認されている。これは当該投資スキームによる帰属損益が日本の所得税の計算上損失となるためであるが、こうした投資スキームは日本の金融機関等を経由して一種の商品のように販売されており、その多くがデラウエア州のLPSを利用している。デラウエア州のLPSは、その組成等が容易であること等から、日本のみならず、米国外からの投資で多く利用されているようでもある。本件判決が示されたことにより、日本の金融機関等は、今後の投資スキームの再設計(ある意味、新商品の開発)の必要が生じてこよう。具体的には、デラウエア州LPS以外の組織体への変更が予想される。
 また、現在、本件判決におけるケースと同様の投資スキームを採っている投資家は、その主たる目的が損失の取り込みであろう。本件判決により損失の取り込みができなくなることから、今後は、投資効率の悪化をさけるため現状の投資スキームを変更する必要が生じよう。税務処理、手続きとしては、仮にこれまで構成員の損失として取り込んできた部分については、修正申告の必要があり、こうした投資家を顧客とする金融機関等はその旨のアドバイスをする等の対応が求められよう。
 なお、本件は、LPS段階では会計・税務上損失が計上されるスキームであるが、仮にLPS段階で利益が計上されている場合の処理も必要となろう。デラウエア州LPSを法人とする以上、その分配は配当と考えることとなろう。したがって、25%以上(6か月以上)の出資持分を持つ構成員の受ける分配金は、その95%部分が益金不算入とされるべきである。これまでは、おそらく発生主義で収益計上して課税所得に含められてきていると考えられるが、こうした場合には実際の分配の有無にかかわらず、減額更正の対象となろう。本件以外のデラウエア州LPSを利用した投資家に対し、修正申告の慫慂ないし更正決定するのであれば、収益計上してきている投資家に対しては、更正の請求の必要性を伝える、もしくは職権による減額更正により還付すべきと考えられる。いずれにせよ、既存の税務処理の修正は公平・中立であるべきであろう。

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