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解説記事2016年02月15日 【新会計基準解説】 企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」について(2016年2月15日号・№630)

新会計基準解説
企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」について
 企業会計基準委員会 専門研究員 宮治哲司

Ⅰ はじめに

 企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成27年12月28日に、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下「本適用指針」という。)を公表した(脚注1)。本稿では、本適用指針の概要を紹介する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

Ⅱ 公表の経緯
 我が国における税効果会計に関する会計基準として、平成10年10月に企業会計審議会から「税効果会計に係る会計基準」が公表され、当該会計基準等を受けて、日本公認会計士協会から会計上の実務指針が公表されている(脚注2)。また、繰延税金資産の回収可能性に関する監査上の実務指針として、監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下「監査委員会報告第66号」という。)等が公表されている。
 これらの会計基準及び実務指針に基づきこれまで財務諸表の作成実務が行われてきたが、平成24年11月に開催された第16回基準諮問会議において、財務諸表作成者から、監査委員会報告第66号のASBJへの移管と見直しをASBJの新規テーマとすることが提案された。その後、基準諮問会議における審議の結果、平成25年12月に開催された第277回企業会計基準委員会において、基準諮問会議より、日本公認会計士協会における税効果会計に関する会計上の実務指針及び監査上の実務指針(会計処理に関する部分)(脚注3)について当委員会で審議を行うことが提言された。この提言を受けて、ASBJは、同企業会計基準委員会において、新規テーマとすることを決定するとともに、税効果会計専門委員会を設置し、平成26年2月から審議を開始した。
 審議を進めていく中で、これらの実務指針のうち監査委員会報告第66号に対する問題意識が特に強く聞かれることから、繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針を先行して開発することとした。そして、監査委員会報告第66号及び監査委員会報告第70号「その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の取扱い」(以下「監査委員会報告第70号」という。)等において記載されている繰延税金資産の回収可能性に関する定めについて、基本的にその内容を引き継いだ上で、必要と考えられる見直しを行い、平成27年5月に企業会計基準適用指針公開草案第54号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」を公表した。本適用指針は、公開草案に対して寄せられた意見を踏まえて検討を行い、公開草案の内容を一部修正した上で公表するに至ったものである。

Ⅲ 本適用指針の概要

1 企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い
(1)監査委員会報告第66号における企業の分類に応じた取扱いの検討
 本適用指針では、監査委員会報告第66号における企業の分類に応じた取扱い、すなわち、企業を5つに分類し、当該分類に応じて繰延税金資産の計上額を見積る取扱いを見直すかどうかについて検討を行った。
 この審議の過程では、監査委員会報告第66号における企業の分類に応じた取扱いを撤廃すべきであるとの意見が聞かれた。これは、当該取扱いは、我が国において税効果会計が初めて適用されるにあたって、将来の事象を勘案することが困難であったために設けられた監査上の取扱いであったが、その後に公表された「固定資産の減損に係る会計基準」のように将来の事象を勘案する会計基準が導入され、最近では、監査委員会報告第66号のような詳細なガイダンスがない国際財務報告基準(IFRS)の任意適用が開始されていることを踏まえると、当該取扱いを踏襲することは適切ではないとの考え方に基づくものである。
 一方で、監査委員会報告第66号における企業の分類に応じた取扱いは財務諸表の作成実務及び監査実務に浸透し定着しており、また、適用対象となる企業が広範にわたることを考慮すると、当該取扱いを維持すべきであるとの意見も聞かれた。
 審議の結果、監査委員会報告第66号における企業の分類に応じた取扱いを撤廃する場合には実務への影響が大きいと考えられることから、当該取扱いの枠組みを撤廃せずに、基本的に踏襲した上で、当該取扱いの一部について必要な見直しを行うことにより問題意識への対応を図ることとした。ただし、今後のIFRSの任意適用の進展状況等も勘案する必要があると考えられるため、将来の検討課題とすることとした(本適用指針第63項)。
(2)回収可能性を判断する際の考慮事項  前述のとおり、企業の分類に応じた取扱いの一部について必要な見直しを行うにあたって、繰延税金資産の回収可能性を判断する際に、過去の事象と将来の事象のいずれを重視するかについて検討を行った。
 監査委員会報告第66号では「会社の過去の業績等の状況を主たる判断基準として、将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を判断する場合の指針を示すこととした。」とされ、過去の事象を主たる判断基準としていた。この点に関して、日本公認会計士協会会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」では過年度の納税状況及び将来の業績予測等を総合的に勘案することが求められているのに対し、監査委員会報告第66号では過去の事象が重視されすぎており、実態が反映されていないのではないかとの意見が聞かれた。
 当該意見を踏まえ、監査委員会報告第66号における上記の記載を本適用指針に引き継がず、(分類3)及び(分類4)において繰延税金資産の計上額を決定する際に、過去の課税所得の推移や将来の業績予測等を考慮する定め((分類3)に該当する企業における5年を超える見積可能期間に係る繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い(本適用指針第24項)、(分類4)に係る分類の要件を満たすが(分類2)又は(分類3)に該当するものとする取扱い(本適用指針第28項及び第29項))を設けることとしている(本適用指針第64項)。
(3)(分類1)から(分類5)に係る分類の要件をいずれも満たさない企業の取扱い  監査委員会報告第66号における企業の分類に応じた取扱いを踏襲するにあたって、監査委員会報告第66号において「例示区分」として示されていた事項や監査上の指針として示されていた内容を、会計上の指針として取扱いを明確にすることとした。このため、本適用指針では、分類ごとに要件を設定することとし、収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得(脚注4)等に基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断する際に、要件に基づき企業を分類した上で、当該分類に応じて、回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定することとしている(本適用指針第15項)。
 また、各分類の要件を設定するにあたっては、すべてのケースを網羅するように定めると要件が複雑になり、実務上の判断が困難となり得ることが懸念された。そのため、分類の実行可能性の観点から、各分類の要件は必要と考えられるものを示した上で、(分類1)から(分類5)に係る分類の要件をいずれも満たさない企業は、過去の課税所得又は税務上の欠損金の推移、当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み、将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類することとしている(本適用指針第16項)。なお、本適用指針第16項における当該判断は、各分類の要件からの乖離度合いを定量的に検討することを意図するものではないとしている(本適用指針第65項)。

2 分類ごとの回収可能性に関する取扱い  (分類1)から(分類5)のうち、(分類1)及び(分類5)に関する取扱いについては、基本的に監査委員会報告第66号の定めの内容を踏襲している。一方、(分類2)、(分類3)及び(分類4)に関する取扱いについては、監査委員会報告第66号の定めの内容を踏襲した上で、定めの一部について見直しを行っている。
(1)(分類2)に該当する企業の取扱い 
 ① (分類2)に係る分類の要件の見直し
 本適用指針では、(分類2)に係る分類の要件について、表1のように会計上の利益に基づく要件から課税所得に基づく要件に変更することとしている(本適用指針第19項(1))。

【表1】(分類2)に係る分類の要件
監査委員会報告第66号 本適用指針
 過去の業績が安定している会社等、すなわち、当期及び過去(おおむね3年以上)連続してある程度の経常的な利益を計上しているような会社等  過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が安定的に生じている。

 この変更は、受取配当金の益金不算入額のように永久に益金又は損金に算入されない項目が生じること等により会計上の利益の額と課税所得の額が通常は一致しない中で、繰延税金資産の回収可能性の判断においては課税所得の十分性を検討する必要があるため、企業を分類するにあたって重視すべき要件としては課税所得がより適切であると考えたためである(本適用指針第69項)。
 なお、上記のとおり(分類2)に係る分類の要件を変更するものの、これによりこれまで(分類2)又は(分類3)に該当していた企業の範囲を変更しないこと及び監査委員会報告第66号における「経常的な利益」に基づく判断とおおむね整合的になることを意図して、課税所得から「臨時的な原因により生じたもの」を除くこととしている。これは、過去において臨時的な原因により生じた益金及び損金は、将来において頻繁に生じることは見込まれないという推定に基づいている(本適用指針第71項)。
 また、(分類2)に係る分類の要件として示している「臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている。」の趣旨は、将来において一時差異等加減算前課税所得を安定的に獲得する収益力があるか否かを判断することを意図したものである(本適用指針第70項)。
 ② (分類2)に該当する企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異に関する取扱い  スケジューリング不能な将来減算一時差異について、(分類2)に該当する企業では一律に繰延税金資産を計上することができないとする監査委員会報告第66号の取扱いは企業の実態を反映しない場合があるとの意見や、(分類2)に該当する企業がIFRS又は米国会計基準を適用している場合にIFRS又は米国会計基準に基づく連結財務諸表においては繰延税金資産を計上している実務がみられるとの意見が聞かれた。
 例えば、業務上の関係を有する企業の株式(いわゆる政策保有株式)のうち過去に減損処理を行った上場株式について、当期末において、株式の売却時期の意思決定は行っていないが、市場環境、保有目的、処分方針等を勘案すると将来のいずれかの時点で売却する可能性が高いと見込む場合がある。
 このようなケースでは、(分類2)に該当する企業においては長期的に安定して一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれるため、スケジューリングが可能となった場合、相殺できる課税所得(すなわち、当該上場株式の減損に係る将来減算一時差異以外の将来減算(加算)一時差異の解消額を減算(加算)した後の課税所得)が生じる可能性があれば、一定の回収可能性を認め得ると考えられる。そのため、本適用指針では、表2に記載した取扱いに見直している。

【表2】(分類2)に該当する企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異に関する取扱い
監査委員会報告第66号 本適用指針
 一律に繰延税金資産を計上することができない。  原則として、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、回収可能性がないものとする。
 ただし、スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金の算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとする(本適用指針第21項)。

 本適用指針第21項ただし書きは、(分類2)に該当する企業においては、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について回収可能性がないものとする原則的な定めに対して、スケジューリング不能な将来減算一時差異を回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には原則とは異なる取扱いを容認することで、繰延税金資産の計上額が企業の実態をより適切に反映したものとなることを意図したものであるとしている(本適用指針第77項)。
 なお、本適用指針第21項ただし書きにおいて取り扱うスケジューリング不能な将来減算一時差異には、本適用指針第13項ただし書きを適用してスケジューリング不能な一時差異とは取り扱わないとしているもの(脚注5)は含まれないことに留意する必要がある(本適用指針第76項)。
 ③ 公開草案からの変更点  公開草案では、原則とは異なる取扱いに関して「合理的に説明できる場合」と提案していたが、この表現に対し、公開草案に寄せられたコメントの中には、企業が説明できる状況にあるが説明を行わなかった場合の取扱いが不明確であるとの意見があった。この点、原則とは異なる取扱いは、企業の検討に基づき適用する場合にのみ容認することを意図しているため、その意図を明確にするために検討を行う主体が企業であることを明示した。また、当該検討においては根拠が必要であることを明示するために、「根拠をもって」との記載を追加した。これらの結果、公開草案における「合理的に説明できる場合」との表現は、「企業が合理的な根拠をもって説明する場合」に変更している(本適用指針第78項)。
 なお、(分類3)に該当する企業における5年を超える見積可能期間に係る繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い(本適用指針第24項)、(分類4)に係る分類の要件を満たすが(分類2)に該当するものとして取り扱われる場合(本適用指針第28項)及び(分類4)に係る分類の要件を満たすが(分類3)に該当するものとして取り扱われる場合(本適用指針第29項)についても、上記に記載した内容を踏まえて、同様に公開草案の表現を変更している。
(2)(分類3)に該当する企業の取扱い 
 ①(分類3)に係る分類の要件の見直し
 本適用指針では、(分類3)に係る分類の要件について、(分類2)における要件と整合するように、表3のように会計上の利益に基づく要件から課税所得に基づく要件に変更することとしている(本適用指針第22項(1))。

【表3】(分類3)に係る分類の要件
監査委員会報告第66号 本適用指針
 過去の業績が不安定な会社等、すなわち、過去の経常的な損益が大きく増減しているような会社等  過去(3年)及び当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得(脚注6)が大きく増減している。

 ②(分類3)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い  監査委員会報告第66号における現行の取扱いについては、見積可能期間に関して「おおむね」という表現が用いられているものの、5年を超える期間の課税所得を見積ることが実務的には認められていないのではないかとの意見が聞かれた。
 将来の合理的な見積可能期間について一律に5年を限度とすることは、企業の実態を反映しない可能性があると考えられるため、本適用指針では、表4に記載した取扱いに見直している(脚注7)。

【表4】(分類3)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い
監査委員会報告第66号 本適用指針
 将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の課税所得の見積額を限度として、当該期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき繰延税金資産を計上している場合には、当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする。  将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、当該見積可能期間の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする(本適用指針第23項)。
 上記にかかわらず、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする(本適用指針第24項)。

(3)(分類4)に該当する企業の取扱い 
 ① (分類4)に係る分類の要件の見直し
 監査委員会報告第66号では、当期末における重要な税務上の繰越欠損金の存在等を企業を分類する際の要件としていたが、重要な税務上の繰越欠損金の存在が重視されすぎており、(分類1)から(分類3)までに係る分類の要件との間の連続性が失われているとの意見が聞かれた。このため、本適用指針では、当期末に重要な税務上の繰越欠損金が存在するかどうかではなく、過去(3年)又は当期において重要な税務上の欠損金が生じているかどうかに焦点を当てた要件とすることとしている(本適用指針第26項(1))。
 ②(分類4)に係る分類の要件を満たす企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い  監査委員会報告第66号における現行のただし書きの取扱いについては、見積可能期間に関して「おおむね」という表現が用いられているものの、5年を超える期間の課税所得を見積ることが実務的には認められていないのではないかとの意見や、「非経常的な特別の原因」の範囲が明確ではなく、実務上、議論となることが多いとの意見が聞かれた。そのため、本適用指針では、表5に記載した取扱いに見直している。

【表5】(分類4)に係る分類の要件を満たす企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い
監査委員会報告第66号 本適用指針
 翌期に課税所得の発生が確実に見込まれる場合で、かつ、その範囲内で翌期の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき繰延税金資産を計上している場合には、当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする。
 ただし、重要な税務上の繰越欠損金や過去の経常的な利益水準を大きく上回る将来減算一時差異が、例えば、事業のリストラクチャリングや法令等の改正などによる非経常的な特別の原因により発生したものであり、それを除けば課税所得を毎期計上している会社の場合には、将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の課税所得の見積額を限度として、当該期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき繰延税金資産を計上している場合には、当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする。
 翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする(本適用指針第27項)。
 上記にかかわらず、重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、
・将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは(分類2)に該当するものとして取り扱い、本適用指針第20項及び第21項の定めに従う(本適用指針第28項)。
・将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは(分類3)に該当するものとして取り扱い、本適用指針第23項の定めに従う(本適用指針第29項)。

 (分類4)に係る分類の要件を満たす企業が(分類2)に該当するものとして取り扱われるケース(脚注8)は、一時差異等加減算前課税所得を5年超にわたり安定的に獲得するだけの収益力を企業が合理的な根拠をもって説明する場合であることから、(分類4)に係る分類の要件を満たす企業が(分類3)に該当するものとして取り扱われるケースに比べて多くはないものと考えられるとしている。また、(分類4)に係る分類の要件を満たす企業が(分類3)に該当するものとして取り扱われる場合、本適用指針第23項の定めに従うこととしており、本適用指針第24項の定め((分類3)に該当する企業における5年を超える見積可能期間に係る繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い)は適用されないものとしている(本適用指針第89項)。

3 その他の検討事項
(1)解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異の取扱い
 退職給付引当金や建物の減価償却超過額に係る将来減算一時差異のように、スケジューリングの結果、その解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異に係る繰延税金資産の計上について、(分類3)に該当する企業(本適用指針第29項に従って(分類3)に該当するものとして取り扱われる企業を含む。)においては、課税所得が大きく増減していること又は重要な税務上の欠損金が生じていることから、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額により回収が見込まれる範囲で繰延税金資産を計上すべきとの意見が聞かれた。一方で、(分類3)に該当する企業においては一定程度の一時差異等加減算前課税所得が見込めることから、将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)を超えた期間であっても当該将来減算一時差異に関する繰延税金資産の回収可能性はあるものと考えられるため、当該取扱いを見直すべきではないとの意見も聞かれた。
 検討の結果、当該取扱いが検討された過去の経緯を踏まえ、本適用指針では、監査委員会報告第66号における取扱いを踏襲することとしている(本適用指針第35項)。
(2)固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い  監査委員会報告第70号では「減損損失は、その本質が減価償却とは異なる性質のものであり、臨時性が極めて高く、かつ、金額も巨額になる可能性が高い」ことから、償却資産の減損損失に係る将来減算一時差異については、監査委員会報告第66号の「将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異の取扱い」にいう建物の減価償却超過額に係る将来減算一時差異と同様の取扱いを適用しないものとされていた。この点、整合性の観点から両者の取扱いを同様とする見直しが必要ではないかという意見が聞かれた。一方、当該取扱いについては実務に定着している点等から、当面は両者の取扱いを見直すべきではないという意見も聞かれた。
 検討の結果、両者の取扱いが検討された過去の経緯を踏まえ、本適用指針では、監査委員会報告第66号における取扱い及び監査委員会報告第70号における取扱いのいずれも見直さないこととしている(本適用指針第36項)。

4 適用時期等
(1)適用時期
 本適用指針の適用時期は表6のとおりである(本適用指針第49項(1)、(2)及び(4))。

【表6】適用時期等について
原則適用 早期適用
時 期  平成28年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。  平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用できる。
遡及適用に関する取扱い ・過去の期間の連結財務諸表及び個別財務諸表に遡及適用を認めない。
・本適用指針の適用初年度においては、当該年度の期首時点で新たな会計方針(本適用指針第49項(3)①から③に該当する項目)を適用した場合の繰延税金資産及び繰延税金負債の額と、前年度末の繰延税金資産及び繰延税金負債の額との差額を、適用初年度の期首の利益剰余金等に加減する。 
早期適用固有の取扱い 該当なし。 ・早期適用した年度の期首に遡って適用する。
・早期適用した連結会計年度及び事業年度の翌年度に係る四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表においては、早期適用した連結会計年度及び事業年度の四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表について本適用指針を当該年度の期首に遡って適用する。

(2)適用初年度の取扱い
 ① 取扱いの概要
 本適用指針の適用初年度の期首においては、次の項目を適用することにより、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととしている(本適用指針第49項(3))。
 ⅰ (分類2)に該当する企業において、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には回収可能性があるとする取扱い
 ⅱ (分類3)に該当する企業において、おおむね5年を明らかに超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には回収可能性があるとする取扱い
 ⅲ (分類4)の要件に該当する企業であっても、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には(分類2)に該当するものとする取扱い
 ② 公開草案からの変更点  公開草案では、適用初年度の取扱いに関して「本適用指針の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。」とし、当該適用初年度の期首において影響額が生じる場合、利益剰余金等に加減することを提案していた。この取扱いに対し、公開草案に寄せられたコメントの中には、監査上の取扱いが会計上の指針に移管されるにあたって、本適用指針の各々の定めが、監査委員会報告第66号における取扱いをより明確に定めたものなのか、監査委員会報告第66号の定めの内容を実質的に変更しているものなのかを詳細に検討することが困難であり、各企業により利益剰余金等に加減する範囲が異なる可能性があることについて懸念を示す意見があった。
 この点、本適用指針には、ⅰ監査委員会報告第66号における表現のみを見直したもの、ⅱ監査委員会報告第66号における考え方を踏まえた上で取扱いをより明確に定めたもの、ⅲ監査委員会報告第66号の定めの内容を実質的に変更しているものが含まれていると考えられるが、示された懸念に対応するために会計方針の変更に該当する「ⅲ監査委員会報告第66号の定めの内容を実質的に変更しているもの」を特定することとし、本適用指針第49項(3)①から③に該当する項目を適用することにより、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととした(本適用指針第122項)。
(3)会計方針の変更による影響額の注記事項の取扱い  本適用指針の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更による影響額の注記について、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第10項(5)ただし書きの定めにかかわらず、以下の項目のみを注記することとしている(本適用指針第49項(5))。
・適用初年度の期首の繰延税金資産に対する影響額
・適用初年度の期首の利益剰余金に対する影響額
・適用初年度の期首のその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に対する影響額

Ⅳ 今後の予定
 日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針のうち本適用指針に含まれていないものについては、今後、当委員会の適用指針として開発していく予定である。当該適用指針に係る審議においては、本適用指針の公開草案に対して寄せられた税効果会計に係る開示(注記事項)に関するコメントを踏まえ、現行の税効果会計に係る注記事項に関する見直しを検討する予定である。
 なお、日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針のうち税効果会計に適用する税率の取扱いについては、今後の当委員会における適用指針の開発に先行して、平成27年12月10日に企業会計基準適用指針公開草案第55号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)」を公表している。

脚注
1 本適用指針の全文については、ASBJのウェブサイト(https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/docs/zeikouka2015/)を参照のこと。
2 平成13年のASBJ設立前は、日本公認会計士協会により実務指針の作成が行われていた。これらの実務指針は、ASBJ設立後も個々に改廃されない限り、効力を有するものとされている(「(財)財務会計基準機構・企業会計基準委員会から公表される企業会計基準等の取扱い(準拠性)について」平成14年5月17日)。
3 日本公認会計士協会における税効果会計に関する会計上の実務指針及び監査上の実務指針(会計処理に関する部分)の移管の範囲については、本適用指針と併せて公表された「公表にあたって及び本適用指針の概要」の別紙1を参照されたい。
4 一時差異等加減算前課税所得とは、「将来の事業年度における課税所得の見積額から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額(及び該当する場合は、当該事業年度において控除することが見込まれる当期末に存在する税務上の繰越欠損金の額)を除いた額」としている(本適用指針第3項(9))。
5 例えば、貸倒引当金等のように、その損失の発生時期を個別に特定し、スケジューリングすることが実務上困難なものについて、過去の税務上の損金の算入実績に将来の合理的な予測を加味した方法等によりスケジューリングが行われているものをいう。
6 課税所得から臨時的な原因により生じたものを除いた数値は、負の値となる場合を含む。
7 例えば、過去においては課税所得が大きく増減していたが、長期契約が新たに締結されたことにより、長期的かつ安定的な収益が計上されることが明確になる場合等が考えられる(本適用指針第85項)。
8 例えば、過去において(分類2)に該当していた企業が、当期において災害による損失により重要な税務上の欠損金が生じる見込みであることから(分類4)に係る分類の要件を満たす場合等が考えられる(本適用指針第91項)。

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