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解説記事2016年03月21日 【未公開裁決事例紹介】 宅建の資格取得費及び開業費の経費性(2016年3月21日号・№635)

未公開裁決事例紹介
宅建の資格取得費及び開業費の経費性
資格取得費は家事費、開業手続費は必要経費

○宅地建物取引業の開業に当たって支出した①宅地建物取引主任者資格の資格取得費及び②宅建業の営業許可に係る費用などが、事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否かが争われた事例(平成27年4月14日、棄却)。審判所は、宅地建物取引主任者資格の資格取得費は、新しい地位や職業を獲得するための教育費であり、家事費に該当することから、必要経費に算入することはできないとする一方、宅建業の開業に当たっては、宅建業法の規定により、都道府県知事等から免許を受ける条件となっているほか、営業保証金の供託などが必要であるため、宅建業者の免許申請及び弁済業務保証金の供託等に関する手続に要した費用は、宅建業に係る業務と直接の関係をもち、かつ、業務の遂行上必要なものと認められると判断した。

基礎事実等
(1)事案の概要
 本件は、旅館業及び不動産貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、事業所得の金額の計算上必要経費に算入した宅地建物取引業者の免許取得などの費用について、原処分庁が、当該費用は、請求人の業務の遂行上必要なものとは認められず、事業所得の金額の計算上必要経費に算入できないなどとして所得税の各更正処分等をしたのに対し、請求人が、調査手続に違法があるなどとして、当該処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)審査請求に至る経緯(略)
(3)関係法令等の要旨(略)
(4)基礎事実
 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても認められる事実及び証拠によって容易に認められる事実である。
イ 請求人は、××であり、平成22年8月末から、肩書地に所在する××(以下「本件マンション」という。)に居住している。
ロ 請求人は、別表2(編注:略)のとおり、土地付建物をそれぞれ取得し、①同表の順号1の××に所在する物件(以下「××」という。)については、平成14年7月から貸付用として業務の用に供し、また、②同2の××に所在する物件(以下「××」という。)については、平成19年4月から貸付用として業務の用に供し、そして、③同3の××に所在する物件(以下「××」といい、××及び××と併せて「本件各物件」という。)については、平成23年10月から旅館用として事業の用に供していた。
  なお、以下、請求人の××及び××の貸付けに係る業務を「本件貸付業務」といい、請求人の××による旅館業を「本件旅館業」という。
ハ 本件調査の主な経過については、次のとおりである。
(イ)平成25年5月22日、原処分庁所属の××の××(以下「当初調査担当職員」という。)は、請求人に対し、電話連絡により実地調査の事前通知をした。
(ロ)平成25年5月31日及び同年6月18日、当初調査担当職員は、請求人宅へ臨場し、本件調査を実施した。
(ハ)平成25年9月30日、当初調査担当職員から本件調査を引き継いだ原処分庁所属の××の国税調査官(以下「本件調査担当職員」という。)は、請求人に対し、本件調査のため、自宅に伺いたい旨説明し、同年10月21日に請求人宅へ臨場することを約束した。
(ニ)平成25年10月21日及び同月29日、本件調査担当職員は、本件調査のため、請求人と接触した。
(ホ)平成26年3月6日、本件調査担当職員は、請求人の携帯電話へ連絡し、請求人と本件調査に関する応答をした。その後、本件調査担当職員の上司である統括国税調査官(以下「本件統括官」という。)も、請求人の携帯電話へ連絡し、請求人と本件調査に関する応答をした。
(ヘ)平成26年3月7日、請求人は、本件調査担当職員へ電話連絡したところ、同職員が不在であったことから、応対した職員に対し、本件統括官から連絡いただきたい旨伝言した。その後、本件統括官は、請求人の携帯電話へ連絡し、請求人と本件調査に関する応答をした。
ニ 平成26年3月13日、原処分庁所属の職員2名は、本件マンションが所在する××に赴き、インターフォン越しに請求人に面会したい旨を伝えたところ、請求人から、本日(13日)は面会の予定はなく、忙しいので対応できないとの発言があったので、同日、××のフロント係に郵便受けまで案内してもらい、請求人使用の郵便受け(「××」の表示のみ)に本件各更正処分等の通知書を投かんした。

争点および主張  本件の争点は、仮に、本件調査等の手続に本件各更正処分等を取り消すべき違法がない場合、請求人の主張する各費用(以下「本件各費用」という。)の額は、請求人の不動産所得の金額又は事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるか否かなど。当事者の主張はのとおり。

【表】請求人の主張する各費用の額は、請求人の不動産所得の金額又は事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるか否か
原処分庁 請 求 人
本件各費用について
A 不動産所得及び事業所得に共通する費用について

(A)地代家賃
 請求人は、平成24年当時、本件宅建業を営んでいないこと、また、請求人の区分方法は、単に業務を行うことが可能となる日にすぎず、かつ、本件マンションが、請求人及び請求人の家族が生活する場でもあることからすれば、家事費が含まれている蓋然性は極めて高いのであって、合理的な区分とは言い難いことから、業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分した場合には該当しない。
(B)給料賃金
 請求人主張の給料賃金は、本件マンションに係る清掃費であり、上記(A)と同様に必要経費に該当しない。
B 不動産所得に関する費用について
(A)雑費(平成22年分)
 請求人主張の雑費は、本件マンションへ移転した際に支払ったものであり、必要経費に該当しない。
(B)損害保険料(平成23年分)
 請求人主張の××の建物に係る損害保険料の内容については、不知である。
(C)修繕費(平成23年分)
 領収書には、支払内容の記載がなく、また、他に支払内容が明らかとなる資料もないから、業務と直接関係をもち、かつ、業務遂行上通常必要な支出であるとは認められない。
C 事業所得に関する費用について
(A)本件旅館業及び本件宅建業に共通する費用(平成24年分の接待交際費)について
 どのような業務に関連するのか何ら明らかでないことに加え、同会費が、必要経費となり得る事情は何ら存しないことから、業務に直接関係をもち、かつ、業務の遂行上通常必要な支出であるとは到底認められない。
(B)本件宅建業に関する費用について
a 宅建営業許可関連
 請求人は、平成24年当時、本件宅建業を営んでいないから、必要経費に該当するか否かを検討するまでもない。
b 車両に係る減価償却費(平成24年分) 
 上記aと同様である。
c 情報収集費(平成24年分)
 上記aと同様である。
d 印紙代(平成24年分)
 上記aと同様である。
e 海外調査費(平成24年分)
 上記aと同様である。
(C)本件旅館業に関する費用について
a 情報収集費(平成23年分)
 請求人の事業所得に係る業務と直接関係をもち、かつ、当該業務の遂行上通常必要であることが何ら明らかではなく、また、支払った事実すら確認できないものであるから、必要経費に該当しない。
b 雑費(平成23年分)
 上記aと同様である。
本件各費用について
A 不動産所得及び事業所得に共通する費用について

(A)地代家賃
 本件マンションは、平成22年9月から賃借し、事務所兼住居として使用しており、このうち事務所部分については、図面に部屋ごとの事務所部分の使用割合を記載し、50%以上は事務所として使用していることを明らかにしたにもかかわらず、1円たりとも必要経費として認めないのは誤りである。
(B)給料賃金
 給料賃金は、本件マンションの事務所部分(50%)の清掃のために清掃人に支払ったものである。
B 不動産所得に関する費用について
(A)雑費(平成22年分)
 請求人が事業開始を念頭に本件マンションに移転した際、引越費用、接客用家具、カーテン、電化製品等の購入費用を支出しており、これらの費用のうち事業に関連する部分を積算すると、1,000,000円を超える金額となるので、単純に1,000,000円を雑費とした。なお、これらの領収書は、平成25年6月の実地調査後に廃棄した。
(B)損害保険料(平成23年分)
 ××の建物に係る損害保険料(平成23年3月22日から5年間分)として、××に対して支払った282,790円を追加した。
(C)修繕費(平成23年分)
 修繕費のうち××への22,000円の支払については、××の鍵及びドアの修理費用として支出したものである。
C 事業所得に関する費用について
(A)本件旅館業及び本件宅建業に共通する費用(平成24年分の接待交際費)について
 ××月会費は、海外の記者や顧客を接待するためのクラブの会費であり、確定申告では、同会費126,000円を申告していなかったので、同金額を接待交際費に追加した。
(B)本件宅建業に関する費用について
a 宅建営業許可関連
 本件マンションを拠点として海外の顧客を念頭においたプロパティマネジメント事業を行うに当たり、宅建業の営業許可を得るための宅地建物取引主任者資格試験に係る費用等のために支出した費用である。
b 車両に係る減価償却費(平成24年分)
 当該事業でのスキー客の送迎などの事業用として車両(1,400,000円)を購入しており、車両に係る減価償却費(1,280,000円×1/6=213,333円)を追加した。
c 情報収集費(平成24年分)
 平成24年分の情報収集費は、海外書籍や雑誌の購入及び講読、MBA、マーケテイング、金融、不動産、観光等の事業に関連する書籍の購入費用である。
d 印紙代(平成24年分)
 平成24年分の印紙代は、宅建業の許可の際に支出した収入印紙の購入費用である。
e 海外調査費(平成24年分)
 平成24年分の海外調査費は、海外の不動産の事情調査のために支出した費用である。
(C)本件旅館業に関する費用について
a 情報収集費(平成23年分)
 平成23年分の情報収集費は、起業、金融、不動産、観光、マーケテイング、個人事業開設等に関する書籍や雑誌の購入費用である。
b 雑費(平成23年分)
 平成23年分の雑費は、ウェブサイトのデザイン料を含む費用である。

審判所の判断
 イ 法令解釈
(イ)所得税法第37条《必要経費》第1項に規定する「販売費、一般管理費及びその他のこれらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、当該業務の遂行上生じた費用、すなわち業務と関連のある費用をいうが、単に業務と関連があるというだけでなく、その費用が業務と直接の関係をもち、かつ、業務の遂行上必要なものに限られ、また、業務の遂行上必要なものというためには、その者の主観的な判断のみによるべきではなく、通常必要なものとして客観的に認識できるものでなければならないと解するのが相当である。
(ロ)所得税法第45条第1項第1号の規定は、衣食住費、教育費、養育費、趣味娯楽費等の家事費は、事業所得等に係る収入を得るために直接必要な費用ではなく、所得の処分とみるべきものであるから、事業所得等の金額の計算上必要経費の算入を認めないことを明らかにしたものと解される。
  他方、家事関連費については、「必要経費」と「家事費」の両要素が混在しているため、原則として必要経費に算入できないが、所得税法第45条第1項第1号及びこれを受けた所得税法施行令第96条《家事関連費》第1項の規定により、その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、その部分に相当する経費に限り必要経費に算入される。
 ロ 判 断 (イ)本件宅建業の開業について
 A 請求人は、本件開業届出書を原処分庁へ提出しているところ、①請求人は、××に宅建業者免許証を交付され、××に全日本不動産協会の正会員となったこと、②弁済業務保証金分担金の納付後の遅くとも同年10月中には、××の宅建業者情報インターネット情報提供システムに請求人の宅建業者としての情報が登録され、対外的にも閲覧することが可能となっていること、③請求人は、同年12月末以降、電子メール等により、不動産業者との間で不動産仲介に関し、提携するための交渉等をしていたことからすると、本件開業届出書に記載された同年12月1日開業との内容は、実態を具備していたものと認められる。すなわち、請求人は、平成24年12月1日に開業し、本件宅建業を営んでいたものと認められる。
 B 原処分庁は、請求人の平成24年中に本件宅建業に係る収入はない旨及び本件宅建業に係る看板等を出していない旨の申述などから、請求人は、平成24年当時、本件宅建業を営んでいなかった旨主張する。
  しかしながら、宅建業という業種内容からして、開業直後である平成24年中に収入金額がないことは特異なことではない。また、原処分庁の主張する本件宅建業に係る看板等とは、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)第50条《標識の掲示等》第1項に規定する標識のことを指すものと考えられるが、仮に請求人が当該標識を掲示していなかったとしても、そのこと自体は同項に違反するにすぎない。請求人の宅建業者としての情報が対外的にも閲覧することが可能となっていたことに照らすと、宅建業法第50条第1項違反の事実をもって請求人が本件宅建業を営んでいなかったということはできない。
  したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ロ)本件各費用について
 A 本件各費用のうち支払の事実を証する領収書等の提出のない費用(ただし、宅建営業許可関連の各費用を除く。)について
  本件各費用のうち、①不動産所得及び事業所得に共通する費用である給料貸金、②不動産所得に関する費用である平成22年分の雑費、③事業所得に関する費用のうち、本件宅建業に関する費用である平成24年分の情報収集費、印紙代及び海外調査費並びに同じく④事業所得に関する費用のうち、本件旅館業に関する費用である平成23年分の情報収集費及び雑費については、請求人から支払の事実を証する領収書等の提出がなく、支払の事実を確認することができないから、本件各業務の遂行上必要であるか否かを判断するまでもなく、本件各年分の不動産所得の金額又は事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
 B 不動産所得及び事業所得に共通する費用である地代家賃について
 (A)本件マンションは、請求人が家族とともに居住する住宅であるところ、請求人の主張(事務所兼住居として使用していること)を前提とすると、本件マンションの地代家賃は、家事関連費に該当し、その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、その部分に相当する経費に限り、必要経費に算入できることとなる。
 (B)そして、本件マンションは、全体として居住の用に供されるべき住宅であり、その構造上も契約上も、本件マンションを居住用部分と事業用部分とに明確に区分できる状態にないことは明らかである。
 (C)請求人は、1年のうち××以外の本件各業務の活動に従事することができた日数(退職前が125日、退職後が365日)を根拠として、本件マンションの一部を本件各業務のために、常時、使用していた旨主張するが、当該日数は、ただ単に業務を行うことが可能となる日数であって、実際に使用した日数ではないから、当該日数を根拠とした請求人の主張する使用状況(退職前が請求人負担部分の34%、退職後が請求人負担部分の100%)を認めることはできない。
   また、請求人は、別表6(編注:略)の順号3のメモを使用状況に関する証拠資料として提出しているが、当該メモに記載された内容を前提としても、来客者があった際に、本件マンションの一部であるリビングなどを使用したにすぎず、そのことのみをもって、本件各年分において、本件マンションの一部を本件各業務のために、常時、使用していたと認めることはできない。
   そして、①請求人は、平成24年12月に本件宅建業を開業したこと、②請求人は、本件旅館業に係る運営業務を××に委託していること、③本件貸付業務は、××と××の2物件であることからすると、本件各業務について、常時、本件マンションの一部を使用していたとは認められない。
 (D)以上のことから、請求人は、本件マンションに家族とともに居住して、家庭生活を営みつつ、同マンションの一部において、本件各業務を行っていたものと認めるのが相当である。
   そして、請求人が当審判所に提出した別表6の順号1ないし同3の各資料の内容を十分考慮しても、請求人において、本件マンションに係る地代家賃の一部が、請求人の本件各業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合に該当しない。
   したがって、請求人主張の本件マンションに係る地代家賃については、本件各年分の不動産所得の金額及び事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
 C 不動産所得に係る費用である平成23年分の損害保険料及び修繕費について
 (A)平成23年分の損害保険料
   請求人主張の平成23年分の損害保険料については、平成23年3月22日から平成28年3月22日までの5年間分を一括払いしたものであることから、当該期間の各年の期間に応じて当該保険料を配分し、不動産所得に係る必要経費に算入するのが相当である。
   そうすると、平成23年分については、損害保険料のうち10か月分(平成23年3月22日から同年12月31日まで)に相当する金額(47,132円)を、また、平成24年分については、損害保険料のうち12か月分(平成24年1月1日から同年12月31日まで)に相当する金額(56,558円)を、それぞれ不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。
 (B)平成23年分の修繕費
   請求人主張の平成23年分の修繕費については、上記のとおりであるから、平成23年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。
 D 事業所得に関する費用について
 (A)本件旅館業及び本件宅建業に共通する費用である平成24年分の接待交際費について
    請求人主張の平成24年分の接待交際費については、本件マンションの建物内ラウンジの使用を目的として支出されたものであるところ、同ラウンジは、家族での利用や個人的な用事にも利用することが可能であり、また、請求人から、別表6の順号8の資料の提出はあったものの、同ラウンジの具体的な使用状況(接待の相手方や日時)を明らかにする資料、接待に係る支払の事実を証する領収書等の証拠資料の提出がない。
    そうすると、請求人主張の平成24年分の接待交際費は、本件旅館業等業務と関連性が不明であることから、当該業務に直接関係があり、かつ、客観的にみて業務の遂行上必要なものとは認められず、平成24年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
 (B)本件宅建業に関する費用である宅建営業許可関連の各費用及び平成24年分の車両に係る減価償却費について
  a 宅建営業許可関連の各費用
 (a)請求人主張の宅建営業許可関連の各費用については、請求人が提出した別表6の順号6の資料の内容からすると、その費用の内訳は、①宅地建物取引主任者資格試験及び同資格登録に係る費用(資格取得費)と②宅建業者の免許申請及び全日本不動産協会などの各協会への入会に係る費用等とに区分することができる。
 (b)一般に、人の資格(弁護士や税理士などの国家資格)とは、国の法律に基づいて、各種分野における個人の能力、知識が判定され、特定の職業に従事することができる資格であり、また、法律によって一定の社会的地位が保証されるものであることからすると、資格を取得するために要した費用などは、業務に間接的に有効、有用であっても、その主たる目的は、新しい地位や職業を獲得するための教育費であり、所得税法第45条第1項第1号に規定する家事費に該当する。
   そして、宅地建物取引主任者資格は、宅建業者が事務所ごとに専任の有資格者を設置することが義務付けられているもの(設置義務資格)であって、特定の職業に従事することができる資格であることからすると、資格取得費は、新しい地位や職業を獲得するための教育費であり、所得税法第45条第1項第1号に規定する家事費に該当することから、平成23年分及び平成24年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
 (c)一方、宅建業の開業に当たっては、①宅建業法第3条《免許》第1項の規定により、国土交通大臣又は都道府県知事から免許を受けることが条件となっており、また、②宅建業者免許証の交付に当たっては、 同法第25条《営業保証金の供託等》第1項に規定する営業保証金(10,000,000円)の供託又は同法第64条の9《弁済業務保証金分担金の納付等》第1項に規定する弁済業務保証金分担金(600,000円)の納付(その後、同法第64条の7《弁済業務保証金の供託》第1項の規定により、不動産保証協会が弁済業務保証金に相当する金額を供託)をした上で、 同法第25条第4項及び同法第64条の7第3項に規定する営業保証金又は弁済業務保証金の供託をした旨の都道府県知事等への届出が要件となっており、宅建業者の免許申請及び弁済業務保証金の供託等に関する手続は、宅建業の開業に当たっての必要不可欠な手続であることからすると、これらの手続に要した費用は、宅建業に係る業務と直接の関係をもち、かつ、業務の遂行上必要なものと認められる。なお、弁済業務保証金については、宅建業法第64条の11《弁済業務保証金の取戻し等》の規定により返還が予定されているので、その納付時点において必要経費には算入されない。
   そして、請求人の場合、××に対する宅建業者の免許申請及び不動産保証協会に対する弁済業務保証金分担金の納付に関する手続をしているところ、これらの手続に要した費用等については、請求人から支払の事実を証する領収書等の提出がないものの、これらの費用等のうち宅建業者の免許申請及び全日本不動産協会などの各協会への入会に係る費用等は、各金額とも一律に定められた額であり、また、その内容も確認できるものであるから、弁済業務保証金を除き、以下の内容に応じて、平成24年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入するのが相当である。
  Ⅰ 別表5(編注:略)の順号1、同4、同6及び同9の各入会金の合計額820,000円については、全日本不動産協会などの各協会へ入会するために要した費用であり、本件宅建業を開始するまでの間に開業の準備のために特別に支出した費用であると認められることから、所得税法第2条《定義》第1項第20号及び所得税法施行令第7条《繰延資産の範囲》第1項第1号に規定する開業費に該当する。
    そして、開業費については、①5年償却(所得税法施行令第137条《繰延資産の償却費の計算》第1項第1号に規定する方法)とするか、又は②任意償却(同条第3項に規定する方法)とするかは納税者の選択に委ねられているところ、請求人は、平成24年分収支内訳書(一般用)に各入会金などを営業許可関連の費用として3,466,654円と記載し、確定申告していることからすると、請求人は、開業費について、上記②の任意償却を選択したものとみるのが相当である。
    そうすると、各入会金については、開業費として全額を平成24年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。
  Ⅱ 別表5の順号2、同5、同7及び同10の各年会費の合計額32,400円については、××に全日本不動産協会などの各協会へ入会した場合における××までの6か月分の会費であるところ、請求人は、本件宅建業を平成24年12月1日に開業していることから、これらの各会費のうち、①××及び××の各会費については、上記Ⅰと同様に、開業費として全額を平成24年分の事業所得に係る必要経費に算入するのが相当であり、また、××の会費については、開業後の費用として全額を平成24年分の事業所得に係る必要経費に算入するのが相当であり、そして、③××の各会費については、前払費用として処理するのが相当である。
    そうすると、各年会費のうち××に相当するする16,200円の各会費については、平成24年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。
  Ⅲ 別表5の順号3の印刷物代2,000円及び登録手数料33,000円については、上記Ⅰと同様に開業費に該当することから、平成24年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。
 (d)なお、請求人主張の宅建営業許可関連の各費用(別表6の順号6の各費用)のうち交通費や文房具代などの費用については、上記Aと同様に、請求人から支払の事実を証する領収書等の提出がなく、支払の事実を確認することができないから、本件宅建業に係る業務の遂行上必要であるか否かを判断するまでもなく、平成23年分及び平成24年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
 (e)以上のことから、請求人主張の宅建営業許可関連の各費用については、①上記(c)のIの各入会金(820,000円)、同Ⅱの各年会費のうち××の各会費(16,200円)、同Ⅲの印刷代(2,000円)及び登録手数料(33,000円)の合計871,200円は、平成24年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるが、②その他の費用は、平成23年分及び平成24年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
  b 平成24年分の車両に係る減価償却費
    請求人主張の平成24年分の車両に係る減価償却費については、請求人が当該車両を購入して、平成25年1月17日に登録し、その後、当該車両の引渡しがされていることからすると、当該車両が本件宅建業に係る業務の遂行上必要であるか否かを判断するまでもなく、平成24年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
(ハ)本件各費用以外の費用について
 A ××の建物に係る減価償却費
 (A)××の建物に係る取得価額については、原処分庁は、当該取得価額のうち改修工事に係る部分の金額について、18,728,500円と認定しているところ、17,441,075円と認められることから、当該金額に基づき、当該建物に係る取得価額を19,645,344円に補正すべきである。
 (B)上記(A)の××の建物に係る取得価額を基に、当該建物に係る減価償却費を算定すると、別表9(編注:略)の××の建物に係る「減価償却費」欄の各金額のとおり、いずれの年分も742,595円となる。
 B 上記以外の各費用
  上記以外の各費用については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても相当であると認められる。
 ハ 本件各更正処分について  本件各年分の総所得金額は、別表12(編注:略)の「総所得金額」欄の各金額のとおり、平成22年分が××、平成23年分が××、平成24年分が××となり、また、所得税法第69条《損益通算》第1項に規定する損益通算前の平成24年分の退職所得の金額は××であるところ、同項の規定による損益通算後の平成24年分の退職所得の金額は、同表の「退職所得の金額」欄の金額のとおり、××となり、これらの各金額は、いずれも本件各更正処分の額と同額又はこれを上回るから、本件各更正処分はいずれも適法である。

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