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解説記事2016年04月11日 【税理士のための相続法講座】 相続財産と債務(2)-契約上の地位と債務(2016年4月11日号・№638)

税理士のための相続法講座
第14回
相続財産と債務(2)-契約上の地位と債務
 弁護士 間瀬まゆ子

 今回のテーマは契約上の地位と債務の相続です。
1 契約上の地位  相続人は被相続人の一身に専属したものを除いて、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。個々の物権、債権及び債務のみならず、契約上の地位も、包括的に相続人に移転します。
 ただ、当事者の個人的信頼を基礎とする法律関係については、一身専属のものが多く、その代表的なものが委任者または受任者としての地位です(民法653条)。例えば、税理士が死亡した場合、その相続人が依頼者との間の委任契約上の地位を承継することはありません。ただし、税理士が生前にミスをして、相続開始前に損害賠償債務が発生していたという場合には、契約の当事者でない相続人も、当該債務を免れることができません。
 その他、代理関係の本人または代理人の地位(民法111条1項1号2号)や、民法上の組合における組合員としての地位(同法679条1号)も相続されません。
 また、民法上、使用貸借は、借主の死亡によって効力を失うと規定されています(599条)。しかし、親族間で権利関係のはっきりしないまま土地を使わせてもらい、建物を建てて暮らしているというような例は珍しくなく、そのような場合に常に上記の規定を適用することは適切ではありません。そのため、建物所有を目的とする土地の使用貸借については、当事者間の個人的要素以上に敷地上の建物所有目的が重視されるべきであるとして、民法599条の適用を否定した裁判例もあります(東京地判平成5年9月14日判タ870号208頁)。
 身元保証等の一部の保証人としての地位も相続人に承継されないと解されていますが、これについては後述します。
2 債務
(1)債務の相続
 相続人は、一身専属的なものを除き、履行期が到来しているか否かを問わず、被相続人の負っていた全ての債務を承継します(民法896条)。
 共同相続の場合、各相続人は、相続分の割合に応じて債務を負担することになります(民法899条)。金銭債務のような可分債務については、法定相続分に応じて当然に分割承継されると解するのが通説判例です(最二小判昭和34年6月19日民集13巻6号757頁)。
 これは連帯債務の場合も同様で、各相続人は、自らの相続分に応じて債務を承継し、その承継した範囲内で本来の債務者とともに連帯債務者となります。例えば、被相続人が生前1,000万円の連帯債務を負担していた場合に、その相続人が2人の子であったとすると、子らはそれぞれ1,000万円×法定相続分1/2の500万円の債務を承継し、その限度で他の債務者と連帯して責任を負うこととなります。
(2)保証債務  保証債務に関しては、保証人が負担していた当該保証債務の内容によって、相続人に承継されるか否かが変わります。
 まず、金銭消費貸借上の保証債務など通常の保証債務は相続人に承継されます。古い判例ですが、賃貸借上の保証人の地位が相続によって承継されるとした大審院の判決もあります(大判昭和9年1月30日民集13巻103頁)。相続開始後の延滞賃料のほか、賃借物を毀損した場合の損害賠償債務なども保証することとなりますし、契約更新後も責任は続きますので(最一小判平成9年11月13日判タ969号126頁)、相続人にとっては思わぬ負担を強いられる可能性のあるところです。
 一方、当事者の個人的信頼を前提とする身元保証や信用保証については、相続による承継が否定されます。雇用契約上の債務を保証する身元保証は、債務者と保証人との信頼関係を基礎とするもので専属的性質を有するため、判例上相続性が否定されています。ただし、相続時に既に損害賠償債務となって責任額が確定していた具体的債務は、通常の金銭債務と同様、相続によって承継されます。
 信用保証(根保証)については、保証人の責任限度額(極度額)が決まっている場合には、保証人の地位は相続されますが、極度額及び保証期間の定めのない根保証契約に基づく債務については相続性が否定されています(最判昭和37年11月9日民集16巻11号2270頁)。なお、主債務が貸金債務を含む場合には、個人の包括根保証はそもそも無効です(民法465条の2)。
(3)債務が発覚した場合  債務全般について、後から発覚することを心配する相続人は多いですが、特に保証契約の場合、相続開始後相当な時間が経過してから発覚する場合もあると思われます。もし債権者から請求が来てしまったら、まずは契約書を見せてもらい、内容を確認することが重要です(平成16年民法改正により、書面によらない保証契約は無効との規定が新設されましたが、それ以前の契約であっても、債務の存在を証明するためにやはり書面の存在は重要です。)。調査の結果、多額の債務を負うことが明らかとなった場合は、相続放棄を検討することになるでしょう。相続開始後3か月以上を経過していたとしても、債務の発覚から3か月以内であれば、相続放棄が認められる可能性がありますので、諦めないことが肝要です(本誌606号22頁参照)。
(4)遺産分割における取扱いと債権者との関係  続いて、相続債務の遺産分割における取扱いについて述べます。前述のとおり、可分債務は相続により当然に各相続人に法定相続分の割合で承継されます。そのため、遺産分割の対象とはならないと解されています。ただ、相続人全員の了解のもと、協議の内容に加えることは可能です。実際、遺産分割において、相続人の一人が遺産の多くを取得する代わりに、債務も全額負担するという内容の協議が成立することはよくあるはずです。
 このような協議は当事者間では(債務者間の内部分担を定めるものとして)有効ですが、金融機関等の債権者が承諾しない限り、当該債権者との関係では、他の相続人も法定相続分相当の債務を免れることはできません。
 Aは個人事業主で、銀行から借入れをして事業を行っていた。Aが亡くなり、事業を引き継いだ子Bは、自らが全ての財産及び債務を承継する内容で、もう一人の相続人である子Cと遺産分割協議を行った。その後、Bが事業に行き詰まって借入れの返済ができなくなり、銀行はCに債務の1/2を請求してきた。

 BとCの間では、全ての相続債務をBが承継することとなっていますが、Cはこれを債権者である銀行に対して主張することができません。法定相続分1/2に相当する債務は、自らの財産をもって返済しなければなりません。もちろん、Bとの約束に基づいて、銀行に返済した分の支払いをBに求める権利はありますが、Bは既に倒産状態ですから、回収の可能性はないでしょう。
 相続人に酷と言われる相続税の連帯納付義務ですら、受けた利益の範囲に限定され、また、申告期限から5年等の特別の縛りがありますが、そのような限定はありませんので注意が必要です(プラスの財産を一切取得しないのなら、相続放棄をしておいた方が安心です。)。
(5)葬式費用  また、葬式費用についても、相続税とは取扱いが異なるところです。相続税の場面では、債務控除が認められていますが、私法上の相続債務には含まれません。葬式費用は一時的には喪主が負担すべきものであり、最終的に誰が負担するかは、地域の慣習等の個別事情により決まります。

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