解説記事2016年05月02日 【実務解説】 有価証券報告書作成上の留意点(平成28年3月期)(2016年5月2日号・№641)
実務解説
有価証券報告書作成上の留意点(平成28年3月期)
公益財団法人 財務会計基準機構 企画・開示室長 渡部 類
Ⅰ はじめに
財務会計基準機構では、FASFセミナー「有価証券報告書作成上の留意点」を4月1日から15日にかけて全国9か所11回にわたり開催した。本稿は、主に同セミナーで説明した内容を基に、平成28年3月期有価証券報告書の作成上の留意点についてまとめたものであり、「企業結合に関する会計基準」(以下「企業結合会計基準」という)等の適用に関する留意点や、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という)から税効果会計に関する適用指針が公表されたことに伴う留意点を中心に解説する。
なお、文中意見にわたる部分は私見であることをあらかじめお断りしておく。
Ⅱ 企業結合会計基準等を適用する場合の留意点
平成25年9月13日にASBJから企業結合会計基準及び関連する他の会計基準(以下「企業結合会計基準等」という)の改正が公表されており、主に次の項目が改正されている。
適用時期については、①非支配株主持分の取扱い及び②取得関連費用の取扱いについては、平成27年4月1日以後開始する年度の期首から原則適用され、③暫定的な会計処理の確定の取扱いは、平成27年4月1日以後開始する年度の期首以後実施される企業結合から原則適用される。なお、当期純利益の表示及び少数株主持分から非支配株主持分の変更(以下「当期純利益等の表示の変更」という)については、早期適用は認められていない。したがって、企業結合会計基準等を早期適用していた会社であっても、当期純利益等の表示の変更については、平成28年3月期の有価証券報告書から適用することとなる。
1 主要な経営指標等の推移 企業結合会計基準等の改正により、平成28年3月期の有価証券報告書から当期純利益等の表示の変更が行われることに伴い、企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「開示府令」という)が改正され、従来の「当期純利益金額又は当期純損失金額」から「親会社株主に帰属する当期純利益金額又は親会社株主に帰属する当期純損失金額」へと変更されている。
記載事例1は当該改正を反映した主要な経営指標等の推移の記載事例である。なお、当期純利益等の表示の変更については注意喚起することが望ましいと考えられることから、(注)3.において注記を行っている。
2 財務諸表本表における変更点 当期純利益等の表示の変更に伴う、連結財務諸表本表における主な改正を前頁の表にまとめている。
この他の改正点については、連結株主資本等変動計算書において、連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下「連結財規」という)様式第六号記載上の注意6が新設され、会計基準等に規定されている遡及適用に関する経過措置において、会計方針の変更による影響額を適用初年度の期首残高に加減することが定められている場合には、当連結会計年度の期首残高に対する影響額及び当該影響額の反映後の期首残高を区分表示するとされている。
また、連結キャッシュ・フロー計算書においては、表に記載の項目の他、連結範囲の変動を伴わない子会社株式の取得又は売却に係るキャッシュ・フローについては、財務活動によるキャッシュ・フローの区分に記載することとされた。なお、当該項目については比較情報の組替えを行わないとされているので、当該項目の記載を行う場合は留意してほしい。
連結キャッシュ・フロー計算書においては、この他、連結範囲の変動を伴う子会社株式の取得関連費用もしくは連結範囲の変動を伴わない子会社株式の取得又は売却に関連して生じた費用に係るキャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローの区分に記載することとされている点についても留意する必要がある。
3 会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更(記載事例2)
記載事例2
企業結合会計基準等の適用にあたっては、支配が継続している場合の子会社に対する親会社の持分変動に関する会計処理及び取得関連費用に関する定めについて、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の、適用初年度の期首時点の累積的影響額を適用初年度の期首の資本剰余金及び利益剰余金に加減し、期首残高から新たな会計方針を適用する。ただし、新たな会計方針を、適用初年度の期首から将来にわたって適用することができるとされている。
したがって、次頁の記載事例2においては、過去の期間のすべてに新たな会計方針を適用した場合と当連結会計年度から将来にわたって適用する場合の2通りを掲げている。
過去の期間のすべてに新たな会計方針を適用した場合の記載事例については、第1段落冒頭において会計基準等の名称を記載しており、続いて、会計方針の変更の内容を記載している。
また、第1段落下から3行目では、当期純利益等の表示の変更について記載している。これは、当期純利益等の表示の変更についても企業結合会計基準等の改正に含まれることから、会計方針の変更において記載したものとなる。
第4段落では、連結キャッシュ・フロー計算書における表示の変更の内容を記載している。当該表示の変更は表示方法の変更に該当するものと考えられるが、会計方針の変更に伴う表示方法の変更であり、変更内容の理解が容易になるという観点から、会計方針の変更において記載している。
点線枠内の記載事例は、当連結会計年度から将来にわたって適用する場合の記載事例である。「(略)」としている箇所は、上記の記載事例の第1段落を参考に記載することを想定している。
なお、当期において企業結合や子会社株式の一部売却等が行われていない場合であって、当期から新たな会計方針を将来にわたって適用する場合においては、当期純利益等の表示の変更のみ行うケースについても、当期純利益等の表示の変更は会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更として記載するものと考えられるので、留意してほしい。
4 表示方法の変更(記載事例3)
記載事例3 (前連結会計年度において「企業結合に関する会計基準」等を早期適用した場合)
企業結合会計基準等を早期適用した場合、当連結会計年度においては当期純利益等の表示の変更のみ行うこととなるが、当該変更は表示方法の変更に該当するものと考えられる。
なお、記載事例冒頭において「企業結合に関する会計基準」ではなく「連結財務諸表に関する会計基準」としているのは、同会計基準第39項等に表示に関する定めがおかれているためである。
5 企業結合に関する注記
(1)取得による企業結合が行われた場合の注記 当連結会計年度において他の企業又は企業を構成する事業の取得による企業結合が行われた場合には、被取得企業又は取得した事業の取得原価及び対価の種類ごとの内訳の記載が求められている(連結財規第15条の12第1項第3号)。
記載事例4は、取得による企業結合が行われた場合の注記における、被取得企業又は取得した事業の取得原価及び対価の種類ごとの内訳の記載事例である。改正前は、取得とされた企業結合における取得関連費用のうち一部については、取得原価に含めることとされていたが、企業結合会計基準等の改正により、取得関連費用は発生した連結会計年度の費用として取扱われるため、当該内訳の記載においてアドバイザリー費用等取得に直接要した費用の記載は行わないものと考えられる。
取得関連費用については、主要な取得関連費用の内容及び金額の記載が求められている(連結財規第15条の12第1項第5号)。この記載にあたっては、記載事例5を参考としてほしい。
(2)暫定的な会計処理の確定に関する注記(記載事例6)
前連結会計年度に行われた暫定的な会計処理の確定に伴い、当連結会計年度において取得原価の当初配分額に重要な見直しがなされた場合には、見直しの内容及び金額の注記が求められることとなった(連結財規第15条の12第4項)。
記載事例6は前連結会計年度において企業結合会計基準等を早期適用している場合の記載事例である。これは、企業結合会計基準等を原則適用した場合、暫定的な会計処理の定めは当連結会計年度の期首以後実施される企業結合から適用することから、暫定的な会計処理が確定するのは早くとも翌連結会計年度であり、当連結会計年度においては当該注記を記載するケースは存在しないためである。
記載事例の第3段落では、重要な見直しの金額を記載している。「暫定的に算定された~」以降で、当初の暫定的な会計処理が変更された場合の見直しの金額について記載し、また書き以降では、比較情報である前期の数値における見直しの金額を記載している。
(3)共通支配下の取引等の注記 共通支配下の取引等の注記については、非支配株主との取引に係る連結財務諸表提出会社の持分変動に関する事項の記載が求められることとなった(連結財規第15条の14第1項第4号)。
記載事例7は、当連結会計年度において、子会社株式を追加取得した場合の記載事例である。非支配株主との取引に係る連結財務諸表提出会社の持分変動に関する事項の記載として、(4)非支配株主との取引に係る当社の持分変動に関する事項とし、資本剰余金の主な変動要因を①において、増加又は減少した資本剰余金の金額を②において記載している。
記載事例7
6 一株当たり情報 記載事例8は一株当たり情報の注記における算定上の基礎の記載事例であり、当期純利益等の表示の変更に伴い、記載を一部見直している。
なお、企業結合会計基準等を早期適用した場合で、当連結会計年度の比較情報に、暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しが反映されている場合、一株当たり当期純損益及び潜在株式調整後一株当たり当期純利益は、見直しが反映された後の金額により算定すると考えられる。
7 四半期情報 四半期情報等の記載において、当期純利益等の表示の変更に伴い、従来の「四半期純利益」「当期純利益」に代えて「親会社株主に帰属する四半期純利益」「親会社株主に帰属する当期純利益」となっている(開示府令第二号様式記載上の注意(66)その他c(c)及び(f))。
Ⅲ 税効果会計に関する適用指針の公表に伴う留意点
1 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に関する留意点 企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下「回収可能性適用指針」という)は、平成27年12月28日にASBJから公表され、平成28年3月28日に改正されている。
回収可能性適用指針は、日本公認会計士協会が公表している税効果会計に関する実務指針等のうち、主に監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」及び監査委員会報告第70号「その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い」等における繰延税金資産の回収可能性に関する定めについて、基本的にその内容を引き継いだ上で、見直しを行ったものである。
回収可能性適用指針の適用時期については、平成28年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用するとされている。ただし、平成28年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用することができる。
したがって、本稿においては、主に回収可能性適用指針を早期適用した場合について解説する。
(1)会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更(記載事例9)
記載事例9
回収可能性適用指針は、適用初年度の取扱いに関して、適用初年度の期首において第49項(3)①から③に該当する定めを適用することにより、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更として取り扱うとされている。
したがって、記載事例9は、回収可能性適用指針を早期適用し、適用初年度の期首において第49項(3)①から③に該当する定めを適用することにより、これまでの会計処理と異なることとなる場合である。
第3段落において会計方針の変更による影響額について記載しているが、記載事例中「○○○○」の箇所は、その他の包括利益累計額に属する項目、例えば「その他有価証券評価差額金」の記載を想定している。
続く第4段落では連結株主資本等変動計算書における影響額について記載している。
なお、記載事例においては連結損益計算書に係る項目及び一株当たり情報に対する影響額については記載していない。これは、回収可能性適用指針の適用初年度においては、会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更による影響額の注記について、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の定めにかかわらず、適用初年度の期首の繰延税金資産及び繰延税金負債に対する影響額、利益剰余金に対する影響額及びその他の包括利益累計額に対する影響額を注記するとされているためである。
(2)追加情報(記載事例10)
記載事例10
回収可能性適用指針を早期適用し、回収可能性適用指針第49項(3)①から③に該当する定めを適用することにより、これまでの会計処理と異なる場合は会計方針の変更として取り扱うこととなるが、この場合以外のケースについては、追加情報として早期適用している旨を記載することが考えられる。
(3)未適用の会計基準等に関する注記 既に公表されている会計基準等のうち、適用していないものがある場合には一定の注記が求められている(連結財規第14条の4が準用する財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(財規)第8条の3の3第1項)。したがって、回収可能性適用指針については、未適用の会計基準等に関する注記における会計基準等に含まれると考えられることから、回収可能性適用指針を原則適用する場合は留意する必要がある。
(4)四半期情報 回収可能性適用指針を早期適用した場合、回収可能性適用指針第49項(3)①から③に該当する定めを当連結会計年度の期首に遡って適用することとなるため、回収可能性適用指針を当連結会計年度の期首に遡って適用した場合の当連結会計年度の各四半期の金額と、当連結会計年度に提出した四半期報告書における各四半期の金額が異なることとなる。この場合、四半期情報等の記載についてはいずれの金額を記載することも可能と考えられるものの、一定の注記を記載する必要があると考えられる。
回収可能性適用指針を当連結会計年度の期首に遡って適用した場合の当連結会計年度の各四半期の金額を記載する場合は、「当連結会計年度から回収可能性適用指針を早期適用しており、各四半期連結累計期間に係る各項目の金額については、当該適用指針を当連結会計年度の期首に遡って適用した金額を記載している。」等の注記を行うことが考えられる。
当連結会計年度に提出した四半期報告書における各四半期の金額を記載する場合は、「当連結会計年度から回収可能性適用指針を早期適用しているものの、各四半期連結累計期間に係る各項目の金額については、当連結会計年度において提出した四半期報告書における金額を記載している。」等の注記を行うことが考えられる。
2 「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」に関する留意点 平成28年3月14日に企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」(以下「税率適用指針」という)がASBJより公表され、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において公布されている税法に規定されている税率に代えて、決算日において国会で成立している法人税法等に規定されている税率によることとする改正がなされている他、住民税等に関する税率の取扱い及び超過課税による税率の取扱い等が規定された。
税率適用指針の適用時期は、平成28年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用するとされている。
税率適用指針を適用した場合は会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に該当すると考えられるが、その影響については、通常、重要性が乏しいと考えられることから、会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記は省略できるものと考えられる。
Ⅳ その他の連結財務諸表に関する留意点
1 法人税率の引き下げ等に伴う税効果会計に関する注記における留意点 平成28年3月29日に所得税法等の一部を改正する法律が成立したことにより、法人税率が引き下げられる等の改正が行われている。
本改正に伴い、税効果会計に関する注記において、法人税等の税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額(連結財規15条の5第1項第3号)の注記の対象となるので留意してほしい。
2 「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」の適用に関する留意点 平成27年3月26日にASBJから実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」の改正が公表されており、主に3つの点が改正されている。
本実務対応報告の適用時期については、平成27年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用するとされている。
記載事例11は実務対応報告第18号を原則適用した場合の会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記の記載事例である。
記載事例11
実務対応報告においては、適用にあたって経過的な取扱いが定められており、適用初年度の期首に連結財務諸表において計上されているのれんのうち、在外子会社が平成26年1月に改正されたFASB-ASC Topic 350に基づき償却処理を選択したのれんについては、企業結合ごとに次のいずれかの方法を適用するとされている。
① 連結財務諸表におけるのれんの残存償却期間に基づき償却する。
② 在外子会社が採用する償却期間が連結財務諸表におけるのれんの残存償却期間を下回る場合に、当該償却期間に変更する。この場合、変更後の償却期間に基づき将来にわたり償却する。
記載事例11は上記②の場合の記載事例である点に留意してほしい。
また、本実務対応報告の適用にあたって、企業結合ごとにいずれかの方法を適用するとされているが、本記載事例においては「企業結合ごとに」という点を「在外子会社○○○が」という表現で示している。
なお、在外子会社において償却処理を選択したのれんについて、本記載事例の在外子会社が採用する償却期間ではなく、連結財務諸表におけるのれんの残存償却期間に基づき償却する場合においても、会計方針の変更に該当するものと考えられる。
Ⅴ 非財務情報に関する留意点
1 金融商品取引法の改正に伴う開示府令の改正 平成27年5月15日に金融庁から金融商品取引業等に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(内閣府令第38号)が公表され、開示府令第三号様式記載上の注意(25)eが改正されている。
具体的には、会社が発行する株券等に係る大量保有報告書等が金融商品取引法第27条の30の7の規定により公衆の縦覧に供された場合、すなわち、大量保有報告書等がEDINETにより公衆の縦覧に供された場合についても、大量保有報告書等の写しの送付を受けた場合と同様に、その保有状況が株主名簿の記載内容と相違するときには、実質所有状況を確認して記載することとされ、また、記載内容が大幅に相違しており、その確認ができない場合には、その旨及び大量保有報告書等の記載内容を注記することとされている。
本改正は、平成27年5月29日以後終了する事業年度に係る有価証券報告書について適用するとされている。
2 修正国際基準の公表に伴う開示府令の改正 平成27年6月30日にASBJが「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」(以下、「修正国際基準」という)の公表を行ったことを受け、平成27年9月4日、修正国際基準の適用が制度上可能となるよう、連結財規等について所要の改正が行われた。修正国際基準に基づいて連結財務諸表を適正に作成することができる体制を整備しているなど、一定の要件を満たす株式会社が提出する連結財務諸表については、修正国際基準に従うことができることとする規定を新設する等の改正が行われている。
本改正により、「業績等の概要」においては、当連結会計年度に係る連結財務諸表について修正国際基準により作成を開始した場合、要約連結財務諸表を記載するとともに、連結財規に従い、当該要約連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項の変更に関する事項を記載することが求められている。
この記載については、当連結会計年度に係る連結財務諸表について指定国際会計基準により作成した場合と概ね同様と考えられるが、前期まで米国基準により連結財務諸表を作成した場合については指定国際会計基準と修正国際基準で取り扱いが異なる点に留意する必要がある。
なお、修正国際基準により連結財務諸表を作成した場合は、このほか、主要な経営指標等の推移や経理の状況等においても、指定国際会計基準と同様に一定の事項を記載することとされている。
有価証券報告書作成上の留意点(平成28年3月期)
公益財団法人 財務会計基準機構 企画・開示室長 渡部 類
Ⅰ はじめに
財務会計基準機構では、FASFセミナー「有価証券報告書作成上の留意点」を4月1日から15日にかけて全国9か所11回にわたり開催した。本稿は、主に同セミナーで説明した内容を基に、平成28年3月期有価証券報告書の作成上の留意点についてまとめたものであり、「企業結合に関する会計基準」(以下「企業結合会計基準」という)等の適用に関する留意点や、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という)から税効果会計に関する適用指針が公表されたことに伴う留意点を中心に解説する。
なお、文中意見にわたる部分は私見であることをあらかじめお断りしておく。
Ⅱ 企業結合会計基準等を適用する場合の留意点
平成25年9月13日にASBJから企業結合会計基準及び関連する他の会計基準(以下「企業結合会計基準等」という)の改正が公表されており、主に次の項目が改正されている。
① 非支配株主持分の取扱い (1)支配が継続している場合の子会社に対する親会社の持分変動に関する会計処理の見直し (2)当期純利益の表示等の表示項目の変更 ② 取得関連費用の取扱い ③ 暫定的な会計処理の確定の取扱い |
1 主要な経営指標等の推移 企業結合会計基準等の改正により、平成28年3月期の有価証券報告書から当期純利益等の表示の変更が行われることに伴い、企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「開示府令」という)が改正され、従来の「当期純利益金額又は当期純損失金額」から「親会社株主に帰属する当期純利益金額又は親会社株主に帰属する当期純損失金額」へと変更されている。
記載事例1は当該改正を反映した主要な経営指標等の推移の記載事例である。なお、当期純利益等の表示の変更については注意喚起することが望ましいと考えられることから、(注)3.において注記を行っている。

2 財務諸表本表における変更点 当期純利益等の表示の変更に伴う、連結財務諸表本表における主な改正を前頁の表にまとめている。

この他の改正点については、連結株主資本等変動計算書において、連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下「連結財規」という)様式第六号記載上の注意6が新設され、会計基準等に規定されている遡及適用に関する経過措置において、会計方針の変更による影響額を適用初年度の期首残高に加減することが定められている場合には、当連結会計年度の期首残高に対する影響額及び当該影響額の反映後の期首残高を区分表示するとされている。
また、連結キャッシュ・フロー計算書においては、表に記載の項目の他、連結範囲の変動を伴わない子会社株式の取得又は売却に係るキャッシュ・フローについては、財務活動によるキャッシュ・フローの区分に記載することとされた。なお、当該項目については比較情報の組替えを行わないとされているので、当該項目の記載を行う場合は留意してほしい。
連結キャッシュ・フロー計算書においては、この他、連結範囲の変動を伴う子会社株式の取得関連費用もしくは連結範囲の変動を伴わない子会社株式の取得又は売却に関連して生じた費用に係るキャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローの区分に記載することとされている点についても留意する必要がある。
3 会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更(記載事例2)
記載事例2
[過去の期間のすべてに新たな会計方針を適用した場合] 4.会計方針に関する事項 (会計方針の変更) 「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号 平成25年9月13日。以下「企業結合会計基準」という。)、「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号 平成25年9月13日。以下「連結会計基準」という。)、及び「事業分離等に関する会計基準」(企業会計基準第7号 平成25年9月13日。以下「事業分離等会計基準」という。)等を当連結会計年度から適用し、支配が継続している場合の子会社に対する当社の持分変動による差額を資本剰余金として計上するとともに、取得関連費用を発生した連結会計年度の費用として計上する方法に変更した。また、当連結会計年度の期首以後実施される企業結合については、暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しを企業結合日の属する連結会計年度の連結財務諸表に反映させる方法に変更する。加えて、当期純利益等の表示の変更及び少数株主持分から非支配株主持分への表示の変更を行っている。当該表示の変更を反映させるため、前連結会計年度については連結財務諸表の組替えを行っている。 企業結合会計基準等の適用については、企業結合会計基準第58-2項(3)、連結会計基準第44-5項(3)及び事業分離等会計基準第57-4項(3)に定める経過的な取扱いに従っており、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の当連結会計年度の期首時点の累積的影響額を資本剰余金及び利益剰余金に加減している。 この結果、当連結会計年度の期首において、のれんXX百万円及び資本剰余金XX百万円が減少するとともに、利益剰余金がXX百万円減少している。また、当連結会計年度の営業利益、経常利益及び税金等調整前当期純利益はそれぞれX百万円増加している。 当連結会計年度の連結キャッシュ・フロー計算書においては、連結範囲の変動を伴わない子会社株式の取得又は売却に係るキャッシュ・フローについては、「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載し、連結範囲の変動を伴う子会社株式の取得関連費用もしくは連結範囲の変動を伴わない子会社株式の取得又は売却に関連して生じた費用に係るキャッシュ・フローは、「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載している。 当連結会計年度の期首の純資産に累積的影響額が反映されたことにより、連結株主資本等変動計算書の資本剰余金の期首残高はXX百万円減少するとともに、利益剰余金の期首残高はXX百万円減少している。 また、1株当たり情報に与える影響は当該箇所に記載している。
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企業結合会計基準等の適用にあたっては、支配が継続している場合の子会社に対する親会社の持分変動に関する会計処理及び取得関連費用に関する定めについて、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の、適用初年度の期首時点の累積的影響額を適用初年度の期首の資本剰余金及び利益剰余金に加減し、期首残高から新たな会計方針を適用する。ただし、新たな会計方針を、適用初年度の期首から将来にわたって適用することができるとされている。
したがって、次頁の記載事例2においては、過去の期間のすべてに新たな会計方針を適用した場合と当連結会計年度から将来にわたって適用する場合の2通りを掲げている。
過去の期間のすべてに新たな会計方針を適用した場合の記載事例については、第1段落冒頭において会計基準等の名称を記載しており、続いて、会計方針の変更の内容を記載している。
また、第1段落下から3行目では、当期純利益等の表示の変更について記載している。これは、当期純利益等の表示の変更についても企業結合会計基準等の改正に含まれることから、会計方針の変更において記載したものとなる。
第4段落では、連結キャッシュ・フロー計算書における表示の変更の内容を記載している。当該表示の変更は表示方法の変更に該当するものと考えられるが、会計方針の変更に伴う表示方法の変更であり、変更内容の理解が容易になるという観点から、会計方針の変更において記載している。
点線枠内の記載事例は、当連結会計年度から将来にわたって適用する場合の記載事例である。「(略)」としている箇所は、上記の記載事例の第1段落を参考に記載することを想定している。
なお、当期において企業結合や子会社株式の一部売却等が行われていない場合であって、当期から新たな会計方針を将来にわたって適用する場合においては、当期純利益等の表示の変更のみ行うケースについても、当期純利益等の表示の変更は会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更として記載するものと考えられるので、留意してほしい。
4 表示方法の変更(記載事例3)
記載事例3 (前連結会計年度において「企業結合に関する会計基準」等を早期適用した場合)
(「企業結合に関する会計基準」等の適用に伴う変更) 「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号 平成25年9月13日)第39項に掲げられた定め等を適用し、当期純利益等の表示の変更及び少数株主持分から非支配株主持分への表示の変更を行っている。当該表示の変更を反映させるため、前連結会計年度については、連結財務諸表の組替えを行っている。 |
企業結合会計基準等を早期適用した場合、当連結会計年度においては当期純利益等の表示の変更のみ行うこととなるが、当該変更は表示方法の変更に該当するものと考えられる。
なお、記載事例冒頭において「企業結合に関する会計基準」ではなく「連結財務諸表に関する会計基準」としているのは、同会計基準第39項等に表示に関する定めがおかれているためである。
5 企業結合に関する注記
(1)取得による企業結合が行われた場合の注記 当連結会計年度において他の企業又は企業を構成する事業の取得による企業結合が行われた場合には、被取得企業又は取得した事業の取得原価及び対価の種類ごとの内訳の記載が求められている(連結財規第15条の12第1項第3号)。
記載事例4は、取得による企業結合が行われた場合の注記における、被取得企業又は取得した事業の取得原価及び対価の種類ごとの内訳の記載事例である。改正前は、取得とされた企業結合における取得関連費用のうち一部については、取得原価に含めることとされていたが、企業結合会計基準等の改正により、取得関連費用は発生した連結会計年度の費用として取扱われるため、当該内訳の記載においてアドバイザリー費用等取得に直接要した費用の記載は行わないものと考えられる。

取得関連費用については、主要な取得関連費用の内容及び金額の記載が求められている(連結財規第15条の12第1項第5号)。この記載にあたっては、記載事例5を参考としてほしい。

(2)暫定的な会計処理の確定に関する注記(記載事例6)

前連結会計年度に行われた暫定的な会計処理の確定に伴い、当連結会計年度において取得原価の当初配分額に重要な見直しがなされた場合には、見直しの内容及び金額の注記が求められることとなった(連結財規第15条の12第4項)。
記載事例6は前連結会計年度において企業結合会計基準等を早期適用している場合の記載事例である。これは、企業結合会計基準等を原則適用した場合、暫定的な会計処理の定めは当連結会計年度の期首以後実施される企業結合から適用することから、暫定的な会計処理が確定するのは早くとも翌連結会計年度であり、当連結会計年度においては当該注記を記載するケースは存在しないためである。
記載事例の第3段落では、重要な見直しの金額を記載している。「暫定的に算定された~」以降で、当初の暫定的な会計処理が変更された場合の見直しの金額について記載し、また書き以降では、比較情報である前期の数値における見直しの金額を記載している。
(3)共通支配下の取引等の注記 共通支配下の取引等の注記については、非支配株主との取引に係る連結財務諸表提出会社の持分変動に関する事項の記載が求められることとなった(連結財規第15条の14第1項第4号)。
記載事例7は、当連結会計年度において、子会社株式を追加取得した場合の記載事例である。非支配株主との取引に係る連結財務諸表提出会社の持分変動に関する事項の記載として、(4)非支配株主との取引に係る当社の持分変動に関する事項とし、資本剰余金の主な変動要因を①において、増加又は減少した資本剰余金の金額を②において記載している。
記載事例7
2.共通支配下の取引等 (1)取引の概要 (略) (2)実施した会計処理の概要 (略) (3)子会社株式を追加取得した場合に掲げる事項 ① 被取得企業の取得原価及び対価の種類ごとの内訳 (略) (4)非支配株主との取引に係る当社の持分変動に関する事項 ① 資本剰余金の主な変動要因 子会社株式の追加取得 ② 非支配株主との取引によって減少した資本剰余金の金額 XXX百万円 |
6 一株当たり情報 記載事例8は一株当たり情報の注記における算定上の基礎の記載事例であり、当期純利益等の表示の変更に伴い、記載を一部見直している。

なお、企業結合会計基準等を早期適用した場合で、当連結会計年度の比較情報に、暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しが反映されている場合、一株当たり当期純損益及び潜在株式調整後一株当たり当期純利益は、見直しが反映された後の金額により算定すると考えられる。
7 四半期情報 四半期情報等の記載において、当期純利益等の表示の変更に伴い、従来の「四半期純利益」「当期純利益」に代えて「親会社株主に帰属する四半期純利益」「親会社株主に帰属する当期純利益」となっている(開示府令第二号様式記載上の注意(66)その他c(c)及び(f))。
Ⅲ 税効果会計に関する適用指針の公表に伴う留意点
1 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に関する留意点 企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下「回収可能性適用指針」という)は、平成27年12月28日にASBJから公表され、平成28年3月28日に改正されている。
回収可能性適用指針は、日本公認会計士協会が公表している税効果会計に関する実務指針等のうち、主に監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」及び監査委員会報告第70号「その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い」等における繰延税金資産の回収可能性に関する定めについて、基本的にその内容を引き継いだ上で、見直しを行ったものである。
回収可能性適用指針の適用時期については、平成28年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用するとされている。ただし、平成28年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用することができる。
したがって、本稿においては、主に回収可能性適用指針を早期適用した場合について解説する。
(1)会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更(記載事例9)
記載事例9
(会計方針の変更) 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号 平成28年3月28日。以下「回収可能性適用指針」という。)が当連結会計年度末に係る連結財務諸表から適用できるようになったことに伴い、当連結会計年度から当該適用指針を適用し、繰延税金資産の回収可能性に関する会計処理の方法の一部を見直している。 回収可能性適用指針の適用については、回収可能性適用指針第49項(4)に定める経過的な取扱いに従っており、当連結会計年度の期首時点において回収可能性適用指針第49項(3)①から③に該当する定めを適用した場合の繰延税金資産及び繰延税金負債の額と、前連結会計年度末の繰延税金資産及び繰延税金負債の額との差額を、当連結会計年度の期首の利益剰余金及びその他の包括利益累計額に加算している。 この結果、当連結会計年度の期首において、繰延税金資産(投資その他の資産)がXXX百万円、利益剰余金がXXX百万円増加し、○○○○がXXX百万円増加している。 当連結会計年度の期首の純資産に影響額が反映されたことにより、連結株主資本等変動計算書の利益剰余金の期首残高はXXX百万円増加し、○○○○はXXX百万円増加している。 |
回収可能性適用指針は、適用初年度の取扱いに関して、適用初年度の期首において第49項(3)①から③に該当する定めを適用することにより、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更として取り扱うとされている。
したがって、記載事例9は、回収可能性適用指針を早期適用し、適用初年度の期首において第49項(3)①から③に該当する定めを適用することにより、これまでの会計処理と異なることとなる場合である。
第3段落において会計方針の変更による影響額について記載しているが、記載事例中「○○○○」の箇所は、その他の包括利益累計額に属する項目、例えば「その他有価証券評価差額金」の記載を想定している。
続く第4段落では連結株主資本等変動計算書における影響額について記載している。
なお、記載事例においては連結損益計算書に係る項目及び一株当たり情報に対する影響額については記載していない。これは、回収可能性適用指針の適用初年度においては、会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更による影響額の注記について、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の定めにかかわらず、適用初年度の期首の繰延税金資産及び繰延税金負債に対する影響額、利益剰余金に対する影響額及びその他の包括利益累計額に対する影響額を注記するとされているためである。
(2)追加情報(記載事例10)
記載事例10
(追加情報) 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号 平成28年3月28日)が当連結会計年度末に係る連結財務諸表から適用できるようになったことに伴い、当連結会計年度から当該適用指針を適用している。 |
回収可能性適用指針を早期適用し、回収可能性適用指針第49項(3)①から③に該当する定めを適用することにより、これまでの会計処理と異なる場合は会計方針の変更として取り扱うこととなるが、この場合以外のケースについては、追加情報として早期適用している旨を記載することが考えられる。
(3)未適用の会計基準等に関する注記 既に公表されている会計基準等のうち、適用していないものがある場合には一定の注記が求められている(連結財規第14条の4が準用する財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(財規)第8条の3の3第1項)。したがって、回収可能性適用指針については、未適用の会計基準等に関する注記における会計基準等に含まれると考えられることから、回収可能性適用指針を原則適用する場合は留意する必要がある。
(4)四半期情報 回収可能性適用指針を早期適用した場合、回収可能性適用指針第49項(3)①から③に該当する定めを当連結会計年度の期首に遡って適用することとなるため、回収可能性適用指針を当連結会計年度の期首に遡って適用した場合の当連結会計年度の各四半期の金額と、当連結会計年度に提出した四半期報告書における各四半期の金額が異なることとなる。この場合、四半期情報等の記載についてはいずれの金額を記載することも可能と考えられるものの、一定の注記を記載する必要があると考えられる。
回収可能性適用指針を当連結会計年度の期首に遡って適用した場合の当連結会計年度の各四半期の金額を記載する場合は、「当連結会計年度から回収可能性適用指針を早期適用しており、各四半期連結累計期間に係る各項目の金額については、当該適用指針を当連結会計年度の期首に遡って適用した金額を記載している。」等の注記を行うことが考えられる。
当連結会計年度に提出した四半期報告書における各四半期の金額を記載する場合は、「当連結会計年度から回収可能性適用指針を早期適用しているものの、各四半期連結累計期間に係る各項目の金額については、当連結会計年度において提出した四半期報告書における金額を記載している。」等の注記を行うことが考えられる。
2 「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」に関する留意点 平成28年3月14日に企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」(以下「税率適用指針」という)がASBJより公表され、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において公布されている税法に規定されている税率に代えて、決算日において国会で成立している法人税法等に規定されている税率によることとする改正がなされている他、住民税等に関する税率の取扱い及び超過課税による税率の取扱い等が規定された。
税率適用指針の適用時期は、平成28年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用するとされている。
税率適用指針を適用した場合は会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に該当すると考えられるが、その影響については、通常、重要性が乏しいと考えられることから、会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記は省略できるものと考えられる。
Ⅳ その他の連結財務諸表に関する留意点
1 法人税率の引き下げ等に伴う税効果会計に関する注記における留意点 平成28年3月29日に所得税法等の一部を改正する法律が成立したことにより、法人税率が引き下げられる等の改正が行われている。
本改正に伴い、税効果会計に関する注記において、法人税等の税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額(連結財規15条の5第1項第3号)の注記の対象となるので留意してほしい。
2 「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」の適用に関する留意点 平成27年3月26日にASBJから実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」の改正が公表されており、主に3つの点が改正されている。
① のれんの償却に関する取扱い ② 少数株主損益の会計処理に関する取扱い ③ 退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理に関する取扱い |
記載事例11は実務対応報告第18号を原則適用した場合の会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記の記載事例である。
記載事例11
(会計方針の変更) 「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号 平成27年3月26日)を当連結会計年度から適用し、本実務対応報告に定める経過的な取扱いに従って、在外子会社○○○が平成26年1月に改正されたFASB Accounting Standards CodificationのTopic 350「無形資産-のれん及びその他」に基づき償却処理を選択したのれんについて、XX年の定額法により将来にわたり償却することとした。 この結果、当連結会計年度の営業利益、経常利益及び税金等調整前当期純利益はそれぞれXX百万円減少している。また、当連結会計年度末の利益剰余金がXX百万円減少している。 また、1株当たり情報に与える影響は当該箇所に記載している。 |
実務対応報告においては、適用にあたって経過的な取扱いが定められており、適用初年度の期首に連結財務諸表において計上されているのれんのうち、在外子会社が平成26年1月に改正されたFASB-ASC Topic 350に基づき償却処理を選択したのれんについては、企業結合ごとに次のいずれかの方法を適用するとされている。
① 連結財務諸表におけるのれんの残存償却期間に基づき償却する。
② 在外子会社が採用する償却期間が連結財務諸表におけるのれんの残存償却期間を下回る場合に、当該償却期間に変更する。この場合、変更後の償却期間に基づき将来にわたり償却する。
記載事例11は上記②の場合の記載事例である点に留意してほしい。
また、本実務対応報告の適用にあたって、企業結合ごとにいずれかの方法を適用するとされているが、本記載事例においては「企業結合ごとに」という点を「在外子会社○○○が」という表現で示している。
なお、在外子会社において償却処理を選択したのれんについて、本記載事例の在外子会社が採用する償却期間ではなく、連結財務諸表におけるのれんの残存償却期間に基づき償却する場合においても、会計方針の変更に該当するものと考えられる。
Ⅴ 非財務情報に関する留意点
1 金融商品取引法の改正に伴う開示府令の改正 平成27年5月15日に金融庁から金融商品取引業等に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(内閣府令第38号)が公表され、開示府令第三号様式記載上の注意(25)eが改正されている。
具体的には、会社が発行する株券等に係る大量保有報告書等が金融商品取引法第27条の30の7の規定により公衆の縦覧に供された場合、すなわち、大量保有報告書等がEDINETにより公衆の縦覧に供された場合についても、大量保有報告書等の写しの送付を受けた場合と同様に、その保有状況が株主名簿の記載内容と相違するときには、実質所有状況を確認して記載することとされ、また、記載内容が大幅に相違しており、その確認ができない場合には、その旨及び大量保有報告書等の記載内容を注記することとされている。
本改正は、平成27年5月29日以後終了する事業年度に係る有価証券報告書について適用するとされている。
2 修正国際基準の公表に伴う開示府令の改正 平成27年6月30日にASBJが「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」(以下、「修正国際基準」という)の公表を行ったことを受け、平成27年9月4日、修正国際基準の適用が制度上可能となるよう、連結財規等について所要の改正が行われた。修正国際基準に基づいて連結財務諸表を適正に作成することができる体制を整備しているなど、一定の要件を満たす株式会社が提出する連結財務諸表については、修正国際基準に従うことができることとする規定を新設する等の改正が行われている。
本改正により、「業績等の概要」においては、当連結会計年度に係る連結財務諸表について修正国際基準により作成を開始した場合、要約連結財務諸表を記載するとともに、連結財規に従い、当該要約連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項の変更に関する事項を記載することが求められている。
この記載については、当連結会計年度に係る連結財務諸表について指定国際会計基準により作成した場合と概ね同様と考えられるが、前期まで米国基準により連結財務諸表を作成した場合については指定国際会計基準と修正国際基準で取り扱いが異なる点に留意する必要がある。
なお、修正国際基準により連結財務諸表を作成した場合は、このほか、主要な経営指標等の推移や経理の状況等においても、指定国際会計基準と同様に一定の事項を記載することとされている。
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