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解説記事2016年07月25日 【ニュース特集】 現物出資の適格性否認、審判所の判断は(2016年7月25日号・№652)

ニュース特集
持分の所在地、事前照会の回答に反する課税処分が“二大争点に”
現物出資の適格性否認、審判所の判断は

 約405億円の申告漏れを指摘された大手製薬会社の現物出資事案で、大阪国税不服審判所は2016年3月7日、同社の請求を棄却する裁決を下しているが、その内容の一部が判明した。
 本件で大きな論点となっているのが、現物出資した持分が「国内」あるいは「国外」のいずれにあったのかという点と、事前照会の回答に反する更正処分が「信義則の法理」の適用により違法となるか否かという点だ。
 本特集では、実務家の関心が高いこれらの2つの論点を取り上げる。

持分が表象する個別具体的な資産の「経常的な管理状況」が判断材料に
 本件は、大手製薬会社(A社)が、イギリスのB社と50:50の共同出資でケイマンに設立した会社(以下、JV)の持分を、イギリスにあるA社の100%子会社a社に「税制適格」として現物出資したところ、税務当局から「税制非適格」との認定を受けた事案。ちなみに、A社がa社に(適格)現物出資したJVの持分は、その後、a社からB社に譲渡され、a社はその対価としてB社の株式を10%取得したようだ。A社からa社への現物出資が適格であれば課税が起こらないのは言うまでもないが、a社からB社への譲渡は「(JVの)持分と(B社の)株式の交換」とされ、イギリスではこれに係る譲渡益への課税も行われなかったとみられる。
 当該現物出資が「税制適格」となるか「税制非適格」となるかの判断の分岐点となるのが、当該持分が「国内」にあるのか、あるいは「国外」にあるのかという点だ。これは、法人税法上、適格現物出資の範囲からは、「外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を行うもの」は除かれているため(法法2条十二の十四)。
 「国内にある資産又は負債」とは、「国内にある事業所に属する資産又は負債」であるとされ(法令4条の3⑨)、さらに「国内にある事業所に属する」かどうかは、まずは当該資産又は負債が「どこの事業所の“帳簿”に記載されていたか」により判断されるが、国外の事業所の帳簿に記帳されている資産又は負債であっても、実質的に国内の事業所で経常的な管理が行われていたと認められる場合には、「国内にある資産」とされる(法基通1-4-12)。
法人税基本通達1-4-12(国内にある事業所に属する資産又は負債の判定)
 令第4条の3第9項《適格現物出資の要件》に規定する「国内にある事業所に属する資産又は負債」に該当するかどうかは、原則として、当該資産又は負債が国内にある事業所又は国外にある事業所のいずれの事業所の帳簿に記帳されているかにより判定するものとする。
 ただし、国外にある事業所の帳簿に記帳されている資産又は負債であっても、実質的に国内にある事業所において経常的な管理が行われていたと認められる資産又は負債については、国内にある事業所に属する資産又は負債に該当することになるのであるから留意する。
 審査請求では、請求人であるA社が「国外」、課税当局は「国内」に持分があったと主張しているが、A社側も、持分が国内にあるA社の有価証券台帳に記載されていたことは認めている。この点については原処分庁も、本件持分がパートナーシップ持分であることから、それがどこの事業所の帳簿に記載されているかのみではなく、本件持分が表象する個別具体的な資産に対する請求人の持分(以下、「個別持分」)の記帳及び経常的な管理が国内又は国外のいずれの事業所において行われていたかを実質的に検討して(国内・国外資産のいずれに該当するかを)判定すべきとしたことから、「個別持分」の記帳及び経常的な管理状況が争点となった。
 この点について、原処分庁が「本件持分を本社の有価証券台帳に記帳することによって、本件持分が表象する個別持分についても、本社において記帳していたものといえる」と主張したのに対し、請求人は「本件持分の記帳は組合財産の記帳とは全く異なるものであって、これらを同一視することはできない」「組合財産は連結財務諸表には記帳されていたが、国内事業所には一切記帳されていなかった。本件JVに係る記帳、会計処理、税務申告等の経理業務は全て米国事業所において行われていた」などと反論した。
 また、「経常的な管理」についても、原処分庁が「本件JVに係る契約の締結及び本件JV契約に基づく活動に関する請求人の意思決定は、請求人の本社の決裁により行われていた」と主張したのに対し、請求人は「海外支店等の重要な意思決定につき、連結内部統制の観点から本社の決裁を要することは一般的なことであるから、この点を本件組合財産の管理が国内事業所において行われていたことの根拠とするのは誤り」と反論した。さらに、そもそも「本件対象資産を管理し、記帳を行い得る『国外にある事業所』は存在しなかった」との原処分庁の主張に対しては、請求人は「『経常的な管理』の場所を判断するに当たっては、OECDモデル租税条約における管理支配基準やタックスヘイブン対策税制における管理支配基準の判断を考慮すべき」「本件JV事業が米国事業所において行われている場合、当該事業所は恒久的施設に該当し、源泉地管轄法理の下では組合の事業が行われる恒久的施設は全組合員にとっての恒久的施設と取り扱われているから、米国事業所は、組合員である請求人の国外事業所に該当する」などの反論を展開した。
 審判所は、無形資産の一部が連結財務諸表に記載されていたことは認めつつも、国外に
固有の事業所、業務の拠点となり得るような施設等は存在せず、実際の事業活動を行っていたものでもないことや、本件開発活動における請求人の寄与度合いの大きさなどから、「その相当部分が、請求人の国内にある事業所において経常的な管理が行われていたと認めるのが相当」との判断を下している。
 このほか、現物出資の対象資産のうちの一部に「国外にある事業所に属する資産」が含まれる場合、少なくとも当該「国外にある事業所に属する資産」は適格現物出資の対象になるのかという点も争点に上っている。この点について審判所は、「当該現物出資の対象資産の中に一部でも国内にある事業所に属する資産が含まれている場合には、当該現物出資は、外国法人に国内にある事業所に属する資産の移転を行うものとして、その全体が適格現物出資に当たらない」との判断を示している。

審判所、照会文書の内容と客観的事実の間に重大な相違ありと認定
 もう1つの論点となっているのが、事前照会の回答に反する更正処分が「信義則の法理」の適用により違法となるか否かである。
 課税リスクのある経営判断を下す際に国税当局の事前照会制度を利用する企業が少なくない中、事前照会で「適格現物出資」との回答を得たにもかかわらず税務調査で適格性を否認されたということで、本件は多くの企業に衝撃を与えたが、裁決を見る限り、原処分庁が単純に回答の内容を覆したというものでもなさそうだ。
 まず気になるのは、事前照会がどのような形で行われたのかという点だが、請求人であるA社は、本件現物出資について詳細な説明を記載した文書により照会を行う一方、国税局の担当職員は、“口頭”で「本件現物出資は適格現物出資に該当する」旨を同社の従業員に伝えたという。
 請求人は、これを「国税当局の公式見解に準ずるもの」と評価して信頼し、本件現物出資を適格現物出資として確定申告を行ったのだから、更正処分は信義則に反し違法であると主張している。また、請求人は、国税局の担当職員が「何ら留保も付さずに、本件現物出資は適格現物出資に該当する」との回答を行ったとしているが、原処分庁は、事前照会に対して回答する際には「事実関係が異なれば回答内容も異なる」旨を断っており、何らの留保も付さずに回答することはないとしており、両者の主張は真っ向から対立している。また、原処分庁は、事前照会に対する回答をした日と現物出資の日の比較から、「事前照会の回答を信頼して現物出資を行った」という請求人の主張に疑念を抱いたようだ。
 結局、審判所では原処分庁側の主張が認められたわけだが、その判断の決め手になったのは、請求人が行った事前照会の内容の中で、「適格現物出資に該当するか否か」の判定を左右する部分に「客観的な事実」との重大な相違があったという点だ。すなわち、請求人が提出した事前照会文書ではJVの持分が「国外にあった」と読み取れる記載があったものの、審判所はこれを「国内にあった」と認定したということになる。
 本件の発生を受け、企業の税務担当者などから「事前照会でOKをもらったのに否認を受けるのであれば、何を信用すればよいのか」といった声が聞かれたが、もし事前照会文書の内容に、回答の方向性を大きく左右する客観的事実と重大な相違が実際にあったのだとすれば、回答を覆す形で更正処分が打たれたとしてもやむを得ない面もあるかもしれない。
 この論点については、裁判での事前照会文書の内容の詳細な検証が必要だろう。

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