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解説記事2016年08月08日 【税制改正解説】 平成28年度における消費税・間接諸税関係の改正について(上)(2016年8月8日号・№654)

税制改正解説
平成28年度における消費税・間接諸税関係の改正について(上)
 中曽善文

はじめに

 現下の経済情勢等を踏まえ、経済の好循環を確実なものとする観点から法人税率の引下げ等を行うとともに、消費税率引上げに伴う低所得者への配慮のための消費税の軽減税率制度の導入等の措置を講ずるため、その内容を織り込んだ「所得税法等の一部を改正する法律案」が平成28年2月5日に国会に提出され、国会における審議の結果、3月29日に成立し、3月31日に公布された。
 なお、本法律が成立した後、安倍内閣総理大臣が平成29年4月に予定されていた消費税率の引上げについて2年半延期する旨を表明されたが、本解説においては当該延期については考慮していない。

Ⅰ 消費税法関係の改正

一 軽減税率制度の導入

 平成29年4月1日以後に、国内において事業者が行う課税資産の譲渡等のうち後述する「29年軽減対象資産の譲渡等」に該当するもの及び保税地域から引き取られる課税貨物のうち後述する「29年軽減対象貨物」に係るものに適用される税率については、消費税法第29条(税率)の規定にかかわらず、6.24%(地方消費税と合わせた税率は8%)を適用することとされた(改正法附則34①)。
 消費税の税率については、平成29年4月1日に、現行の6.3%(地方消費税と合わせた税率は8%)から7.8%(地方消費税と合わせた税率は10%)に引き上げられる予定であるが、「29年軽減対象資産の譲渡等」及び「29年軽減対象貨物」に適用される地方消費税と合わせた税率は、8%に据え置かれることとされた。ただし、平成29年4月1日以後において、旧税率8%と軽減税率8%については、消費税率(6.3%⇒6.24%)と地方消費税率(1.7%⇒1.76%)の割合が異なることから、明確に区分しなければならない。



(1)軽減税率の適用対象  平成29年4月1日から平成33年3月31日までの間の軽減税率の適用対象については、改正法附則第34条第1項において国内取引と輸入取引の別に規定されている。
〔国内取引〕
 国内取引に係る軽減税率の適用対象は、課税資産の譲渡等のうち、次のイ又はロに該当するもの(以下「29年軽減対象資産の譲渡等」という。)とされている(改正法附則34①一)。
イ 飲食料品(食品表示法第2条第1項に規定する食品(酒税法第2条第1項に規定する酒類を除く。以下単に「食品」という。)をいい、食品と食品以外の資産が一の資産を形成し、又は構成している一定の資産を含む。)の譲渡(ただし、外食及び一定のケータリングサービスに該当するものは、含まれない。)
ロ 一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する新聞(1週に2回以上発行する新聞に限る。)の定期購読契約に基づく譲渡
〔輸入取引〕
 輸入取引に係る軽減税率の適用対象は、保税地域から引き取られる課税貨物のうち、上記イの飲食料品に該当するもの(以下「29年軽減対象貨物」という。)とされている(改正法附則34①二)。
 ① 飲食料品の譲渡
 イ 食品表示法に規定する食品
 食品表示法第2条第1項に規定する食品とは、一般に人の飲用又は食用に供されるものをいう。したがって、人の飲食に供することが可能なものであっても、人の飲食用以外の用途に供するものとして取引されるものについては、ここでいう「食品」には該当しない。
 ロ 飲食料品に含まれる「一体資産等」の範囲  食品と食品以外の資産が一の資産を形成し、又は構成している一定の資産については、その全体が軽減税率の対象となる飲食料品に含まれ(改正法附則34①一カッコ書)、具体的な判断基準については、28年改正消令の附則において国内取引と輸入取引の別に次のとおり規定されている。
 ⅰ 飲食料品に含まれる「一体資産」
 食品と食品以外の資産が一の資産を形成し、又は構成しているもの(あらかじめ一の資産を形成し、又は構成しているものであって、当該一の資産に係る価格のみが提示されているものに限る。以下「一体資産」という。)のうち、その対価の額(税抜)が1万円以下であり、かつ、当該一体資産の価額のうちに当該一体資産に含まれる食品部分の価額の占める割合として合理的な方法により計算した割合が3分の2以上のもの
 ⅱ 飲食料品に含まれる「一体貨物」
 食品と食品以外の資産が一の資産を形成し、又は構成している外国貨物(当該外国貨物が関税定率法別表の適用上の所属の一の区分に属する物品に限る。以下「一体貨物」という。)のうち、保税地域から引き取られる一体貨物に係る消費税の課税標準である金額(税抜)が1万円以下であり、かつ、当該一体貨物の価額のうちに当該一体貨物に含まれる食品に係る部分の価額の占める割合として合理的な方法により計算した割合が3分の2以上のもの
 ハ 軽減対象とならない「外食」の範囲  飲食料品の譲渡に含まれない「外食」とは、飲食店営業などを営む者が、テーブル、椅子、カウンターその他の飲食に用いられる設備のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供をいう(改正法附則34①一イ、消法別1一)。
 ここでいう「飲食店営業などを営む者」とは、食品衛生法に規定する飲食店営業や喫茶店営業を営む者に限られるのではなく、飲食料品をその場で飲食させる事業を営む者が広く含まれるので(28年改正消令附則3①)、屋台や移動販売のように固定的な飲食設備を持たない者であっても、テーブル、椅子、カウンターなど飲食に用いられる設備(以下「飲食設備」という。)で飲食させるために行う飲食料品の提供は、「外食」に該当することとなる。



 ニ 外食に含まれないテイクアウトの範囲  「飲食料品の譲渡」から除かれる「外食」については、「飲食設備のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供」と定義されつつ、飲食店で提供される飲食料品であったとしても、持ち帰らせるための容器に入れ、又は包装を施して行う販売(テイクアウト)は「外食」に含まれないことが明らかにされている(改正法附則34①一イ)。
 ホ 適用税率の判断時点について  飲食設備を有するファストフード店などの店頭では、消費者が店内飲食をするか否かを確認した上で飲食料品を提供する必要があるが、仮に、テイクアウトの意思表示をした消費者にテイクアウト用の飲食料品を提供した場合であっても、その後、その消費者が何らかの事情で店内飲食をするケースもないとは限らない。その場合、飲食店側は、「店内飲食(=外食)だとして税率差額分を消費者に請求し、標準税率の売上として計上し直す必要があるのではないか?」と、心配する向きもある。
 しかし、消費税の納税義務は、個々の課税資産の譲渡等をした時に成立するため(通法15②七)、納税義務が成立した後の消費者の行動によって課税関係が変更されることはないと考えられる。
 へ 軽減対象とならない「ケータリングサービス」の範囲  飲食店が行う出前やデリバリー専門の飲食店など飲食料品の提供形態には様々なものがある。軽減税率の適用対象外となる「外食」とは、その場(飲食設備のある場所)で飲食させる役務の提供をいうのであるから、相手方の指定した場所に飲食料品を届ける出前やデリバリー専門の飲食店が配達する飲食料品は、一義的には、軽減税率の適用対象になると考えられる(「外食」には当たらない。)。
 こうした出前に似た取引として「ケータリングサービス」があるが、ケータリングサービスには、出前と変わらないものから相手方の指定した場所に赴き、調理や配膳、さらには給仕まで行うものまで様々な形態がある。このため、相手方の指定した場所で行う飲食料品の提供であっても、加熱、調理又は給仕等の役務を伴うものについては、飲食サービス(外食)と何ら変わらないことから、原則として、軽減税率の適用対象となる「飲食料品の譲渡」には含まれないこととされている(改正法附則34①一ロ、消法別1一ロ)。
 ト 有料老人ホーム等で提供される食事の取扱いについて  有料老人ホームや小中学校などで提供される食事(以下「給食等」という。)は、これらの施設で日常生活や学校生活を営む者(以下「入居者等」という。)の求めに応じて、当該施設の設置者等が調理等をして提供するものであるから、一義的には、「飲食料品の譲渡」に含まれないケータリングサービスに該当すると考えられる。しかし、こうした給食等は、通常のケータリングサービスのようにその都度自らの選択で受けるものではなく、こうした日常生活や学校生活を営む場において他の形態で食事をとることが困難なことから、これらの施設の設置者等が提供する飲食料品を食べざるを得ないという面がある。
 そうした給食等の事情に鑑み、一定の給食等については、軽減対象とならないケータリングサービスには該当しない(飲食料品の譲渡に該当し、軽減税率の対象となる。)こととされている(改正法附則34①一ロ)。
 改正法附則第34条第1項第1号ロにおいては、「有料老人ホームその他の人が生活を営む場所として政令で定める施設において行う政令で定める飲食料品の提供」と規定されており、具体的な対象については、28年改正消令附則第3条第2項において以下のとおり規定されている。


(注1)軽減税率の対象となる飲食料品の提供は、本規定の趣旨(施設が提供する飲食料品を食べざるを得ないという面)及び標準税率が適用される外食との間のバランスを考慮して、財務大臣の定める基準に該当する飲食料品の提供に限定されている。財務省告示(平成28年3月財務省告示第100号)においては、以下の基準が定められている。
 〔一食当たりの基準額〕
  飲食料品の提供の対価の額(税抜)が一食につき640円以下
 〔一日当たりの上限額〕
  同一の日に同一の者に対する飲食料品の提供の対価の額(税抜)の累計額が1,920円に達するまで
(注2)有料老人ホーム等で提供される食事のうち介護保険サービスの一環として提供されるものは、軽減税率の対象となる飲食料品の提供から除外されている(28年改正消令附則3②)。こうした介護保険サービスの一環として提供される食事については、(介護保険給付の対象ではないが)原則として消費税の非課税対象となるが、自己選定による特別な食事に当たる部分については非課税対象から除かれている(平成12年2月大蔵省告示7)。
※非課税対象から除かれる(=課税)部分は標準税率が適用される。
(注3)有料老人ホームとは、老人を入居させ、入浴、排せつ若しくは食事の介護、食事の提供又はその他の日常生活上必要な便宜の供与を行う施設を広く指すことから(老福法29①)、当該施設の入居者の中には老人以外の者も含まれ得る。そのため、28年改正消規の附則においては、軽減対象となる給食等の提供を受けることができる有料老人ホームの入居者の範囲について、サービス付き高齢者向け住宅の入居要件を参考として、次の基準が設けられている(28年改正消規附則6)
 ⅰ 60歳以上の者
 ⅱ 要介護認定又は要支援認定を受けている60歳未満の者
 ⅲ ⅰ又はⅱに該当する者と同居している配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)
(注4)義務教育諸学校とは、小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部若しくは中学部をいう。

 ② 定期購読新聞の譲渡
 イ 軽減税率の適用対象となる新聞(以下「定期購読新聞」という。)
  ⅰ 一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する新聞であって、
  ⅱ 週2回以上発行され、
  ⅲ 定期購読契約に基づくもの、
が該当する(改正法附則34①二)。
 したがって、スポーツ新聞や業界紙その他日本語以外の新聞であっても上記ⅰ~ⅲの条件を満たすものは定期購読新聞に該当するが、駅の売店やコンビニエンスストア等で販売されている新聞のように、定期購読契約に基づかずに販売される新聞は該当しない。
 ロ 電子新聞について  軽減税率の適用対象は、定期購読契約に基づく新聞(資産)の譲渡だが、新聞の電子版は、インターネットを介して行われる電気通信利用役務の提供にあたるので、軽減税率の適用対象となる新聞の譲渡には該当しない。
 ハ 週2回以上発行される新聞の意義  週2回以上発行される新聞とは、通常の発行予定日が週2回以上ある新聞を指すのであるから、新聞休刊日等により1週に1回以下の発行となる週があったとしても週2回以上発行される新聞に該当する。
(2)適用関係  軽減税率制度を含む上記の改正は、平成29年4月1日に施行される(改正法附則1六ヘ)。
 具体的には、平成29年4月1日から平成33年3月31日までの間に、国内において事業者が行う課税資産の譲渡等及び課税仕入れ並びに保税地域から引き取られる課税貨物については、上記の規定が適用される(改正法附則34)。

二 適格請求書等保存方式の導入
 わが国の消費税制度は、単一税率であり、かつ、非課税対象が限定的であること等を踏まえ、これまで「請求書等保存方式」が採用されてきたところだが、軽減税率制度の創設に伴い、いわゆるインボイス方式である「適格請求書等保存方式」を導入することとされた。
 しかし、現行制度からの切り替えに相応の事務・コスト負担がかかることや適切に対応するためには相応の準備期間が必要であることを踏まえ、その施行については、軽減税率制度の施行から4年後の平成33年4月1日とされている(改正法附則1九イ)。

1 適格請求書発行事業者登録制度の創設  平成33年4月1日以後の仕入税額控除制度の適用については、原則として、適格請求書発行事業者から交付を受けた適格請求書又は適格簡易請求書の保存が必要となる。
 適格請求書又は適格簡易請求書は、消費税法の規定に基づき、課税資産の譲渡等を行う事業者における適用税率や消費税額等に関する認識を、当該課税資産の譲渡等を受ける他の事業者に正しく伝達するための手段なので、その作成・交付は課税事業者に限定する(※)とともに、他の事業者から受けた請求書等が適格請求書又は適格簡易請求書に該当することを客観的に確認するための仕組みが必要となる。
※ 消費税法の規定に基づき適用税率を判断し、当該適用税率や消費税額等を記載した適格請求書又は適格簡易請求書の交付を義務付ける以上、その義務対象者に消費税を納める義務が免除される事業者(免税事業者)を含めることは適当でないと考えられる。
 このため適格請求書等保存方式においては、課税資産の譲渡等について適格請求書を交付しようとする課税事業者に対して、あらかじめその納税地を所轄する税務署長に申請書を提出し、適格請求書発行事業者の登録を受けることを求めている(消法57の2①)。

2 適格請求書発行事業者の義務  適格請求書発行事業者は、国内において課税資産の譲渡等を行った場合において、当該課税資産の譲渡等を受ける他の事業者(免税事業者を除く。)から求められた場合には、原則として、次に掲げる事項を記載した請求書、納品書その他これらに類する書類(以下「適格請求書」という。)を交付しなければならないこととされた(消法57の4①)。
〔適格請求書の記載事項〕
ⅰ 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
ⅱ 課税資産の譲渡等を行った年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行った課税資産の譲渡等につきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)
ⅲ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(当該課税資産の譲渡等が軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等である旨)
ⅳ 課税資産の譲渡等に係る「税抜価額」又は「税込価額」を税率の異なるごとに区分して合計した金額及び「適用税率」
 ※「適用税率」とは、消費税法第29条第1号又は第2号に規定する税率に78分の100を乗じて得た率をいう。すなわち、地方消費税相当分を含む10%(7.8%×100/78)又は8%(6.24%×100/78)が適用税率となる。
ⅴ 消費税額等
 ※ 消費税額等とは、消費税額及び地方消費税額の合計額をいい、課税資産の譲渡等に係る税抜価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に100分の10(軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、100分の8)を乗じて計算した金額(計算した金額に1円未満の端数が生じたときは、当該端数を処理した後の金額)又は課税資産の譲渡等に係る税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に110分の10(軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、108分の8)を乗じて計算した金額(計算した金額に1円未満の端数が生じたときは、当該端数を処理した後の金額)をいう。
ⅵ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
 ただし、事業の性質上、適格請求書を交付することが困難な一定の取引については、適格請求書の交付義務が免除されることとなるが、具体的な取引については、今後政省令において明らかにされることとなる(消法57の4①但し書)。

3 適格請求書類似書類等の交付禁止及び罰則  適格請求書発行事業者以外の者が適格請求書類似書類を交付することがあれば、結果として、仕入側の仕入税額控除が否認されることとなり、消費税制度に対する信頼性を著しく損なうこととなりかねず、また、適格請求書発行事業者による適格請求書類似書類の交付は、売手側と仕入側が一体となって行う脱税にもつながることから、こうした適格請求書類似書類の交付を明確に禁止する必要があると考えられる。
 消費税法第57条の5においては、次に掲げる書類の交付及び電磁的記録の提供を適格請求書類似書類等の交付として明確に禁止している。
ⅰ 適格請求書発行事業者以外の者が交付する適格請求書発行事業者が作成した適格請求書又は適格簡易請求書であると誤認されるおそれのある表示をした書類
ⅱ 適格請求書発行事業者が交付する偽りの記載をした適格請求書又は適格簡易請求書
ⅲ ⅰに掲げる書類の記載事項又はⅱに掲げる書類の記載事項に係る電磁的記録

4 仕入税額控除制度の見直し  平成33年4月1日に施行される適格請求書等保存方式においては、適格請求書発行事業者に係る制度を整備した上で、仕入税額控除制度(現行の請求書等保存方式)については、以下に掲げるとおり抜本的な見直しが行われた。
 ① 仕入税額控除の適用要件の見直し   仕入税額控除制度の適用にあたっては、課税仕入れ等の税額に係る一定の帳簿及び請求書等の保存がその要件とされることに変りはないが、要件を満たす帳簿及び請求書等の範囲について見直しが行われた(消法30⑦⑧⑨)。
  消費税法の創設以来、課税事業者以外の者からの仕入れであっても、原則として、課税仕入れに係る支払対価の額に含まれる消費税相当額の控除が認められてきたが、平成33年4月1日以後に国内で行われる課税仕入れについては、ⅳに掲げる請求書等の交付を受ける課税仕入れ又はハに掲げる課税仕入れを除き(注)、適格請求書発行事業者以外の者からの仕入れについては、仕入税額控除の適用が認められないこととなる。
(注)適格請求書発行事業者以外の者から行う課税仕入れに係る仕入税額控除制度の適用については、③の経過措置が設けられている。
 イ 帳簿の記載事項   複数税率に対応するため、課税仕入れに係る帳簿の記載事項については、次の下線部分を加える改正が行われた(消法30⑧一)。改正後の帳簿の記載事項は、区分記載請求書等保存方式において適用される改正法附則第34条第2項の規定による読替後の規定と変わるところはないので、基本的には、平成33年4月1日前後において新たな対応は必要ないと考えられる。
〔帳簿の記載事項〕
ⅰ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ⅱ 課税仕入れを行った年月日
ⅲ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである旨) ⅳ 課税仕入れに係る支払対価の額(当該課税仕入れの対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他の経済的な利益の額とし、当該課税仕入れに係る資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該課税仕入れに係る役務を提供する事業者に課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額(これらの税額に係る附帯税の額に相当する額を除く。)に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。第32条第1項において同じ。)  ※ ⅳの改正は、「課税仕入れに係る支払対価の額」の定義(旧消法30①)が無くなったことによる規定の整備であり、改正前後の適用関係に影響するものではない。
 ロ 請求書等の範囲  適格請求書等保存方式の導入に伴い、仕入税額控除制度の適用要件となる請求書等の範囲が次のとおり改正された(消法30⑨)。
〔請求書等の範囲〕
ⅰ 適格請求書又は適格簡易請求書(課税仕入れの相手方である適格請求書発行事業者から交付を受けたもの)
ⅱ 適格請求書に係る電磁的記録(消費税法第57条の4第5項の規定により提供を受けた適格請求書に係る電磁的記録をいう。)
ⅲ 仕入明細書等(課税仕入れを行った事業者が作成した仕入明細書、仕入計算書等で、政令で定める事項が記載されているものであって、課税仕入れの相手方の確認を受けたもの)
 (注)政令においては、次に掲げる事項が規定されると考えられる。
 ・書類の作成者の氏名又は名称
 ・課税仕入れの相手方の氏名又は名称及び登録番号(消法57の2④の登録番号)
 ・課税仕入れを行った年月日
 ・課税仕入れに係る資産又は役務の内容(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、その旨)
 ・税率の異なるごとに区分して合計した課税仕入れに係る支払対価の額
 ・消費税額等
 ・適用税率
ⅳ 卸売市場におけるせり売りなど媒介又は取次ぎに係る業務を行う者を介して行われる政令で定める課税仕入れについては、当該媒介等を行う者から交付を受けた政令で定める事項が記載されているもの
(注)1. ⅳの対象となる課税仕入れについては、現時点においては、他の者から受けた次に掲げる課税資産の譲渡等とする旨を政令で規定されると考えられる。
    ・卸売市場法(昭和46年法律第35号)第2条第2項に規定する卸売市場において、同法第4条第2項第4号に規定する卸売の業務(出荷者から卸売のため販売の委託を受けて行う者に限る。)として行われる生鮮食料品等(同法第2条第1項に規定する生鮮食料品等をいう。)の譲渡
    ・農業協同組合法(昭和22年法律第132号)第4条又は水産業協同組合法(昭和23年法律第242号)第2条に規定する組合が、当該組合の組合員から販売の委託(販売条件を付さず共同計算方式により販売代金の清算が行われるものに限る。)を受けて行う農林漁業産品(当該組合員が生産、採捕若しくは養殖したもの又は当該生産物を原料又は材料として当該組合員が生産したものをいう。)の譲渡(当該農林漁業産品の清算者等を特定せずに行われるものに限る。)
   2. 政令においては、次に掲げる事項が規定されると考えられる。
    ・書類の作成者の氏名又は名称
    ・課税資産の譲渡等を行った年月日
    ・税抜価額又は税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額
    ・消費税額等
    ・書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
ⅴ 課税貨物の輸入の許可書等(旧消法30⑨三と同じ。)
ハ 仕入税額控除の適用要件が帳簿の保存のみとなる取引について  改正前の消費税法第30条第7項においては、仕入税額控除の適用要件として、課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等の保存を求める一方、「課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿」と規定されていた。具体的には、
・課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満である場合、
・課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上である場合において請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由がある場合(帳簿にやむを得ない理由及び課税仕入れの相手方の住所等を記載している場合に限る。)、
・特定課税仕入れ、については、帳簿の保存のみで仕入税額控除の適用を受けることができることとされていた(消令49①)。
 この規定については、適格請求書等保存方式の導入に伴い、「請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合については、帳簿」と改正された(消法30⑦)。その具体的な対象については、今後、政省令で明らかにされることとなるが、平成28年度税制改正の大綱(平成27年12月24日閣議決定)においては、次の取引がその対象として掲げられている。したがって、現行では、少額取引(課税仕入れの支払対価の額の合計額3万円未満)であることを理由に帳簿の保存のみで仕入税額控除を受けていたもののうち、次に掲げる取引以外のものについては、適格請求書等の保存が求められることとなるので、注意が必要となる。
ⅰ 公共交通機関である船舶、バス又は鉄道による旅客の運送として行われるもの(3万円未満のものに限る。)
ⅱ 適格簡易請求書の要件を満たす入場券等が使用の際に回収されるもの
ⅲ 古物営業を営む者が適格請求書発行事業者でない者から買い受けるもの
ⅳ 質屋を営む者が適格請求書発行事業者でない者から買い受けるもの
ⅴ 宅地建物取引業を営む者が適格請求書発行事業者でない者から買い受けるもの
ⅵ 適格請求書発行事業者でない者から再生資源又は再生部品を買い受けるもの
ⅶ 自動販売機からのもの(3万円未満のものに限る。)
ⅷ その他適格請求書等の交付を受けることが困難な一定のもの
 ② 仕入控除税額の計算   仕入控除税額の算定基礎となる「課税仕入れに係る消費税額」については、現行の「当該課税仕入れに係る支払対価の額に110分の7.8を乗じて算出した金額」から、「当該課税仕入れに係る適格請求書又は適格簡易請求書の記載事項を基礎として政令で定めるところにより計算した金額」とする改正が行われた(消法30①)。
 ③ 適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置   平成33年4月1日以後に国内において行った課税仕入れに係る仕入税額控除制度の適用については、原則として、適格請求書等の保存が要件とされるが、適格請求書等保存方式を円滑に導入する観点から、適格請求書発行事業者以外の者から行う課税仕入れであっても、改正前の消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等が保存されていることを要件として、仕入れに係る消費税額相当額の一定割合(当初の3年間は80%、その後の3年間は50%)の控除が認められる。

5 適用関係  適格請求書等保存方式に係る上記1から4の改正は、平成33年4月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れ並びに平成33年4月1日以後に保税地域から引き取られる課税貨物に係る消費税について適用される(改正法附則46①)。
 ただし、適格請求書等保存方式の導入に伴う消費税法第9条第1項の改正(適格請求書発行事業者の事業者免税点制度の適用除外)については、平成33年4月1日以後に開始する課税期間から適用される(改正法附則46②)。
 また、適格請求書発行事業者の事前登録申請に係る規定については、平成31年4月1日から施行されるので、同日以後であればその申請が可能となる(改正法附則1八)。

三 軽減税率制度の消費税法本則への位置付け
 改正法の附則において経過措置として位置付けられていた軽減税率制度については、平成33年4月1日、適格請求書等保存方式が導入されるタイミングにあわせて消費税法の中に規定されることとなる。

1 軽減税率の適用対象  軽減税率制度を消費税法に位置付けるにあたっては、同法第2条第1項に「軽減対象課税資産の譲渡等」及び「軽減対象課税貨物」という用語を定義するとともに、その具体的な対象については、別表に定められた。
 なお、軽減税率の具体的な適用対象については、改正法附則第34条第1項において規定されている「29年軽減対象資産の譲渡等」及び「29年軽減対象課税貨物」と変わるものではない。
(1)軽減対象課税資産の譲渡等(消法2①九の二)  国内における課税資産の譲渡等のうち軽減税率が適用される取引について、「軽減対象課税資産の譲渡等」と定義されている。
 その対象の具体的な範囲については、消費税法別表第一に規定されているが、その詳細は、一(1)の「29年軽減対象資産の譲渡等」と変わらないので省略する。
別表第一(第二条関係)
 一 飲食料品(食品表示法(平成二十五年法律第七十号)第二条第一項(定義)に規定する食品(酒税法(昭和二十八年法律第六号)第二条第一項(酒類の定義及び種類)に規定する酒類を除く。以下この号において単に「食品」という。)をいい、食品と食品以外の資産が一の資産を形成し、又は構成しているもののうち政令で定める資産を含む。以下この号及び別表第一の二において同じ。)の譲渡(次に掲げる課税資産の譲渡等は、含まないものとする。
  イ 飲食店業その他の政令で定める事業を営む者が行う食事の提供(テーブル、椅子、カウンターその他の飲食に用いられる設備のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供をいい、当該飲食料品を持帰りのための容器に入れ、又は包装を施して行う譲渡は、含まないものとする。)
  ロ 課税資産の譲渡等の相手方が指定した場所において行う加熱、調理又は給仕等の役務を伴う飲食料品の提供(老人福祉法(昭和三十八年法律第百三十三号)第二十九条第一項(届出等)に規定する有料老人ホームその他の人が生活を営む場所として政令で定める施設において行う政令で定める飲食料品の提供を除く。)
 二 一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する新聞(一週に二回以上発行する新聞に限る。)の定期購読契約(当該新聞を購読しようとする者に対して、当該新聞を定期的に継続して供給することを約する契約をいう。)に基づく譲渡
(2)軽減対象課税貨物(消法2①十一の二)  保税地域から引き取られる課税貨物のうち軽減税率が適用される取引について、「軽減対象課税貨物」と定義されている。
 その対象の具体的な範囲については、消費税法別表第一の二に規定されているが、その詳細は、一(1)に記述した「29年軽減対象貨物」と変わらないので省略する。
別表第一の二(第二条関係)
 飲食料品
※ 「飲食料品」については、別表第一において定義されている。

2 軽減税率の消費税法への位置付け  消費税法第29条(税率)に軽減税率(6.24%)が位置付けられ、同条では、次のように規定されている。
① 課税資産の譲渡等(軽減対象課税資産の譲渡等を除く。)、特定課税仕入れ及び保税地域から引き取られる課税貨物(軽減対象課税貨物を除く。) 100分の7.8
② 軽減対象課税資産の譲渡等及び保税地域から引き取られる軽減対象課税貨物 100分の6.24

3 その他規定の整備  上記1の改正に伴い、現行の別表第一(第6条関係)及び別表第二(第6条関係)は、それぞれ別表第二及び別表第二の二とされるとともに、所要の規定の整備が行われている。

四 確定申告書記載事項及び売上税額の計算方法の見直し
 適格請求書等保存方式の施行(平成33年4月1日)にあわせて軽減税率制度が消費税法本則の規定に位置付けられるが、その改正に伴い、消費税法第43条(仮決算をした場合の中間申告書の記載事項等)、第45条(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告)及び第47条(引取りに係る課税貨物についての課税標準額及び税額の申告等)についても所要の見直しが行われている。
 また、売上げに係る消費税額の計算方法については、改正前の消費税法第45条第1項に位置付けられていた計算方法に加え、従来は、消費税法施行規則に規定されていた積上げ計算の方法が消費税法第45条の中に位置付けられた。

1 確定申告書記載事項の見直し  確定申告書の記載事項等については、複数税率制度に対応する観点から次に掲げる見直しが行われた。
(1)第43条(仮決算をした場合の中間申告書の記載事項等)  仮決算をした場合の中間申告書の記載事項については、
① 第43条第1項第1号に掲げる「課税資産の譲渡等に係る課税標準である金額の合計額」については、「課税資産の譲渡等に係る税率の異なるごとに区分した課税標準である金額の合計額」に、
② 第43条第1項第2号に掲げる「課税標準額に対する消費税額」については、「税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額」に、
それぞれ改正された(消法43①一、二)。
(2)第45条(課税資産の譲渡等及び課税仕入れについての確定申告)  確定申告書の記載事項については、
① 第45条第1項第1号に掲げる「課税資産の譲渡等に係る課税標準である金額の合計額」については、「課税資産の譲渡等に係る税率の異なるごとに区分した課税標準である金額の合計額」に、
② 第45条第1項第2号に掲げる「課税標準額に対する消費税額」については、「税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額」に、
それぞれ改正された(消法45①一、二)。
(3)第47条(引取りに係る課税貨物についての課税標準額及び税額の申告等)  申告納税方式が適用される課税貨物を保税地域から引き取ろうとする者が税関長に提出する申告書の記載事項のうち、「課税貨物の品名並びに品名ごとの数量及び課税標準である金額」については、「税率」を加える改正が行われた(消法47①一)。

2 売上げに係る消費税額の計算方法の見直し  売上げに係る消費税額の計算は、原則として、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等に係る課税標準である金額と特定課税仕入れに係る課税標準である金額の合計額に適用税率を乗じて計算することになるが(消法43①、45①)、適格請求書等保存方式の導入に伴い、適格請求書等に記載した消費税額等を基礎として計算する方法(積上げ計算)が消費税法の規定に位置付けられた(消法43③、45⑤)。
 具体的には、消費税法第45条第1項第2号に規定する「税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額」の計算については、課税資産の譲渡等について交付した適格請求書(課税資産の譲渡等について提供した適格請求書記載事項に係る電磁的記録を含む。)又は適格簡易請求書の記載事項を基礎として政令で定めるところにより計算した金額(積上げ計算)とすることができることとされた(消法45⑤)。
 具体的な計算方法は、今後、公布される政省令で定められることになるが、考え方としては、課税資産の譲渡等について交付した適格請求書等に記載した消費税額等(適格請求書記載事項に係る電磁的記録を提供した場合には、当該適格請求書に記載すべき消費税額等)の合計額に100分の78を乗じて計算することになる。
(注)仮決算による中間申告における「課税標準額に対する消費税額」の積上げ計算については、消費税法第43条第3項に規定されているが、具体的な計算方法については、同法第45条第3項の規定の例により計算する旨が規定されている。
 なお、課税資産の譲渡等の時期の特例(消法16①、17①②、18①等)の適用を受ける課税資産の譲渡等については、課税資産の譲渡等のタイミングで交付される適格請求書等を通じて「売上げに係る消費税額」と「仕入れに係る消費税額」を一致させることができないことを踏まえ、積上げ計算の適用対象外とされている。

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