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解説記事2017年01月30日 【論考】 配偶者控除の課題と在り方(2017年1月30日号・№676)

論考
配偶者控除の課題と在り方
 神奈川大学法学部教授 葭田英人

Ⅰ はじめに

 配偶者控除は、専業主婦や一定収入のパート主婦の世帯を減税し、女性の働く意欲を低下させているといわれている。女性が就業調整をすることを意識せずに働くことができ、安心して結婚し子供を産み育てることができる税制が、配偶者控除見直しのねらいである。
 以前から、政府税制調査会において、女性の社会進出や就労拡大を抑制しているといわれている配偶者控除制度の見直しが検討されてきた。平成26年11月7日、政府税制調査会において、議論を進めるにあたり、①配偶者控除の廃止、②配偶者控除適用に所得制限、③移転的基礎控除の導入、④移転的基礎控除の導入と税額控除化、⑤夫婦控除の創設を挙げて検討された。
 今般、平成29年度税制改正大綱において、平成30年1月から配偶者控除を受けられる配偶者の年収を103万円以下から150万円以下に引き上げ、150万円を超えても9段階で控除額を縮小し、年収201万円未満は控除の一部を受けられるようにするが、世帯主の年収が1120万円を超えると控除額を段階的に減らし、1220万円で適用外とする所得制限を設ける。なお、配偶者特別控除の対象となる配偶者の給与所得金額を103万円超201万円以下(現行103万円超141万円未満)とし、その控除額を世帯主の給与所得金額と配偶者の給与所得金額に応じて行う方針を盛り込んだ。
 そこで、本稿において、配偶者控除の見直しが女性活躍の政策となるのか。配偶者控除の意義を明らかにし、配偶者控除の課題と在り方を検討する。

Ⅱ 配偶者控除の意義
 昭和36年度税制改正において、配偶者控除は、家事や育児などで世帯主の所得稼得に貢献しているとする「内助の功」と、夫婦という共同体において夫婦の所得は一体であるとする考え方から、扶養控除から分離して創設された。さらに、事業所得において配偶者を含む家族従業員の専従者控除が認められていることから、世帯主の配偶者控除が設けられた。
 また、憲法25条において、所得のない者に給付を、所得のある者に最低生活費を控除することが定められていて、所得税法上は基礎控除により保障されていることから、世帯主はだれでも基礎控除が認められているが、所得がない専業主婦は基礎控除を受けることができない。そこで、世帯主の所得から所得のない配偶者の最低生活費を控除する世帯主の配偶者控除が認められた。

Ⅲ 配偶者控除の課題

1 就業調整の「壁」
 配偶者の年収が103万円(改正後150万円)を超えると世帯主は配偶者控除を受けられなくなり、配偶者自身の所得税や住民税の納税義務が発生し、配偶者の年収103万円以下が企業の配偶者手当の支給基準となっていることから、配偶者が就業調整をするものと解されている。
 しかし、社会保険においては、配偶者の年収が130万円以上となると世帯主の扶養となることはできず、健康保険や年金について、配偶者自身が社会保険料を支払わなければならない。なお、2016年10月から大企業のパートの社会保険料の徴収基準が年収106万円に下がった。
 税制改正大綱において、配偶者控除を受けられる配偶者の年収が103万円から150万円に上がったことから、パート主婦は働きに出やすくなった。また、配偶者控除の適用を条件に配偶者手当を支給している企業においては、特段の見直しがなければ、配偶者手当の年収も150万円にスライドすることになるであろう。しかし、社会保険の130万円の壁が存在することから、就業調整は配偶者の年収が130万円まで行われるということになる。
 このように社会保険の壁が存在することから、税制と社会保障の見直しが整合しているとは言い難い。さらに、フルタイムで働きたいという配偶者には、依然として150万円の壁があり、女性の社会進出を阻害しているとする批判は解消されない。

2 二重の控除  専業主婦世帯では、世帯主は基礎控除と配偶者控除の適用を受けることはできるが、配偶者の控除は何もない。さらに、共働き世帯では、世帯主は基礎控除のみ適用を受け、配偶者も基礎控除のみの適用となる。それに対して、パート世帯においては、配偶者が基礎控除の適用を受けられるとともに、世帯主も基礎控除と配偶者控除または配偶者特別控除の適用を受けることができ、二重の控除が行われている。そのため、専業主婦世帯や共働き世帯よりも控除額の合計額が多く、世帯間の税負担の公平性の問題が指摘されている。
 専業主婦世帯において、世帯主の所得から配偶者の最低生活費として配偶者控除をすることは問題ないが、パート世帯において、配偶者の基礎控除を、世帯主の配偶者控除または配偶者特別控除から減額する仕組みを工夫する必要がある(注1)。

Ⅳ 配偶者控除の在り方

1 配偶者控除の廃止
 専業主婦世帯において、配偶者の家事労働による内助の功が認められ、世帯主の所得の増加要因であるが課税できないことから、配偶者控除を廃止して、単身世帯や共働き世帯との税負担の均衡を図り、配偶者の収入により世帯主の控除額が影響されない中立的な仕組みとするという考え方がある。
 しかし、配偶者は多面的な役割を担っており、税制上の配慮を行う必要がある。さらに、配偶者の貢献が世帯主の所得を増加させているが、累進税率の下では、税負担の増加を緩和するために配偶者控除による配慮が必要である。そして、憲法25条において保障されているとおり、世帯主の所得から所得のない配偶者の最低生活費分を控除する配偶者控除は廃止すべきではない。

2 配偶者控除の適用に所得制限  世帯主が高所得者であるほど、所得控除である配偶者控除の適用は、累進課税により税負担の軽減効果が大きく、配偶者による税負担能力の減殺についても配慮する必要性は乏しいことから、配偶者控除の適用に世帯主の所得に応じた制限を設けることが、税制改正大綱に盛り込まれた。
 具体的に配偶者控除額は、世帯主の年収が1120万円以下の場合には38万円、1120万円超1170万円以下の場合は26万円、1170万円超1220万円以下の場合は13万円であり、世帯主の年収が1220万円を超えるか、配偶者の年収が201万円を超えると配偶者控除を受けられなくなる。これらの制限を設けることにより税収が減少することを防ぐためである。しかし、高所得者世帯に対する増税は景気にマイナスに働く懸念もある。また、中低所得世帯においても、配偶者の働き方によって世帯主の配偶者控除額が影響を受けることになる。

3 移転的基礎控除の導入  移転的基礎控除とは、配偶者控除の代わりに、配偶者の所得から控除しきれなかった基礎控除を世帯主に移転することにより、配偶者の収入に関わらず夫婦2人で受けられる控除の合計額を一定にすることにより二重の控除がなくなり、パート世帯と専業主婦世帯および共働き世帯との世帯間の税負担の公平性が確保される。しかし、移転的基礎控除を所得控除のまま適用する場合、配偶者の税率が世帯主の税率より低いときには、配偶者が就労を抑制し、世帯主が配偶者から移転された基礎控除の適用を受ける方が、税負担が軽減されることになり、配偶者の就業調整を促進し、就労拡大が抑制される可能性がある。

4 移転的基礎控除の導入と税額控除化  移転的基礎控除の導入の問題に対応するため、基礎控除を税額控除化することにより、夫婦2人で受けられる税負担軽減額が一定になるようにする方法がある。つまり、所得控除が高所得者にとってより有利になり、低所得者にとって不利になるのは累進税率によるものであり、所得の多寡にかかわらず一定額の負担軽減となる税額控除を活用する方法である。
 所得控除では、直面する税率が高い高所得者ほど税負担軽減効果が大きくなり、所得控除より税額控除の方が、所得格差是正効果が大きい(注2)。したがって、収入の大小にかかわらず、税負担の軽減額が一定になる中立的な税制である税額控除方式への転換を検討する必要がある。

5 夫婦控除の創設  夫婦世帯に対する政策的な配慮を行うものとして、夫婦控除が税制調査会において検討された。夫婦控除とは、配偶者控除を廃止し、配偶者の収入にかかわらず夫婦で一定額を控除する仕組みである。
 しかし、すべての夫婦世帯を対象とすることからかなりの税収減となり、また、夫婦に着目しすぎると単身者に不利となり、さらには夫婦の定義によっては事実婚が排除されるなど、税法が婚姻に対して中立的でなくなるマイナス要因も多々含まれる(注3)。
 夫婦控除は、配偶者控除を廃止し、働き方にかかわらず控除が受けられることから、働き方改革にも貢献できるとされていたが、政治的配慮から税制改正大綱には盛り込まれなかった。

Ⅴ むすび
 税制調査会において、配偶者控除を廃止し、年収に左右されない夫婦控除の導入が検討されたが、税制改正大綱においては、配偶者控除を受けられる配偶者の年収を103万円以下から150万円以下に引き上げ、パートがもう少し働けるという改正に留まった。
 少なくとも、配偶者控除の在り方としては、所得控除方式では高所得者ほど税負担の軽減効果が大きくなることから、年収にかかわらず税負担の軽減額が一定になる中立的な税額控除方式へ転換する必要がある。さらに、低所得者について、税額控除できない部分を還付する給付付き税額控除は、賃金補助機能を有するものであり有効に機能するものと考える。
(注1)伊田賢司 「配偶者控除を考える」立法と調査358号(2014)19頁。
(注2)土居丈朗「所得税の税額控除新設試案に関するマイクロ・シミュレーション」三田学会雑誌109巻1号(2016)62頁。
(注3)渡辺 充「配偶者控除見直しの新たな論点と所得税改革」税理59巻14号(2016)11頁。

葭田英人 よしだ ひでと
1952年石川県生まれ。筑波大学大学院修了。専門分野は会社法・税法・信託法。『基本がわかる会社法』(三省堂・2017)、『信託の法制度と税制』(税務経理協会・2017)、『中小企業と法(第二版)』(同文舘出版・2015)、『合同会社の法制度と税制(第二版)』編著(税務経理協会・2015)、『会社法入門(第四版)』(同文舘出版・2015)、『持分会社・特例有限会社の制度・組織変更と税務』編著(中央経済社・2013)ほか、著書・論文多数。

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