解説記事2017年03月27日 【ニュース特集】 裁決事例から読む価格調整金等の取扱い(2017年3月27日号・№684)
ニュース特集
変更するための“合理的な理由”とは?
裁決事例から読む価格調整金等の取扱い
移転価格税制ではしばしば価格調整金等の取扱いが問題となる。国外関連取引においては、当初、独立企業間価格となるように設定したとしても、原材料の高騰等によりその後変更し、価格調整金等を支払うケースがある。価格を変更した場合、その変更に合理的な理由があるか否かが問われることになるが、合理的な理由がなければ国外関連者への寄附金として課税されることもある。本特集では、裁決事例を紹介しつつ価格調整金等の取扱いを解説する。
価格調整金等の支払いに合理的理由がなければ寄附金課税
価格調整金等とは、企業がすでに行った国外関連取引に係る対価の額を事後的に移転価格上適正な価格である独立企業間価格に変更するため、国外関連者に支払う金員のこと。価格調整金等の支払いについては、当該支払等が合理的な理由に基づくものであることを認められる必要があり、認められない場合には寄附金課税が行われる(措法66条の4③)。
合理的な理由に基づくものであるかどうかは、支払等に係る理由、事前の取決めの内容、算定の方法及び計算根拠、当該支払等を決定した日、支払等をした日等を総合的に勘案して検討することになる(移転価格事務運営指針3-20)。
移転価格事務運営要領別冊で例示 “合理的な理由”に基づくものであるかどうかは税務上よく問題となるが、具体的な取扱いは、「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」事例26(価格調整金等の取扱い)に示されている。
事例では、企業が国外関連取引を開始した後に遡及して取引を改定し、国外関連者に価格調整金等の支払いを行う場合の取扱いに関するものとして、①非関連者間取引において同様の価格調整金等の支払いが行われる場合、②企業と国外関連者との事前の取決めに基づいて価格調整金等の支払いが行われる場合-の2つのケースが説明されている。
①は、原材料の価格高騰後、遡及して取引価格を改定することとし、改定に伴う価格調整金等を国外関連者に支払っているが、類似する非関連者間取引においても同様の改定が行われているケース。②は、例えば取引単位営業利益法により製品の取引価格を設定する場合、決算期後に確定する売上高営業利益率の実績率と独立企業間の指標が乖離した場合、期中の取引価格を決算期末で改定する旨を取り決め、事前に覚書を取り交わしているケースであり、どちらのケースも合理的な理由に基づく取引価格の修正によるものと認められている(表1参照)。
審判所、事前の取決めも合理的な理由もなし
実際に価格調整金等の取扱いで争われた裁決事例をみてみよう。本件は、請求人(合成樹脂製品の製造及び販売等を業とする法人)が、国外関連者である法人とのサービス契約に係る対価の額とする金額を損金の額に算入したことについて、原処分庁が当該金額はサービス契約に係る役務の提供がないにもかかわらず、国外関連者と通謀して架空の契約書を作成し損金の額に算入したものであるとして法人税及び復興特別法人税の更正処分等を行ったもの。これに対し請求人が、当該金額は国外関連者への製品の販売に係る取引価格の修正による価格調整金等であり、損金の額に算入されるとして、同処分等の取消しを求めた事案である(東裁(法)平27第146号)。
駐在員増員によるコスト増等が理由 請求人は、売上げの減少及びビジネス拡大のための現地駐在員増員によるコストの増加などにより営業利益が激減することとなったため、損益がゼロとなるよう請求人等から価格調整金等を支払うものであると主張。これに対し原処分庁は、①営業損失について何が原因で生じたのかを具体的に分析検討した資料がなく、請求人が支払う理由が不明であること、②価格調整金等の支払い及び計算方法についての事前の取決めがないことなどから、本件サービスフィーは合理的な理由に基づく取引価格の修正による価格調整金等とは認められないとしていた。
事務運営指針等は移転価格税制の趣旨に適合 審判所は、移転価格事務運営指針3-20及び参考事例集の事例26は価格調整金等の名目で決算時の利益調整や子会社支援のために取引価格を遡及改定して国外関連者に金銭を贈与するなどの事例を想定して、支払等に係る理由、事前の取決めの内容、算定の方法及び計算根拠などから、当該支払等が合理的な理由に基づくものと認められるか否かを検討し、①合理的な理由に基づくものと認められる場合には、取引価格の修正として当該価格調整金等を国外関連取引に係る対価の額に加味して移転価格税制上の検討を行う必要があり、②合理的な理由に基づくものと認められない場合には、当該支払等が寄附金課税規定の適用を受けるものであるか検討する必要がある旨を示していると指摘。また、同事務運営指針等に示された国外関連取引に係る取引価格の遡及改定に関するこれらの取扱いは、非関連者間の取引における取引価格の遡及改定の実態を踏まえたものと解され、国外関連者との取引等に係る所得の国外移転を規制する移転価格税制及び寄附金課税規定の趣旨に適合するものであり、相当であると認められるとした。
その上で請求人が支払ったサービスフィーは、事実認定(表2参照)によれば、国外関連取引に係る取引価格の遡及改定に関する事前の取決めがあったと認められないこと、また、支払等に係る理由、算定の方法及び計算根拠が本件国外関連取引に係る取引価格を事後に変更する場合の合理的な理由又は算定とはいえないことから、合理的な理由に基づく取引価格の修正による価格調整金等に該当しないと判断。寄附金課税の対象になるとした。
【表2】事実認定(本件サービスフィーは、合理的な理由に基づく取引価格の修正による価格調整金に該当するか)
変更するための“合理的な理由”とは?
裁決事例から読む価格調整金等の取扱い
移転価格税制ではしばしば価格調整金等の取扱いが問題となる。国外関連取引においては、当初、独立企業間価格となるように設定したとしても、原材料の高騰等によりその後変更し、価格調整金等を支払うケースがある。価格を変更した場合、その変更に合理的な理由があるか否かが問われることになるが、合理的な理由がなければ国外関連者への寄附金として課税されることもある。本特集では、裁決事例を紹介しつつ価格調整金等の取扱いを解説する。
価格調整金等の支払いに合理的理由がなければ寄附金課税
価格調整金等とは、企業がすでに行った国外関連取引に係る対価の額を事後的に移転価格上適正な価格である独立企業間価格に変更するため、国外関連者に支払う金員のこと。価格調整金等の支払いについては、当該支払等が合理的な理由に基づくものであることを認められる必要があり、認められない場合には寄附金課税が行われる(措法66条の4③)。
合理的な理由に基づくものであるかどうかは、支払等に係る理由、事前の取決めの内容、算定の方法及び計算根拠、当該支払等を決定した日、支払等をした日等を総合的に勘案して検討することになる(移転価格事務運営指針3-20)。
移転価格事務運営要領別冊で例示 “合理的な理由”に基づくものであるかどうかは税務上よく問題となるが、具体的な取扱いは、「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」事例26(価格調整金等の取扱い)に示されている。
事例では、企業が国外関連取引を開始した後に遡及して取引を改定し、国外関連者に価格調整金等の支払いを行う場合の取扱いに関するものとして、①非関連者間取引において同様の価格調整金等の支払いが行われる場合、②企業と国外関連者との事前の取決めに基づいて価格調整金等の支払いが行われる場合-の2つのケースが説明されている。
①は、原材料の価格高騰後、遡及して取引価格を改定することとし、改定に伴う価格調整金等を国外関連者に支払っているが、類似する非関連者間取引においても同様の改定が行われているケース。②は、例えば取引単位営業利益法により製品の取引価格を設定する場合、決算期後に確定する売上高営業利益率の実績率と独立企業間の指標が乖離した場合、期中の取引価格を決算期末で改定する旨を取り決め、事前に覚書を取り交わしているケースであり、どちらのケースも合理的な理由に基づく取引価格の修正によるものと認められている(表1参照)。
審判所、事前の取決めも合理的な理由もなし
実際に価格調整金等の取扱いで争われた裁決事例をみてみよう。本件は、請求人(合成樹脂製品の製造及び販売等を業とする法人)が、国外関連者である法人とのサービス契約に係る対価の額とする金額を損金の額に算入したことについて、原処分庁が当該金額はサービス契約に係る役務の提供がないにもかかわらず、国外関連者と通謀して架空の契約書を作成し損金の額に算入したものであるとして法人税及び復興特別法人税の更正処分等を行ったもの。これに対し請求人が、当該金額は国外関連者への製品の販売に係る取引価格の修正による価格調整金等であり、損金の額に算入されるとして、同処分等の取消しを求めた事案である(東裁(法)平27第146号)。
駐在員増員によるコスト増等が理由 請求人は、売上げの減少及びビジネス拡大のための現地駐在員増員によるコストの増加などにより営業利益が激減することとなったため、損益がゼロとなるよう請求人等から価格調整金等を支払うものであると主張。これに対し原処分庁は、①営業損失について何が原因で生じたのかを具体的に分析検討した資料がなく、請求人が支払う理由が不明であること、②価格調整金等の支払い及び計算方法についての事前の取決めがないことなどから、本件サービスフィーは合理的な理由に基づく取引価格の修正による価格調整金等とは認められないとしていた。
事務運営指針等は移転価格税制の趣旨に適合 審判所は、移転価格事務運営指針3-20及び参考事例集の事例26は価格調整金等の名目で決算時の利益調整や子会社支援のために取引価格を遡及改定して国外関連者に金銭を贈与するなどの事例を想定して、支払等に係る理由、事前の取決めの内容、算定の方法及び計算根拠などから、当該支払等が合理的な理由に基づくものと認められるか否かを検討し、①合理的な理由に基づくものと認められる場合には、取引価格の修正として当該価格調整金等を国外関連取引に係る対価の額に加味して移転価格税制上の検討を行う必要があり、②合理的な理由に基づくものと認められない場合には、当該支払等が寄附金課税規定の適用を受けるものであるか検討する必要がある旨を示していると指摘。また、同事務運営指針等に示された国外関連取引に係る取引価格の遡及改定に関するこれらの取扱いは、非関連者間の取引における取引価格の遡及改定の実態を踏まえたものと解され、国外関連者との取引等に係る所得の国外移転を規制する移転価格税制及び寄附金課税規定の趣旨に適合するものであり、相当であると認められるとした。
その上で請求人が支払ったサービスフィーは、事実認定(表2参照)によれば、国外関連取引に係る取引価格の遡及改定に関する事前の取決めがあったと認められないこと、また、支払等に係る理由、算定の方法及び計算根拠が本件国外関連取引に係る取引価格を事後に変更する場合の合理的な理由又は算定とはいえないことから、合理的な理由に基づく取引価格の修正による価格調整金等に該当しないと判断。寄附金課税の対象になるとした。
【表2】事実認定(本件サービスフィーは、合理的な理由に基づく取引価格の修正による価格調整金に該当するか)
| (取引価格の遡及改定に関する事前の取決めについて)
・国外関連取引に係る取引価格は、販売会社の予想の売上げ及び合理的な営業費用に基づき、独立企業間の営業利益を獲得することができるように請求人と販売会社が1年ごとにあらかじめ合意するものであると認められる。 ・国外関連取引に係る取引価格は、製造原価の額に当該額の××相当額のマークアップを加算した額で設定しており、当該価格の設定は販売会社が独立企業間の営業利益を獲得することができるよう合意したものと認められるが、当該移転価格文書は外部の法律事務所が、請求人及び国外関連者との取引が独立企業間価格で行われたか否かの分析、決定及びその結果を事後にまとめたものである。欧州及びアジア・太平洋地域の比較対象企業の3年間の数値に基づき計算された営業利益率の記載があることをもって、営業利益率に関する事前の合意があったとは認められない。 ・国外関連取引に係る販売会社の営業利益率が独立企業間の営業利益率に満たない場合に、取引価格を遡及改定し、当該改定に係る価格調整金を授受する旨の記載はない。 (支払等に係る理由並びに算定の方法及び計算根拠について) ・サービスフィーの計上について国外関連取引に係る販売会社の損益を具体的に確認し検証したとは認められないことからすれば、本件サービスフィーは移転価格文書に従い支払うものとは認められず、請求人の主張する支払等に係る理由は本件国外関連取引に係る取引価格を事後に変更する合理的な理由とはいえない。なお、請求人から、本件事業年度における本件国外関連取引に関し、非関連者間でも事後の取決めにより遡及し取引価格が変更されている旨の主張はない。 ・サービスフィーは、国外関連取引に係る販売会社が得るべき独立企業間の営業利益の額と営業利益の額の実績値との差額を基に算定したものとは認められないから、請求人の販売会社の損益を均衡させるための金額の算定は、国外関連取引に係る取引価格を事後に変更する場合の合理的な算定の方法及び計算根拠とはいえない。 |
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