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解説記事2017年06月05日 【税務マエストロ】 トランプ税制改革と日本企業への影響(2017年6月5日号・№693)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
トランプ税制改革と日本企業への影響

#190 品川克己
PwC税理士法人

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#191
旅行業者における消費税実務のポイント(1)
税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。

マエストロの解説  先般(米国時間4月26日)、トランプ政権は税制改革案のアウトラインを発表した。米国における税制改革については、前政権のオバマ大統領の時代から議論されてきており、いまだいくつかの問題点はあるものの、ここにきて税制改革の実現可能性が高まってきている。これは、トランプ大統領に政権が移るとともに、上下院で共和党が過半数を確保したことから、これまでの議会と大統領とのねじれが解消したことが大きな要因といえよう。また、現政権が、大幅減税等の税制改革による経済成長を政権にとっての重要な課題と位置付けていることも影響しているといえよう。

1 税制改革アウトラインの概要
(1)キャンプ案からの変遷
 今般の税制改革アウトラインに至る流れは、2014年の「キャンプ案」に始まったといる。キャンプ案は、下院歳入委員会議長であるデイブ・キャンプ氏が中心となってまとめられた税制改正案であるが、法人税率の引き下げ、外国子会社配当免税など、全体的に税負担の引き下げ方向のものとなっていた。しかしながら、富裕層に対する税負担のあり方について、民主党と共和党との合意ができず、実質的に棚上げになっていたものである。
 その後トランプ氏が大統領選挙中に「トランプ案」として税制改革案を、また、共和党が2016年6月に「共和党BP(ブループリント:素案)」を発表したが、どちらもキャンプ案をベースにその他いくつかの抜本的改正の項目を加えた形のものとなっている。これら3案を比較すると、いくつかの傾向を読み取ることができる。
イ)税率引き下げについては、現行の35%に対し、25%~15%の範囲での減税が提案されている。また、パススルー事業体による利益については、構成員個人の段階での課税(現行最高税率39.6%)について、減税が提案されている(共和党BP最大25%、トランプ案最大15%)。
ロ)国際課税原則につき、3案ともテリトリアル課税への移行が提案されている。具体的には、外国子会社配当の実質免税及び海外の留保所得に対して一時のトールチャージ(いわゆるみなし配当として認識して課税し、過去の利益とテリトリアル化後の利益と課税調整する)。
ハ)国境調整については、共和党BPのみが提唱している。
ニ)国内製造活動の特別控除及び代替ミニマム税については、3案とも廃止を提案している。
(2)予算調整制度とアウトライン  米国における税制改正(法律改正)のプロセスとしては、基本的に2つの方法がある。一つは、通常の立法過程による方法であるが、これには上院議会で100議席中60票以上の賛成が必要とされている。現状、与党共和党の上院議席は52であるため、民主党の一部の協力、賛成が取り付けられなければ法案は成立しないこととなる。もう一つの方法は、「予算調整措置」を通じて税制改正を行う方法である。この方法は、歳入、歳出に関する法案制定に限り適用されるものであり、過半数の賛成で法案が成立することとなる。ただしこの場合、税制改正の10年経過後に予算見積もりに照らし、赤字が増加する場合は改正が失効することとなる。つまり10年間の時限立法といえる。過去には、2001年、2003年にブッシュ大統領が行った減税もこの予算調整措置の一部がオバマ政権時に廃止されている。
(3)税制改革アウトラインの概要
 ① 改正項目
 4月26日に発表された税制改革アウトラインには、以下の項目があり、その多くはトランプ案にそったものであるが、詳細は明らかになっておらず、また法案化されたものではない点に注意する必要がある。
イ)法人税
 ・法人税率の15%への引下げ
 ・パススルー事業体を通じて個人が得る所得に対する最大税率の15%への引下げ
 ・テリトリアル課税への移行
 ・海外留保利益に対する一時のみなし配当課税(トールチャージ)
 ・代替ミニマム税の廃止
ロ)個人所得税
 ・個人所得税率を6段階から3段階(10%、25%、35%)へ簡素化
 ・最高税率(現行39.6%)の引下げ
 ・投資所得付加税(3.8%)の廃止
 ・各種所得控除の大幅な撤廃(住宅ローン利子控除、寄付金控除は維持)
 ・遺産税(estatetax)及び代替ミニマム税の廃止
 ② 含まれていない項目  これまで議論されていた項目のうち、次のものについては、今回の発表では触れられていない。ただし、国境調整については、共和党BPそのままの形での導入はないものの、今後も議会との協議が続けられるとされている(ムニューチン財務長官)。
 ・国境調整
 ・設備投資の即時損金化、純支払利子の損金不算入
 ・育児支援の優遇税制
 ・累進税率の区切りの変更

2 税制改革の重要項目
(1)法人税率の引き下げ
 法人税率は15%への引下げとされている。2014年のキャンプ案では、現行の35%から25%への引下げ、共和党BP案では20%、トランプ案では15%が提案されていたことを考慮すれば、いずれにせよ大幅な減税が実現するものと考えられる。
 仮に20%未満の税率とされた場合、日本の外国子会社合算税制における免除基準(一般的には20%)を下回ることとなり、経済活動基準の充足の有無が重要な検討項目となる。また、経済活動基準を充足していたとしても、利子、配当等の受動所得の合算課税にも注意が必要となる。ほぼすべての米国子会社の受動的所得は合算課税の対象となることが考えられる。
(2)テリトリアル課税への移行  米国は、現在、全世界所得課税を維持しており、基本的に米国法人の米国外の所得についても課税対象としている。米国法人の海外子会社の所得について、具体的には、米国内に配当として還流した段階で課税されることとなる(間接外国税額控除は適用される)。このため、米国法人には海外子会社の利益を米国に配当せず、海外に留保する誘因が働き(いわゆるロックイン効果)、その累積額は2.5兆ドルに上るといわれている。
 今般のアウトラインでは、ロックイン効果を排除し、米国内への利益の還流と国内再投資を促進するため、全世界所得課税から、テリトリアル課税への移行が提案されている。テリトリアル課税とは、自国領域内の所得のみを課税対象とし、国外の稼得所得を免税とするものであるが、具体的には外国子会社からの配当を非課税(益金不算入)とすることとなる。
 また、制度の変更時の調整及び一定の歳入確保の観点から、海外留保所得に対する一時の課税(みなし配当課税)が提案されている(トールチャージ)。ただし、このみなし配当課税については米国への還流促進といった趣旨から、おそらくある一定の軽減税率が適用されることとなると考えられる。トランプ案では軽減税率については一律10%とされていたが、アウトラインでは今後の協議に任されている。
 なお、テリトリアル課税ということであれば、国外のPE所得についても非課税とすることとなろうが、この点についてはいまのところ言及されていない。
(3)課税ベースに関する改正項目(アウトラインに含まれないものも含む)
 ① 純支払利子の損金不算入
 受取利子額を超える支払利子額を損金不算入とするものであるが、資本調達(負債と資本)の中立性を担保するという意味合いがある。これも共和党BP案、トランプ案で提唱されていたが、アウトラインでは言及されていない。
 ② 減価償却費の即時全額損金化  アウトラインでは言及されていないが、共和党BP案では原価償却費を即時償却することが提案されていた。トランプ案でも、国内製造業者は選択により即時償却が認められる。この即時償却は、設備投資を促進する効果が狙いとされている。
 ③ 繰越欠損金の使用制限  共和党BP案では、繰越欠損金の使用制限を撤廃し、さらに繰越額についての利子の加算、インフレ調整を認める一方で、使用可能額は90%に制限し、また繰戻制度は廃止するよう提案されていた。
 ④ 租税特別措置の大幅な廃止  税制の簡素化を目的として、国内製造活動に係る特別控除やR&D税額控除及び外国税額控除以外の各種税額控除を廃止することが提案されていた。共和党BP、トランプ案とも同様であるが、アウトラインでは言及されていない。おそらく、共和党BP、トランプ案の流れに沿うことになると思われる。
(4)その他の含まれていない制度
 ① 国境調整(Border Adjustment)
 国境調整については、共和党BP案に含まれていたが、トランプ案及び今回のアウトラインには含まれていない。これは、国境調整という制度に対し、米国産業界で支持・不支持が割れていることに加え、トランプ大統領が「複雑すぎる」という考えを持っているためと考えられる。
 この国境調整は、法人税に消費税と同様の輸入課税・輸出免税の仕組みを入れるもので、制度の詳細は不明であるものの、具体的にはおそらく、
(イ)輸出に係る収益、例えば輸出売上、海外からの受取ロイヤルティは益金不算入としつつ、輸出に係る費用は損金算入
(ロ)輸入に係る支払、例えば輸入仕入、海外への支払ロイヤルティは損金不算入とするものと考えられる。
 この国境調整制度によるメリットとしては、
(イ)米国連邦税には輸入課税・輸出免税の仕組みがないため、日本や欧州諸国など、消費税、VATを採用する他の先進国の多国籍企業と米国企業が、本制度の導入により、海外市場で同等の競争条件に置かれることになる
(ロ)国境調整のもとでは、製造活動ではなく、顧客の所在地国で課税が行われることとなるため、米国企業が製造活動や無形資産、所得を低税率国へ移転する税務上のインセンティブが失われる
(ハ)米国の現在の貿易収支を前提にすると、約1.2兆ドルの増収が見込めることが挙げられている。
 ② 仕向地主義キャッシュフロー税
 (Destination-based Cash Flow Tax)
 共和党BP案では、上記国境調整措置と併せ、仕向地主義キャッシュフロー税という新しい事業課税が提唱されている。この制度も詳細が不明な部分が多いが、この制度の導入により、課税ベースが所得から消費へ移行し、米国の法人税は実質的にVATと類似のものになると考えられる(支払国内賃金を損金算入としている点がVATとは異なる点として挙げられる。)。
 この仕向地主義キャッシュフロー税はWTOのGATT協定との関係で問題点が指摘されている。GATTでは、輸入品に対し国内品を超える税負担を課すことが禁止されており、また、国境調整が認められるのは間接税に限定されている。この点に関し、仕向地主義キャッシュフロー税は経済的にはVATと雇用者への賃金補助と同じであり、それぞれがGATT違反とならないことから、仕向地主義キャッシュフロー税もGATT違反とならないという考えの一方で、国内支払賃金を課税ベースから除外していることからVATとは同一視できず、GATT違反であるとの見解もある。
 その他、租税条約との関係での論点、つまり、租税条約の対象税目である所得に対する税か否か、源泉徴収の適用関係、条約相手国との調整といった問題や、既存の制度との整合的な経過措置(たとえば繰越欠損金の取扱いなど)、会計上の取り扱い(VATとするか法人税とするか)などの不明確な論点が多くあるため、今後税法改正案に含まれるかどうかはかなり不透明と考えられる項目である。

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