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解説記事2017年06月19日 【ニュース特集】 行為計算否認、ヤフー及びIBM判決の影響鮮明(2017年6月19日号・№695)

ニュース特集
もはや“伝家の宝刀”とは言えない法法132条
行為計算否認、ヤフー及びIBM判決の影響鮮明

 最高裁でIBM事件ヤフー・IDCF事件の判決が確定(IBM事件の上告不受理決定が2016年2月18日、ヤフー・IDCF事件の上告棄却が2016年2月29日)してから1年余りが経過したが、両事件の判決で示された行為計算否認規定の適用ロジックが既に税務執行の現場にも浸透していることをうかがわせる否認事例が、法人税法132条、132条の2のいずれについても出ている。
 特に注意しなければならないのは法人税法132条だろう。法人税法132条について、「経済的合理性」のみを適用の判断基準とするとの解釈を示したIBM判決は納税者にとって非常に厳しいものと言えるが、課税当局はまさにこの判断基準に則り、従来であれば寄附金課税の対象となっていたと考えられる事例に対し法人税法132条を適用している。中小同族法人やその顧問税理士等は、決して“対岸の火事”ではないことを認識する必要がある。
 本特集では、ヤフー・IDCF事件、IBM事件確定後に審判所で裁決が下された法人税法132条、132条の2の否認事例を取り上げる。

「税法の濫用=租税回避」という最高裁の判断基準に基づき否認
 まずは、ヤフー・IDCF事件の最高裁判決(平成28年2月29日)後の同年7月7日に裁決が下された法人税法132条の2による否認事例を紹介しよう。
 本件で問題となったのが、被合併法人の繰越欠損金の引継ぎ制限規定だ。法人税法上、適格合併等が行われた場合には、被合併法人の欠損金は合併法人に引き継がれるのが原則だが(法法57条②)、欠損金の引継ぎのみを目的とした適格合併が行われることを防止するため、一定の適格合併については、被合併法人の繰越欠損金の引継ぎが制限される。具体的には、次のいずれにも「該当しない」適格合併である(法法57条③柱書き)。すなわち、一定期間の支配関係があるか、みなし共同事業要件(法令112条③)を満たさない限り、欠損金の引継ぎが制限されることになる。ヤフー・IDCF事件では(1)のみなし共同事業要件(そのうち「特定役員引継要件(法令112条③五))が問題となったが、本件では(2)の継続支配要件が問題とされている。

繰越金の引継ぎ制限を受けないための要件
(法法57条③)
(1)その適格合併が共同で事業を営むための適格合併に該当すること(みなし共同事業要件を満たすこと)
(2)合併法人の適格合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日、被合併法人の設立の日又は合併法人の設立の日のうち最も遅い日から継続して支配関係があること

 本件に法人税法132条の2が適用されたことからも分かるように、本件は形式的には(2)が求める継続支配要件を満たしていたとはいえ、租税回避の意図が濃厚な事例と言える。
 本件には3つの法人が登場する。まず請求人、そして、請求人が合併の5年以上前から完全子会社としていた会社(以下、「旧子会社」)、そして、請求人が合併の直前に設立した完全子会社(以下、「新子会社」)である。
 請求人は未処理欠損金を有する旧子会社を吸収合併したが、同日に旧子会社の事業を新子会社に引き継いでいる。しかも、新子会社と旧子会社は同じ名称であり、役員も同じだった。請求人と旧子会社は5年以上の支配関係があったことから、形式的には上記(2)の継続支配要件を満たしていた。そこで請求人は、旧子会社の未処理欠損金を引き継いだ。
 これに対し課税当局は、法人税法132条の2を適用し、当該欠損金の引継ぎを否認している。請求人はこの課税処分を不服とし、本件は国税不服審判所で争われることになったが、注目されるのは、課税当局側が、ヤフー・IDCF事件の最高裁判決を引用し、同判決で示された「税法の濫用=租税回避」とする“濫用基準”に基づき、法人税法132条の2が適用されるとの主張を行っているという点だ。これは、課税当局における今後の税務執行のスタンスを明確に示している。
 そして、審判所も課税当局の主張を支持している。上記表1(法法132条の2の適用基準 ヤフー・IDCF事件の最高裁判決と本件裁決の比較)は、法人税法132条の2の適用の可否に関するヤフー・IDCF事件の最高裁判決と本件裁決の判断を抜粋したものだが、本件裁決が最高裁判決の濫用基準をほぼ完全に踏襲していることがうかがえる。

【表1】法法132条の2の適用基準 ヤフー・IDCF事件の最高裁判決と本件裁決の比較
ヤフー・IDCF事件の最高裁判決 本件裁決
組織再編成は、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから、法132条の2は、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものと解され、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止する規定として設けられたものである。このような同条の趣旨及び目的からすれば、同条にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下「組織再編税制」という。)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、……以下略 同条(編注:法法132条の2)は、組織再編成が、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止する規定として設けられたものであること、また、同条の規定上、同法第57条第3項に規定する要件に該当しない組織再編成に対して、同法第132条の2の適用から除外する規定も設けられていないことからすると、個別的な否認規定である同法第57条第3項に規定する要件に該当しない適格合併で同条第2項を適用したものについて、それが租税回避の手段として濫用するものであれば同法第132条の2の規定の適用は認められるものと解することが相当である。

「濫用」の有無の判断基準も最高裁を踏襲
 また、ヤフー・IDCF事件の最高裁判決では、「濫用」の有無の判断基準について、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか――等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かによって判断することとされたが、本裁決における課税当局の主張及び審判所の判断は最高裁判決と一言一句違わぬものとなっている(表2「濫用」の有無の判断基準 ヤフー・IDCF事件の最高裁判決と本件裁決の比較)。

【表2】「濫用」の有無の判断基準 ヤフー・IDCF事件の最高裁判決と本件裁決の比較
ヤフー・IDCF事件の
最高裁判決
本件裁決
「濫用」の有無の
判断基準
左記基準の本件への
当てはめ
①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか 左記と全く同じ 本件合併の効力発生日と同日で、本件事業の内容が新子会社に引き継がれたこと等からすれば、本件合併等の本件一連の行為は、本件事業を請求人に取り込むことなく、新子会社に移転させることを計画的に実行したものであるなど、本件合併には、被合併法人の権利義務を承継するといった通常想定される合併の実質が備わっておらず、実態とはかい離した形式を作出する不自然なものというべきである。
②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか 左記と全く同じ 事業目的であった本件事業の損益改善は、本件合併ではなく、販売単価の変更によって達成する方針となったことからすれば、本件合併には、税負担の減少以外にその合理的な理由といえる事業目的その他の事情があったとはいえない。

 ヤフー・IDCF事件の最高裁判決により法人税法132条の2の適用基準が明確化されたことで、課税当局が同条を適用しやすくなったのは間違いない。今後、最高裁判決で示された“濫用基準”に基づく否認が増えることは十分にあり得るだろう。

従来なら寄附金課税?「経済合理性」の有無のみで132条を適用
 組織再編を行わない中小同族法人等にも広く影響が及ぶ可能性があるのがIBM事件の判決だ。
 IBM事件は納税者の勝訴という結果となったが、法人税法132条の適用については、納税者にとって極めて厳しい内容の解釈が高裁判決(上告受理申立の不受理により確定)で示されたところ。具体的には、「行為又は計算が、異常ないし変則的であり、かつ、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合に法人税法132条が適用される」という従来の通説の解釈を否定した上で、「行為又は計算が、純粋経済人として不合理、不自然なもの、すなわち、経済的合理性を欠く場合」に法人税法132条を適用できるとし、これには「独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(独立当事者間の通常の取引)と異なっている場合」が含まれる、とした。
 この高裁判決を受け、企業や実務家の間では、「経済的合理性」のみが租税回避の判断基準とされることになり同条の適用範囲が広がるのではないかとの懸念が生じているが、それが現実化したのが今回紹介する事例である。
 本件は、法人が子会社に対し通常の取引価格を超える時間単価で業務を外注したところ、これが「経済人の行為としては不自然かつ不合理な行為又は計算」に該当し、法人税の負担を不当に減少させる結果になるとされ、法人税法132条の適用を受けたもの。本件は審査請求に至ったが、審判所の判断の部分を検証すると、表3(法法132条の適用基準 IBM事件の高裁判決と裁決の比較)の通り、本裁決で示された同条の解釈はほぼIBM判決で示された解釈と同じものとなっていることが確認できる(平成28年6月6日裁決)。

【表3】法法132条の適用基準 IBM事件の高裁判決と裁決の比較
IBM高裁判決 本件裁決
法人税法132条1項の趣旨に照らせば、同族会社の行為又は計算が、同項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」か否かは、専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人として不合理不自然なものと認められるか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきものと解される。そして、同項が同族会社と非同族会社の間の税負担の公平を維持する趣旨であることに鑑みれば、当該行為又は計算が、純粋経済人として不合理、不自然なもの、すなわち、経済的合理性を欠く場合には、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(独立当事者間の通常の取引)と異なっている場合を含むものと解するのが相当であり、このような取引に当たるかどうかについては、個別具体的な事案に即した検討を要するものというべきである。 このような上記規定(編注:法人税法132条第1項)の趣旨に照らせば、同族会社の行為又は計算が、法人税法132条第1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」か否かは、専ら経済的、実質的見地において、当該行為又は計算が純粋経済人の行為として不合理・不自然なものと認められるか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきものと解される。そして、法人税法132条第1項が同族会社と非同族会社の間の税負担の公平を維持する趣旨であることに鑑みれば、当該行為又は計算が、純粋経済人として不合理、不自然なもの、すなわち、経済的合理性を欠く場合には、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(以下「独立当事者間の通常の取引」という。)と異なっている場合を含むものと解するのが相当である。

 従来であれば、本件ようなケースは寄附金課税の対象となっていた可能性がある。しかし今後は、「経済的合理性を欠く場合には、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(独立当事者間の通常の取引)と異なっている場合を含むものと解するのが相当」との解釈に基づき、法人税法132条が適用されるケースが一般的となることが予想される。
 かつては“伝家の宝刀”と言われるほど適用件数が少なかった法人税法132条だが、本件は今後その適用件数が増えることを示唆していると言えそうだ。

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