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解説記事2017年07月03日 【税務マエストロ】 租税条約の歴史とBEPS条約(2017年7月3日号・№697)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
租税条約の歴史とBEPS条約

#192 品川克己
PwC税理士法人

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#193
旅行業者における消費税実務のポイント(2)
税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。

マエストロの解説  我が国は、現在、110か国地域との間で、一般的な租税条約を中心に68の税務に関連した条約を締結している(平成29年5月1日現在の財務省情報)。この税務に関連した条約とは、税務行政執行共助条約や情報交換条約、さらには台湾との間の「日台民間租税取決め」を含めてとらえているが、これらはそれぞれ異なる意義の下で締結されてきており、こうしたいろいろな形態の条約が締結される流れは、昨今の国際課税の領域の特徴の一つであり、また、各国の国際課税ポリシーの変遷を表しているとも捉えることができる。

1 租税条約の歴史―国際機関を中心とした動き  OECD(経済開発協力機構)及びG20は、グローバル企業による課税逃れを防ぐため新たな多国間協定の締結を目指すことが報道された(脚注1)。これはOECD閣僚理事会にあわせて、日本、イギリス、フランス、ドイツなど60か国程度(脚注2)が、グローバル企業の租税回避防止のためのいわゆる多国間協定に署名するという内容の報道であるが、グローバル企業の租税回避防止というフレーズは、先般のBEPSでよく聞かれた言葉であり、BEPSの観点からの多国間協定の締結はまさにBEPSにおける主要な検討議題の一つであった。この多国間協定は、「BEPS防止措置実施条約(脚注3)」(以下「BEPS多国間条約」)とされ、BEPSの議論の中で合意された租税回避防止のための統一的なルールを適用するための条約という位置づけのものと考えられる。
 またBEPS多国間条約の締結が急がれた理由は、時間の節約のためと言われている。グローバル企業による租税回避は、各国の税制の違いに目をつけ、各国が締結した租税条約を濫用することにより可能になるという考えのもと、こうした濫用を防止するには租税条約の改正が必要となる。各国が締結している租税条約はおおむね3000を超えるといわれており、これらを順次、しかも短期間に改正していくことは非現実的であり、事務的コストも膨大なものになろう。いわゆるこうした無駄を排除するため、多国間協定の締結という方策がとられたものである。
 今回の多国間協定がOECDのBEPSプロジェクト関連であるように、国際機関は租税条約等の締結に大きな役割を果たしてきている。具体的には、租税条約のひな形となる「モデル条約」が国際連盟の時代から検討、制定され(脚注4)、現在の「国連モデル条約」、「OECDモデル条約」に至っている。この間には、その時々の経済情勢、貿易、投資、資金や文化の交流等の影響を受けた国際課税ポリシーを反映させつつ発展してきたといえよう。その現在型が、現在の「国連モデル条約」や「OECDモデル条約」であるが、これらも決して最終型ではなく、今後も経済情勢、国際課税制度の変化に合わせて改良されて行くものと考えられる。
 また、こうした発展の流れの中で新たに登場してきたもの(条約)が、国際機関であるOECDが検討を進め、現在各国が締結を推進している「情報交換条約」や「税務行政執行共助条約」であり、さらには今般の多国間条約であるといえる。特に、情報交換条約については、「パナマ文書」の問題に代表されるタックスヘイブンといわれる国・地域からの課税情報の収集といったことを主な目的としているが、この条約により、タックスヘイブン諸国を統一的な国際課税ルールの世界に取り込んだ意義は非常に大きいといえる。

2 国際的モデル条約の歴史と概要
(1)国連モデル条約
 現在の国連モデル条約は、先進国と発展途上国との間のモデル条約といわれている。いわゆる先進国クラブといわれるOECDが制定したOECDモデル条約に相対するモデルとして、より発展途上国側の視点に立った課税原則が盛り込まれている。つまり、より発展途上国側に課税権を認める傾向があり、具体的には、源泉地国での源泉税率がOECDモデルに比して高く、また事業所得の課税権の根拠となるPEの範囲が広くとらえられている。
 国連モデル条約は、国際連盟の時代のモデル条約を発展させたものではなく、国際連合が設立されてから新たに検討が始まったもので、初めて採択されたのは1979年12月である。OECDモデル条約に比し歴史は浅いといえよう(脚注5)。現在の国連モデル条約は、OECDモデル条約の改正に対応しつつ、2000年以降順次改正されてきている。
(2)OECDモデル条約  OECDモデル条約は、その前身であるOEEC(欧州経済協力機構)の時代から検討を始め、OECD(経済協力開発機構)となってから、1963年に「所得及び資本に対する二重課税回避のために条約草案」として公表された条約草案がベースとなっている。その後一部が改正されて1977年にOECDの閣僚理事会で正式に採択されたものが、一般に認識されていた「OECDモデル条約」である。
 OECDモデル条約は1992年に一部が改正されるまで、15年に1回のペースでの改正しかなかったが、昨今はOECDの租税委員会での議論を反映すべく、細かく頻繁に改正されるようになってきている。特に、2000年以降は、モデル条約の解釈、解説を担う「モデル条約コメンタリー」が大幅に改定されるにあわせ、条約本文が改正されるという形式となっている。
(3)情報交換条約モデル  OECDモデル条約の一つで、情報交換に特化した条約といえる。一般的な租税条約は、源泉地での課税(源泉徴収)の税率を下げ、投資の交流を促進させることをその目的の一つとしている。こうした条約を軽課税国等(いわゆるタックスヘイブン)と結んだ場合、租税回避に悪用される恐れがあることから、我が国をはじめ先進諸国は、タックスヘイブンと租税条約を結ばないことをポリシーとしていた。一方、2000年以降、銀行機密やマネーロンダリングをはじめ、租税以外の目的からタックスヘイブンからの情報入手の必要性が高まり、租税情報の入手という形式での情報収集を促進させる観点から、情報交換に特化した租税条約の締結の動きが加速した。この際の条約モデルとしての働きを果たすものである。なお、タックスヘイブン側は、情報交換条約の締結には消極的であったが、OECDにおける各会合、G20、G8サミット等のコミュニケ等を通じ、グローバルに圧力をかけていった経緯がある。我が国も、2010年にバミューダとの間で情報交換条約を結び、以後バハマ、マン島、ケイマン、リヒテンシュタイン、ガーンジー、ジャージー、パナマ等と情報交換条約を結んできている。
(4)税務行政執行共助条約  我が国が平成23年11月に署名した「租税に関する相互行政支援に関する条約」がいわゆる「税務行政執行共助条約」(脚注6)といわれる多国間条約である。この条約は、署名した締結国間で税金に関する行政支援、具体的には「情報交換」、「徴収共助」、「送達共助」を相互に行うことを定めるもので、国税庁等の税務当局間で協力して国際的な脱税および租税回避行為に対処していくことを目的としている。つまり納税者が意図的に納税せず、滞納処分を逃れるために資産を国外に移転するリスクに対応するものとして認識されているが、一方で、その内容としては日本国内の税務調査や滞納処分の制度の根幹に関係するものが多く、結果として、日本国内の一般納税者にも多大な影響を与える条約といえよう。
 税務行政執行共助条約は、2国間条約である一般的な租税条約と異なり、多国間条約に位置づけられるが、もともとはヨーロッパ、つまりEU内の政策協調の一端としての発想から生まれてきたものである。OECDおよび欧州評議会(Council of Europe)で草案作成の検討が行われ、1988年に参加署名のために開放されたが(原条約)、国内制度との齟齬を理由に当初の参加国は限定されていた。こうした状況下、昨今の一般的な情報交換や徴収共助の精緻化の議論に合わせ、税務行政執行共助条約(原条約)も改正され、徐々に参加国が増加してきたものである。
 我が国においては、税制調査会の議論(脚注7)を踏まえ、平成23年度税制改正大綱(平成22年12月16日閣議決定)で、「欧州評議会・OECD税務行政執行共助条約などの国際的な取り組み等を踏まえつつ、具体的な検討を行います。」とされた。それを受け、平成23年11月3日、G20カンヌサミットにおいて、税務行政執行共助条約に署名されたものである。

3 BEPS多国間条約
(1)BEPS多国間条約の意義
 BEPS多国間条約は、BEPSプロジェクトにおいて策定された税源浸食および利益移転(これがBEPSといわれている)を防止するための措置のうち租税条約に関連する措置を、この条約の締結国が結んでいる既存の租税条約に導入することを目的としている。この条約により、多数の既存の個別条約を改正せずとも、租税条約に関連するBEPS防止措置を同時、かつ、効率的に実施することが可能となる。
 BEPS多国間条約により既存の租税条約に導入されるBEPS防止措置は、大きく(イ)租税条約の濫用等を通じた租税回避行為の防止に関する措置、及び(ロ)二重課税の排除等納税者にとっての不確実性排除に関する措置から構成され、具体的には、BEPSプロジェクトにおける次の行動計画で勧告等された租税条約に関連するBEPS防止措置が含まれている。
行動2 ハイブリッド・ミスマッチ取決めの効果の無効化
行動6 租税条約の濫用防止
行動7 恒久的施設認定の人為的回避の防止
行動14 相互協議の効果的実施
(2)日本における適用範囲  BEPS多国間条約の各締結国は、この条約に規定する租税条約に関連するBEPS防止措置の規定のいずれを既存の租税条約について適用するかを選択し、OECDに通告することとされている。我が国が選択した条項は以下の通り(脚注8)。
我が国が適用することを選択している本条約の規定 イ)課税上存在しない団体を通じて取得される所得に対する条約適用に関する規定(第3条)
ロ)双方居住者に該当する団体の居住地国の決定に関する規定(第4条)
ハ)租税条約の目的に関する前文の文言に関する規定(第6条)
ニ)取引の主たる目的に基づく条約の特典の否認に関する規定(第7条)
ホ)主に不動産から価値が構成される株式等の譲渡収益に対する課税に関する規定(第9条)
ヘ)第三国内にある恒久的施設に帰属する利得に対する特典の制限に関する規定(第10条)
ト)コミッショネア契約を通じた恒久的施設の地位の人為的な回避に関する規定(第12条)
チ)特定活動の除外を利用した恒久的施設の地位の人為的な回避に関する規定(第13条)
リ)相互協議手続の改善に関する規定(第16条)
ヌ)移転価格課税への対応的調整に関する規定(第17条)
ル)義務的かつ拘束力を有する仲裁に関する規定(第6部)
我が国が適用しないことを選択している本条約の規定 イ)二重課税除去のための所得免除方式の適用の制限に関する規定(第5条)
ロ)特典を受けることができる者を適格者等に制限する規定(第7条)
ハ)配当を移転する取引に対する軽減税率の適用の制限に関する規定(第8条)
ニ)自国の居住者に対する課税権の制限に関する規定(第11条)
ホ)契約の分割による恒久的施設の地位の人為的な回避に関する規定(第14条)
(3)署名までの経緯及び今後の流れ  BEPS多国間条約は、BEPSプロジェクト行動15の勧告に基づき、我が国を含むおよそ100か国・地域が参加した交渉によって策定され、2016年12月31日に署名のために解放され、本年6月7日に我が国も含め67か国・地域が署名したものである。本条約は、これに署名した5か国・地域が批准書、受諾書又は承認書を寄託することにより、その5番目の寄託から所定の期間が満了したのちに、その5か国・地域について効力を生じ、その後に批准書等を寄託する国・地域においては、それぞれの寄託から所定の期間が満了した後に効力が生じることとされている。我が国は、今後、国会で承認された後、批准書等を寄託することとなる。

脚注
1 平成29年6月6日日本経済新聞
2 米国は、この協定に参加せず、2国間の租税条約で対応していくスタンスである。おそらくこれは、主要なグローバル企業は、ほぼ米国企業という現実に柔軟に対処していくためと考えられる。
3 正式名称は「Multilateral Convention to Implement Tax Treaty Related Measures to Prevent Base Erosion and Profit Shifting」(「税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約」)
4 「第1次世界大戦が終了した1918年以降、国際的経済交流が盛んになるにつれて、租税条約締結時の指針となるモデル条約の作成の必要に迫られた国際連盟により1928年に制定されたモデル租税条約が最初である。」(「租税条約の論点」矢内一好著15頁、中央経済社)
5 1968年に国連経済社会理事会(ECOSOC)に専門家グループが設置され、そこで検討が進められた。しかしながら参加メンバーは、OECD加盟国の場合にはOECD内における税務専門家と重複していることが多く、OECDでの議論の影響を多大に受けたと推察される。結果、発展途上国の視点が十分に反映されたかどうかは疑わしいところもある。
6 正式英文名は、「Convention on Mutual Administrative Assistance In Tax Matters」
7 平成22年11月の税制調査会専門家委員会で取りまとめられた「国際課税に関する論点整理」において、「外国との間で租税債権につき徴収の共助を行うことのできる仕組みを整える必要がある」とされ、「欧州評議会・OECD税務執行共助条約といった、①情報交換、②徴収の共助、③文書送達に関する税務執行共助に係る多国間条約に、より多くの国が参加するようになっており、我が国も税務執行に関する多国間協力のアプローチを検討の対象とすべき」とされていた。
8 財務省HPより抜粋。

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