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解説記事2017年07月17日 【解説】 スチュワードシップ・コード改訂の概要(2017年7月17日号・№699)

解説
スチュワードシップ・コード改訂の概要
 金融庁総務企画局 企業開示課 課長補佐 染谷浩史
 金融庁総務企画局 企業開示課  専門官 安井桂大

Ⅰ はじめに

 本年5月29日、金融庁に設置された「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」(座長:神作裕之東京大学大学院法学政治学研究科教授)(以下「有識者検討会」という)において、「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」の改訂版(以下「改訂版コード」という)が公表された。
 平成26年2月にスチュワードシップ・コードが策定され、また、平成27年6月には、コーポレートガバナンス・コードの適用が開始された。両コードの下で、コーポレートガバナンス改革には一定の進捗が見られるものの、いまだに形式的な対応にとどまっているのではないかとの指摘もなされている。
 こうした中、金融庁・東京証券取引所に設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(座長:池尾和人慶應義塾大学経済学部教授。以下「フォローアップ会議」という)において、平成28年11月、「機関投資家による実効的なスチュワードシップ活動のあり方」と題する意見書が公表された。意見書においては、コーポレートガバナンス改革を「形式」から「実質」へと深化させるためには、企業に投資を行っている機関投資家(運用機関及び年金基金等のアセットオーナー)が、インベストメント・チェーンにおけるそれぞれの役割を認識し、企業の持続的な成長に向けて、経営戦略を含む諸課題について、深度ある「建設的な対話」を行っていくことが必要であるとされ、スチュワードシップ・コードの改訂を行うことが提言された。
 意見書を受け、金融庁において有識者検討会が開催され、本年3月28日、スチュワードシップ・コードの改訂案が公表された。同改訂案については、策定時と同様、パブリックコメント手続が行われ、5月29日に改訂版コードが公表された。

Ⅱ 本改訂の概要
 今般の改訂(以下「本改訂」という)の概要は、図1のとおりである。本改訂は、これまでのスチュワードシップ・コードの7つの原則自体に修正を行うのではなく、原則の指針を新設(または改訂)することにより行われている。以下、原則・指針の順に従って、改訂された点について解説を行う。


1 アセットオーナーによる実効的なチェック(指針1-3~1-5)  アセットオーナーは、インベストメント・チェーンにおいて、最終受益者のより近くに位置し、直接、最終受益者の利益を確保する責務を負っている。しかしながら、現状では、運営上の制約などのため、自ら直接的にスチュワードシップ活動を行わず、運用機関を通じてスチュワードシップ活動を実施しているアセットオーナーが大半である。こうした中、アセットオーナーにおいて企業との対話等を推進する取組みは、一部の大規模な公的年金等を中心に行われており、企業年金等については、スチュワードシップ・コードの受入れが少なく、こうした活動への関心が必ずしも高くないことや、アセットオーナーが、運用機関に対して、どのように企業に働きかけを行っていくべきかを必ずしも明確に示していないといった課題が指摘されている。
 こうした現状を踏まえ、新たに設けられた指針においては、アセットオーナーに対して、可能な限り、自らスチュワードシップ活動に取り組むことを求めるとともに、運用機関による実効的なスチュワードシップ活動を確保することを求めている。また、アセットオーナーにおいて、運用機関に対して求める事項や原則を示し、運用機関との間で適切にコミュニケーションを行うことを求める指針も設けられた。
 さらに、フォローアップ会議の議論等において、運用機関によるスチュワードシップ活動を実効的なものとする上では、顧客であるアセットオーナーが、実効的なモニタリングを行うことが重要であるとの指摘がなされたことを踏まえ、アセットオーナーが、運用機関のスチュワードシップ活動が自らの方針と整合的なものとなっているかについて、運用機関の自己評価(後掲9)も活用しつつ、実効的にモニタリングを行うことにより、運用機関によるスチュワードシップ活動の実効性向上に向けた取組みを適切に促していくことが新たに求められている。

2 運用機関のガバナンス・利益相反管理(指針2-2~2-4)  運用機関が実効的なスチュワードシップ活動を行っていく上では、運用機関が、アセットオーナーやその背後に存在する最終受益者の利益を第一に考え、顧客本位の活動を実効的に確保していくことが不可欠である。
 他方、特に金融グループ系列の運用機関については、法人営業を行う親会社等の利益と運用機関の顧客・受益者(最終受益者を含む。以下同じ。)の利益との間に存在する利益相反を回避したり、その影響を排除するための措置が必ずしも十分に機能していないケースが多く、よりきめ細かな対応が必要ではないかとの指摘がある。また、信託銀行や生命保険会社など、同一主体内において法人事業等の運用以外の業務を行っている場合における、当該業務を行う部門と運用部門との関係についても、同様の指摘がある(図2参照)。

 こうした指摘を踏まえ、利益相反管理方針の公表を求める指針の内容が拡充されており、まず、運用機関に対して、一般的・抽象的な記述による利益相反管理方針ではなく、利益相反が生じ得る具体的な場面を想定した上、あらかじめ、それぞれの場面に応じた具体的な措置を定めておくことが求められている。また、新たに設けられた指針において、実効的な利益相反管理のためには、独立した監督などの堅固なガバナンス体制が重要であるとの考え方に基づき、運用機関に対して、独立した取締役会や第三者委員会などのガバナンス体制を整備することを求めている。加えて、運用機関の経営陣が、ガバナンス強化・利益相反管理に関する自らの重要な役割・責務を認識した上で、これらに関する課題に対する取組みを推進すべきことを示す指針が設けられた。

3 ESG要素の考慮(指針3-3)  スチュワードシップ・コードには、投資先企業の状況について、機関投資家が把握することが考えられる内容について、非財務面の事項も含めて例示する指針が設けられている。従前より、社会・環境問題に関するリスクについては、把握する内容の一つとして例示されていたが、同指針について、有識者検討会においては、事業におけるリスク・収益機会の両面におけるESG(環境・社会・ガバナンス)要素の重要性が指摘された。
 こうした指摘を踏まえ、本改訂において、社会・環境問題に関する収益機会についても把握する内容として例示するとともに、脚注において「ESG要素」にも明示的に言及することとされた。

4 パッシブ運用における対話等(指針4-2)  近年、上場投資信託(ETF)の増加や、年金の株式運用におけるパッシブ運用比率の高まりなどを背景に、パッシブ運用の比重が高まっている。こうした中、中長期的な企業価値向上を実効的に促していく上で、パッシブ運用を行う機関投資家において、積極的に対話や議決権行使に取り組むことの重要性が増していると考えられる。また、パッシブ運用においては、投資先企業の株式を売却する選択肢が限られているという意味においても、中長期的な企業価値の向上を促す必要性が高い。その一方で、我が国でパッシブ運用を行う機関投資家は、これまで必ずしも投資先企業との対話に積極的でなかった等の指摘がある。
 こうした状況に鑑み、機関投資家は、パッシブ運用において、より積極的に中長期的視点に立った対話や議決権行使に取り組むことを求める指針が新たに設けられた。

5 集団的エンゲージメント(指針4-4)  機関投資家が他の機関投資家と協働して対話を行う集団的エンゲージメントをめぐっては、海外の機関投資家を中心に、大量保有報告制度上の「共同保有者」に該当する場合には大量保有報告書を提出する必要が生じ得ること、また、スチュワードシップ・コードには「集団的エンゲージメント」への言及がないことなどから、我が国においてこうした取組みを行うことは難しいのではないかとの指摘があった。
 これらの指摘のうち、大量保有報告制度上の取扱いについては、平成26年2月、金融庁より「日本版スチュワードシップ・コードの策定を踏まえた法的論点に係る考え方の整理」が公表されており、解釈の明確化が図られている。
 また、後者の指摘については、有識者検討会の議論においても、改訂前のコードの下でも集団的エンゲージメントを行うことは可能であったが、集団的エンゲージメントが、対話を行う際の選択肢として考えられることをスチュワードシップ・コードに明示的に盛り込むべきではないかとの指摘がなされた。一方で、集団的エンゲージメントを行う際には、対話が形式的にならないよう、十分留意する必要があるのではないかといった指摘もなされた。
 こうした指摘を踏まえ、確認的に、機関投資家が投資先企業との間で対話を行うに当たっては、必要に応じ、集団的エンゲージメントが有益な場合もあり得る旨を示す指針が新たに設けられた。

6 議決権行使結果の公表の充実(指針5-3)  改訂前のコードにおいては、機関投資家に対して、議案の主な種類ごとに整理・集計する形での議決権行使結果の公表が求められていたが、フォローアップ会議の議論などにおいては、議決権行使をめぐる利益相反の懸念を払拭する観点から、集計による公表にとどまらず、個別の議決権行使結果を公表することが重要であるとの指摘がなされた。
 こうした指摘を踏まえ、議決権行使結果の公表を求める指針を改訂し、機関投資家は、原則として、個別の投資先企業及び議案ごとに議決権行使結果を公表すべきであり、また、そうした公表の際には、議決権行使の賛否の理由について対外的に明確に説明することも、可視性を高めることに資すると考えられる旨を示すこととされた。なお、同指針では、個別の議決権行使結果の公表を行わない場合でも、少なくとも議案の主な種類ごとに整理・集計した形で議決権行使結果を公表すべき旨について、確認的に示している。
 既に、複数の国内大手運用機関(投資顧問・投資信託、信託銀行、生命保険会社)が、本改訂を踏まえ、個別の議決権行使結果の公表を開始したり、今後こうした公表を行う旨を発表している。また、アセットオーナーについても、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、委託先の運用機関に対して、個別の議決権行使結果の公表を要請した。このように、各機関投資家において、本改訂を踏まえた主体的な取組みが広がっている。

7 議決権行使助言会社(指針5-5)  近年、我が国において、議決権行使助言会社の影響力が増しているとの指摘がなされている。議決権行使助言会社については、改訂前のコードにおいても、コードの各原則が当てはまる旨が示されており(前文8)、実際に、複数の議決権行使助言会社がスチュワードシップ・コードの受入れを表明している。
 有識者検討会の議論においては、議決権行使助言会社について、機械的・形式的な判断がしばしば見られるといった指摘や、特に我が国における体制が人的資源等の面で不十分である等の指摘がなされ、こうした指摘を踏まえ、議決権行使助言会社においては、企業の状況の的確な把握等のために十分な経営資源を投入すること、また、業務の体制や利益相反管理、助言の策定プロセス等に関し、自らの取組みを公表することを求める指針が新たに設けられた。

8 経営陣の役割・責務等(指針7-2)  機関投資家が、最終受益者の利益の確保のため、実効的にスチュワードシップ活動を行っていく上では、その経営陣が適切に役割・責務を果たすことが求められる。
 他方で、フォローアップ会議の議論等においては、例えば、運用機関の経営陣に、スチュワードシップ活動に関する知見も含めた適切な能力や運用経験がないにも関わらず、系列の金融グループ内の販売会社等の出身者が就任しているといったケースがあるのではないかといった指摘がなされた。
 こうした指摘も踏まえ、機関投資家の経営陣においては、スチュワードシップ責任を実効的に果たすための適切な能力・経験を備えるとともに、スチュワードシップ活動の実行とそのための組織構築・人材育成に関して重要な役割・責務を担っていることを認識し、これらに関する課題に対する取組みを推進することを求める指針が新たに設けられた。

9 運用機関の自己評価(指針7-4)  スチュワードシップ・コードについては、実効性の確保が重要な課題であることが指摘されており、例えば、コードの導入において先行した英国においては、年金基金等からなる団体により、年金基金が運用機関を評価することに資するよう、運用機関自身が自己評価を行うためのフレームワークが公開されている。
 こうした海外における取組みも参考に、運用機関に対してスチュワードシップ・コードの各原則(指針を含む)の実施状況を定期的に自己評価し、その結果を公表することを求める指針が設けられた。こうした自己評価がアセットオーナーによるモニタリング(前掲1)と相俟って、運用機関におけるコードの適切な実施が担保されることが期待される。

10 その他(いわゆる「コンプライ・アンド・エクスプレイン」)(前文12)  改訂版コードは、「コンプライ・オア・エクスプレイン」の手法を採用しており、実施しない原則(指針を含む)がある場合には、その理由の説明について、記載することとされている。本改訂において、原則(指針を含む)を実施している場合についても、「自らの具体的な取組みについて積極的に説明を行うことも、顧客・受益者から十分な理解を得る観点からは、有益であると考えられる」旨が追加され、いわゆる「コンプライ・アンド・エクスプレイン」も有益であるとの考え方が明らかにされた。

Ⅲ おわりに
 改訂前のコードを受け入れている機関投資家は、改訂版コード公表の遅くとも6ヶ月後(本年11月末)までに、本改訂の内容を踏まえて、改訂版コードの各原則(指針を含む)に基づく公表項目の更新を行い(あわせて、更新を行った旨も公表)、その旨を金融庁に通知することが求められている。スチュワードシップ活動をより実効的なものとしていく観点からは、準備が整っている各機関投資家においては、6ヶ月の期間を待つことなく、率先して本改訂を踏まえた対応や公表項目の更新を行うことが期待される。
 既に述べたとおり、国内大手の機関投資家においては、改訂版コードを踏まえた主体的な取組みが開始されており、こうした取組みがさらに広がっていくことが期待される。今後、改訂版コードを踏まえ、機関投資家と企業の対話の質が変化し、企業のガバナンスをめぐる課題の改善や、稼ぐ力の向上につながっていくことが何よりも重要である。機関投資家・企業による主体的な取組みが、企業の持続的な成長と顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大、そして日本経済全体の好循環につながっていくことを期待し、本稿の結びとしたい。

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