カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2017年10月09日 【特別解説】 日本企業がIFRS移行時に認識した会計基準の差異~差異調整表の調査分析①~(2017年10月9日号・№710)

特別解説
日本企業がIFRS移行時に認識した会計基準の差異
~差異調整表の調査分析①~

はじめに

 2010年3月期より、一定の要件を満たしたわが国の企業に対して、IFRS(国際財務報告基準)の任意適用が認められるようになってから満7年が経過した。最初の3年間ほどはIFRSを任意適用する企業数が伸び悩んだものの、近年は着実に増加しており、2017年9月末日現在で、IFRS適用済みの会社数とIFRS適用決定会社数とを合計すると150社を上回っている。
 21世紀初頭の「会計ビッグバン」以来15年あまりにわたり、わが国の会計基準を設定する企業会計基準委員会(ASBJ)をはじめとする関係者の不断の努力によって、わが国の会計基準は米国会計基準やIFRSと同等のものと国際的に認知され、IFRSと日本基準との差異も、コンバージェンス(収斂)のための膨大な作業によってかなり縮小してきた。しかしながら、正ののれんの償却/非償却や退職給付にかかる数理計算上の差異の処理方法など、「GAAP差異」といわれる日本基準/IFRS間の相違点は、現時点においてもなお、少なからず存在する。本稿で調査分析する調整表とその説明を読むと、GAAP差異の内容を把握できるとともに、それらの差異が企業の活動や会計処理にどのような影響を与えているのかを理解することができる。

日本基準からIFRSに移行する際に作成する調整表と詳細な説明
 これまで日本基準を適用していた日本企業がIFRSに移行する場合、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」第23項に基づいて、企業は、従前の会計原則からIFRSへの移行が、報告された財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローにどのように影響したのかを説明しなければならない。これは、従前の会計原則に従って報告されていた資本から、IFRSに準拠した資本への調整表(以下、「調整表」という。)と呼ばれ、ここでは、利用者が財政状態計算書及び包括利益計算書に対する重要な修正を理解できるようにするのに十分な詳細を示さなければならないとされている(IFRS第1号第25項)。本稿では、「IFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・提出した企業」(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)各社が、IFRSを初めて適用した期に作成した調整表を題材に、どのような項目が会計基準間の差異として説明されているかを調査分析した。
(文責:編集部)

調査の対象とした企業
 調査の対象とした企業は、日本基準からIFRSへ任意で移行し、2018年3月期第1四半期報告書までに調整表を作成して開示した企業123社である。なお、日立製作所やパナソニック、本田技研工業など、米国基準からIFRSに移行した企業は今回の調査の対象とはしていない。また、調整表への説明の中で、今回は「認識における差異」のみを調査対象としており、表示科目の組替等、最終損益に影響を及ぼさない項目は調査対象から除いている。

調整表で、基準間の差異として説明していた企業が多かった項目
 IFRS任意適用日本企業が、IFRSを初度適用する際に、日本基準とIFRSとの差異として説明していた項目を、企業数が多い順に列挙すると次ののとおりである(調査の対象は合計123社)。

 以下ではそれぞれの項目について、具体的な開示例も含めて個別に見ていくこととしたい。
 ① 未払有給休暇の計上  IFRSを適用する企業は、有給休暇の形式による短期従業員給付の予想コストを、次の時期に認識しなければならないとされている(IAS第19号「従業員給付」第13項)。 
(a)累積型有給休暇の場合には、将来の有給休暇の権利を増加させる勤務を従業員が提供した時 
(b)非累積型有給休暇の場合には、休暇が発生した時
 そして企業は、累積型有給休暇の予想コストを、報告期間の末日現在で累積されている未使用の権利の結果により企業が支払うと見込まれる追加金額として、測定しなければならない(IAS第19号「従業員給付」第13項)。 
 これに対して、わが国の会計基準では未消化の有給休暇について負債として認識していないため、IFRSを新たに適用する際には、未消化の有給休暇について、「有給休暇引当金」等の負債を新たに計上することが必要となる。
【開示例① 太陽日酸 2017年3月期】  当社グループは、日本基準では認識していなかった従業員の未消化の有給休暇等について、IFRSでは債務として認識することにより、その他の流動負債及びその他の非流動負債が増加しております。
 ② のれんの非償却  この項目は、わが国の会計関係者に最もよく知られている日本基準とIFRSとの間の相違点ではないかと思われる。すなわち、わが国の会計基準では正ののれんは20年以内の合理的な年数での償却が求められるが、IFRSでは償却してはならず、毎期末及び減損の兆候があるときはいつでも、減損テストの実施が要求される。IFRSを任意適用する企業は多額ののれんを計上している場合が少なくないため、のれんの償却を停止することによる影響額も大きい。
【開示例② 豊田通商 2017年3月期】  日本基準においてはのれんの償却を行っておりますが、IFRSにおいてはのれんの償却を行っておりません。当該影響金額は、前連結会計年度において、36,399百万円であります。
 ③ 為替換算差額のゼロリセット  IFRSの初度適用企業は、IFRS第1号が定める免除規定のうちの1つ又は複数を使用することを選択することが出来る。そのうちの1つとして、初度適用企業は、IFRS移行日現在で存在していた換算差額累計額については、下記の免除措置を使用することができる。 
(a)すべての在外営業活動体に係る換算差額累計額を、IFRS移行日現在でゼロとみなす。
(b)在外営業活動体のその後の処分による利得又は損失は、IFRS移行日前に生じた換算差額を除外し、その後の換算差額を含めなければならない。 
 この初度適用にあたっての免除規定(IFRS第1号D13項)は、初度適用企業の間で最も幅広く利用されている規定であると思われる。
 この免除規定を利用する企業は、IFRS移行日時点における在外営業活動体の為替換算差額累計額を、すべて利益剰余金に振り替える。
【開示例③ 住友ゴム 2016年12月期】  初度適用に際して、IFRS第1号に規定されている免除規定を選択し、移行日における累積換算差額を全て利益剰余金に振り替えております。
 ④ 退職給付に係る数理計算上の差異、過去勤務費用の処理  わが国の「退職給付に関する会計基準」では、数理計算上の差異の当期発生額及び過去勤務費用の当期発生額のうち、費用処理されない部分(未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用となる。)については、その他の包括利益に含めて計上し、その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用のうち、当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行うとされているのに対し(第15項)、IFRSでは、数理計算上の差異についてはその他の包括利益に認識し、その後の期間において純損益に振り替えてはならない(その他の包括利益に認識した金額を資本の中で振り替えることはできる)とされている(IAS第19号「従業員給付」第120項、第122項)。また、過去勤務費用については、制度改訂又は縮小が発生した時、又は関連するリストラクチャリングのコスト又は解雇給付を企業が認識する時のうちの、いずれか早い方の日に、費用として認識しなければならないとされている(IAS第19号第103項)。
【開示例④ クレハ 2017年3月期】  数理計算上の差異について、日本基準では発生時にその他の包括利益として認識し、一定期間にわたって償却することにより純損益へ振替えておりましたが、IFRSでは発生時にその他の包括利益として認識し、即時にすべて利益剰余金に振り替えております。
 ⑤ 減価償却方法、耐用年数、残存価額の見直し  日本の会計基準を適用する日本企業の場合、有形固定資産の減価償却方法については建物の一部等を除いて定率法を適用していることが多く、耐用年数や残存価額は法人税法の定める耐用年数表等に基づいて決定している場合が大半であると思われる。これに対してIFRSでは、使用される減価償却方法は、資産の将来の経済的便益を企業が消費すると予想されるパターンを反映するものでなければならないとされており(IAS第16号「有形固定資産」第60項)、欧州企業等での実務上は、定額法を適用している事例が圧倒的に多い。IFRS任意適用日本企業の場合には、IFRSを適用後も、連結財務諸表では定額法を採用するものの、個別財務諸表上は、会計方針の変更は行わずに定率法のまま、という事例も多い。また、IFRS上、耐用年数は、資産が企業によって利用可能であると見込まれる期間をいうとされており、(IAS第16号第6項)有形固定資産の耐用年数や残存価額は、事業年度末ごとに再検討することが求められている(IAS第16号第51項)。このため、IFRSを任意適用するにあたり、日本企業が減価償却方法や耐用年数、残存価額の見直しを行う例が少なくない。
【開示例⑤ デンソー 2015年3月期】  有形固定資産の減価償却方法について、日本基準では主として定率法を採用していましたが、IFRSでは定額法を採用しています。また、IFRSの適用に伴い有形固定資産の耐用年数を統一しています。この結果、有形固定資産の残高が198,175百万円増加しています。
 ⑥ 非上場株式の公正価値評価  日本基準では、いわゆる非上場株式については公正価値による評価を行わず、取得原価で評価するが、IFRS(IFRS第9号「金融商品」)では、非上場株式を含む資本性金融商品は、公正価値評価の対象とされる。日本企業がIFRSを適用する際の最も高い障壁の1つとよく言われる項目である。
【開示例⑥ 豊田自動織機 2017年3月期】  非上場株式について、日本基準では取得原価を基礎として計上し、発行会社の財政状態の悪化に応じて減損処理を行っていましたが、IFRSではその他の包括利益を通じて公正価値で測定しています。この結果、その他の包括利益が8,115百万円増加しております。
 ⑦ 収益認識基準の変更  わが国では、収益認識に関する会計基準や適用指針が、企業会計基準委員会(ASBJ)において公表に向けた審議が進められているが、これまでは、企業会計原則・損益計算書原則三Bの、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」という、いわゆる「実現主義」の記述をよりどころに、この解釈によって実務が行われてきたものと思われる。これに対してIFRSでは、物品の収益は、物品の所有に伴う重要なリスク及び経済価値を、企業が買手に移転した時点で認識しなければならないとされており(IAS第18号「収益」第14項)、何をもって「物品の所有に伴う重要なリスク及び経済価値を企業が買手に移転した」と考えるかによって、会計処理のタイミングに差異が生じることになる。48件あった収益認識基準の変更の事例のうち、半分弱の23件が、日本基準では出荷基準を適用していたのを、IFRS適用を契機に着荷基準や引渡し基準、検収基準を適用することとした旨の変更であった。
【開示例⑦-1 KDDI 2016年3月期】  契約事務手数料、機種変更手数料、固定通信サービス及びCATVサービスに係る工事料の初期一括収入について、日本基準では受領時に一括で収益認識しておりましたが、IFRSでは見積平均契約期間等にわたり収益として認識しております。
【開示例⑦-2 日本電気 2017年3月期】  工事契約及び役務の提供からの収益は、成果を信頼性をもって見積ることができない場合には、原価回収基準により収益を認識しています。原価回収基準による収益は、発生原価のうち回収される可能性が高い範囲でのみ認識し、原価は発生した期間に費用認識しています。
 ⑧ 繰延税金資産の回収可能性の再検討  わが国においては、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に規定される会社分類に基づき繰延税金資産を認識しているが、IFRSでは、繰延税金資産は、将来減算一時差異を利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で、すべての将来減算一時差異について認識しなければならないとされているため(IAS第12号「法人所得税」第24項)、IFRS適用にあたって差異が生じることになる。
【開示例⑧ ユニー・ファミリーマートホールディングス 2017年2月期】  日本基準では日本公認会計士協会監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」に規定される会社分類に基づき繰延税金資産を認識しておりましたが、IFRSでは未使用の税務上の欠損金及び将来減算一時差異のうち、将来課税所得に対して利用できる可能性が高いと経営者が判断した税務便益につき認識しております。
 ⑨ 未実現損益消去に係る税効果会計の方法を繰延法から資産負債法に変更  わが国の会計基準において、連結手続上、消去された未実現利益に関する税効果は、未実現利益が発生した連結会社と一時差異の対象となった資産を保有する連結会社が異なるという特殊性を考慮し、かつ、従来からの実務慣行を勘案し、売却元で発生した税金額を繰延税金資産として計上し、当該未実現利益の実現に対応させて取り崩すこととされている。この売却元で発生した税金は確定した金額であるため、繰延税金資産の計上額は、売却元において未実現利益の金額に対して売却年度の課税所得に適用された法定実効税率を使用して計算した税金の額である。なお、売却元に適用される税率がその後改正されても、未実現利益に関連して認識し測定した繰延税金資産は、その税率変更の影響を受けることがないため、税率の変更による見直しは行わないことになる(会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」第13項)。
 これに対して、IFRSでは繰延税金資産及び負債は、報告期間の末日までに制定され、又は実質的に制定されている税率(及び税法)に基づいて、資産が実現する期又は負債が決済される期に適用されると予想される税率で算定しなければならない(IAS第12号「法人所得税」第47項)とされているため、日本基準とIFRSの間には差異が存在する。
【開示例⑨ 山洋電気 2017年3月期】  内部未実現取引について、日本基準では当該差異について繰延法に基づき、売却元の税金費用を繰り延べます。一方でIFRSでは、資産負債法に基づき、売却した資産の帳簿価額と売却価額の差異については将来減算一時差異として認識し、その回収可能性を検討の上、購入会社の税率により繰延税金資産を認識します。
 ⑩ 一部の有形固定資産について、みなし原価を使用  IFRSの初度適用企業は、IFRS第1号が定める免除規定のうちの1つ又は複数を使用することを選択することが出来る。免除規定の1つとして、企業は、IFRS移行日現在で、ある有形固定資産項目を公正価値で測定し、その公正価値を当該日現在のみなし原価として使用することを選択することができ、初度適用企業は、IFRS移行日現在又はそれ以前における、ある有形固定資産項目の従前の会計原則に従った再評価が、再評価日の時点で次のいずれかとおおむね同等であった場合には、それを再評価日現在のみなし原価として使用することを選択することができる(IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」D5項、D6項)。 
(a)公正価値 
(b)IFRSによる原価又は償却後原価を、例えば、一般物価指数又は個別物価指数の変動を反映するように調整したもの 
 また、企業は、有形固定資産のほか、投資不動産や一定の要件を満たした無形資産に対してもこの免除規定を適用することが出来る。
【開示例⑩ 小野薬品工業 2014年3月期】  一部の土地については、移行日の公正価値をみなし原価として採用しております。そのため、有形固定資産が3,512百万円減少、その他の非流動資産が597百万円増加しております。なお、みなし原価を採用した土地の日本基準の帳簿価額は22,550百万円であり、公正価値は19,634百万円です。

おわりに
 本稿では、IFRSと日本基準の差異調整表に記載された回数が多い項目を紹介したが、のれんの償却/非償却をはじめ、いわゆる「日本/IFRS会計基準間の差異」のうちの代表的なものが顔をそろえた形になった。これらはいずれも、IFRS任意適用日本企業がIFRSを適用するに際しての「大きなハードル」や「高い壁」となりかねない項目であったが、IFRS任意適用日本企業は、経理部門を中心に、全社一丸となった努力によってこれらを乗り越え、IFRSの円滑な適用に漕ぎ着けたといえる。次回は、日本基準とIFRSとの差異として、IFRS任意適用日本企業が説明していた項目のうち、11位から20位までの項目について取り上げる予定である。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索