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解説記事2017年10月16日 【特別解説】 日本企業がIFRS移行時に認識した会計基準の差異~差異調整表の調査分析②~(2017年10月16日号・№711)

特別解説
日本企業がIFRS移行時に認識した会計基準の差異
~差異調整表の調査分析②~

 本稿では、前回に引き続き、IFRS任意適用日本企業が日本基準からIFRSに移行する際に、わが国の会計基準とIFRSとの差異調整表で説明した認識上の差異項目についてみていくこととしたい。前回は上位10項目について記述したが、今回は第11位から第20位までにランクされた項目を取り上げる。第11位から第20位までの差異項目は、次ののとおりである。

 以下では、それぞれの項目について、個別に見ていくこととする。(文責:編集部)
 ① 退職給付債務の再計算  わが国の「退職給付に関する会計基準」においては、退職給付見込額の計算方法として、いわゆる期間定額基準と給付算定式基準の両方が認められているほか(第19項)、退職給付債務の計算における割引率は、安全性の高い債券の利回り(割引率の基礎とする安全性の高い債券の利回りとは、期末における国債、政府機関債及び優良社債の利回り)を基礎として決定するとされている(第20項、注解6)。これに対してIFRS(IAS第19号「従業員給付」)では、確定給付制度債務の現在価値及び関連する当期勤務費用(並びに該当する場合には過去勤務費用)を算定するにあたり、企業は、制度の給付算定式に基づいて勤務期間に給付を帰属させなければならないとされているほか(第70項)、退職後給付債務(積立てをするものとしないものの双方とも)の割引に使用する率は、報告期間の末日時点の優良社債の市場利回りを参照して決定しなければならないとされている(第83項)。
【開示例①-1 ティアック 2016年3月期】  確定給付債務の算定における、給付の勤務期間への帰属や割引率の計算方法が移行日時点で 日本基準とIFRSとで異なっております。
【開示例①-2 MRT 2017年3月期】  日本基準では、退職給付費用について、自己都合による期末要支給額の増減額を費用認識しておりましたが、IFRSでは、確定給付債務の現在価値を予測単位積増方式により算定し、当期において発生したと認められる額を費用認識したことにより差異が生じております。
 ② 開発費の資産化  日本基準においては、研究開発費は発生時にすべて費用処理しなければならないとされているのに対して(研究開発費等会計基準三)、IFRSでは、開発局面における支出がIAS第38号「無形資産」第57項が定める6つの要件を満たす場合には、無形資産として計上しなければならないと定められている。
【開示例② ニコン 2017年3月期】  日本基準においては、研究開発費について、発生時に費用処理しておりましたが、IFRSでは一定の要件を満たす開発費について資産計上しております。この結果、移行日現在及び前連結会計年度末現在において、IFRSでは日本基準に比べ、「のれん及び無形資産」がそれぞれ3,257百万円及び4,351百万円増加しております。
 ③ 連結範囲の変更  連結の範囲については、日本基準(連結財務諸表に関する会計基準)、IFRS(IFRS第10号「連結財務諸表」)ともに、支配力基準に基づいて子会社の連結の要否を判定する規定となっているが、日本基準では重要性が乏しい一部の連結子会社については連結せず、持分法を適用したり、取得原価評価としたりする例が見られる。また、日本基準では、非営利の事業体は連結対象から除外されている。
【開示例③-1 KDDI 2016年3月期】  ワイヤレスブロードバンドサービスを行っているA社については、議決権の32.3%を所有しているため、日本基準においては持分法を適用しておりました。一方、当社はA社の筆頭株主であること、A社の取締役会の構成員の半数であるものの、代表権は当社からの取締役が有していること、また、A社の事業活動は当社に大きく依存していることから、当社は取締役会等を通じてA社にパワーを有しております。よって、IFRSの適用にあたり、A社設立当初から実質的に支配していると判定し、子会社として連結しております。
【開示例③-2 三菱ケミカルホールディングス 2017年3月期】  当社グループでは、IFRSを適用するにあたって持分法の適用範囲を見直し、日本基準では持分法を適用していたC社がジョイント・オペレーションになったことで、現金及び現金同等物が増加しております。
【開示例③-3 クレハ】  非営利目的の事業体について、日本基準では子会社等の範囲に含まれないとされておりますが、IFRSでは当該他の事業体を支配している場合には連結する必要があるため、連結子会社として連結の範囲に含めております。
 ④ 決算日の統一、仮決算の実施  日本基準では、子会社の決算日が連結決算日と異なる場合には、子会社は、連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行うとされているものの(連結財務諸表に関する会計基準第16項)、同基準の注解4において、子会社の決算日と連結決算日の差異が3か月を超えない場合には、子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行うことができる旨と、この場合には、子会社の決算日と連結決算日が異なることから生じる連結会社間の取引に係る会計記録の重要な不一致について、必要な整理を行うものとする旨が定められている。一方、
IFRSでは、実務上不可能な場合を除き、連結財務諸表の作成に用いる親会社及びその子会社の財務諸表は、同じ報告日としなければならない。親会社の報告期間の期末日が子会社と異なる場合には、子会社は、連結のために、親会社の財務諸表と同日現在の追加的な財務情報を作成して、親会社が子会社の財務情報を連結できるようにするとされている(IFRS第10号「連結財務諸表」B92項)。
【開示例④-1 ブラザー工業 2017年3月期】  日本基準において、決算日が当社の決算日と異なる子会社のうち一部について、当該子会社の決算日における財務諸表に基づき連結財務諸表を作成しておりましたが、IFRSにおいては、子会社の財務諸表を、当社の決算日と同じ日で作成しております。
【開示例④-2 八千代工業 2014年3月期】  日本基準では決算日が親会社と異なる子会社又は関連会社について、親会社の決算日との差異が3ヶ月を超えない場合には、子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行うことが認められておりますが、IFRSでは実務上不可能な場合を除いてそのような会計処理を行うことは認められておりません。その結果、IFRSでは一部の子会社について決算日を統一、又は親会社の決算日において実施した仮決算に基づく財務諸表を作成した上で連結しており、連結財政状態計算書、連結損益計算書及び連結包括利益計算書の金額に影響があります。
 ⑤ 減損損失の追加計上  下記の開示例⑤で詳細に説明されているように、わが国の「固定資産の減損に係る会計基準」とIFRS(IAS第36号「資産の減損」)とでは、帳簿価額と比較する回収可能価額(キャッシュ・フローが割引前か、割引後か)が異なる。一般的には、IFRSの方が、減損損失が認識されるタイミングが早くなる。
【開示例⑤ 住友ゴム 2016年12月期】  日本基準において、のれんは20年以内の年数で均等償却を行っており、減損の兆候がある場合にのみ、のれんを含む各資産グループの帳簿価額と割引前キャッシュ・フローを比較し、割引前キャッシュ・フローが帳簿価額を下回った場合に限り、割引後キャッシュ・フローである回収可能価額まで減損損失を認識しております。IFRSにおいては、のれんは償却を行わず、減損の兆候の有無に関わらず毎期減損テストを実施し、のれんを含む各資金生成単位グループの帳簿価額と割引後キャッシュ・フローである回収可能価額を比較し、割引後キャッシュ・フローである回収可能価額まで減損損失を認識しております。当社はIFRS移行日時点の事業計画に基づき、各資金生成単位グループについて減損テストを実施したところ、割引後キャッシュ・フローである回収可能価額がのれんを含む帳簿価額を下回ったことから、4,511百万円の減損損失をIFRS移行日において認識しております。
 ⑥ 資本性金融商品の発行・取引費用の処理(株式交付費他)  株式交付費等の、資本性金融商品の発行・取引費用は、日本基準においては発生した期の費用(あるいは繰延資産)として計上されるが、IFRSでは、資本取引の取引コストは、資本からの控除として会計処理しなければならないとされている(IAS第32号「金融商品:表示」第35項)。
【開示例⑥ シスメックス 2017年3月期】  日本基準では、資本取引のコストは原則として費用処理しておりました。一方、IFRSでは資本取引のコストは資本からの控除として処理しております。
 ⑦ 賦課金の計上のタイミング  わが国では、固定資産税等の租税公課については、納付する対象の期間にわたって分割計上する場合が多いが、IFRSでは、解釈指針第21号「賦課金」により、賦課金支払負債を生じさせる債務発生事象が生じた時点で認識することが定められている(第8項)。
【開示例⑦-1 田辺三菱製薬 2017年3月期】  日本基準では納税通知書等に基づき計上していた固定資産税等の賦課金について、IFRSでは支払義務が発生した時点で支払見込額を計上しています。
【開示例⑦-2 コメダホールディングス 2016年2月期】  固定資産税等賦課金については、日本基準では納付時点で認識しておりましたが、IFRSでは賦課金支払負債を生じさせる債務発生事象が生じた時点で認識しており、その他の流動負債39,435千円を計上しております。
 ⑧ 社債、借入金等に関する手数料、発行費の償却原価(実効金利法)の計算  わが国の会計基準では社債発行費用や借入実行にかかるコスト等は発生した期の費用として処理されるが(社債発行費として繰延資産として計上されるものを除く)、IFRSでは金融負債の発行にかかるコストは、実効金利法に基づく償却原価計算に含めて処理される。
【開示例⑧ マクロミル 2016年6月期】  日本基準では、金融負債の発行に直接起因する発行コストについて発生時に費用処理しておりましたが、国際会計基準では実効金利法に基づく償却原価計算に含めて処理しています。
 ⑨ 流動化、割引等の消滅処理を取消し(金融資産・負債の認識の中止)  わが国の会計基準においては、金融資産の消滅の認識は、金融資産を構成する財務構成要素の一部に対する支配が第三者に移転した場合に、移転した当該財務構成要素の消滅を認識する、いわゆる「財務構成要素アプローチ」によっているが(金融商品実務指針第244項)、IFRSでは、企業が、当該金融資産の所有に係るリスクと経済価値のほとんどすべてを移転している場合には、当該金融資産の認識の中止を行い、当該譲渡において創出又は保持された権利及び義務をすべて資産又は負債として別個に認識しなければならない(IFRS第9号「金融商品」3.2.6(a))とされている。
【開示例⑨-1 太陽日酸 2017年3月期】  当社グループは、日本基準では、債権流動化取引について営業債権を譲渡した際に、全額金融資産としての認識を中止しておりましたが、IFRSでは、一部の営業債権に関して金融資産の認識の中止要件を満たさないことから、営業債権及び借入金を両建て計上しております。従って、営業債権、社債及び借入金が増加しております。
【開示例⑨-2 ノーリツ鋼機 2016年3月期】  日本基準では金融資産の契約上の権利に対する支配が移転したときに金融資産の認識を中止していますが、IFRSにおいては、契約上の権利に対する支配の移転だけでなく当該金融資産の所有にかかるリスクと経済価値のほとんど全てを移転するまで認識を中止しないため、差異が生じています。金融資産の認識の中止時点の違いにより、IFRSで追加的に認識された仕入債務及びその他の債務は前連結年度において1,074百万円でした。
 ⑩ 特例処理・振当処理の停止  わが国の会計基準では、資産又は負債に係る金利の受払条件を変換することを目的として利用されている金利スワップが金利変換の対象となる資産又は負債とヘッジ会計の要件を充たしており、かつ、その想定元本、利息の受払条件(利率、利息の受払日等)及び契約期間が当該資産又は負債とほぼ同一である場合には、金利スワップを時価評価せず、その金銭の受払の純額等を当該資産又は負債に係る利息に加減して処理することができるとされている(金融商品会計基準注解14)ほか、ヘッジ会計を適用する場合には、当分の間、為替予約等により確定する決済時における円貨額により外貨建取引及び金銭債権債務等を換算し直物為替相場との差額を期間配分する方法(以下「振当処理」という。)によることができるとされているが(外貨建取引等会計処理基準注解6)、IFRSにはこのような特例的な取扱いは存在しない。
【開示例⑩ 味の素 2017年3月期】  日本基準においては、金利通貨スワップについて一体処理(特例処理、振当処理)の要件を満たしている場合は一体処理を採用していましたが、IFRSではヘッジ会計を適用しないこととしたため、金利通貨スワップは純損益を通じて公正価値で測定されております。この結果、デリバティブ負債が6,121百万円増加しております。
 ⑪ 債務性のない引当金の取崩し  わが国においては、企業会計原則注解18において、「将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。」とされており、製品保証引当金、返品調整引当金、修繕引当金等が例示として列挙されている。一方IFRSでは、IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」において、引当金は、「時期又は金額が不確実な負債をいう。」、と定義されており(第10項)、負債であることが要件として求められている。このため、IFRSの負債の定義を満たさない(債務性がない)引当金は、日本基準からIFRSに移行する際に取り崩さなければならない。
【開示例⑪ Jフロントリテイリング 2018年2月期第1四半期】  日本基準では引当金として会計処理していた「返品調整引当金」、「単行本在庫調整引当金」及び「販売促進引当金」は、IFRSでは引当計上しておりません。

おわりに
 本稿では2回に分けて、IFRS任意適用日本企業がIFRSを初度適用した際に作成した調整表とその詳細な説明をとりあげた。今回は調査対象とはしなかったが、このほかに、特別損益項目をIFRSでは営業損益に含める等、表示科目の組替も多数行われている。ここで説明されている項目は、いずれもわが国の会計基準とIFRSとの間に残された相違点であり、IFRS適用に向けて奮闘してきた日本企業の経理部門の前に立ちはだかってきた「高い壁」であったといえる。調整表の作成に至るまでには、IFRSの関連基準書の規定やその趣旨の理解、影響度調査、重要性の判断、会計処理の変更、あるいは維持のための理論武装や会計監査人との協議など、長い道のりがあったに違いない。IFRSの任意適用開始から7年が経過し、適用企業も150社を超えて、事例の蓄積も着実に進んできていると思われる。そうした中で、最近は、IFRSへの移行に先立つ会計期間において、日本の会計基準の枠内でIFRSと親和性が高い会計処理を採用したり、在外子会社の決算日を変更して親会社に合わせる、あるいは親会社の決算期を、あらかじめ3月決算から12月決算に変更したりするような事例も出てきている。今回取り上げたような先行事例を参考にしながら周到な準備を早くから行うことにより、IFRSへの移行がより円滑に進むことは間違いないと思われる。

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