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解説記事2017年12月04日 【未公開裁決事例紹介】 相続税の課税対象か否かは財産の権利関係状況で判断(2017年12月4日号・№717)

未公開裁決事例紹介
相続税の課税対象か否かは財産の権利関係状況で判断
相続の開始時に売買契約の履行が相当程度確実に

○被相続人が売主として売買契約を締結していた土地建物について、相続税の課税対象とすべき財産は土地建物か、あるいは売買契約の土地建物に係る売買残代金請求権であるか争われた裁決。国税不服審判所は、相続の開始時に、売買契約の履行に係る客観的な障害はなく、売買契約を解除すべき事情もなかったことからすると、相続開始時に売買契約に係る売買は履行されることが相当程度確実になっていたものと指摘。たとえ土地建物の所有権が売主である被相続人に留保されていたとしても、もはやその実質は売買残代金請求権を確保するための機能を有するにすぎないのであり、相続税の課税対象とすべき財産は、売買残代金請求権であると解するのが相当であるとの判断を示した(平成29年3月3日、棄却)。

事  実
(1)事案の概要
 本件は、被相続人×××(以下「本件被相続人」という。)が売主として売買契約を締結していた土地及び建物について、その相続人である審査請求人×××(以下「請求人××」という。)、同×××(以下「請求人××」という。)及び同×××(以下「請求人××」といい、請求人××及び請求人××と併せて「請求人ら」という。)が、当該土地及び当該建物を相続財産として相続税の申告をしたところ、原処分庁が、相続財産は土地及び建物ではなく、当該売買契約に係る売買残代金請求権であるとして相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人らが、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)基礎事実  当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 イ 相続について  請求人らは、××××(以下「本件相続開始日」という。)に死亡した本件被相続人の相続(以下「本件相続」という。)に係る共同相続人であり、平成25年12月12日付で、別紙2(略)の1の各土地及び各建物(これらを併せて、以下「本件土地建物」という。)を請求人××が相続するとした本件相続の遺産分割協議書を作成した。
 ロ 売買について (イ)本件被相続人、請求人××及び××××(本件被相続人及び請求人××と併せて、以下「本件売主」という。)は、平成25年9月30日、××××(以下「本件買主」という。)との間で、別紙2(略)の1の本件土地建物及び本件相続の開始前から請求人××、××××がそれぞれ所有していた別紙2(略)の2の各建物(本件土地建物と併せて、以下「本件不動産」という。)を、売買代金318,334,900円で譲渡する旨の不動産売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、同日、本件売買契約に基づき、売買代金のうち手付金10,000,000円を受領した。
  ××××は、昭和55年9月20日に設立された法人で、本件相続開始日における取締役は、代表者である請求人××及び本件被相続人であった。
(ロ)請求人××及び××××と本件買主は、平成26年1月24日付で覚書(以下「本件覚書」という。)を締結し、請求人××が、本件土地建物を相続により取得し、本件売買契約に基づく本件被相続人の売主の地位を承継して当該売主としての権利及び義務を履行する旨確認した。
(ハ)請求人××及び××××は、平成26年1月30日に、本件売買契約に係る残代金308,334,900円、本件売買契約に基づく公租公課、未収家賃及び敷金を精算し、本件買主に対して、本件不動産を引き渡した。また、本件不動産の所有権は、平成26年1月30日売買を原因として、いずれも本件買主へ移転した。
(3)審査請求に至る経緯 イ 請求人らは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表(略)の「期限内申告」欄の記載のとおりとする相続税の申告書を、法定申告期限までに共同で原処分庁に提出して、相続税の期限内申告をした。
ロ 請求人らは、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成27年6月29日、別表(略)の「修正申告」欄記載のとおりとする修正申告書を、共同で原処分庁に提出した。
ハ 原処分庁は、平成27年11月18日付で、別表(略)の「賦課決定処分」欄記載のとおりの過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ さらに、原処分庁は、上記ロの調査に基づき、平成27年11月18日付で、別表(略)の「更正処分等」欄記載のとおりの各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ホ 請求人らは、上記ニの各処分を不服として、平成28年1月15日に別表(略)の「異議申立て」欄記載のとおりの異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月15日付で、土地の評価額等に誤りがあるとして、請求人××及び請求人××に対する上記ニの各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分については、別表(略)の「異議決定」欄のとおり、いずれもその一部を取り消すとともに、請求人×××に対する上記ニの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分については、いずれも棄却する旨の異議決定をした(以下、上記ニの請求人××及び請求人××に対する各更正処分(異議決定によりその一部が取り消された後のもの)並びに請求人×××に対する更正処分を併せて「本件各更正処分」といい、請求人××及び請求人××に対する過少申告加算税の各賦課決定処分(異議決定によりその一部が取り消された後のもの)並びに請求人×××に対する過少申告加算税の賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」という。)。
へ 請求人らは、異議決定を経た後の本件各更正処分及び本件各賦課決定処分に不服があるとして、平成28年5月13日に審査請求するとともに、請求人××を総代に選任し、その旨を当審判所に届け出た。
(4)関係法令(略)
争点および主張  本件相続税の課税価格に算入すべき財産は、本件土地建物であるか、本件売買契約の本件土地建物に係る売買残代金請求権(以下「本件売買残代金請求権」という。)であるか。
 当事者の主張はのとおり。

【表】
原処分庁 請 求 人 
(1)本件相続税の課税価格に算入すべき財産は、次の理由から、本件売買残代金請求権である。
  すなわち、下記イないしハの事実から、本件相続開始日において、本件売買残代金請求権が確定的に本件被相続人に帰属していたと認めるのが相当であり、本件土地建物の所有権が売主である本件被相続人に残っていても、もはやその実質は本件売買残代金請求権を確保するための機能を有するにすぎないのであるから、本件相続税の課税の対象となる財産は本件売買残代金請求権である。
 イ 本件相続開始日において、本件売買契約における手付解除条項の期限を徒過している。
 ロ 本件相続開始日の前後を通じて、本件売買契約に定められている各条項の履行は円滑に行われている。
 ハ 本件覚書によれば、請求人××が、本件売買契約に基づく本件被相続人の売主の地位を承継しており、本件相続開始日の後においても、本件売買契約を円滑に履行しようとする意思が認められる。
(2)最高裁判所昭和61年12月5日第二小法廷判決(昭和56年(行ツ)第89号。以下「本件最高裁判決」といい、要旨は別紙3のとおり。)については、本件売買残代金請求権が相続財産であることを認定するに当たり、その内容を参考にしたにすぎず、本件売買契約に係る事実を総合的に勘案して判断したものである。
(1)本件相続税の課税価格に算入すべき財産は、次の理由から、本件土地建物である。
  すなわち、本件土地建物について、相続税の課税価格に算入すべき財産が債権であるか所有権であるかの判断基準は、売買契約の所有権留保の特約の有無及びその効力の発生いかんによる所有権の有無により判断すべきである(東京高等裁判所昭和56年1月28日判決(昭和53年(行コ)第75号)参照)。
  そして、本件売買契約書第6条には「本物件の所有権は、買主が売主に対して売買代金全額を支払い、売主がこれを受領した時に売主から買主に移転します。」との所有権留保特約があり、本件では相続開始時に代金の支払が完了していないのであるから、所有権は本件売主に留保されており、本件相続税の課税価格に算入すべき財産は本件土地建物である。



   

(2)本件相続税の課税対象とすべき財産を本件売買残代金請求権とする原処分庁の論理の展開は、本件最高裁判決の判示内容を見誤ったことによるものであり、この解釈に誤りがある。

審判所の判断
(1)争点について
 イ 認定事実
 請求人ら提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件被相続人及び請求人××は、本件不動産に係る各建物が老朽化した貸家でありオーナーの管理の負担が大きいこと、老朽化した各建物が原因で居住者に何らかの損害が生じた場合にオーナーの責任を問われかねないこと等を勘案し、本件売買契約の締結に至った。
(ロ)本件被相続人は、平成25年9月25日付の委任状を作成し、請求人××を代理人と定め、本件売買契約に関する一切の権限を請求人××に委任した。
(ハ)本件被相続人は、平成25年10月2日、××××に対して、本作不動産に係る各土地が面する×××所有の道路及び水路につき、土地境界確定申請及び土地境界確認申請を行った。また、上記各申請に基づき、本件調査士及び×××××の職員は、平成25年10月15日に境界標の確認及び境界の合意の基礎となる図面における線形の協議を行い、同月30日、本件調査士立会いの下、現地確認手続が完了した。
 ロ 法令解釈  相続税法第2条第1項によれば、相続税の課税対象となる財産は、相続によって取得されたものであり、民法第896条《相続の一般的効力》によれば、相続人は相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するのであって、同法第882条《相続開始の原因》によれば、相続は死亡によって開始するのであるから、ある財産が相続税の課税対象となるか否かについては、相続開始時である被相続人の死亡の時におけるその財産に関する権利関係の状況によって判断されるべきものと解される。
 ハ 検討 (イ)本件被相続人は、本件売買契約の締結及び手付金の受領後、当該売買契約に係る取引完了前に本件相続が開始したため、本件相続開始日において、本件売買残代金請求権を有していたものと認められ、請求人らは、平成25年12月12日付で、本件土地建物を請求人××が相続するとした遺産分割協議を成立させていることからすると、請求人××は、本件相続により本件被相続人が所有していた本件土地建物の権利義務の一切を承継したものと認められる。
  もっとも、本件売買契約において、売買代金の残金の授受が完了した時に本件売主から本件買主に所有権が移転する旨の定めがあり、本件相続開始日においては、売買代金残金の授受が完了していなかったことから、本件土地建物の所有権は本件買主には移転していない。
(ロ)そこで、本件売買契約に関して本件相続税の課税価格に算入すべき財産について検討するに、本件相続開始日の状況によれば、①請求人××は本件売買契約に係る契約当事者であり、かつ、本件売買契約に係る共同売却人である×××××の代表取締役であるとともに、同じく共同売却人である本件被相続人から本件売買契約に関する一切の権限の委任を受けており、実質的には請求人××が主体となって、本件売買契約に関する手続を進めていたことが認められること、②本件売買契約を締結した経緯として、老朽化した建物に係るオーナーとしての負担及びリスク回避の要因があったところ、上記①の請求人××が主体となって契約手続を進めていた点を併せ考えれば、本件相続が、それらの動機を覆して契約を解除するまでの事由となり得るとは認められないこと、③本件売買契約の履行に当たり、本件被相続人は、隣地の境界確定のための土地境界確定申請書及び土地境界確認申請書を××××に提出し、境界確定に向けた手続を進めていたこと、④本件相続開始日には、既に本件売買契約の手付解除の条項に係る期限が経過していたことなど、本件売買契約に係る一連の状況等を考慮するに、本件売買契約の履行手続は支障なく進められ、他に本件売買契約の履行に係る客観的な障害があったことを示す事実も認められない。
  なお、本件相続開始日の後においては、請求人××及び××××と本件買主は、平成26年1月24日付で本件覚書を締結したことにより請求人××が本件被相続人の売主の地位を承継し、同月30日には、本件売買契約に係る残代金等を精算の上、本件買主に対して、本件不動産を引渡し、本件売買契約の履行が完了している。
(ハ)以上のことからすれば、本件相続の開始時においては、本件売買契約が履行されることが相当程度確実になっていたものと認められ、そのような状況下においては、たとえ本件土地建物の所有権が売主である本件被相続人に残っていたとしても、もはやその実質は本件売買残代金請求権を確保するための機能を有するにすぎないのであり、本件土地建物の所有権は独立して相続税の課税財産を構成しないというべきであって(本件最高裁判決参照)、本件相続税の課税対象とすべき財産は、本件土地建物ではなく、本件売買残代金請求権であると解するのが相当である。
 ニ 請求人らの主張について  請求人らは、相続税の課税対象とすべき財産は、売買契約の所有権留保の特約の有無及びその効力の発生いかんによる所有権の有無により判断すべきである旨主張するが、本件相続税の課税財産が本件土地建物であるか、本件売買残代金請求権であるかの判断については、本件売買契約に係る個々の事実関係を基に判断することが相当であり、本件土地建物の所有権の実質は、本件売買残代金請求権を確保するための機能を有するにすぎないのであるから、請求人らの主張には理由がない。
 また、請求人らは、原処分庁の主張する本件相続税の課税対象とすべき財産を本件売買残代金請求権とする論理の展開は、本件最高裁判決の判示内容を見誤ったことによるものであり、この解釈に誤りがある旨主張するが、本件相続税の課税対象が本件土地建物であるか、本件売買残代金請求権であるかの判断に当たっては、本件売買契約に係る個々の事実関係をもとに判断するのが相当であること及びその判断結果は上記認定のとおりであり、原処分庁の認定もこれに沿ったものであるところ、このような認定は、本件最高裁判決の判示内容に照らしても相当なものと解されるのであって、この点における請求人らの上記主張には理由がない。
 よって、請求人らの主張にはいずれも理由がない。
(2)本件各更正処分の適法性について  以上のとおり、本件土地建物について、本件相続税の課税価格に算入すべき財産は本件売買残代金請求権となる。これに基づき算出した請求人らの本件相続税の課税価格及び納付すべき税額は、当審判所においても本件各更正処分における請求人らの本件相続税の課税価格及び納付すべき税額といずれも同額であると認められる。
 なお、本件各更正処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各更正処分は適法である。

別紙3 本件最高裁判決の要旨  原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、たとえ土地の所有権が売主に残っているとしても、もはやその実質は売買代金債権を確保するための機能を有するにすぎないものであり、上告人らの相続した土地の所有権は、独立して相続税の課税財産を構成しないというべきであって、本件において相続税の課税財産となるのは、売買残代金債権であると解するのが相当である。
 したがって、上告人らの課税価格の算定にあたり、本件土地の価額をその売買残代金債権と同額とし、その各相続分に相当する金額を上告人らの取得財産価額に加算すべきであるとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、諭旨は採用することができない。

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