カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2005年01月31日 【解説】 有限責任事業組合(日本版LLP)制度の創設(2005年1月31日号・№100)

有限責任事業組合(日本版LLP)制度の創設
 
社団法人 日本経済団体連合会 産業本部産業基盤グループ長 阿部泰久



 経済産業省は、「有限責任事業組合制度に関する研究会(座長:能見善久東京大学法学部教授)」における検討結果(2004年12月17日「有限責任事業組合制度創設の提案」)を踏まえ、2005年通常国会に、有限責任事業組合契約法案(仮称)を提出する予定である。
 これは、民法組合制度の特例として、すべての出資者=組合員が出資額の範囲までしか事業上の責任を負わないにもかかわらず、組合としての課税(構成員課税)が適用される新たな事業の仕組みとして「有限責任事業組合制度」すなわち、日本版LLP(Limited Liability Partnership)を創設するものである。
 しかしながら、現行税法には構成員課税に関する明文規定はなく、計算方式など最小限の規定が通達に置かれているだけである。平成17年度税制改正においては、不動産所得を生ずべき民法組合について業務執行者でない個人組合員についての不動産損失の否認や、民法組合や匿名組合において実質的に有限責任である法人組合員の損失取り込み額を出資額の範囲までに制限するなどの重要な改正が予定されている。これらの改正と有限責任事業組合制度の創設を契機として、わが国においても構成員課税のあり方について税法上で明確な規定を置くことになっていくものと考えられる。
 そこで本稿では、有限責任事業組合制度の概要を紹介しながら、今後の構成員課税のあり方を検討していきたい。
 
1. 日本版LLP制度のニーズ

(1)有限責任制度の導入

 経団連は1999年5月の提言「わが国産業の国際競争力強化のための第1次提言」の中で、従来の会社組織でも組合契約でもない新たな事業の仕組みとして、米国のLLC(Limited Liability Company)やLLP(Limited Liability Partnership)と類似の、すべての出資者が出資額までしか事業上の責任を負わない有限責任と、事業体段階ではその所得に課税せずすべての損益を出資者段階で他の所得と合算して課税する税制上のパス・スルーの仕組み(構成員課税)を兼ね備えた「有限責任事業組合」の創設を求めた。
 米国のLLP、LLC以外にも、英国のLLP制度(2000年創設)、フランスのSAS(単純型株式資本会社、1994年導入)、など、近年、諸外国においてさまざまな新たな企業形態が現れているが、これらは、以下のような共有の特徴を備えている。
① すべての出資者が出資の範囲でのみ事業上の責任を負う有限責任
② 機関や内部規律のあり方が法制で厳格に規定されておらず、出資者間の契約や定款によって柔軟に定めることができる内部規律の柔軟性
③ 事業体段階では課税されずに、その出資者に直接課税されるため、事業体と出資者との間での二重課税とならない構成員課税制度の適用
 ところが、わが国においては、これらの特徴を兼ね備えた事業体が存在していないことにより、事業の展開に様々な制約が課されている。
 例えば、合弁事業など複数の企業が共同で事業を行うために、会社を設立して行うならば、出資者は有限責任ではあるが、出資比率に応じた利益の分配しかできない。また、事業体段階で法人課税が課された上に出資者段階で配当に二重に課税されることとなる。出資者が法人であれば出資比率により受取配当益金不算入が適用されるが、出資者が個人の場合には二重課税を完全に排除することはできない。共同事業で損失が生じた場合に出資者の他の所得と通算することはできない。
 共同事業を民法組合形式で行う場合には、出資額の多寡にかかわらず利益の分配や権限を出資者の貢献に応じて自由に決めることができ、税制上は構成員課税の適用を受けることができるが、出資者は全員が無限責任を負うこととなる。
 そこで、全出資者が有限責任でありながら、柔軟に内部組織を構築でき、税務上は構成員課税を受けるべき新たな事業体として、まず、会社法改正の中で「合同会社」を創設し、これに税制上で構成員課税を適用することにより、日本版LLCを創設することが検討されてきた。しかし、法人格をもつ「会社」でありながら構成員課税を適用することへの壁は極めて厚く、会社法で合同会社が創設されたとしても、直ちに構成員課税が適用される目途は立たない。
 そうした中、中小企業等投資事業有限責任組合、投資事業有限責任組合などの民法上の任意組合契約制度の特例の延長線上に、日本版LLPを創設しようとするのが、有限責任事業組合制度である。

2. 制度の概要

(1)有限責任制度の導入
 民法上の任意組合契約では出資者(組合員)全員が無限責任を負う。商法上の匿名組合契約は、無限責任となる営業者と直接事業に参加せずに出資のみを行い損益の配分を受ける出資者(匿名組合員)との間の契約であり共同事業には活用できない。また、投資事業有限責任組合は、投資事業=ファンドのための仕組みであり直接に事業活動をおこなうことはできず、最低1名の無限責任社員を置くことが必要となる。
 しかし、有限責任事業組合は、その名が表すとおり出資者(組合員)全員が事業上の責任については出資額の範囲でのみ責任を負う。すなわち、組合の財産と出資者の財産は法的に分離され、有限責任事業組合の取引債権者は、当該組合の財産からのみ弁済を受けることができる。
 そこで、出資者全員の有限責任制を導入することの見返りとして、有限責任事業組合との間で取引を行なう債権者を保護するために、以下のような規定を置くことが必要になる。
① 登記・開示義務
  有限責任組合であることを対外的に明らかにするために、有限責任事業組合契約の登記制度が不可欠である。また、有限責任事業組合は名称中に必ず「有限責任事業組合」であることを表示し、有限責任事業組合でないものが有限責任事業組合と表示することは禁止される。
  また、一定の形式により財務データを整備し、それを取引債権者の求めに応じて開示する義務を負う。
② 債権者保護のための組合財産の保全
  株式会社、有限会社など出資者全員が有限責任である他の組織法制との均衡からも、設立時の出資金について全額払い込み義務が課される。
  また、出資できるものは金銭その他の財産に限られ、合名会社・合資会社で認められているような労務出資や信用出資は認められない。ただし、後述のとおり労務などの提供を反映した柔軟な損益分配は可能である。
  組合財産の分配に際しては一定の債権者保護手続きが求められることになる。

(2)有限責任の限界
 有限責任事業組合における出資者の有限責任の範囲は事業上の責任のみであり、以下のような場合には、特定の出資者はその出資額を超える責任を負うことになる。
① 不法行為により損害を受けた債権者に対する出資者の責任
  有限責任事業組合の組合員が起こした不法行為により損害を受けた債権者は、当該組合財産から弁済を受けるほか、不法行為を行った出資者は、不法行為者として通常の民法上の不法行為責任=無限責任を負う。
② 悪意・重過失の業務執行者の第三者に対する責任の明確化
  有限責任事業組合の出資者がその業務に関連して悪意・重過失で第三者に損害を与えた場合には、業務執行者として出資額を超えた額についても賠償責任を負う。

(3)内部自治の徹底
 LLPの特性のひとつは、「組合」であることから、その組織のあり方が株式会社の機関のように法制で厳密に規定されるのではなく、契約等によって自由に定められることにある。有限責任事業組合においても、民法組合と同様に業務執行者に対する監視機関の設置は義務付けられないなど柔軟な組織構築ができる。
 また、株式会社や有限会社では出資者への利益分配(配当)はその出資比率によるしかないが、有限責任事業組合における出資者間の損益分配は、原則は出資比率に応じて行うものの、書面による特別な定めを行うことにより、労務や知的財産、ノウハウの提供などを勘案して出資比率と異なる損益分配を行うことができる。

(4)共同事業性の確保
 債権者保護の観点と構成員課税の適用の観点から、有限責任事業組合では共同事業性の確保が図られることになる。
① 重要な意思決定についての全員一致
  組合の名称、事業内容、存続期間、組合員の加入、持分譲渡、多額の借財、重要な財産の処分など重要な意思決定については、有限責任事業組合契約発効の要件として契約書への署名を義務付けることなどにより、全員一致によることが求められる。
② 全出資者の業務執行参加
  単に事業に投資だけを行う組合員(出資者)の存在は認められず、すべての出資者が何らかの業務執行に参加することが義務付けられる。ただし、参加の形態は出資者の能力に応じて分担することも可能である。
  なお、有限責任事業組合としての共同事業性を満たさない場合は、直ちに組合としての存在が否定されることはなく、当該組合は民法上の任意組合として扱われることになる。
  また、有限責任事業組合では、個人または法人が出資者となることができるが、全ての出資者に業務執行への参加が求められるため、民法組合は有限責任事業組合の組合員になることはできず、民法組合の組合員が組合員の資格として有限責任事業組合の組合員になることはできない。

(5)事業体(経済主体)としての位置づけ
 有限責任事業組合は、法人格を持たない契約であるが、以下のようなことからは経済主体として十分機能できるものと考えられる。
① 契約などの主体性
  有限責任事業組合は、民法上の任意組合と同様、その業務執行者の名義で契約をし、財産を所有し、訴訟を行うことができ、その効果は全組合員に及ぶ。
② 組合財産の独立性
  有限責任事業組合は、民法組合と同様、知的財産権や不動産も組合財産として保有でき、組合員の個人債権者はこれを差し押さえることができない。

(6)関連制度の整備
 有限責任事業組合を事業体として円滑に活用するためには、さらに以下のような手当てが必要になる。
① 特許登録や不動産登記
  有限責任事業組合が行う特許登録については、単なる組合員連名ではなく、組合員の有限責任事業組合内での肩書き(業務執行役員、パートナーなど)を付記した連名での登録が認められる見込みである。
  また、有限責任事業組合が行う不動産登記についても、当該不動産が有限責任事業組合の財産であることを公示することにより取引の安全性が高まる効果が期待できることから、特許登録と同様、有限責任事業組合の肩書き付登記を可能とすることが必要であるが、最高裁判例は個人が権利能力なき社団の肩書きを付けて不動産登記をできないことを判示していることもあって、本件についての法務当局の見解が未だ示されていない。
  しかし、特定の1人の肩書き付き登記ではなく、組合員連名で肩書き付き登記をすることによって組合財産の実態を表すということであれば問題ないし、虚無の登記が生じかねないとの懸念に対しては組合契約の登記を行うこととすることで問題は解決できるはずである。
② 弁護士事務所や公認会計士事務所における有限責任事業組合の活用
  弁護士や公認会計士などの各種士業における有限責任事業組合の活用可能性について、国際的な動向、関連法制度における指定社員制度の整備状況、ニーズの有無などを踏まえての検討が必要である。
  特に、弁護士及び公認会計士については、既に指定社員制度が整備され、また、有限責任事業組合類似の制度の活用が国際的に進んでいることから、有限責任事業組合が活用できるよう関連法制を整備することが期待される。
③ 許認可事務の合理化
  有限責任事業組合は、組合員が許認可を受けることにより許認可事業を行うことができると考えられるが、許認可を受けるに際し、業務執行者名義などで申請が可能となるよう、有限責任事業組合が行う事業の実態や各法律の性格に応じて適切な手当を講じることを検討する必要がある。
④ 有限責任事業組合の解散・清算の規定等の整備
  民法組合に関する規定をベースにして、有限責任事業組合に関する解散・清算の規定が整備される見込みである。ただし、構成員全員が有限責任であることから、会社法上の解散・清算規定を参考として、債権者に対する公告・催告などを義務付けることとされている。なお、有限責任事業組合の破産能力については、さらなる検討が必要とされているにとどまっている。
  また、有限責任事業組合として事業を起業し、成長に応じて株式会社等に組織を改めるなど、組織変更を行うニーズは高いと考えられ、そのための規定も検討すべきである。

3. 税制上の取扱い

(1)構成員課税の適用

 有限責任事業組合では、共同事業性を確保し、組合事業から生じる損失を利用して節税を図る租税回避行為的な目的で使われることを抑止することを条件として、組合の段階では課税せず、出資者に直接課税する仕組み(構成員課税)が適用される。
 出資者の課税所得の計算方法としては、現行の民法上の任意組合契約と同様に、継続適用を前提として以下の3方式の選択が可能である(法人税基本通達14-1-2、所得税基本通達36・37共20参照)。
① 総額方式
  当該組合の収入金額、支出金額、資産、負債等をその分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法。
② 中間方式
  当該組合の収入金額、その収入金額に係る原価の額及び費用の額並びに損失の額をその分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法。
  この方法による場合には、各組合員は、当該組合の取引等について受取配当等の益金不算入、所得税額の控除等の規定の適用はあるが、引当金の繰入れ、準備金の積立て等の規定の適用はない。
③ 純額方式
  当該組合について計算される利益の額又は損失の額をその分配割合に応じて各組合員に分配又は負担させることとする方法。
  この方法による場合には、各組合員は、当該組合の取引等について、受取配当等の益金不算入、所得税額の控除、引当金の繰入れ、準備金の積立て等の規定の適用はない。

(2)柔軟な損益配分
 損益分配については、原則は出資比率に応じて行うこととなるが、有限責任事業組合契約法に基づき書面による特別な定めなどを行えば、労務や知的財産、ノウハウの提供などを勘案して、出資比率と異なる損益配分を行うことができる。
 税務上も合理的な範囲内であれば、出資比率によらない損益配分が認められることとなると考えられるが、どの範囲ならば「合理的」であるのかについては、現行の民法組合における課税においても明確な指針はなく、有限責任事業組合制度の創設によって具体的な整備が必要になると考えられる。
 たとえば、米国の構成員課税においては、パートナーシップ契約による損益配分を尊重するとしながらも、当該契約による損益配分が実質的な経済効果(substantial economic effect)を有していない場合には租税回避目的であるとして否認されるなどの詳細な規定が置かれている(内国歳入法704条、他)。
 わが国の場合、法人税法132条から132条の3のような包括的な租税回避防止規定により対処することも考え得るが、明確性、透明性を担保するためにも税法上に具体的規定を置くべきである。

(3)現物出資の課税の取り扱い
 設立時や追加出資時における現物出資に関しては、当該出資者から自らの出資持分を越える部分を他の出資者に対して譲渡すると考えることから譲渡益課税の対象となり、企業組織再編税制における適格現物出資のような現物出資時の課税の繰り延べは手当てされていない。
 しかし、設立時の現物出資の課税繰り延べについては、高いニーズがあり、とりわけ複数の企業が生産部門を共同化するなどのジョイント・ベンチャーでは、有限責任事業組合設立時の現物出資に課税されるならば設立自体が困難になる。
 平成15年の改正産業活力再生特別措置法においては、共同事業再編を行う場合における会社設立時の現物出資に対して課税繰り延べが認められており、一定の要件のもとで行う場合に限るとしてでも、早急な手当てが必要である。

(4)損失の取り込み制限
 構成員課税の適用を受けることにより、すべての損益が出資者に配分されることになる。しかし、民法組合を活用した航空機リース事業で問題となったように、毎年の事業収入以上に多額の損失が生じる事業を構成して出資額を超える大きな損失を得て、他の所得と通算して節税を行うことを防ぐために、各出資者の有限責任事業組合からの税務上の損失の取り込み限度額は出資額を上限とされる。
 米国の構成員課税では、各パートナーが控除できる損失はパートナーの持分額(adjusted basis of such partner's interest)を限度とされており、平成17年度税制改正における民法組合等における法人組合員の損失取り組み制限とも併せ、構成員課税のあり方を検討する上で重要な手がかりとなろう。

(5)居住者・内国法人の参加の義務付け
 すべての出資者が非居住者・外国法人である有限責任事業組合を認めるならば、実際に出資者段階での課税を行うことは困難であるため、有限責任事業組合の出資者として、最低1名(1社)の居住者または内国法人を置くことが必要とされる。非居住者等である出資者については、居住者または内国法人であるいずれかの組合員が源泉徴収義務者となり、有限責任事業組合の事業から生じた当該非居住者等に帰属する利益に対して毎年源泉徴収を行うことが求められる。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索