解説記事2017年12月18日 【特別解説】 IFRS任意適用後の会計方針の変更等(2017年12月18日号・№719)

特別解説
IFRS任意適用後の会計方針の変更等

はじめに

 IFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・提出する企業(IFRS任意適用日本企業)はこれまでに150社を超え(IFRSの任意適用を決定している企業を含む)、着実に増加してきている。これらのIFRS任意適用日本企業は、IFRSの任意適用と同時に、あるいはそれに先立つ会計期間に有形固定資産の減価償却方法の変更や決算期の変更等を実施することが多いが、IFRSを任意適用した後の会計期間についてはどうであろうか。
 本稿では、IFRS任意適用日本企業のIFRS任意適用後の動きについて、調査分析してみたい。
 具体的には、有形固定資産の減価償却の方法の変更とその他の会計方針の変更とに分けて、企業が行った開示を紹介したい。また、IFRS任意適用後に連結決算日を変更した企業が行った開示も取り上げている。
 なお、我が国における企業結合に関する会計基準や退職給付に関する会計基準、あるいは繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針等の新規適用に伴う会計方針の変更に関する注記は、今回の調査分析の対象からは除外している。
 調査の対象とした企業は、2016年3月期までにIFRSを任意適用した80社である。

有形固定資産の減価償却方法の変更を実施した企業
 IFRSを任意適用後に有形固定資産の減価償却方法の変更を行った企業は、住友商事、アンリツ、コニカミノルタの3社である。住友商事は2011年3月期からIFRSを任意適用しているが(それまでは米国会計基準を適用)、任意適用から4期目の2014年3月期に、個別財務諸表における有形固定資産の減価償却方法を、定率法から定額法に変更している。この際の会計方針の変更の理由は、「有形固定資産の使用実態を勘案した結果、定額法による償却が合理的な方法であると判断したものであります」と、いたってシンプルであった。
 アンリツは2013年3月期からIFRSを任意適用しているが、適用3年目の2015年3月期に、個別財務諸表における有形固定資産の減価償却方法を定率法から定額法に変更した。変更の理由については、次のような開示を行っている。
 「当社は、生産能力増強を目的として前事業年度に新設した郡山第二事業所の安定的な稼働が今後は見込まれること及び本社地区のBCP(事業継続計画)整備を目的とした投資の本格化に伴い、有形固定資産の使用方法に照らした減価償却方法を再検討しました。その結果、設備投資の経済的便益が平均的に発生しているという実態に基づき、減価償却方法を定額法へ変更することがより適切であると判断いたしました。」
 さらに、コニカミノルタは、IFRSに移行(2015年3月期)した翌期の2016年3月期に、個別財務諸表における有形固定資産の減価償却方法を定率法から定額法に変更し、変更の理由については、次のような開示を行っている。
 「この変更は、研究開発拠点であるコニカミノルタ八王子SKTの建設及び設備投資、有機EL照明パネルの量産工場及びTACフィルム生産工場の増強など、情報機器事業、産業用材料・機器事業を中心に新製品の開発及び製造にかかる投資を重点的に行ったことを契機に、保有する有形固定資産の減価償却方法を見直したものであります。当社の主要な事業である情報機器事業及び産業用材料・機器事業において、需要は安定的に推移しており、当該投資により販売量及び生産量がより持続的に平準化され、長期安定的に生産設備が使用されると見込まれることから、使用可能期間にわたる均等償却による費用配分を行うことが、当社の実態をより適正に反映させることができると判断し、当事業年度において有形固定資産の減価償却の方法を定率法から定額法に変更いたしました。」
 アンリツ、コニカミノルタの両社ともに、設備投資の本格化や設備稼働の安定化等を、減価償却の方法を定率法から定額法に変更した理由として挙げており、IFRSの導入による影響等については特に言及されていなかった。

その他の会計方針の変更を実施した企業
 IFRS任意適用日本企業が、IFRS任意適用後に実施した会計方針の変更(有形固定資産の減価償却方法の変更を除く。)は表1のとおりである。なお、これらはすべて、個別財務諸表における変更である。
 以下ではそれぞれの会計方針の変更について、主にその理由を中心に開示内容を見ていくこととする。

【表1】IFRS任意適用日本企業が、IFRS任意適用後に実施した会計方針の変更
企業名 会計方針を変更した決算期 会計方針変更の内容
日本板硝子 2013年3月期 棚卸資産の評価方法
小野薬品工業 2015年3月期 棚卸資産の評価方法
三菱商事 2015年3月期 代行取引の会計処理方法
日立キャピタル 2016年3月期 社債発行費の会計処理方法

棚卸資産の評価方法を変更した企業(日本板硝子、小野薬品工業)
 日本板硝子(2012年3月期からIFRSを任意適用)は、2013年3月期に棚卸資産の評価方法を変更した際に、個別財務諸表において次のような開示を行った。
 「当社における商品及び製品、仕掛品、原材料及び貯蔵品の評価方法は、従来、移動平均法による原価法(貸借対照表価額については収益性の低下に基づく簿価切下げの方法)によっておりましたが、当事業年度から主として先入先出法による原価法(貸借対照表価額については収益性の低下に基づく簿価切下げの方法)に変更しております。これは、原価計算システムの再構築を契機に、たな卸資産の評価及び期間損益について、たな卸資産管理の実態に応じた評価を行うことにより、より適正な期間損益計算を実現することが目的であります。当該会計方針の変更は、原価計算システムの再構築を契機とするものであり、過去の事業年度について、先入先出法に基づく当事業年度の単価計算と一貫した計算を行うために必要な在庫受払記録を保持していないため、この会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を当事業年度の期首時点において算定することは実務上不可能であります。そのため、前事業年度の期末における商品及び製品、仕掛品、原材料及び貯蔵品の帳簿価額を当事業年度の期首残高として、期首から将来にわたり先入先出法を適用しております。」
 小野薬品工業(2014年3月期からIFRSを任意適用)が、2015年3月期に棚卸資産の評価方法を変更した際に行った開示は、次のとおりである。
 「たな卸資産の評価方法は、従来、主として先入先出法によっておりましたが、当事業年度より主として総平均法に変更しております。この評価方法の変更は、当事業年度より新しい原価システムを導入し、たな卸資産の評価及び期間損益計算をより迅速かつ適正にするために行ったものであります。なお、この変更による影響額は軽微であるため、遡及修正は行っておりません。」
 両社は、棚卸資産にかかる評価方法を変更した契機として、原価計算システムの再構築や新しい原価システムの導入等を挙げており、グローバル化やIFRSの任意適用等については特に言及していない。
 IFRS任意適用前の対応も含めて、棚卸資産の評価方法に関する会計方針の変更を実施する企業は多く、有形固定資産の減価償却の方法の変更に次ぐ件数である。いずれの企業も、IFRSの任意適用を会計方針変更の理由として明示してはいないものの、IFRSの任意適用を一つのきっかけとして全社的な管理体制の改善を行い、原価や在庫管理システムの刷新を行っているであろうことが予想される。

その他の会計方針の変更
 三菱商事は2014年3月期からIFRSを任意適用しているが、IFRSと我が国の収益認識に関する会計基準の相違(いわゆる代行取引の結果の総額/純額表示の考え方)により、IFRS適用初年度の2014年3月期においては、個別損益計算書上の「売上高(10,116,089百万円)」が、連結損益計算書上の「収益(7,635,168百万円)」を上回っていたが、2015年3月期に個別財務諸表において以下の会計方針の変更を行ったことにより、見かけ上の「逆転現象」が解消された。

(会計方針の変更)
損益計算書における代行取引の計上方法
 当社が契約の当事者とならず代理人として行う営業取引(代行取引)については、従来、商社業界における会計慣行を踏まえ、契約当事者間の取扱高を売上高、売上原価として計上していましたが、当年度より、手数料のみを売上高に計上する方法に変更しています。この変更は、契約当事者として負担すべき重要なリスクを負わない取引に係る売上高は手数料のみで計上すべきとする産業界の理解及び会計慣行が形成されつつあることを踏まえ、明らかに重要なリスクを負担していない代行取引について、見直しを行ったものです。当該会計方針の変更は遡及適用され、前年度については遡及適用後の財務諸表になっています。この結果、遡及適用を行う前と比べて、前年度の損益計算書は、売上高、売上原価がそれぞれ、2,760,908百万円減少していますが、売上総利益に影響はありません。
 三菱商事の2014年3月期と2015年3月期の連結/個別財務諸表上の収益(売上高)は、遡及修正後、表2のようになっている。

【表2】会計方針変更後(遡及修正後)の三菱商事の売上高
2014年3月期 2015年3月期
連結財務諸表上の「収益」 7,635,168百万円 7,669,489百万円
個別財務諸表上の「売上高」 7,355,181百万円 7,013,434百万円

 なお、収益認識については、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が2018年1月1日以後開始する事業年度から適用される予定であり、そこでは、収益の総額表示/純額表示について、これまで適用されてきたIAS第18号「収益」の考え方が引き継がれている。
 また、我が国においても、IFRS第15号の規定とほぼ同様の内容の、収益認識に関する会計基準と同適用指針の基準化に向けた審議が現在進められている。我が国において、収益認識に関する新会計基準等が強制適用されるまでには、まだしばらく猶予期間があると思われるが、これらが将来適用された場合には、我が国の企業の連結財務諸表上のみならず、個別財務諸表における売上高の数値にも大きな影響が生じる可能性がある。
 日立キャピタルは、IFRSを任意適用した次の期(2016年3月期)に、社債発行費の会計処理の方法を変更し、次のような開示を行っている。
 「社債発行費は、従来支出時に全額費用として処理しておりましたが、当事業年度より社債の償還までの期間にわたり利息法によって償却する方法に変更いたしました。当社グループは、海外市場において資金需要が進み、中国・ASEANでは間接金融への依存が高いことから、当事業年度において、銀行のグループ向け与信枠についてはグローバル事業での利用を優先する方針に転換いたしました。これを受け、当事業年度において、国内では当社が社債を積極的に活用し、比重を高めていくことを決定いたしました。これを契機に、資金調達費用の性格を有している社債発行費用については、その効果が次期以降の期間にわたり発現することから、当事業年度より変更いたしました。この結果、遡及適用を行う前と比べて、前事業年度における貸借対照表は、社債発行費、繰越利益剰余金が、それぞれ785百万円、529百万円増加、繰延税金資産が255百万円減少し、前事業年度の損益計算書は、金融費用が334百万円減少し、営業利益、経常利益、及び当期純利益がそれぞれ334百万円、当期純利益が238百万円増加しております。また、前事業年度の期首の純資産に累積的影響額が反映されたことにより、株主資本等変動計算書の繰越利益剰余金の遡及適用後の期首残高は、290百万円増加しております。なお、遡及適用を行う前と比べて、前事業年度における1株当たり純資産額、1株当たり当期純利益金額は、それぞれ4円52銭、2円04銭増加し、遡及適用後の1株当たり純資産額、1株当たり当期純利益金額は、それぞれ2065円55銭、74円74銭になります。」
 金融・ファイナンス系の企業ならではの会計方針の変更であり、会計方針を変更した理由も興味深い。そして、利益や剰余金の金額に与える影響のみならず、1株当たり純資産額や1株当たり当期純利益金額に対する影響も開示されている。

決算期(連結決算日)の変更を実施した会社
 2012年3月期からIFRSを任意適用している日本たばこ産業(JT)は、2014年3月期決算を終えた後、9か月決算を行って、連結決算日と親会社の決算日を12月31日に変更した。2014年12月期の有価証券報告書において、JTは次のような開示を行っている。
 「当年度より、当社及び決算日が12月31日以外の子会社は、当社グループの海外連結子会社と決算期を統一することにより、内外一体となった決算・管理体制の強化・効率化を図るため、決算日を12月31日に変更しております。この変更に伴い、連結決算日を3月31日から12月31日に変更しており、当年度は2014年4月1日から2014年12月31日までの9ヶ月間となっております。また、当社グループの海外たばこ事業の運営主体であるJT International Holding B.V. 及びその子会社(以下、JTIHグループ)の決算日は、従前より12月31日であり、2014年1月1日から2014年12月31日までの12ヶ月間を当年度に連結しております。」
 また、2015年3月期からIFRSを任意適用している電通は、IFRS適用後すぐに9か月決算を行い、連結決算日を12月31日に変更している。電通が行った開示は次のとおりである。「当連結会計年度より、当社および決算日が12月31日以外の子会社は、当社グループの海外連結子会社と決算期を統一することにより、内外一体となった決算・管理体制の効率化および強化を図るため、決算日を12月31日に変更しております。この変更に伴い、連結決算日を3月31日から12月31日に変更しており、当連結会計年度は2015年4月1日から2015年12月31日までの9ヶ月間となっております。また、当社グループの海外広告事業の運営主体であるDentsu Aegis Network Ltd.(以下、電通イージス・ネットワーク社)およびその管轄会社(以下、電通イージス・ネットワーク)の決算日は、従前より12月31日であり、2015年1月1日から2015年12月31日までの12ヶ月間を当連結会計年度に連結しております。」
 日本たばこ産業、電通の両社ともに、規模が大きい海外子会社の決算日を勘案した上で、連結決算日の変更に踏み切ったものと思われる。最近は、IFRS適用に先立って連結子会社や親会社の決算日(連結決算日)を変更する企業が増えてきている。

終わりに
 これまで見てきたように、IFRS適用に先立って行われる会計方針の変更や決算日の変更に比べると、IFRS任意適用後に行われる会計方針の変更の事例は非常に少なく、かつ、その内容も「小粒で、かつ地味」なものであることが多かった。また、有形固定資産の減価償却方法の変更や棚卸資産の評価方法の変更の理由も、当然のことかもしれないが、IFRS適用前に行われた会計方針の変更の理由と大差がなく、IFRSの任意適用やグローバル化などが変更の理由に挙げられていた事例はなかった。ただ、IFRS任意適用企業の中には、連結財務諸表においては有形固定資産の減価償却を定額法で実施(従来の定率法から定額法に変更)するものの、個別財務諸表上は引き続き定率法を適用している企業がまだ少なからず存在する。これらの企業が今後、大型設備投資の実施や設備稼働の平準化等を契機に、個別財務諸表における有形固定資産の減価償却方法を、定率法から定額法に変更する可能性は残っているといえよう。

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