解説記事2018年02月26日 【未公開裁決事例紹介】 株式譲渡代金の調整条項で支払われる代金の収入時期(2018年2月26日号・№728)
未公開裁決事例紹介
株式譲渡代金の調整条項で支払われる代金の収入時期
計画値が達成し、調整金額の満額支払いを想定
○株式譲渡の代金の一部に調整条項(会社の将来における業績に応じて算出される金額をもって分割して支払う旨の条項)に基づき支払われる代金の一部の収入時期が争われた裁決。請求人は、本件調整金額は将来の業績の計画値の達成度合いという指標により毎年変動し得る不確実なものであるなどと主張したが、国税不服審判所は、調整条項は計画値がいずれも達成され、満額支払われることを想定して設けられたものとみるのが相当であると指摘。本件株式の譲渡に係る平成25年において収入すべき金額は、本件譲渡契約に定められた代金全額とするのが相当であるとの判断を示した(平成29年2月2日、棄却)。
基礎事実等
(1)事案の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成25年中に非上場会社の株式を譲渡したが、当該譲渡契約に、代金の一部について、当該会社の将来における業績に応じて算出される金額をもって分割して支払う旨の条項が置かれていることを根拠に、当該条項に基づく金額を株式等に係る譲渡所得の収入金額に含めずに平成25年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告をし、その後、上記条項に基づく金額の支払を受けた後に、当該金額を収入金額に加算して同年分の所得税等の修正申告をしていたところ、原処分庁が、譲渡代金全額を一括して収入金額として計上すべきであるとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことに対し、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令等(略)
(3)基礎事実等(略)
争点および主張 本件譲渡に係る平成25年において収入すべき金額はいくらか。(当事者の主張は表のとおり。)
審判所の判断
(1)法令解釈 イ 所得税法第36条第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定しているところ、収入金額又は総収入金額の計算について、「収入すべき金額」と定め、「収入した金額」としていないことに鑑みると、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして当該権利発生の時期の属する年分の課税所得を計算するという、いわゆる権利確定主義の建前を採用しているものと解される。
ロ そして、特定の資産の譲渡に係る譲渡所得がいずれの年分の所得に帰属するかは、当該譲渡所得に係る収入金額が同項の「収入すべき金額」に当たると評価されるに至った時期のいかんによって判断されるものと解され、これについては、一般に、譲渡をした者による資産の引渡しがあれば、通常、その時点で、相手方に対してその対価を請求することができることが確定的となり、仮にその時点では現実の収入がなくても、その金額をもって、同項にいう「収入すべき金額」として評価し得る状態となったものとみることができる。
所得税基本通達36-12が、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、原則として、その所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとする旨定めているのは、この趣旨をいうものと解され、同通達は相当である。なお、ここにいう資産の引渡しがあった日がいつであるかは、当該資産について譲渡の当事者間で行われる支配の移転の事実に基づいて総合的に判断するのが相当である。
ハ 上記イで説示した点、及び、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであり、年々に蓄積された当該資産の増加益が所有者の支配を離れる機会に一挙に実現したものとみて課税する建前が採用されていることにも鑑みると、譲渡所得に係る収入の原因たる権利が確定的に発生した時、すなわち、上記ロのとおり、原則としてその所得の基因となる資産の引渡しがあった日の属する年に、当該譲渡所得に係る収入金額の全部が発生したものとして、これをその年において収入すべき金額と認めるべきものと解される。
(2)認定事実 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ ××の平成22年12月期から平成26年12月期までの経営実績は、別表2(略)のとおりである。
ロ 請求人及び××は、平成24年頃、××の全株式(請求人ら保有株式及び×××が保有する株式の合計100株。)を投資ファンドに売却することを計画し、当該売却に係るアドバイザリー業務を×××に委託した。
×××は、××の全株式が表章する同社の企業価値を、DCF法(Discounted Cash Flow。連続する複数の期間に発生する純収益等を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法をいう。)によって、4,000,000,000円と見積もり、これを請求人及び××に提案した。
ハ 請求人及び××は、上記ロの×××からの提案を参考に、自ら、××の全株式が表章する同社の企業価値を6,000,000,000円と見積もった上、平成25年4月頃、投資ファンド事業等を営む×××に対し、××の全株式を総額6,000,000,000円(1株当たり60,000,000円)で売却することを提案した。
ニ ××は、×××の経営実績等を検討した上、上記ハの提案に応じることとした。もっとも、×××が社歴の浅い新興企業であったことを考慮して、同社の代表取締役ないし取締役としてその経営を担ってきた請求人及び××に同社の経営リスクを分担させることを、買取りの条件(以下「本件条件」という。)として提示した。
ホ ××は、平成25年6月21日、×××の全株式の受け皿として、×××を設立した。
へ 請求人及び××並びに×××と××は、平成25年6月21日付の基本合意に関する覚書を作成し、同日時点での××の全株式の譲渡代金の総額が6,000,000,000円(1株当たり60,000,000円)であり、××はデューディリジェンスの結果を踏まえ最終的な金額を提示することなどを合意した。
ト 請求人及び××と×××は、平成25年8月8日に本件譲渡契約を締結し、同契約において、本件条件を満たすための約定として、本件調整条項が設けられた。
チ ×××は、平成25年8月8日、××との間で、×××が保有する××の株式(合計40株)を代金総額2,400,000,000円(1株当たり60,000,000円)で××に売却する旨の株式譲渡契約を締結したが、同契約には、本件調整条項のような条項はなく、代金全額が譲渡実行日(同年10月1日)に一括で支払われるものとされていた。
リ ××は、本件実行日に、同社の全株式について株券を発行した上、本件譲渡契約及び××に係る株式譲渡契約に基づき、当該株券を××に交付した。
また、××の株主名簿に、××が本件実行日に請求人及び××並びに×××から××の全株式を譲り受けてこれを取得した旨が記載された。
(3)検討 イ 上記(1)のロで説示したとおり、資産の譲渡に係る譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、原則として、その所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものと解されるところ、上記(2)のリのとおり、本件実行日に、本件譲渡契約に基づき、本件株式に係る株券が××に交付されるとともに、××の株主名簿に、××が請求人から本件株式を譲り受けてこれを取得した旨が記載されたことに照らせば、本件株式の引渡しがあった日は、本件実行日であると認めるのが相当である。
ロ ところで、本件譲渡契約には、本件譲渡代金の一部について、××の将来における業績に応じて算出される金額(本件調整金額)をもって分割して支払う旨の本件調整条項が置かれ、本件調整金額の総額は、本件譲渡代金から本件振込額及び本件現物出資額を控除した金額である。
そして、本件調整条項は、××が成長著しいものの社歴の浅い新興企業であることを考慮した××の要望により、××の経営リスクを請求人及び××に分担させる趣旨で設けられたものであるが、別表2(略)のとおり、××は、その設立以来、売上高だけでみても、平成22年12月期に×××、平成23年12月期に×××、平成24年12月期に×××と、右肩上がりの急成長を遂げており、本件調整金額の算定指標である本件計画値は、そうした同社の好調な経営状態を踏まえて設定されたものと認められる。そのうえ、そうした急成長を成し遂げた××の生みの親である請求人及び××が、株式を譲渡した後も引き続き代表取締役ないし取締役として同社に残り、その経営に携わることが予定されていたことや、本件調整条項は、かかる両名に対するインセンティブとなるものでもあること、さらに、ある事業年度において本件計画値を達成できず、本件調整金額が満額支払われないことがあったとしても、その後の事業年度において本件計画値以上の業績を挙げた場合には、過去の未達分が埋め合わせられるものとされていたことに加え、請求人及び××と同時に××の株式を譲渡した××に係る株式譲渡契約には、本件調整条項のような条項はなく、1株当たりの金額が本件譲渡契約と同額である代金全額が譲渡実行日に一括で支払われるものとされていたこととの均衡も考慮すれば、本件調整条項は、基本的には、本件計画値がいずれの事業年度においても達成され、本件調整金額が満額支払われることを想定して設けられたものとみるのが相当である。
ハ これに対し、請求人は、本件調整条項に基づき支払われる本件調整金額が、本件計画値の達成度合いという不確実な指標により毎年変動し得る不確実なものであり、かつ、本件計画値は、本件実行日の直近3事業年度の業績を大幅に超える値に設定され、その達成は容易でなかったことから、本件譲渡代金のうち、本件調整金額相当額については、停止条件が付されていたものといえ、本件計画値の達成という停止条件が成就するまでは、当該金額を収入すべき権利が確定していたとはいえず、当該金額について請求人が管理支配を有していたともいえない旨主張する。
しかし、上記ロでみたように、本件計画値は、右肩上がりの急成長を遂げている××の好調な経営状態を踏まえて設定されたものであって、直近3事業年度(平成22年12月期から平成24年12月期まで)の業績からかけ離れたものとはいえない上に、本件計画値は、それ自体、交渉の過程で、当初想定されていた値よりも3,000万円ないし1億円ほど下方修正された値であることにも照らすと、十分達成可能なものと認められ、達成困難なものとはいえない。
また、請求人が指摘するように、本件調整金額が毎年変動し得るものであるとしても、上記ロでみたように、本件調整条項が、基本的には、本件計画値がいずれの事業年度においても達成され、本件調整金額が満額支払われることを想定して定められたものであることからすれば、本件調整金額の支払が不確実であるとはいえない。
上記の各点に加え、上記ロでみた本件調整条項の内容及び趣旨にも鑑みれば、本件調整条項が、本件調整金額の支払に停止条件を付したものであるとはいうことができず、請求人の主張は採用することができない。
ニ そして、以上みたところによれば、本件譲渡契約に本件調整条項が置かれていることを勘案しても、本件株式の引渡しがあった本件実行日に、本件譲渡に係る収入金額たる本件譲渡代金の全額が確定的に発生したものと認めるのが相当である。
したがって、本件譲渡に係る平成25年において収入すべき金額は、本件譲渡代金の全額であると認められる。
株式譲渡代金の調整条項で支払われる代金の収入時期
計画値が達成し、調整金額の満額支払いを想定
○株式譲渡の代金の一部に調整条項(会社の将来における業績に応じて算出される金額をもって分割して支払う旨の条項)に基づき支払われる代金の一部の収入時期が争われた裁決。請求人は、本件調整金額は将来の業績の計画値の達成度合いという指標により毎年変動し得る不確実なものであるなどと主張したが、国税不服審判所は、調整条項は計画値がいずれも達成され、満額支払われることを想定して設けられたものとみるのが相当であると指摘。本件株式の譲渡に係る平成25年において収入すべき金額は、本件譲渡契約に定められた代金全額とするのが相当であるとの判断を示した(平成29年2月2日、棄却)。
基礎事実等
(1)事案の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成25年中に非上場会社の株式を譲渡したが、当該譲渡契約に、代金の一部について、当該会社の将来における業績に応じて算出される金額をもって分割して支払う旨の条項が置かれていることを根拠に、当該条項に基づく金額を株式等に係る譲渡所得の収入金額に含めずに平成25年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告をし、その後、上記条項に基づく金額の支払を受けた後に、当該金額を収入金額に加算して同年分の所得税等の修正申告をしていたところ、原処分庁が、譲渡代金全額を一括して収入金額として計上すべきであるとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことに対し、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令等(略)
(3)基礎事実等(略)
争点および主張 本件譲渡に係る平成25年において収入すべき金額はいくらか。(当事者の主張は表のとおり。)
| 【表】当事者の主張 |
| 原処分庁 | 請 求 人 |
| 収入すべき金額は、現実の収入の有無にかかわらず、その収入の原因たる権利が確定した場合に、その時点で所得の実現があったものとして課税所得を計算するものであり、この収入の原因たる権利は、将来における不確定な事情によって権利の全部又は一部が消滅することなく終局的に確定していることまで要するものではないと解されているところ、本件譲渡契約において、1株当たり60,000,000円で本件譲渡代金×××と定められていること、請求人及び××による補償が本件調整金額の多寡にかかわらず請求人ら保有株式の譲渡代金を基礎として算定されていたこと、本件調整金額の総額が1,700,000,000円を超えないとされていたこと並びに本件譲渡契約に付随する準消費貸借契約においても、現物出資された115,000,000円分の金銭債権が本件譲渡代金を基礎として算定されていたことからすると、本件実行日において、本件譲渡契約に係る収入すべき権利は確定していたといえる。 したがって、本件譲渡に係る平成25年において収入すべき金額は、本件調整金額を含む本件譲渡代金の全額である。 | 所得税法第36条に規定する権利確定主義に基づき、収入すべき金額は、その収入すべき権利が私法上確定している必要があるところ、本件調整金額は、事後的に一定の条件が達成された場合に追加的に支払われる金額の総額として定められたものであり、この一定の条件は、本件計画値の達成度合いという不確実な指標により毎年変動する不確実なものであり、かつ、本件計画値は、本件実行日の直近3事業年度の業績を大幅に超える値に設定されており、その達成は容易でなかった。 このことから、本件譲渡契約に係る売買当事者は、本件譲渡金額の支払請求権について、停止条件を付していたものといえ、当該停止条件が成就するまでは、その収受すべき権利は、法的な効力を有しておらず、私法上確定していたとはいえない。また、請求人は、上記停止条件が成就し、本件調整金額を受領するまでは、同金額について管理支配を有していたとはいえない。 以上によれば、本件譲渡に係る平成25年において収入すべき金額は、上記停止条件が成就するまでは、本件振込額及び本件現物出資額の合計×××のみというべきである。 |
審判所の判断
(1)法令解釈 イ 所得税法第36条第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定しているところ、収入金額又は総収入金額の計算について、「収入すべき金額」と定め、「収入した金額」としていないことに鑑みると、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして当該権利発生の時期の属する年分の課税所得を計算するという、いわゆる権利確定主義の建前を採用しているものと解される。
ロ そして、特定の資産の譲渡に係る譲渡所得がいずれの年分の所得に帰属するかは、当該譲渡所得に係る収入金額が同項の「収入すべき金額」に当たると評価されるに至った時期のいかんによって判断されるものと解され、これについては、一般に、譲渡をした者による資産の引渡しがあれば、通常、その時点で、相手方に対してその対価を請求することができることが確定的となり、仮にその時点では現実の収入がなくても、その金額をもって、同項にいう「収入すべき金額」として評価し得る状態となったものとみることができる。
所得税基本通達36-12が、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、原則として、その所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとする旨定めているのは、この趣旨をいうものと解され、同通達は相当である。なお、ここにいう資産の引渡しがあった日がいつであるかは、当該資産について譲渡の当事者間で行われる支配の移転の事実に基づいて総合的に判断するのが相当である。
ハ 上記イで説示した点、及び、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであり、年々に蓄積された当該資産の増加益が所有者の支配を離れる機会に一挙に実現したものとみて課税する建前が採用されていることにも鑑みると、譲渡所得に係る収入の原因たる権利が確定的に発生した時、すなわち、上記ロのとおり、原則としてその所得の基因となる資産の引渡しがあった日の属する年に、当該譲渡所得に係る収入金額の全部が発生したものとして、これをその年において収入すべき金額と認めるべきものと解される。
(2)認定事実 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ ××の平成22年12月期から平成26年12月期までの経営実績は、別表2(略)のとおりである。
ロ 請求人及び××は、平成24年頃、××の全株式(請求人ら保有株式及び×××が保有する株式の合計100株。)を投資ファンドに売却することを計画し、当該売却に係るアドバイザリー業務を×××に委託した。
×××は、××の全株式が表章する同社の企業価値を、DCF法(Discounted Cash Flow。連続する複数の期間に発生する純収益等を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法をいう。)によって、4,000,000,000円と見積もり、これを請求人及び××に提案した。
ハ 請求人及び××は、上記ロの×××からの提案を参考に、自ら、××の全株式が表章する同社の企業価値を6,000,000,000円と見積もった上、平成25年4月頃、投資ファンド事業等を営む×××に対し、××の全株式を総額6,000,000,000円(1株当たり60,000,000円)で売却することを提案した。
ニ ××は、×××の経営実績等を検討した上、上記ハの提案に応じることとした。もっとも、×××が社歴の浅い新興企業であったことを考慮して、同社の代表取締役ないし取締役としてその経営を担ってきた請求人及び××に同社の経営リスクを分担させることを、買取りの条件(以下「本件条件」という。)として提示した。
ホ ××は、平成25年6月21日、×××の全株式の受け皿として、×××を設立した。
へ 請求人及び××並びに×××と××は、平成25年6月21日付の基本合意に関する覚書を作成し、同日時点での××の全株式の譲渡代金の総額が6,000,000,000円(1株当たり60,000,000円)であり、××はデューディリジェンスの結果を踏まえ最終的な金額を提示することなどを合意した。
ト 請求人及び××と×××は、平成25年8月8日に本件譲渡契約を締結し、同契約において、本件条件を満たすための約定として、本件調整条項が設けられた。
チ ×××は、平成25年8月8日、××との間で、×××が保有する××の株式(合計40株)を代金総額2,400,000,000円(1株当たり60,000,000円)で××に売却する旨の株式譲渡契約を締結したが、同契約には、本件調整条項のような条項はなく、代金全額が譲渡実行日(同年10月1日)に一括で支払われるものとされていた。
リ ××は、本件実行日に、同社の全株式について株券を発行した上、本件譲渡契約及び××に係る株式譲渡契約に基づき、当該株券を××に交付した。
また、××の株主名簿に、××が本件実行日に請求人及び××並びに×××から××の全株式を譲り受けてこれを取得した旨が記載された。
(3)検討 イ 上記(1)のロで説示したとおり、資産の譲渡に係る譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、原則として、その所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものと解されるところ、上記(2)のリのとおり、本件実行日に、本件譲渡契約に基づき、本件株式に係る株券が××に交付されるとともに、××の株主名簿に、××が請求人から本件株式を譲り受けてこれを取得した旨が記載されたことに照らせば、本件株式の引渡しがあった日は、本件実行日であると認めるのが相当である。
ロ ところで、本件譲渡契約には、本件譲渡代金の一部について、××の将来における業績に応じて算出される金額(本件調整金額)をもって分割して支払う旨の本件調整条項が置かれ、本件調整金額の総額は、本件譲渡代金から本件振込額及び本件現物出資額を控除した金額である。
そして、本件調整条項は、××が成長著しいものの社歴の浅い新興企業であることを考慮した××の要望により、××の経営リスクを請求人及び××に分担させる趣旨で設けられたものであるが、別表2(略)のとおり、××は、その設立以来、売上高だけでみても、平成22年12月期に×××、平成23年12月期に×××、平成24年12月期に×××と、右肩上がりの急成長を遂げており、本件調整金額の算定指標である本件計画値は、そうした同社の好調な経営状態を踏まえて設定されたものと認められる。そのうえ、そうした急成長を成し遂げた××の生みの親である請求人及び××が、株式を譲渡した後も引き続き代表取締役ないし取締役として同社に残り、その経営に携わることが予定されていたことや、本件調整条項は、かかる両名に対するインセンティブとなるものでもあること、さらに、ある事業年度において本件計画値を達成できず、本件調整金額が満額支払われないことがあったとしても、その後の事業年度において本件計画値以上の業績を挙げた場合には、過去の未達分が埋め合わせられるものとされていたことに加え、請求人及び××と同時に××の株式を譲渡した××に係る株式譲渡契約には、本件調整条項のような条項はなく、1株当たりの金額が本件譲渡契約と同額である代金全額が譲渡実行日に一括で支払われるものとされていたこととの均衡も考慮すれば、本件調整条項は、基本的には、本件計画値がいずれの事業年度においても達成され、本件調整金額が満額支払われることを想定して設けられたものとみるのが相当である。
ハ これに対し、請求人は、本件調整条項に基づき支払われる本件調整金額が、本件計画値の達成度合いという不確実な指標により毎年変動し得る不確実なものであり、かつ、本件計画値は、本件実行日の直近3事業年度の業績を大幅に超える値に設定され、その達成は容易でなかったことから、本件譲渡代金のうち、本件調整金額相当額については、停止条件が付されていたものといえ、本件計画値の達成という停止条件が成就するまでは、当該金額を収入すべき権利が確定していたとはいえず、当該金額について請求人が管理支配を有していたともいえない旨主張する。
しかし、上記ロでみたように、本件計画値は、右肩上がりの急成長を遂げている××の好調な経営状態を踏まえて設定されたものであって、直近3事業年度(平成22年12月期から平成24年12月期まで)の業績からかけ離れたものとはいえない上に、本件計画値は、それ自体、交渉の過程で、当初想定されていた値よりも3,000万円ないし1億円ほど下方修正された値であることにも照らすと、十分達成可能なものと認められ、達成困難なものとはいえない。
また、請求人が指摘するように、本件調整金額が毎年変動し得るものであるとしても、上記ロでみたように、本件調整条項が、基本的には、本件計画値がいずれの事業年度においても達成され、本件調整金額が満額支払われることを想定して定められたものであることからすれば、本件調整金額の支払が不確実であるとはいえない。
上記の各点に加え、上記ロでみた本件調整条項の内容及び趣旨にも鑑みれば、本件調整条項が、本件調整金額の支払に停止条件を付したものであるとはいうことができず、請求人の主張は採用することができない。
ニ そして、以上みたところによれば、本件譲渡契約に本件調整条項が置かれていることを勘案しても、本件株式の引渡しがあった本件実行日に、本件譲渡に係る収入金額たる本件譲渡代金の全額が確定的に発生したものと認めるのが相当である。
したがって、本件譲渡に係る平成25年において収入すべき金額は、本件譲渡代金の全額であると認められる。
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