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解説記事2018年03月12日 【特別解説】 企業結合で識別されたのれん以外の無形資産(2018年3月12日号・№730)

特別解説
企業結合で識別されたのれん以外の無形資産

はじめに

 持続的な株高や好調な業績にも支えられて、日本企業による大規模なM&Aも頻繁に行われ、新聞紙上をにぎわせている。とりわけ豊富な資金を持ち、国内外に幅広く事業を展開しているIFRS任意適用日本企業(IFRSに基づいて連結財務諸表を作成し、有価証券報告書を公表している企業)が大規模な企業結合の実行者となることも少なくない。
 企業結合というと「多額ののれんが発生する」ということが真っ先に想起されることが多いが、言うまでもなく、企業結合は、被取得企業が有する技術やノウハウ、顧客基盤、潜在的な収益力などを取得企業が獲得するために行うのであって、のれんはあくまでも「残り物」にすぎない。
 企業結合の会計処理を行うにあたり、購入対価を企業結合で取得した資産や負債に配分するPPA(Purchase Price Allocation)と呼ばれる手続が行われ、配分しきれずに残った対価がのれんになるという流れであるにもかかわらず、我が国ではのれんばかりにスポットライトが当たり、PPAや「のれん以外の無形資産」が注目されることはまだまだ少ないと言わざるを得ない。本稿では、企業結合の目的物(成果物)で、本来は主役となるべき「企業結合で識別されたのれん以外の無形資産」に着目したい。

IFRSの規定
 IFRS第3号「企業結合」の認識原則は、「取得日時点において、取得企業は、のれんとは区別して、取得した識別可能な資産、引き受けた負債及び被取得企業のすべての非支配持分を認識しなければならないとしている(第10項)。また、適用指針のB31項では、取得企業はのれんとは別に、企業結合で取得した識別可能な無形資産を認識しなければならない旨と、無形資産は、分離可能性規準又は契約法律規準のどちらかを満たす場合に識別可能となる旨が定められている。さらに第13項では、「取得企業による認識原則及び条件の適用により、被取得企業が以前の財務諸表において資産および負債として認識していなかった資産および負債が認識される場合がある。例えば、ブランド名、特許又は顧客関係等、被取得企業の内部で開発され、関連する原価を費用として処理しており、被取得企業の財務諸表では資産として認識されていなかったが、取得企業は識別可能な取得した無形資産として認識する場合がある。」と記載されている。

調査の対象とした企業結合
 今回は、IFRS任意適用日本企業が2014年3月期以降に行った企業結合で、のれん以外にその他の無形資産が10億円以上識別された事例40件を抽出し、どのような無形資産が識別されたのかを調査した。有価証券報告書の企業結合に関する注記では、取得対価の配分先として、「無形資産」と一本で表示されていることが多いため、無形資産に関する注記を合わせて参照することにより、無形資産の内訳の科目名を特定した。

識別された回数が多かった無形資産
 今回抽出した40件の企業結合で、識別されたのれん以外の無形資産(ソフトウェアを除く)は、のべ66件であった。それらを件数が多い順に示すと表1のとおりである。

 顧客関連資産と商標権を合わせると、全体の7割を超えるという結果になった。顧客関連資産と商標権は幅広い業種の企業で識別されていたが、技術関連資産は製造業、仕掛研究開発は製薬業の企業で計上されていた。
 顧客関連資産や技術関連資産(テクノロジー)が具体的にどのようなものを指しているのかについての説明はなかなか見られないが、ソフトバンクとプレミアグループが、無形資産の注記において次のような説明を行っていた。

 「顧客基盤は、被取得企業の企業結合時に存在した顧客から期待される将来の超過収益力を反映したものです。(ソフトバンク)」
 「顧客関連資産は、被取得企業がクレジット事業及びワランティ事業における事業運営のノウハウ及びバリューチェーン、運営組織等を包括したものであり、当社の将来における超過収益力の根幹をなすものです(プレミアグループ)」
 「テクノロジーは、被取得企業の企業結合時点において既に開発済みの技術、あるいは開発の進んだ技術から期待される将来の超過収益力を反映したものです。(ソフトバンク)」

多額の無形資産が識別された企業結合
 のれん以外の無形資産が500億円以上識別された企業結合の事例は、表2に示した次の15件である。

 ソフトバンクの突出ぶりが目立つ。なお、ソフトバンクの無形資産の注記において、「FCCライセンス」、「有利なリース契約」、「ゲームタイトル」は、それぞれ次のように説明されている。
FCCライセンス:米国連邦通信委員会(FCC)が付与する、特定の周波数を利用するためのライセンス
有利なリース契約:企業結合時に、被取得企業の借手のオペレーティング・リース契約の条件が、支配獲得日時点の市場の条件と比べて有利である場合、その将来キャッシュ・フローの有利な差異に係る公正価値を見積り、無形資産として認識しているもの
ゲームタイトル:被取得企業の企業結合時に存在したゲームタイトルから期待される将来の超過収益力を反映したもの
 15件のうちの8件で、識別されたその他の無形資産の金額がのれんの発生額を上回っているのも特徴的であろう。以下で、それぞれの事例を個別に見ていくこととしたい。

ソフトバンクによる企業結合で識別された無形資産
 ソフトバンクによる資金投資の規模やスピード感は、日本企業はもとより、全世界的に見ても「規格外」であり、さながら「無形資産のデパート」のようでもある。その金額の大きさや種類の豊富さとも相まって、ソフトバンクによる無形資産の注記は、IFRS任意適用日本企業の中で、質量ともに最も充実していると言ってよい。
 ① 2014年3月期  2014年3月期は、ソフトバンクが海外へのM&A投資を一気に加速させた年であった。
 2014年3月31日に終了した1年間の、企業結合による無形資産の主な増加は次のとおりである。
・2013年4月にガンホーを子会社化した結果、ゲームタイトル77,796百万円(償却年数:3年~5年)を認識。
・2013年7月にスプリントを子会社化したことにより、下記の無形資産を認識(編注:表3参照)。

・2013年7月に(株)ウィルコムを子会社化した結果、顧客基盤25,004百万円を認識。
・2013年10月にスーパーセルを子会社化した結果、ゲームタイトル119,099百万円(償却年数:3年~5年)を認識。 
・2014年1月にブライトスターを子会社化した結果、顧客基盤22,493百万円および商標権(耐用年数を確定できない無形資産)12,120百万円を認識。 
 ② 2016年3月期 ・2015年8月にアスクル(株)を子会社化した結果、顧客基盤40,680百万円および商標権20,130百万円を認識。 
・2016年2月に(株)一休を子会社化した結果、顧客基盤16,000百万円および商標権10,120百万円を認識
 ③ 2017年3月期  2017年3月期の英国アーム社の買収も、大きな話題となった。
・2016年9月にアームを子会社化した結果、のれん2,650,911百万円、テクノロジー537,680百万円、顧客基盤148,649百万円および商標権5,940百万円を認識。
 ソフトバンクはアーム社を「グローバルな半導体の知的所有権と「IoT(モノのインターネット)」における優れた能力を有し、イノベーションに実績のある世界有数のテクノロジー企業」と評価しているが、アーム社の「企業結合時点において既に開発済みの技術、あるいは開発の進んだ技術から期待される将来の超過収益力を反映したもの」であるテクノロジーに対して5,300億円超を投じた。
 なお、ソフトバンクは、2017年3月末日時点において、それぞれの無形資産を次の年数で償却している(編注:表4参照)。


製薬企業の企業結合で識別された無形資産(武田、アステラス、大塚ホールディングス)
 武田薬品は2017年2月にがん関連医薬品の研究開発・販売を行う米国のアリアド・ファーマシューティカルズ社を取得し、brigatinib(肺がん用の薬)とアイクルシグ(急性リンパ性白血病治療剤)をはじめとする製品に係る無形資産を425,859百万円認識した(残存償却年数は10~11年)。武田は、brigatinibは10億米ドルを超えるピーク年間売上の可能性を有していると評価しており、brigatinibとアイクルシグは、コストシナジーも伴い、武田オンコロジー(癌などの腫瘍の原因・治療などについて研究する学問分野。)のバリュードライバーとなることが期待されるとしている。
 アステラス製薬は、2017年3月期の企業結合により増加した、仕掛中の研究開発86,020百万円(非償却)のうち、84,476百万円は、ガニメド・ファーマシューティカルズAG(がん治療薬の研究開発企業)の買収に伴い認識されたIMAB362に係る権利であると説明している。また、大塚ホールディングスは、2015年1月に米国のバイオベンチャー企業であるアバニアファーマシューティカルズ社を買収し、アルツハイマー型認知症に伴う行動障害の治療を目的とした後期開発品であるAVP-786の研究開発に係る権利(172,231百万円)と、神経疾患の情動調節障害の治療薬であるニューデクスタに係る権利(90,242百万円)を取得した(非償却。すでに償却が開始されているものの残存償却期間は10年)。
 がんやアルツハイマー型認知症、白血病等の治療法の確立や有効な薬の開発は日本人の長年の悲願であり、これらの課題の解決に向けて、日本の製薬企業が巨額の資金を投資していることをうかがい知ることができる。

消費財・サービス型企業の企業結合で識別された無形資産(三菱商事、日本たばこ、電通、アサヒグループホールディングス及びユニー・ファミリーマートホールディングス)
 三菱商事は、2017年2月9日に、コンビニエンスストア「ローソン」のフランチャイズシステム及び直営店舗の運営会社である(株)ローソンの株式を取得して、(株)ローソンを連結子会社とした。これに伴って、のれんを290,916百万円、無形資産を428,702百万円認識している。無形資産の主な内訳は、商標権298,955百万円、顧客関係91,523百万円であり、これらの残存償却期間は15年から36年であった。
 日本たばこは、2016年1月13日に、レイノルズグループから、Natural American Spiritの
米国外たばこ事業に係る商標権等を取得し、無形資産の商標権を148,260百万円(2016年12月末日現在の帳簿価額)計上した(残存償却期間は主として9年~10年)。電通は、2016年9月1日に、米国を中心とした大手独立系データ主導・テクノロジー活用型のマーケティング・ソリューション・プロバイダーであるマークル社を取得し、のれん(99,472百万円)に加えて、次のような無形資産を識別した(編注:表5参照)。

 アサヒグループホールディングス(以下、「アサヒ」)は、2016年10月に、SABMillerLimitedの「Peroni」「Grolsch」及び「Meantime」ブランド及びこれらのブランドを製造、販売するイタリア、オランダ、英国の事業会社を取得し、子会社とした。取得した企業は合計で29社、取得対価は297,020百万円という大規模な取引であった。
 アサヒによると、「Grolsch」は400年、「Peroni」は150年以上の歴史を持つ世界有数のプレミアムビールブランドであり、欧州を中心に認知度の非常に高いブランドである。また、「Meantime」は英国のクラフトビールのパイオニア的ブランドであり、ロンドンなど都市部を中心に、若者に人気のあるブランドとして急成長しているとのことであるが、アサヒは取得した商標権を、「耐用年数を確定できない無形資産(非償却)」とはせずに、40年で償却している。
 ユニー・ファミリーマートホールディングス(旧株式会社ファミリーマート)は、2016年9月1日に、ユニーグループ・ホールディングスを吸収合併により取得した。この際に、無形資産(顧客との関係)を50,906百万円(見積耐用年数:6年~20年)識別している。

製造業型企業の企業結合で識別された無形資産(LIXILグループ、パナソニック、DMG森精機、ブラザー工業)
 LIXILグループは、2015年4月1日に、欧州及びアジアを中心に水回り設備の世界的な販売網を有するグローエ社の株式を取得(グローエ社株式を保有していたGraceA社を取得)し、連結子会社とした。この企業結合に伴って、のれん153,405百万円、顧客関連資産19,896百万円、商標権175,945百万円及び技術資産7,260百万円を認識している。顧客関連資産は12年、技術資産は5年で償却しているが、商標権は、事業期間が確定しておらず、事業が継続する限り基本的に存続するため、将来の経済的便益が期待される期間について予見可能な限度がないと判断し、耐用年数を確定できない無形資産(非償却)に分類している。パナソニックは、業務用冷凍・冷蔵ショーケースの製造・販売・開発・サービスを展開する米国のハスマン社を2016年4月1日に取得し、顧客62,130百万円(償却年数21年)と商標(耐用年数を確定できない無形資産として非償却)29,548百万円を認識した。
 DMG森精機は、2015年4月13日に、欧州の工作機械メーカーであるAG社の株式を取得して連結子会社とし、表6の無形資産を認識した。

 さらにブラザー工業は、2015年6月11日に産業用プリンティング機器を製造・販売する英国企業であるドミノ社の株式を取得し、顧客関連資産(残存償却年数:13.25年)を認識している。

終わりに
 有価証券報告書においては、のれん以外の無形資産については全体的に開示が乏しく、無形資産の注記等においても顧客関連資産、商標権、ソフトウェア、開発費(開発資産)を除くと、区分掲記されている科目はきわめて少ないと言わざるを得ない。さらにそれらの科目について、内容を詳細に説明している企業は、ソフトバンクのみといってもよいくらいである。
 ソフトバンクが計上しているFCCライセンスのような特殊なものを除くと、企業結合で識別されるのれん以外の無形資産は、大きく分けて商標権及びブランド、顧客関連資産、仕掛研究開発(製品関連資産)、及び技術資産(テクノロジーを含む)の4つの分野に大別されると考えられる。
 商標権やブランドと顧客関連資産は業種を問わず計上されているが、どちらかというと食品や嗜好品、最終消費財を扱う企業で識別されることが多い。償却期間は、商標権は30年~40年と長いものが多く、非償却(耐用年数を確定できない無形資産)となるものも散見される。一方、顧客関連資産は、償却年数は10年~15年が主流で、商標権の半分弱であることが多い。仕掛中の研究開発が識別されるのは製薬業界にほぼ限られており、通常非償却であるが、その中でも武田が認識している製品に係る無形資産の残存償却年数が10年~11年というのはかなり短いという印象を受ける。
 ソフトバンクがアーム社を買収した際に識別したテクノロジーの残存償却期間は8年~20年とされているが、その他の製造業の各社で計上された技術資産は5~6年で償却されることが多く、技術革新のスピードの速さが、改めて浮き彫りとなる結果となっている。

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