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解説記事2018年04月02日 【法令解説】 会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案の公表(2018年4月2日号・№733)

法令解説
会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案の公表
 法務省民事局参事官 竹林俊憲
 法務省民事局付 福永 宏
 法務省民事局付 邉 英基
 法務省民事局付 青野雅朗
 法務省民事局付 坂本佳隆

Ⅰ はじめに

 法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会(部会長:神田秀樹学習院大学法科大学院教授。以下「部会」という。)において、平成30年2月14日、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」(以下「中間試案」という。)が取りまとめられた。
 部会の事務当局である法務省民事局参事官室は、平成30年2月28日に、中間試案を、同室の責任で作成した「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案の補足説明」と共に公表し、同年4月13日までの間、パブリックコメントを実施している。パブリックコメントの手続の詳細については、電子政府の総合窓口(e-Gov)のホームページ(http://www.e-gov.go.jp/index.html)を参照されたい。
 本稿においては、部会におけるこれまでの審議の経過等に触れつつ、中間試案の概要について紹介する。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者らの個人的な見解にすぎない。

Ⅱ 中間試案の概要

第一 株主総会に関する規律の見直し

一 株主総会資料の電子提供制度
 現行の会社法上、株主総会資料の提供は、原則として書面により提供しなければならないこととされており、株主総会資料を電磁的方法により提供するためには、株主の個別の承諾が必要とされている(同法第299条第3項、第301条第2項等)。
 株主総会資料をインターネットを利用する方法によって提供することができるようになれば、株式会社は、印刷や郵送のために生ずる費用を削減することができるようになり、印刷や郵送が不要となることに伴い、株主に対し、従来よりも早期に充実した内容の株主総会資料を提供することができるようになることなども期待することができるという指摘がされている。
 そこで、中間試案第1部第1においては、取締役が、株主総会資料を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し、株主に対して当該ウェブサイトのアドレス等を書面により通知した場合には、株主の個別の承諾を得ていないときであっても、取締役は、株主に対して株主総会資料を適法に提供したものとする制度(以下「電子提供制度」という。)を新たに設けるものとしている。
1 上場会社に対する義務付け  部会においては、株主にとっての分かりやすさや、インターネットを利用した株主への株主総会資料の提供を促進するなどの観点から、上場会社等の一定の株式会社については、電子提供制度の利用を義務付けるべきであるという指摘がされている。そこで、中間試案第1部第1の1②においては、振替機関は、中間試案第1部第1の1①による定款の定めがある株式会社の株式でなければ、取り扱うことができないものとして、上場会社(振替株式を発行する株式会社)に対して電子提供制度の利用を義務付けるものとしている。
2 電子提供措置期間  中間試案第1部第1の2①においては、株主総会資料をウェブサイトに掲載する期間を、電子提供措置開始日から株主総会の日以後3か月を経過する日までの間とするものとしている。
 期間の末日を株主総会の日以後3か月を経過する日としている理由は、株主総会資料が株主総会の決議の取消しの訴えに係る訴訟において証拠等として使用される可能性があり、株主総会資料は、少なくとも、当該訴えの出訴期間(会社法第831条第1項柱書き)が経過する日までは、ウェブサイトに掲載されている必要があるものとすることが相当であると考えられるからである。
 また、期間の初日である電子提供措置開始日については、中間試案第1部第1の2②において、株主総会の日の4週間前の日又は株主総会の招集の通知を発した日のいずれか早い日とするA案と、株主総会の日の3週間前の日又は株主総会の招集の通知を発した日のいずれか早い日とするB案を掲げている。これは、電子提供制度を利用すれば、原則として株式会社は株主総会参考書類等の印刷や郵送をする必要がなくなることから、電子提供制度においては、電子提供措置開始日を、現行法の公開会社における株主総会の招集の通知の発送期限である株主総会の2週間前よりも前倒しすべきであるという指摘がされていることを踏まえたものである。
3 株主総会の招集の通知  株主総会資料のウェブサイトへの掲載によって株主に対する株主総会資料の提供があったものと取り扱うためには、株主が、株主総会資料がウェブサイトに掲載されたことを認識する必要があると考えられる。中間試案第1部第1の3においては、株主総会の招集の通知を、株主において株主総会資料がウェブサイトに掲載されたことを認識し、ウェブサイトにアクセスすることを促すためのものと位置付けた上で、株主総会の招集の通知の発送時期等について、現行の会社法の規律とは異なる規律を適用するものとしている。
 具体的には、まず、中間試案第1部第1の3(1)において、株主総会の招集の通知の発送期限について、株主総会の日の4週間前までとするA案、株主総会の日の3週間前までとするB案及び株主総会の日の2週間前までとするC案を掲げている。
 また、中間試案第1部第1の3(2)において、株主総会の招集の通知に記載し、又は記録しなければならない事項について、株主がウェブサイトにアクセスすることを促すために重要であると考えられる事項に限定するものとしている。
4 書面交付請求  電子提供制度の創設に当たっては、インターネットを利用することが困難な株主の利益に配慮する必要がある。そこで、中間試案第1部第1の4(2)①においては、書面の交付を希望する株主が、株式会社に対して、ウェブサイトに掲載された資料を書面により交付することを請求することができるものとしている。
 他方で、書面交付請求を株主に保障することに伴い株式会社に生ずる事務の負担にも配慮し、中間試案第1部第1の4(2)②においては、株式会社が株主総会において議決権を行使することができる者を定めるための基準日を定めたときは、株式会社は、その基準日までに書面交付請求をした株主に対してのみ書面を交付すればよいものとしている。

二 株主提案権  近年、一人の株主により膨大な数の議案が提案されたり、株式会社を困惑させる目的で議案が提案されるなど、株主提案権が濫用的に行使される事例が見られる。株主提案権が濫用的に行使されることにより、株主総会における審議の時間等が無駄に割かれ、株主総会の意思決定機関としての機能が害されたり、株式会社における検討等に要するコストが増加したりすることなどが弊害として指摘されている。
 そこで、中間試案第1部第2においては、株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置として、株主が同一の株主総会において提案することができる議案の数を制限したり、株主による不適切な内容の提案を制限したりする規定を新たに設けるものとしている。
1 提案することができる議案の数  中間試案第1部第2の1においては、株主が一定の上限を超えた数の議案を提案した場合には、株式会社は、会社法第305条第1項の規定による請求を拒絶することができるものとしており、その上限について、5とする案(A案)と10とする案(B案)を掲げている。
 また、役員等の選任又は解任に関する議案は一候補一議案であると解されていることから、当該議案の数を形式的に数えることとすると、株主が提案することができる議案の数を過度に制限することとなる懸念がある。そのため、中間試案第1部第2の1においては、A案とB案のそれぞれについて、役員等の選任又は解任に関する議案については、選任又は解任される役員等の人数にかかわらず、一議案として数える案(A1案及びB1案)と、役員等の選任又は解任に関する議案には、この制限が及ばないものとする案(A2案及びB2案)を掲げている。
 他方で、定款の変更に関する議案については、それが関連性のない多数の条項を定款に追加しようとするものであっても、株主が一つの議案として提案した場合には、その数を一と数えなければならないこととすると、この制限の趣旨が容易に潜脱される懸念がある。部会においては、定款の変更に関する議案の数については、内容において関連する事項ごとに区分して数えるものとする旨の明文の規定を設けるものとすることも議論されており、中間試案第1部第2の(1の注)においては、このような規定を設けるものとするかどうかについて、なお検討するものとしている。
2 内容による提案の制限  中間試案第1部第2の2においては、株主による提案の内容が不適切である場合には、株主が株主提案権を行使することができないものとしている。
 中間試案第1部第2の2①から③までは、提案株主の目的に着目した拒絶事由であり、それぞれ、(ⅰ)株主が専ら人の名誉を侵害し、又は人を侮辱する目的で株主提案を行った場合、(ⅱ)株主が専ら人を困惑させる目的で株主提案を行った場合及び(ⅲ)株主が専ら当該株主又は第三者の不正な利益を図る目的で株主提案を行った場合を拒絶事由とするものとしている。
 他方で、中間試案第1部第2の2④は、①から③までとは異なり、客観面に着目した拒絶事由であり、株主提案により株主総会の適切な運営が妨げられ、株主の共同の利益が著しく害されるおそれがある場合を拒絶事由とするものである。

第二 取締役等に関する規律の見直し

一 取締役等への適切なインセンティブの付与
1 取締役の報酬等
 取締役の報酬等についての現行の会社法の規律は、取締役又は取締役会によるいわゆるお手盛りを防止するためのものであると一般的に理解されている。しかし、近年、このようなお手盛り防止の観点からの規律に加えて、報酬等が取締役に対して職務を適切に執行するインセンティブを付与するための手段として機能するための規律も同法に設ける必要があるという指摘がされている。
 そこで、中間試案第2部第1の1においては、取締役の報酬等が取締役に対して職務を適切に執行するインセンティブを付与するための手段として機能するように取締役の報酬等に関する規律を見直すものとしている。
(1)取締役の報酬等の内容に係る決定に関する方針  中間試案第2部第1の1(1)においては、取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)が、取締役の報酬等の内容に係る決定に関する方針を定めているときは、取締役の報酬等に関する議案を株主総会に提出する取締役は、当該議案が当該方針との関係でどのような意義を有しているかを説明しなければならないものとしている。
(2)金銭でない報酬等に係る株主総会の決議による定め  中間試案第2部第1の1(2)においては、指名委員会等設置会社以外の株式会社において、当該株式会社の株式又は新株予約権(これらの取得に要する資金に充てるための金銭を含む。)を報酬等とする場合には、株式については当該株式の数の上限及び当該株式の交付の条件の要綱を、新株予約権については当該新株予約権の内容の要綱及び数の上限を、それぞれ定款又は株主総会の決議によって定めなければならないものとしている。
(3)取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定の再一任  取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定を委任された取締役会がその決定を代表取締役に再一任する場合には、株主総会の決議による明示の承認を要するものとすべきであるという指摘等がされている。
 そこで、中間試案第2部第1の1(3)においては、公開会社において、取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定を取締役に再一任するためには、株主総会の決議を要するものとする案をA案として掲げている。しかし、別途、再一任しているかどうかなどを事業報告において開示しなければならないものとすれば(中間試案第2部第1の1(5)③)、株主総会の決議を要するものとするまでの必要はないという考え方もあることから、中間試案第2部第1の1(3)においては、現行法の規律を見直さないものとする案もB案として掲げている。
(4)株式報酬等  部会においては、取締役に対して適切なインセンティブを付与するために株式を報酬等として交付することの意義が注目されている近年の状況を踏まえ、金銭の払込みを要しないで株式を報酬等として交付することを認めるべきではないかという指摘がされている。また、新株予約権をいわゆるストックオプションとして交付する場合についても、新株予約権の行使に際して財産の出資をすることを要しないものとすることを認めるべきではないかという指摘がされている。
 そこで、中間試案第2部第1の1(4)においては、A案として、中間試案第2部第1の1(2)①の株式を引き受ける者の募集については、募集株式と引換えに金銭の払込みを要しない旨を募集事項として定めることができるものとし(A案の①)、中間試案第2部第1の1(2)②の新株予約権については、当該新株予約権の行使に際してする出資を要しない旨をその内容とすることができるものとする(A案の②)案を掲げている。
 他方で、部会においては、不当な経営者支配を助長するおそれがあることなどを理由として慎重に検討すべきであるという指摘もされている。そこで、中間試案においては、B案として、A案の②の見直しのみをするものとする案や、C案として、現行法の規律を見直さないものとする案も掲げている。
(5)情報開示の充実  現行の会社法上、公開会社は、取締役を含む会社役員の報酬等に関する事項を事業報告の内容に含めなければならないこととされているが(会社法施行規則第121条第4号等)、部会においては、事業報告における会社役員の報酬等に関する開示の内容は不十分であり、これを充実するための見直しをすべきであるという指摘がされている。そこで、中間試案第2部第1の1(5)においては、会社役員の報酬等に関する事項について、公開会社における事業報告による情報開示に関する規定の充実を図るものとしている。
2 会社補償  現行の会社法には、会社補償に関する規定がなく、どのような手続により、どのような範囲のものを株式会社が補償することができるかなどが不明確であるという指摘や、会社補償には構造上の利益相反性が認められることなどから、同法に規定を設け、適切な運用がされるようにすべきであるという指摘がされている。
 そこで、中間試案第2部第1の2においては、会社補償に関する規定を会社法に設けるものとしている。
 具体的には、まず、中間試案第2部第1の2①においては、株式会社が役員等との間で補償契約を締結することができるものとし、株式会社は、補償契約に基づき会社補償をすることができるものとしている。
 ただし、役員等が受けた損害を無制限に株式会社が補償することができることを内容とする補償契約の締結を認めるものとすると、役員等の職務の適正性が損なわれたり、役員等の責任や刑罰等を定める規定の趣旨が損なわれたりするおそれがある。そのため、中間試案第2部第1の2①においては、補償契約に基づき補償することができる費用等を限定するものとしている。例えば、役員等が防御に要する費用については相当と認められる額に限定するものとし、損害賠償金については、株式会社への損害賠償金は除外し、第三者への損害賠償金は役員等が善意でかつ重大な過失がないときに限定するものとしている。
 そのほか、中間試案第2部第1の2においては、(ⅰ)補償契約の内容の決定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならず、取締役会設置会社においては、取締役会は、この決定を取締役又は執行役に委任することができないものとし(中間試案第2部第1の2②、③)、(ⅱ)株式会社と取締役又は執行役との間の補償契約については利益相反取引規制を適用しないものとし(中間試案第2部第1の2④)、(ⅲ)補償契約を締結しているときは、その概要を事業報告の内容に含めなければならないものとしている(中間試案第2部第1の2⑤)。
3 役員等賠償責任保険契約  現行の会社法には、株式会社がいわゆる会社役員賠償責任保険(D&O保険)に係る契約を締結することに関する規定がなく、株式会社がD&O保険に係る契約を締結するためにどのような手続等が必要であるかについての解釈は必ずしも確立されていないという指摘や、D&O保険には構造上の利益相反性が認められることなどから、同法に規定を設け、適切な運用がされるようにすべきであるという指摘がされている。
 そこで、中間試案第2部第1の3においては、D&O保険に係る契約を「役員等賠償責任保険契約」と定義し(中間試案第2部第1の3①)、これに関する規定を会社法に設けるものとしている。
 具体的には、中間試案第2部第1の3においては、(ⅰ)役員等賠償責任保険契約の内容の決定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならず、取締役会設置会社においては、取締役会は、この決定を取締役又は執行役に委任することができないものとし(中間試案第2部第1の3②、③)、(ⅱ)役員等賠償責任保険契約であって、取締役又は執行役を被保険者とするもの及び取締役又は執行役が受けた損害を株式会社が補償することによって生ずることのある損害を塡補するものの締結については、利益相反取引規制を適用しないものとし(中間試案第2部第1の3④)、(ⅲ)役員等賠償責任保険契約を締結しているときは、その概要を事業報告の内容に含めなければならないものとしている(中間試案第2部第1の3⑤)。

二 社外取締役の活用等
1 業務執行の社外取締役への委託
 実務上、マネジメント・バイアウト等の株式会社と業務執行者その他の利害関係者との利益相反が問題となる場面において、取引の公正さを担保する措置として、対象会社の社外取締役が、対象会社の独立委員会の委員として、買収会社との間の交渉等の対外的行為を伴う活動をすることが期待される場合があるという指摘がある。しかし、現行の会社法上、社外取締役がこのような行為をすることにより、「当該株式会社の業務を執行した」取締役でないことという社外取締役の要件(同法第2条第15号イ)を満たさなくなるのではないかという懸念が指摘されている。
 そこで、中間試案第2部第2の1においては、このような行為についてのいわゆるセーフ・ハーバー・ルールを設けるものとし、(ⅰ)取締役が株式会社の業務を執行することにより株主の共同の利益を損なうおそれがある場合には、株式会社は、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって、当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができるものとし、(ⅱ)社外取締役がこの委託を受けた行為をしたことは、「当該株式会社の業務を執行した」に当たらないものとしている。
2 監査役設置会社の取締役会による重要な業務執行の決定の委任  現行の会社法上、監査役設置会社の取締役会は、指名委員会等設置会社又は監査等委員会設置会社の取締役会とは異なり、重要な業務執行の決定は必ず取締役会でしなければならないこととされている(同法第362条第4項)。
 部会においては、監査役設置会社であることによってこのような制約を課さなければならない必然性はないという指摘がされているが、他方で、重要な業務執行の決定を委任する必要があるのであれば、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社に移行すればよいという指摘もされている。
 そこで、中間試案第2部第2の2においては、監査役設置会社の取締役会は、取締役の過半数が社外取締役であることその他一定の要件を満たす場合には、指名委員会等設置会社において執行役に委任することができることとされている事項と同様の範囲内で、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができるものとするA案と、現行法の規律を見直さないものとするB案を掲げている。
3 社外取締役を置くことの義務付け  「会社法の一部を改正する法律」(平成26年法律第90号。以下「平成26年改正法」という。)附則第25条に基づき、中間試案第2部第2の3においては、現行の会社法上「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければならないこととされている上場会社等について(同法第327条の2参照)、少なくとも一人の社外取締役を置かなければならないものとするかどうかを採り上げている。
 東京証券取引所の全上場会社における社外取締役の選任比率は、平成26年改正法の施行前から増加傾向にあり、平成26年度には64.4%(市場第一部においては74.3%)であったが、平成26年改正法の施行後更に増加して、平成29年度には96.9%(市場第一部においては99.6%)となっている。
 部会においては、国内外の投資家から経営陣に対する信頼性を確保するためには、義務付けが必要であるなどの積極意見と、もう少し現在の制度下での実証的な検証をする必要があり、義務付けをすることは時期尚早であるなどの消極意見の双方が出された。
 そこで、中間試案第2部第2の3においては、義務付けをするものとするA案と現行法の規律を見直さないものとするB案を掲げている。

第三 その他

一 社債の管理
1 社債管理補助者
 現行の会社法においては、社債を発行する場合には、原則として、社債管理者を設置し、社債の管理を社債管理者に委託しなければならないものとされているが(同法第702条本文)、社債権者において自ら社債を管理することを期待することができる社債については、例外として社債管理者を設置することを要しないものとされている(同条ただし書)。実際には、我が国で公募されている多くの社債については、この例外規定を利用することにより、社債管理者が設置されていないのが実態であると言われており、その原因としては、社債管理者の権限が広範であり、また、その義務、責任及び資格要件が厳格であることなどから、なり手の確保が難しいことなどが指摘されている。
 近年、このように社債管理者を設置することを要せず、社債権者において自ら社債を管理することを期待することができる社債については、社債管理者よりも簡易な形で、社債の管理に関する事務を第三者に委託することができるような制度を設けるべきであるという指摘がされている。
 そこで、中間試案第3部第1の1においては、社債管理補助者制度を創設し、このような社債については、新たに、社債管理者よりも裁量の余地の限定された権限のみを有する社債管理補助者に社債の管理の補助を委託することができるものとしている。
2 社債権者集会
(1)元利金の減免
 現行の会社法においては、社債権者集会の決議による社債の元利金の減免は、同法第706条第1項第1号の「和解」として、社債権者集会の特別決議によりすることができるという解釈が有力であるとされているが、法的安定性の観点から、明文の規定を設けるべきであるという指摘がされている。
 そこで、中間試案第3部第1の2(1)においては、会社法第706条第1項第1号に掲げる行為として、当該社債の全部についてするその債務の全部又は一部の免除を加えるものとしている。
(2)社債権者集会の決議の省略  中間試案第3部第1の2(2)においては、社債権者の全員が書面により同意をした場合には、当該提案を可決する旨の社債権者集会の決議があったものとみなし、かつ、裁判所の認可を受けることも要しないものとしている。

二 株式交付  中間試案第3部第2においては、買収会社が、自社の株式を対価とする買収により円滑に他の株式会社を子会社とすることができるようにするための制度として、株式交付制度を新たに設けるものとしている。
 株式交付は、株式交付親会社(株式交付をする株式会社をいう。以下同じ。)が株式交付子会社(株式交付により株式交付親会社の子会社となる他の株式会社(これと同種の外国会社を含む。)をいう。以下同じ。)を新たに子会社としようとするときは、現物出資財産に係る検査役の調査や募集株式の引受人及び取締役等の財産価額塡補責任に相当する規律の適用はないものとした上で、株式交付親会社の株主及び債権者の保護については、株式交換と同様の規律の適用があるものとするものである(中間試案第3部第2の5参照)。
 他方で、株式交付においては、株式交換と異なり、株式交付親会社は、必ずしも株式交付子会社の発行済株式の全てを取得するものでないことから、株式交付親会社は、株式交付子会社の株式を法律上当然に取得するものとせず、当該株式を有する者から個別に譲り受けるものとしている。そのため、これらの譲渡しの申込み、承諾及び債務の履行(譲渡の目的物の給付)の手続は、募集株式の発行等における引受けの申込み、割当て及び現物出資財産の給付の手続に準ずるものとして、株式交付親会社は、当該株式を有する者から個別にその譲渡しの申込みを受け、給付を受けるものとしている(中間試案第3部第2の3①から⑥まで)。

三 その他
1 責任追及等の訴えに係る訴訟における和解
 中間試案第3部第3の1においては、監査役設置会社等が、その取締役等の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解をするには、各監査役、各監査等委員又は各監査委員の同意を得なければならないものとしている。
2 議決権行使書面の閲覧等  中間試案第3部第3の2においては、議決権行使書面の閲覧謄写請求に関して、一定の拒絶事由に該当する場合には、これを拒むことができるものとしている。
3 株式の併合等に関する事前開示事項  中間試案第3部第3の3においては、株式の併合等を利用したキャッシュアウトに際してする端数処理手続に関して、事前開示手続において本店に備え置かなければならない書面等に任意売却の実施及び株主に対する代金の交付の見込みに関する事項等を記載等しなければならないものとして、情報開示を充実させるものとしている。
4 新株予約権に関する登記  中間試案第3部第3の4においては、会社法第238条第1項第2号及び第3号に掲げる事項(同法第911条第3項第12号ニ)は登記することを要しないものとするA案と、募集新株予約権について同法第238条第1項第3号に掲げる事項を定めたときは、同号の払込金額を登記しなければならないものとし、例外的に、同号に掲げる事項として払込金額の算定方法を定めた場合において、登記の申請の時までに募集新株予約権の払込金額が確定していないときは、当該算定方法を登記しなければならないものとするB案を掲げている。
5 株式会社の代表者の住所が記載された登記事項証明書  中間試案第3部第3の5においては、株式会社の代表者の住所が記載された登記事項証明書については、当該住所の確認について利害関係を有する者に限り、その交付を請求することができるものとしている。
6 会社の支店の所在地における登記  中間試案第3部第3の6においては、支店の所在地における登記を廃止するものとしている。

Ⅲ 今後の予定
 今後、部会においては、パブリックコメントの終了後に、パブリックコメントの結果を踏まえて引き続き要綱案の取りまとめに向けた調査審議が行われることが予定されている。

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