解説記事2018年04月09日 【税理士のための相続法講座】 遺言(11)-遺言の内容(3)(2018年4月9日号・№734)
税理士のための相続法講座
第37回
遺言(11)-遺言の内容(3)
弁護士 間瀬まゆ子
1 遺贈とは 遺贈とは、改めて述べるまでもありませんが、被相続人が遺言によって無償で自己の財産を他人に与える行為です(民法964条)。遺産分割方法の指定や相続分の指定と並んで、遺言の主な内容となります。
(1)遺贈の対象財産 遺贈者の一身専属権を除き、遺贈者の全ての財産を遺贈の目的とすることができますが、受給権者が法律で定まっている死亡退職金支払請求権は遺贈の対象とならないとした判例があります(最判昭和58年10月14日判時1124号186ページ)。遺贈者において処分し得ない財産であるためです。
同様に、生命保険金の一部を受取人以外の者に遺贈するということもできません。生命保険金請求権は、受取人固有の財産であり、被保険者・契約者といえども処分権を有しないためです(このような遺贈は、保険金受取人に対する負担付遺贈としても認められません。受取人は遺贈により保険金を取得したわけではなく、かつ、負担のみを課す遺言は認められないためです。ただ、遺言で保険金受取人を変更することは、保険法上認められています。)。
なお、相続開始時に相続財産に帰属しない財産であっても、例外的に遺贈の対象と認められる場合があります(民法996条但書)。例えば、金銭で渡すと費消してしまう恐れのある相続人がいる場合に、遺産の中の金銭を用いてマンションを購入し、それを遺贈するというような遺言です。ただし、このような遺言は、受贈者の相続税の課税の場面で、課税価格をマンションの購入金額と見るのか、マンションの相続税評価額と見るのかの問題を惹起しそうです。
(2)公序良俗違反の遺贈 公序良俗に反する遺言は無効となります(民法90条)。
この点、不倫の関係にある者に対する遺贈が公序良俗に反するかが問題となることがあります(最判昭和61年11月20日民集40巻7号1167ページ等)。
ただ、不倫関係であれば即無効となるわけではなく、例えば東京地判平成18年7月6日判時1967号96ページは、妻子らにも相応の財産が残されていること等を理由に、長年夫婦同然の関係にあった女性に対する遺贈を有効としています。
(3)寄付先等の指定を委託する遺贈 遺産の一部を公益的な団体に寄付したいが、特別な希望はないので、寄付先や寄付額は第三者に任せたいというような場合があるかもしれません。
この点、遺産を「公共に寄与する」として受贈者の選定を遺言執行者に委託した遺言を有効とした判例もありますが(最判平成5年1月19日民集47巻1号1ページ)、受遺者や受贈額の決定を第三者に一任するという遺言は、内容不確定として無効とされる恐れがあります。加えて、登記が通るかという問題もありますので、基本的にこのような遺言は避けるべきです。
2 遺贈の種類 遺贈には、以下のような種類があるとされます。
このうち、特定遺贈と包括遺贈に関しては、次回解説します。
(1)条件付遺贈・期限付遺贈 遺贈には、停止条件や解除条件を付すことができます。また、期限付遺贈すなわち始期付遺贈や終期を定めた遺贈も可能です。
条件付遺贈や期限付遺贈は、広く活用されているものではありませんが、実際に利用されている例もあります。筆者も専門家の作成した複雑な条件の付された遺言を見たことがあります。ただ、あまり技巧に走ると、法律関係を複雑にしてしまいますし、当事者らの理解が及ばず、遺言者の遺志を実現し得なくなる恐れがありますので、注意が必要と思われます。
(2)補充遺贈 「特定の財産をAに遺贈するが、Aが遺贈を放棄した場合には、Bに遺贈する」というような内容の遺言です。
実際に、ある団体に寄付すると遺言したにもかかわらず、相続開始後にその団体から遺贈を放棄されてしまうことがあるようです(寄付先が赤十字やユニセフ等の団体であればあまりないことでしょうが、遺贈に慣れていないと思われる団体に、特に流動性の低い資産を遺贈する場合には、遺言を作成する段階で確認しておくのが無難でしょう。)。そのような場合、遺言に特段の指定がなければ、遺贈対象財産は相続人に帰属することになります(民法995条)。しかし、それでは相続人間の紛争を防ぐために遺言を作成した意義が薄れてしまいます。そこで有効なのが、上記のような補充遺贈の条項を設けておくことです。
また、受遺者が遺言者よりも先に亡くなった場合、受遺者の相続人が権利を承継することができないことは、以前にも説明したとおりです。このような場面でも、補充遺贈、すなわち子が先に亡くなった場合には孫に承継させるというような遺言が有効となります。
(3)後継遺贈 相続開始時に自宅を妻に遺贈し、妻が死亡した場合にそれを長男に移転するというような遺言です。これについては、信託をテーマとする回に改めて説明します。
(4)裾分け遺贈 「受遺者Aは、その受ける財産上の利益の一部を割いてBに与えよ」というような内容の遺贈を言います。法的には、負担付き遺贈の一つと位置づけられるでしょう。
遺贈した収益不動産から得られる収益の一部を第三者に与えるというような遺言を残せるのは便利なようにも思いますが、これについても、課税関係がどうなるのかが気になるところです。
(5)負担付遺贈 受遺者に一定の行為を負担させることを内容とする遺贈です(民法1002条)。
住宅ローンが設定された不動産の遺贈に関して、そのローンを負担させる遺言等が考えられますが、負担の内容は、遺贈の目的物と無関係のものでも構いません。例えば、遺言者の配偶者を扶養することを負担とする遺言や、多くの財産を取得する相続人に、他の相続人が納付すべき相続税まで負担させるというような遺言が考えられます。
このように、負担により利益を受けるのは相続人である場合が多いでしょうが、負担の履行により利益を受ける者に制限はなく、全くの第三者でも構いません。
また、負担の額が遺贈される財産の額を上回るときは、受遺者はその対象財産の価額を限度として負担の履行義務を負います(民法1002条1項)。
なお条件付遺贈と異なり、負担付遺贈は相続開始時に効力を生じ、負担が履行されなくとも遺贈の効力が消滅することはありません。負担が履行されない場合、相続人または遺言執行者が負担の履行を求めることができます。
第37回
遺言(11)-遺言の内容(3)
弁護士 間瀬まゆ子
1 遺贈とは 遺贈とは、改めて述べるまでもありませんが、被相続人が遺言によって無償で自己の財産を他人に与える行為です(民法964条)。遺産分割方法の指定や相続分の指定と並んで、遺言の主な内容となります。
(1)遺贈の対象財産 遺贈者の一身専属権を除き、遺贈者の全ての財産を遺贈の目的とすることができますが、受給権者が法律で定まっている死亡退職金支払請求権は遺贈の対象とならないとした判例があります(最判昭和58年10月14日判時1124号186ページ)。遺贈者において処分し得ない財産であるためです。
同様に、生命保険金の一部を受取人以外の者に遺贈するということもできません。生命保険金請求権は、受取人固有の財産であり、被保険者・契約者といえども処分権を有しないためです(このような遺贈は、保険金受取人に対する負担付遺贈としても認められません。受取人は遺贈により保険金を取得したわけではなく、かつ、負担のみを課す遺言は認められないためです。ただ、遺言で保険金受取人を変更することは、保険法上認められています。)。
なお、相続開始時に相続財産に帰属しない財産であっても、例外的に遺贈の対象と認められる場合があります(民法996条但書)。例えば、金銭で渡すと費消してしまう恐れのある相続人がいる場合に、遺産の中の金銭を用いてマンションを購入し、それを遺贈するというような遺言です。ただし、このような遺言は、受贈者の相続税の課税の場面で、課税価格をマンションの購入金額と見るのか、マンションの相続税評価額と見るのかの問題を惹起しそうです。
(2)公序良俗違反の遺贈 公序良俗に反する遺言は無効となります(民法90条)。
この点、不倫の関係にある者に対する遺贈が公序良俗に反するかが問題となることがあります(最判昭和61年11月20日民集40巻7号1167ページ等)。
ただ、不倫関係であれば即無効となるわけではなく、例えば東京地判平成18年7月6日判時1967号96ページは、妻子らにも相応の財産が残されていること等を理由に、長年夫婦同然の関係にあった女性に対する遺贈を有効としています。
(3)寄付先等の指定を委託する遺贈 遺産の一部を公益的な団体に寄付したいが、特別な希望はないので、寄付先や寄付額は第三者に任せたいというような場合があるかもしれません。
この点、遺産を「公共に寄与する」として受贈者の選定を遺言執行者に委託した遺言を有効とした判例もありますが(最判平成5年1月19日民集47巻1号1ページ)、受遺者や受贈額の決定を第三者に一任するという遺言は、内容不確定として無効とされる恐れがあります。加えて、登記が通るかという問題もありますので、基本的にこのような遺言は避けるべきです。
2 遺贈の種類 遺贈には、以下のような種類があるとされます。
① 特定遺贈 ② 包括遺贈 ③ 条件付遺贈 ④ 期限付遺贈 ⑤ 補充遺贈 ⑥ 後継遺贈 ⑦ 裾分け遺贈 ⑧ 負担付遺贈 |
(1)条件付遺贈・期限付遺贈 遺贈には、停止条件や解除条件を付すことができます。また、期限付遺贈すなわち始期付遺贈や終期を定めた遺贈も可能です。
条件付遺贈や期限付遺贈は、広く活用されているものではありませんが、実際に利用されている例もあります。筆者も専門家の作成した複雑な条件の付された遺言を見たことがあります。ただ、あまり技巧に走ると、法律関係を複雑にしてしまいますし、当事者らの理解が及ばず、遺言者の遺志を実現し得なくなる恐れがありますので、注意が必要と思われます。
(2)補充遺贈 「特定の財産をAに遺贈するが、Aが遺贈を放棄した場合には、Bに遺贈する」というような内容の遺言です。
実際に、ある団体に寄付すると遺言したにもかかわらず、相続開始後にその団体から遺贈を放棄されてしまうことがあるようです(寄付先が赤十字やユニセフ等の団体であればあまりないことでしょうが、遺贈に慣れていないと思われる団体に、特に流動性の低い資産を遺贈する場合には、遺言を作成する段階で確認しておくのが無難でしょう。)。そのような場合、遺言に特段の指定がなければ、遺贈対象財産は相続人に帰属することになります(民法995条)。しかし、それでは相続人間の紛争を防ぐために遺言を作成した意義が薄れてしまいます。そこで有効なのが、上記のような補充遺贈の条項を設けておくことです。
また、受遺者が遺言者よりも先に亡くなった場合、受遺者の相続人が権利を承継することができないことは、以前にも説明したとおりです。このような場面でも、補充遺贈、すなわち子が先に亡くなった場合には孫に承継させるというような遺言が有効となります。
(3)後継遺贈 相続開始時に自宅を妻に遺贈し、妻が死亡した場合にそれを長男に移転するというような遺言です。これについては、信託をテーマとする回に改めて説明します。
(4)裾分け遺贈 「受遺者Aは、その受ける財産上の利益の一部を割いてBに与えよ」というような内容の遺贈を言います。法的には、負担付き遺贈の一つと位置づけられるでしょう。
遺贈した収益不動産から得られる収益の一部を第三者に与えるというような遺言を残せるのは便利なようにも思いますが、これについても、課税関係がどうなるのかが気になるところです。
(5)負担付遺贈 受遺者に一定の行為を負担させることを内容とする遺贈です(民法1002条)。
住宅ローンが設定された不動産の遺贈に関して、そのローンを負担させる遺言等が考えられますが、負担の内容は、遺贈の目的物と無関係のものでも構いません。例えば、遺言者の配偶者を扶養することを負担とする遺言や、多くの財産を取得する相続人に、他の相続人が納付すべき相続税まで負担させるというような遺言が考えられます。
このように、負担により利益を受けるのは相続人である場合が多いでしょうが、負担の履行により利益を受ける者に制限はなく、全くの第三者でも構いません。
また、負担の額が遺贈される財産の額を上回るときは、受遺者はその対象財産の価額を限度として負担の履行義務を負います(民法1002条1項)。
なお条件付遺贈と異なり、負担付遺贈は相続開始時に効力を生じ、負担が履行されなくとも遺贈の効力が消滅することはありません。負担が履行されない場合、相続人または遺言執行者が負担の履行を求めることができます。
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