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解説記事2018年04月16日 【論考】 改訂コーポレートガバナンス・コードの課題(2018年4月16日号・№735)

論考
改訂コーポレートガバナンス・コードの課題
 神奈川大学法学部教授 葭田英人

Ⅰ はじめに

 現在、コーポレートガバナンス・コード改訂に向けて、金融庁・東京証券取引所に設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」において検討を進めている。2018年2月15日の第14回会合では、「投資家と企業の対話ガイドライン(案)」が示され、コーポレートガバナンス・コードの見直しのたたき台として「投資家と企業の対話ガイドラインの策定に伴うコーポレートガバナンス・コードの改訂に係る論点」が提出された。
 そして、金融庁は、2018年3月13日、「コーポレートガバナンス・コードの改訂と投資家と企業の対話ガイドラインの策定について」と「コーポレートガバナンス・コード改訂案」を公表した。当初から定期的に見直すことが予定されていたが、今回が3年ぶりの初めての改訂となる。意見公募を経て5月に正式に改訂し、6月からの適用を目指している。
 そこで、本稿において、コーポレートガバナンス・コード改訂案の内容、改訂により何がどのように変わるのか、その意義と課題を明らかにする。

Ⅱ コーポレートガバナンス・コード改訂案の課題
 改訂案においては(脚注1)、①政策保有株式の縮減、②企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮、③取締役会が最高経営責任者(CEO)の後継者計画に主体的に関与、④取締役会の経営陣の報酬制度設計の明示、⑤取締役会による最高経営責任者(CEO)の選解任手続の明示、⑥独立社外取締役の有効活用、⑦取締役に女性や外国人の積極的登用、⑧経営戦略や経営計画の策定・公表など、原則を新設・追加・修正することにより、経営の透明性や実効性を確立し、国際競争力を高め、企業価値の向上を目的としている。

1 政策保有株式の縮減  政策保有株式は減少傾向にあるが、議決権占有比率はまだ高い水準にある。改訂原則1-4は、企業間のもたれ合いにつながりやすく、議決権行使が空洞化しかねない相互保有持ち合い株式(政策保有株式)の縮減を促している。
 政策保有株式については、企業間の戦略的提携において意義がある一方、企業経営に対する規律の緩みを生じさせかねない面や資産効率の低さの原因となっていることから、個別の政策保有株式の保有目的、保有の具体的な便益やリスク・コストについて精査・検証するルールを採り入れ、検証内容を開示・説明することを求めている。
 さらに、政策保有株式の議決権行使についても、適切な対応をするための基準を策定・開示し対応すべきであるとしている。

2 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮  企業年金については、スチュワードシップ活動への関心が低く、その活動を行っている企業年金も少ないことから、その取組みが十分に進んでいない状況にある。また、企業年金においては、スチュワードシップ活動を含めた運用に携わる人材が、運用の専門性を十分備えているかどうかが課題であり、その人材が質的・量的に不足しているといわれている。
 新設される原則2-6において、企業年金の運用が従業員の資産形成や企業自体の財政状態に影響を与えることを認識し、企業年金がアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、企業自ら主体的に運用や適切な専門人材を充てることに取り組み、取り組み内容を適宜開示するよう求めている。

3 取締役会が最高経営責任者(CEO)の後継者計画に主体的に関与  2015年6月から適用が開始されたコーポレートガバナンス・コードは、取締役会に対し、最高経営責任者等の後継者の計画について適切に監督を行うべきことを求めているが、後継者の資質・能力・技術・経験などを明文化するなど、次期経営者選定の具体策はなかなか進んでいないようである。後継者選定は、現経営陣の専権事項とする企業が多いことから、多くの企業で後継者育成計画は試行錯誤が続いている。早急に後継者選定のプロセスや後継者を評価する基準を決定する必要がある。
 そこで、現行の補充原則4-1③を追加修正し、取締役会に対し、後継者計画の策定・運用、候補者選び、後継者候補の育成に十分な時間と資源をかけて計画的に適切に行うことを求めている。

4 取締役会の経営陣の報酬制度設計の明示  現行の補充原則4-2①を追加修正し、取締役会は、経営者報酬をどのような決め方をしているのか、客観性・透明性ある考え方や手続を確立し、それをわかりやすく説明することを促している。また、固定報酬だけでなく、業績連動報酬や株式報酬などの導入を求めている。

5 取締役会による最高経営責任者(CEO)の選解任手続の明示  経営において、中心的な役割を果たす最高経営責任者(CEO)の選解任は、企業にとって最も重要な戦略的意思決定である。CEOの資質や指導力の重要性は高まっている。CEOの選解任の手続を明らかにし、経営の透明性を高め、海外の投資家が日本企業に投資しやすい環境を整える必要がある。
 CEOの育成・選任に向けた取組みが不十分であることから、客観性・適時性・透明性ある手続を確立していくことが必要である。新設される補充原則4-3②、4-3③において、CEOの選解任の基準を整備し、CEOの選解任プロセスの独立性・客観性・透明性を強化することを求めている。そして、CEOがその機能を十分発揮していない場合に解任するための手続を確立すべきであるとしている。

6 独立社外取締役の有効活用  現行の原則4-8において、独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきであり、自主的な判断により、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、そのための取組み方針を開示すべきであるとされている。しかし、改訂原則4-8は、独立社外取締役の選任を現在の「2名以上」の目標を「3分の1以上が必要なら十分な人数を選任すべきである」としている。
 これは、海外の大企業は、取締役会の半数以上を社外取締役で占める事例が多く、性別、国籍、年齢など様々な人材を社外取締役とする、取締役会の多様性が進んでいる海外の流れを意識してのことであり、経営の透明性を高め、海外の投資を促す狙いがある。
 複数の社外取締役が増加すればアドバイスの質も向上し、内部者の提案に対して異議を唱える場合、1人では孤立し、反対意見は実効性をもたない可能性が高い。では、なぜ過半数としないのか。日本企業の現状からは距離が大きく、従う企業が少なすぎるという判断と、急激に変更するとコストが大きすぎるという判断があったとみられる(脚注2)。しかし、大企業であっても、3分の1以上の社外取締役を選任することは、人材確保のための多大な負担を強いられることになる。

7 取締役に女性や外国人の積極的登用  現行の原則4-11を追加修正し、取締役会について、「ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである」とし、女性や外国人の取締役の登用を促している。取締役会が多様になれば、機関投資家の投資マネーが呼び込みやすくなるとの狙いがある。
 しかし、投資家は企業価値向上に貢献してくれる人の選任を求めているのであり、形式主義に陥るのでは意味がない(脚注3)。取締役会における女性や外国人の取締役の登用が、企業業績の向上や多様性につながるのかどうかが問題である。

8 経営戦略や経営計画の策定・公表  現行の原則5-2を追加修正し、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するための具体的な経営戦略・経営計画を策定・公表するに当たっては、収益力・資本効率等に関する目標を設定し、資本コストとそれに見合うリターンを意識した経営が行われなければならない。
 そのために、経営陣は自社の資本コストを的確に把握し、事業ポートフォリオの見直しなど、経営環境の変化に応じた果断な経営判断を実施し、戦略的・計画的に設備投資・研究開発投資・人材投資等を行っていくことを求めている。さらに、株主に対し、事業配分の見直しや設備投資などの理由を分かりやすく明示する必要があるとしている。

Ⅲ むすび
 フォローアップ会議においては、2017年10月以降、コーポレートガバナンス改革の進捗状況の検証を行ってきたが、コーポレートガバナンス改革をより実質的なものへと深化させていくため、コーポレートガバナンス・コードの改訂を提言することとなった(脚注4)。
 特に、政策保有株式に関しては、改訂案で開示すべき事項として、縮減に関する方針や考え方、保有の適否の検証内容、議決権の行使基準などが追加され、明確に縮減を促進するものとなっている。
 また、新設される改訂案として、企業年金のアセットオーナーに関しては、企業年金の運用に適した専門人材の充当と運営面における取組みの内容を開示すべきであるとしている。
 さらに、取締役会の機能を強化するものとして、最高経営責任者(CEO)の後継者計画への主体的な関与・監督の強化や経営陣への報酬制度がインセンティブとして機能するような手続の確立と説明を求めている。また、CEOの選解任基準の整備、CEOの選解任プロセスの独立性・客観性・透明性の強化など、決定プロセスの明確化と説明を求めているものが目立つ。
 なお、独立社外取締役の選任を現在の「2名以上」の目標を「3分の1以上が必要なら十分な人数を選任すべきである」や、女性や外国人の取締役の登用を「ジェンダーや国際性の面を含む多様性」など、抑えた表現になっている意図を推し測る必要がある。つまり、日本企業の現状から考えて、急激な変更は企業の負担が大きすぎることから、ある程度時間をかけて進める必要があるという判断があったものとみられる。
 今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、企業のコーポレートガバナンス改革が促進され、さらに、取締役会が、より高次元の決定プロセスの明確化と説明責任を果たし、主体的な取組みをすることにより企業のガバナンスをめぐる課題が改善され、企業価値の向上を図ることができることが期待される。

葭田英人 よしだ ひでと
筑波大学大学院修了。専門分野は、会社法・税法・信託法。近著は、『基本がわかる会社法』(三省堂・2017)、『信託の法制度と税制』(税務経理協会・2017)、『合同会社の法制度と税制(第二版)』編著(税務経理協会・2015)など。

脚注
1 スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~(改訂案)」(平成30年3月13日)参照。
2 宮島英昭「独立取締役の複数選任制を読み解く」ビジネス法務15巻4号(2015)15頁。
3 「企業統治 透明性高く」日本経済新聞2018年(平成30年)3月14日(水)朝刊5面(斎藤太 コメント)。
4 スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議「コーポレートガバナンス・コードの改訂と投資家と企業の対話ガイドラインの策定について」(平成30年3月26日)1頁。

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