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解説記事2018年04月23日 【特別解説】 非上場株式等の公正価値評価の方法(2018年4月23日号・№736)

特別解説
非上場株式等の公正価値評価の方法

はじめに

 2018年1月1日以後開始する事業年度から、IFRS第9号「金融商品」の適用が開始された。これによって、一定の例外的な場合を除き、株式(資本性金融商品)は、上場株式であるかどうかを問わず、公正価値によって評価されることとなった。我が国においては、これまで非上場株式等は基本的に取得原価で評価してきたことから、重要性の原則が適用されるとはいえ、非上場のものを含むすべての株式を公正価値で評価し直すことが求められると、日本企業、特に極めて多数の企業への投資を行っている総合商社等にとっては極めて大きな負担となり、これらの企業がIFRSを適用する際の大きな障害になる可能性が高いと言われてきた。
 我が国においてIFRSに基づいて連結財務諸表を作成し、有価証券報告書を提出している企業(IFRS任意適用日本企業)はどのようにして非上場株式等の公正価値を測定しているのであろうか。本稿では、主に大手総合商社を中心に、多数の企業への投資を行っているIFRS任意適用日本企業を選び、非上場株式等の公正価値評価の方法について調査分析を行った。

調査の対象とした企業
 今回は、多数の企業に投資を行っていて、かつ、非上場株式の公正価値測定に関する開示の内容も充実していると思われる大手商社を中心に、次のIFRS任意適用日本企業13社を調査の対象とした(五十音順)。なお、本稿で紹介している開示は、すべて、各社の2017年3月期の有価証券報告書において行われたものである。
 伊藤忠商事、SBIホールディングス、兼松、住友商事、双日、ソフトバンク、豊田通商、日本板硝子、パナソニック、日立製作所、三井物産、三菱商事、丸紅

大手商社の非上場株式の公正価値評価の方法
 IFRSを任意適用している我が国の大手商社が採用している非上場株式の公正価値評価の方法は、表1のとおりである。

 多少の表現の違いはあるものの、概ね各社ともに、割引将来キャッシュ・フロー法、類似会社の市場価格に基づく評価技法、及び純資産価値に基づく評価技法を採用して公正価値の測定を行っている。また、観察可能なインプットが存在するもの(レベル1、レベル2)についてはマーケット・アプローチ、存在しないもの(レベル3)についてはインカム・アプローチに基づいている旨の記載も見られた。

製造業の各社が行った開示(日立製作所、パナソニック、日本板硝子)
 今度は、製造業の各社が行った、非上場株式の公正価値測定に関する注記を見てみたい。まず、日立製作所が行った開示は、次のとおりである。
 市場性のない有価証券の公正価値は、類似の有価証券の市場価格及び同一又は類似の有価証券に対する投げ売りでない市場価格、観察可能な金利及び利回り曲線、クレジット・スプレッド又はデフォルト率を含むその他関連情報によって見積っている。重要な指標が観察不能である場合、金融機関により提供された価格情報を用いて評価している。提供された価格情報は、独自の評価モデルを用いたインカム・アプローチあるいは類似金融商品の価格との比較といったマーケット・アプローチにより検証している。
 次に、パナソニックが行った開示は次のとおりである。

 レベル3に区分した株式は非上場株式であり、当社の定める最も適切かつ関連性の高い入手可能なデータを利用するための方針と手続に基づき、当該投資先の将来の収益性の見通し、純資産価額や当該投資先が保有する主要な資産等の定量的な情報を総合的に考慮した適切な評価方法により公正価値を測定しています。当該評価の合理性については、会計担当部門が様々な手法を用いて検証しており、部門管理者の承認を受けています。なお、検証の具体的な手法には、外部評価機関の利用が含まれています。
 レベル3に区分した金融商品について、観察可能でないインプットを合理的に考えうる代替的な仮定に変更した場合に重要な公正価値の増減は見込まれていません。
 日本板硝子の注記は次のとおりである。
 活発な市場で取引されていない金融商品の公正価値は、評価技法を用いて測定しております。当社グループはさまざまな方法を用い、また期末日現在の市場相場価格に基づく仮定を行っております。
 その他の包括利益を通じて公正価値を測定する金融資産、英国国債、上場株式、並びにその他の債券は、期末日における公表市場価格に基づき公正価値の算定を行っております。非上場株式及びそれ以外のその他の包括利益を通じて公正価値を測定する金融資産は、純資産価額や将来予想キャッシュ・フロー等を使用した評価技法を用いて公正価値の算定を行っております。公正価値ヒエラルキーのレベル3に分類された金融資産の公正価値は、様々な要因により変動します。レベル3の金融資産は主として日本の事業会社によって発行された非上場株式であるため、日本経済に関する成長予測は、これらの金融資産の公正価値に影響を与える主要な要因となります。当社グループでは、重要性が乏しいことから、GDP成長率の変動がレベル3に分類される金融資産の公正価値に及ぼす影響について定量的な把握を行っておりません。
 日本板硝子は、レベル3に分類された金融資産の公正価値に影響を与える要因として、日本経済に関する成長予測やGDP成長率の変動を挙げているところが特徴的である。

兼松が行った非上場株式の公正価値の測定に関する開示
 大手商社の中では、非上場株式の公正価値の算定についての開示が最も詳細と考えられる兼松は、次のような開示を行っていた。

 公正価値の算定方法は次のとおりであります。
(a)その他の投資及び新株予約権付社債
 上場株式については、活発な市場の価格によっており、公正価値ヒエラルキーレベル1に区分されます。
 非上場株式については、割引将来キャッシュ・フロー法に基づく評価技法、類似会社の市場価格に基づく評価技法、純資産価値に基づく評価技法、その他の評価技法を用いて算定しており、公正価値ヒエラルキーレベル3に区分されます。非上場株式の公正価値測定にあたっては、割引率、評価倍率等の観察可能でないインプットを利用しており、必要に応じて一定の非流動性ディスカウントを加味しております。新株予約権付社債については、割引将来キャッシュ・フローに基づく評価技法及び純資産価値に基づく評価技法を用いて算定しており、公正価値ヒエラルキーレベル3に区分されます。非上場株式及び新株予約権付社債の公正価値の評価方針及び手続の決定は当社において行っており、評価モデルを含む公正価値測定については、個々の株式等の発行体の事業内容に関する情報や事業計画を入手し、類似上場企業等を定期的に見直しております。

レベル3に分類される金融商品と、公正価値測定に用いられる観察可能でないインプット
 IFRS第13号「公正価値測定」において、レベル3は、「資産又は負債に関する観察可能でないインプット」と規定されている(第86項)。活発な市場がない資本性証券である非上場株式は、そのほとんどが観察可能でないインプットに基づいて公正価値の測定を行わざるを得ないため、公正価値のヒエラルキー上は、基本的に「レベル3」に分類されることになる。
 それでは、レベル3に分類される非上場株式を含む金融商品の公正価値を測定するにあたって、具体的にどのような観察可能でないインプットが用いられているのであろうか。
 ソフトバンクとSBIホールディングスの2社は、次のような詳細な開示を行っている。

(ソフトバンクの開示) (2)レベル3に分類した金融商品の公正価値測定
a.評価技法およびインプット 
 観察可能でないインプットを使用した公正価値(レベル3)の評価技法およびインプットは、以下の通りです(編注:表2参照)。

b.感応度分析 
 観察可能でないインプットのうち、永久成長率および支配プレミアムについては、上昇した場合に株式の公正価値が増加する関係にあります。一方、資本コスト、非流動性ディスカウントおよび非支配持分ディスカウントについては、上昇した場合に株式の公正価値が減少する関係にあります。
c.評価プロセス 
 当社の財務および経理部門の担当者は、社内規定に基づいて、公正価値測定の対象となる金融商品の性質、特徴およびリスクを最も適切に反映できる評価技法およびインプットを用いて公正価値を測定しています。また、測定に高度な知識および経験を必要とする金融商品で、その金融商品が金額的に重要である場合には、公正価値測定に外部の評価専門家を利用しています。各四半期末日において実施した金融商品の公正価値の測定結果は外部専門家の評価結果を含めて、部門管理者による公正価値の増減分析結果などのレビューおよび承認を経て、当社取締役会に報告しています。

(SBIホールディングスの開示) (4)レベル3に分類される金融商品
 レベル3に分類される金融商品については、取締役会に報告された評価方法及び手続に基づき、外部の評価専門家又は適切な評価担当者が評価の実施及び評価結果の分析を行っております。評価結果は、財務経理担当役員及び財務経理部門責任者によりレビューされ、承認されております。
 公正価値ヒエラルキーのレベル3に分類される金融商品について、経常的な公正価値測定に用いた評価技法及び重要な観察可能でないインプットに関する情報は次のとおりであります(一部省略)(編注:表3参照)。


 大手商社の中では、兼松の開示が充実しているため、以下に紹介する。
(兼松の開示) (iii)レベル3に区分された金融商品に関する定量的情報
 レベル3に区分された経常的に公正価値測定された重要な資産に関する定量的情報は次のとおりであります(編注:表4参照)。

 非上場株式の公正価値評価で用いられた重要な観察不能インプットは、割引率、非流動性ディスカウント並びにPBR倍率です。割引率の著しい増加(減少)は、公正価値の著しい低下(上昇)を生じることとなります。非流動性ディスカウントの著しい増加(減少)は、公正価値の著しい低下(上昇)を生じることとなります。PBR倍率の著しい増加(減少)は、公正価値の著しい上昇(低下)を生じることとなります。

 大手商社の各社は、レベル3に区分された投資の公正価値の測定に関する重要な観察可能でないインプットとして、上記のものを挙げている(編注:表5参照)。

 非上場株式の公正価値測定のために各社が用いた観察可能でないインプットとしては、割引率と非流動性ディスカウント(30%前後の事例が多い)が用いられており、それに加えて、PBR倍率、非支配持分ディスカウント等を組み合わせることによって、レベル3の公正価値測定を行っていることが分かる。

おわりに
 これまで我が国の「金融商品に関する会計基準」では、「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」というカテゴリーがあり、時価を把握することが極めて困難な、社債その他の債券以外の有価証券は、取得原価をもって貸借対照表価額とするとされていた(金融商品に関する会計基準第19項)。そして、「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」とは、「市場価格に基づく価額」及び「合理的に算定された価額」のないものをいい、有価証券に市場価格が存在しない場合でも、その構成部分の時価を合成することにより価額を合理的に算定することができるとき、又は類似の有価証券の市場価格に基づいて価額を合理的に算定することができる時には、時価のある有価証券として取り扱うとされていた(金融商品実務指針第63項)。ただし、株式(非公開株式を含む)については、市場で売買される株式について市場価格に基づく価額が存在する場合のみ時価のある有価証券とし、市場で売買されない株式について、たとえ何らかの方式により価額の算定が可能だとしても、それを時価(合理的に算定された価額)とはしないものとし、当該株式は時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券として取り扱うとされていた。
 これにより、市場で売買されるもの以外の株式の評価は、これまでは我が国では原則として取得原価とされてきたのである。IFRS第9号が適用されるIFRS任意適用日本企業は、これまで取得原価で評価してきた非上場株式等について、割引率やPBR倍率、非流動性ディスカウント等の様々な仮定を置いた上で、「合理的に算定された価額」を算定することが求められることになる。

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