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解説記事2018年07月02日 【ニュース特集】 相続税・消費税をめぐる最近の税理士損害賠償訴訟(2018年7月2日号・№745)

ニュース特集
小規模宅地等の特例の申告方法で税理士一部敗訴事例も
相続税・消費税をめぐる最近の税理士損害賠償訴訟

 本誌でたびたびお伝えしているように、納税者が税理士や税理士法人に対して税務処理の誤りなどを理由に損害賠償を請求する事例が後を絶たない。そこで本特集では、ここ最近判決が下された税賠訴訟を2つ紹介する。最初に紹介する事例は、小規模宅地等の特例をめぐり、税理士が選択した方法に関するリスクの存在及びその内容等を十分説明することなく相続税の申告を行った行為が善管注意義務に違反すると判断されたもの(税理士一部敗訴)。もう1つの事例は、消費税の課税選択をめぐり、納税者と連絡が取れなくなったことにより原則課税による訂正申告ができなかったことから、簡易課税により申告した税理士法人に債務不履行があったとは認められないと判断されたものである(税理士法人勝訴)。

全財産を相続させる旨の遺言、小規模宅地等の特例の申告方法が問題に
 最初に紹介する税賠訴訟は、相続人である納税者(原告)が相続税申告業務を受任した税理士(被告)に対して、小規模宅地等の特例の適用等を適切に行っていれば相続税の納付は必要なかったとして、債務不履行に基づく損害賠償を請求していた事例である。
 事実関係をみていくと、本件の法定相続人は、被相続人の子である納税者、納税者の子2名(被相続人の養子)、納税者の姉妹2名の合計5名である。被相続人は、生前に遺産の全てを納税者に相続させる旨の公正証書遺言(以下「本件遺言」)を残していた。だが、生前から納税者と対立状態にあった姉妹は、納税者に遺留分減殺請求に係る書面を送付した(なお、遺留分減殺請求は相続税の確定申告期限において未解決である)。相続税の申告業務を受任した税理士は、被相続人の遺産が未分割の状態であるとして、小規模宅地等の特例を適用せずに法定相続分に従った共同相続として期限内申告をすると同時に、後日小規模宅地等の特例の適用を受けるための「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出した。なお、税理士が作成した相続税申告書に係る納付相続税は約352万円であった。
 その後、納税者は、被告である税理士ではない別のA税理士に依頼して、納税者が本件遺言により被相続人の遺産全部を相続したものとして小規模宅地等の特例を適用する旨の更正の請求を行った(更正の請求における課税価格は基礎控除の範囲内であったことから、納付相続税はゼロとされている)。納税者は、更正の請求により納付済みの相続税の還付を受ける一方で、A税理士に更正の請求に係る報酬約87万円を支払った。
 裁判のなかで納税者は、被告である税理士が当初の申告で小規模宅地等の特例を適用していれば相続税の納付が必要なかったなどと主張し、税理士の注意義務違反により損害を被ったとして損害賠償を請求した。
裁判所、特例を選択しなかったことは不適切  裁判所はまず、被告である税理士は納税者及びその子2名の税務代理権限は与えられていたものの、納税者の姉妹2名の税務代理権限は有していなかったこと、相続税申告書提出の時点では本件遺言により被相続人の遺産全部を納税者が相続するものとされる一方で納税者の姉妹からは遺留分減殺請求がされており、かつ、相続税申告期限が切迫しつつある状況にあったこと、相続財産中に小規模宅地等の特例の適用対象となり得る不動産が含まれていたことなどの事情が認められるとした。この点を踏まえ裁判所は、そのような状況下において相続税申告業務を行う税理士は、①小規模宅地等の特例を適用せずに法定相続分に従った共同相続として申告を行うと同時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、後日の更正の請求を可能にしておく、②遺留分減殺請求を考慮することなく遺言により全財産を相続したものとして小規模宅地等の特例を適用し、遺留分減殺請求の解決後に更正の請求をする、のいずれかの方法を選択することになるものと解されるとした(なお被告である税理士は①を選択している)。
 本件について裁判所は、遺留分減殺請求者(納税者の姉妹2名)との間で従前から対立状態があったなかで、前記①の方法を選択し姉妹分の相続税を相続財産から支出した場合、遺留分減殺請求の解決が長期化すればその間は本来納税者が負担すべき税額を超えた支出が継続する可能性があるうえ、更正の請求の協力を得られないなどの事態も想定されたと考えられることを踏まえれば、前記①の方法は前記②の方法と比較してリスクが高かったと指摘。前記①の方法を採用するのであれば、そのリスクの存在について十分に説明したうえで納税者の同意を得て行う必要があったというべきであるとした。
 そのうえで裁判所は、本件では被告である税理士がリスクの存在を十分説明したうえで納税者の同意を得ていたとまでは認められないことから、被告である税理士が前記①の方法を採用したことは不適切であり、善管注意義務に違反する行為があったと判断。相続財産から納付され還付されていない納税者の姉妹分の相続税130万円及びA税理士に支払った報酬約87万円のうち35万円について、税理士に対して損害賠償を命じた(東京地裁平成30年2月19日判決・控訴あり)。
>遺言執行者(弁護士)の善管注意義務違反も認める
 最初に紹介した税賠訴訟で納税者は、納税者の姉妹(法定相続人)2名分の延滞税及び加算税約7万円を遺言執行者である弁護士(被告)が相続財産から支出した点について、本来は相続財産から支出すべきものではなく、この支出を行ったことは遺言執行者の善管注意義務違反に当たるとして、同額の損害賠償も請求していた。これに対し裁判所は、税理士が行った相続税申告業務を前提としても、納税者の姉妹2名分の延滞税及び加算税は両名が負担すべきものであって、相続財産から支出すべき合理的な理由は見当たらないと指摘。遺言執行者としての善管注意義務違反に当たるとして、被告である弁護士に対して約7万円(延滞税及び加算税)の損害賠償を命じた。

簡易課税で申告も、期限前日に税務署から本則課税になる旨の連絡が
 次に紹介する税賠訴訟は、消費税の課税選択をめぐり、個人で歯科医院を営む納税者(原告)が簡易課税を選択していないにもかかわらず、税理士法人(被告)がそのことを調査せずに本則課税ではなく簡易課税により消費税の申告をしたことが債務不履行に当たるとして、納税者が税理士法人に対して損害賠償を請求していた事例である。
 事実関係をみていくと、納税者と税理士法人は平成26年4月に税務顧問業務委託契約を締結した。納税者の申告業務を担当していた税理士法人所属の税理士は、平成26年分の消費税の確定申告をする際に、平成24年分は簡易課税により申告されていたこと及び同年分の課税売上高が5,000万円以下であることを確認したうえで、税務署担当職員から納税者が簡易課税選択不適用届出書等を提出しておらず、納税者には簡易課税が適用される旨を聴取した。これを受け税理士法人は、平成27年3月17日、簡易課税による消費税の確定申告書を提出した。
納税者と連絡を取ることができず  ところが、同年3月30日に税務署から税理士法人に対して、納税者が事業廃止届出書を提出したことがあるため、簡易課税は適用されず、本則課税になる旨の連絡があった(なお、納税者は税理士法人に対して事業廃止届出書を提出したことを報告していない)。
 そこで税理士法人の担当税理士は、消費税の確定申告期限である平成27年3月31日に本則課税による訂正申告(下囲み参照)をしようとして納税者に連絡を取ることで追加の資料の提示を求めようとしたものの、同月31日以降、納税者と連絡が取れなくなり、訂正申告をすることができなかった。
 裁判のなかで納税者は、簡易課税を選択していないのに、担当税理士又は税理士法人はそのことを調査せず、平成26年分の消費税の確定申告の際に本則課税を選択しないで簡易課税により計算して申告書を提出したことが債務不履行に当たると主張した。
 しかし、裁判所は、税理士法人の担当税理士は相当な方法で調査確認した結果、納税者に簡易課税が適用されると判断して消費税の確定申告を行った点を指摘。また裁判所は、後日納税者に簡易課税が適用されないことが判明し、担当税理士が訂正申告により対応しようとしたところ、納税者と連絡が取れなくなったために訂正申告をすることができなかったのであるから、税理士法人に適正な税務処理をしなかったことによる債務不履行があるとは認められないと判断し、納税者の税理士法人に対する賠償請求を斥けた(東京地裁平成平成30年2月28日・控訴あり)。
>申告期限内であれば最後に提出された申告書を採用
 確定申告の申告期限前に同じ人から確定申告書が2以上提出された場合には、法定申告期限内にその人からの特段の申出がない限り、その2以上の申告書のうち最も後に提出された申告書がその人の申告書として取り扱われる運用がなされている。これは、確定申告の申告期限後に申告内容を修正する修正申告と区別する意味で、「訂正申告」と呼ばれることがある。

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