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解説記事2018年08月06日 【税制改正解説】 平成30年度における租税条約の改正について(上)(2018年8月6日号・№750)

税制改正解説
平成30年度における租税条約の改正について(上)
 鈴木一宏

第一 租税条約の締結・改正
(日本・リトアニア租税条約、日本・エストニア租税条約、日本・ロシア租税条約、日本・デンマーク租税条約、日本・アイスランド租税条約)

  はじめに

 我が国とリトアニア共和国(以下「リトアニア」という。)、エストニア共和国(以下「エストニア」という。)及びアイスランドとの間には、これまで租税条約は存在しなかったが、緊密化する我が国とこれらの各国との経済関係を踏まえ、我が国と各国政府は租税条約を締結するための交渉を開始することに合意し、政府間交渉を開始した。
 また、我が国とロシア連邦政府(以下「ロシア」という。)及びデンマーク王国(以下「デンマーク」という。)との間では、これまでに締結された租税条約(以下「旧条約」という。)の下で二重課税の回避及び脱税の防止が図られてきた。旧条約は、その締結から長年が経過し、現在の我が国とこれらの各国との間の経済関係にそぐわない内容となっていたため、我が国と各国政府は、旧条約を改正するための交渉を開始することに合意し、政府間交渉を開始した。
 上記の結果、「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とリトアニア共和国との間の条約」(以下「リトアニア条約」という。)、「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とエストニア共和国との間の条約」(以下「エストニア条約」という。)、「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国政府とロシア連邦政府との間の条約」(以下「ロシア条約」という。)、「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とデンマーク王国との間の条約」(以下「デンマーク条約」という。)及び「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とアイスランドとの間の条約」(以下「アイスランド条約」という。)並びに各条約の「議定書」について署名が行われた。
 これらの条約は、我が国と各国においてそれぞれの国内手続(我が国においては、国会の承認を得ることが必要であり、これらの条約は第196回国会で承認された。)を経た後、外交上の公文の交換を行い、所定の期間が満了した後に効力を生ずることとなる。
 以下では、これらの条約の主な条項又は特徴的な条項について解説する。なお、各条項の解説は、特記なき限り全条約共通とし、条約によって異なる場合には、A:リトアニア条約、B:エストニア条約、C:ロシア条約、D:デンマーク条約、E:アイスランド条約と分類して記述することとする。

一 恒久的施設(第5条)

1 本条の趣旨
 事業利得に対する課税、配当等に対する源泉地国課税、給与所得に関する短期滞在者免税等について、「恒久的施設」との関連を基準として課税関係を決定している。本条は、この「恒久的施設」の定義等を規定している。

2 解説
(1)「恒久的施設」の定義(本条1)
 「恒久的施設」の定義を規定している。「恒久的施設」とは、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っているものをいう。
(2)恒久的施設の例示(本条2)  本条1の定義を踏まえ、恒久的施設に該当するものを例示している。
(3)建築工事現場等(A~C・E:本条3、D:本条3及び4)  建築工事現場等が恒久的施設を構成する場合を規定している。
① リトアニア条約
 建築工事現場又は建設若しくは据付けの工事については、これらの工事現場又は工事が12か月を超える期間存続する場合に限り、恒久的施設を構成すると規定している(本条3(a))。
 また、一方の締約国内に存在する天然資源の探査又は開発に関連して当該一方の締約国内の沖合において行われる活動については、当該活動がその課税年度において開始し、又は終了するいずれかの12か月の期間において合計30日を超える期間行われる場合に限り、恒久的施設を構成すると規定している(本条3(b))。
② エストニア条約、ロシア条約及びアイスランド条約
 建築工事現場又は建設若しくは据付けの工事については、これらの工事現場又は工事が12か月を超える期間存続する場合に限り、恒久的施設を構成すると規定している。
③ デンマーク条約
 本条3は、建築工事現場又は建設若しくは据付けの工事については、これらの工事現場又は工事が12か月を超える期間存続する場合に限り、恒久的施設を構成すると規定している。
 また、本条4は、一方の締約国内に存在する天然資源の探査のために当該一方の締約国内において使用される設備、掘削機器又は掘削船については、当該探査が12か月を超える期間存続する場合に限り、当該一方の締約国内に存在する恒久的施設を構成することを規定している。
(4)恒久的施設を有するとはされない活動(A~C・E:本条4、D:本条5)  事業を行う一定の場所であっても、次のいずれかに該当する活動を行う場合は恒久的施設に当たらないことを規定している。
① 企業に属する物品又は商品の保管又は展示(注)のためにのみ施設を使用すること。
② 企業に属する物品又は商品の在庫を保管又は展示(注)のためにのみ保有すること。
③ 企業に属する物品又は商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保有すること。
④ 企業のために物品若しくは商品を購入し、又は情報を収集することのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。
⑤ 企業のために上記①から④までに規定されていない活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。ただし、その活動が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。
⑥ 上記①から⑤までに規定する活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。ただし、その一定の場所におけるこのような組合せによる活動の全体が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。
(注)①と②に関し、リトアニア条約については、保管及び展示の他に、「引渡し」の目的も規定している。
(5)事業活動の細分化への対抗(A~C・E:本条5、D:本条6)  事業活動を複数の企業又は場所に細分化することによって恒久的施設の認定を回避しようとする行為に対抗する措置である。
 具体的には、ある企業が使用又は保有をする「事業を行う一定の場所」について、その企業又はその企業と密接に関連する企業が、当該一定の場所又は当該一定の場所が存在する締約国内の他の場所において事業活動を行う場合において、次の①又は②に該当するときは、上記(4)の規定(恒久的施設を有するとはされない活動)は適用されず、当該一定の場所は恒久的施設に該当することを規定している。
① 本条の規定に基づき、当該一定の場所又は当該他の場所が、その企業又はその企業と密接に関連する企業の恒久的施設を構成する場合
② その企業及びその企業と密接に関連する企業が当該一定の場所においてそれぞれ行う活動の組合せ又はその企業若しくはその企業と密接に関連する企業が当該一定の場所及び当該他の場所において行う活動の組合せによる活動の全体が、準備的又は補助的な性格のものではない場合
 ただし、この規定が適用されるのは、これらの企業がそれぞれの場所において行う事業活動が、一体的な業務の一部として補完的な機能を果たす場合に限ることとされている。
(6)従属代理人(A~C・E:本条6、D:本条7)  企業が代理人を通じて行う活動について、恒久的施設を有するものとされる場合を規定している。具体的には、ある企業の代理人(条約に規定する独立の地位を有する代理人(下記(7)参照)を除く。)が、一方の締約国内で当該企業を代理するに当たって、反復して契約を締結し、又は当該企業によって重要な修正が行われることなく日常的に締結される契約の締結のために反復して主要な役割を果たす場合において、これらの契約が次の①から③までのいずれかに該当するときは、当該企業は、その代理人が当該企業のために行う全ての活動について、当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとされる。ただし、代理人の活動が上記(4)の規定(恒久的施設を有するとはされない活動)に規定する活動のみである場合は、恒久的施設を有するものとはされない。
① 当該企業の名において締結される契約
② 当該企業が所有し、又は使用の権利を有する財産について、所有権を移転し、又は使用の権利を付与するための契約
③ 当該企業による役務の提供のための契約
(7)独立の地位を有する代理人(A~C・E:本条7、D:本条8)  一方の締約国内において活動する他方の締約国の企業の代理人が、当該一方の締約国内において独立の代理人として事業を行う場合において、当該企業のために通常の方法で当該事業を行うときには、上記(6)の規定(従属代理人)は適用されず、当該企業は当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとされないことを規定している。ただし、その代理人が、専ら又は主として、代理人自身と密接に関連する一又は二以上の企業に代わって行動する場合には、そのような企業との関係において、この代理人は、ここにいう独立の代理人には該当しないこととされている。

二 事業利得(第7条)
(注)ここでは、2010年に改正されたOECDモデル租税条約を規定しているエストニア条約、デンマーク条約及びアイスランド条約を扱うこととする。

1 本条の趣旨  エストニア条約、デンマーク条約及びアイスランド条約では、2010年に改正されたOECDモデル租税条約を踏まえ、外国法人・非居住者の支店等(恒久的施設)に帰属する事業利得に対する課税について、本支店間の内部取引を認識し、独立企業原則を適用して恒久的施設に帰属する利得を計算することを規定している。
(注)リトアニア条約では、両締約国の政府が外交上の公文の交換により合意する日において、同様の規定に変更することを議定書に規定している。

2 解説
(1)「恒久的施設なければ課税なし」の原則及び「帰属主義」の原則(B・D・E:本条1)
 企業が事業活動によって取得する利得に対する課税に関して、二つの原則を規定している。
 一つは、いわゆる「恒久的施設なければ課税なし」の原則で、一方の締約国の企業の利得に対しては、その企業が他方の締約国内に存在する恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行わない限り、企業の居住地国である当該一方の締約国においてのみ課税することができるとされている。
 もう一つは、いわゆる「帰属主義」の原則で、一方の締約国の企業が他方の締約国内に存在する恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行う場合には、その企業の利得のうちその恒久的施設に帰せられる部分に対してのみ、恒久的施設がある当該他方の締約国において課税することができるとされている。
(2)恒久的施設に帰せられる利得の計算(B・D・E:本条2)  本条の規定及び「二重課税の除去」の規定の適用上、各締約国において恒久的施設に帰せられる利得は、企業が当該恒久的施設及び当該企業の他の構成部分を通じて果たす機能、使用する資産及び引き受ける危険を考慮した上で、当該恒久的施設が同一又は類似の条件で同一又は類似の活動を行う分離し、かつ、独立した企業であるとしたならば、特に当該企業の他の構成部分との取引においても、当該恒久的施設が取得したとみられる利得とすることを規定している。
 本条2の下では、①恒久的施設の果たす機能及び事実関係に基づいて、取引、資産、リスク及び資本を恒久的施設に帰属させるとともに、②恒久的施設と当該企業の他の構成部分との取引(以下「内部取引」という。)を認識し、その内部取引が独立企業間価格で行われたものとして、当該恒久的施設に帰せられる利得を算定することとなる。したがって、恒久的施設と当該企業の他の構成部分との間の無形資産の貸借による使用料や、恒久的施設と当該企業(金融機関以外の一般の企業も含む。)の他の構成部分との間の金銭の貸借による利子等も、損益として認識される。
 なお、内部取引の認識は、あくまでも恒久的施設に帰せられる利得の算定のために行われるものであって、条約の他の条に及ぶものではない。例えば、恒久的施設と当該企業の他の構成部分との間の金銭貸借に基づく利子の支払を恒久的施設に帰せられる利得を算定するために認識するとしても、このような支払については、「利子(下記参照)」の規定は適用されない。
(3)恒久的施設に帰せられる利得の対応的調整(B・D・E:本条3)  一方の締約国が、いずれかの締約国の企業の恒久的施設に帰せられる利得を本条2の規定により調整し、それに伴い、他方の締約国において課税された当該企業の利得に課税する場合には、双方の締約国が同一の利得に対して課税することとなり、二重課税の状態が生ずることになる。
 本条3は、当該他方の締約国は、当該利得に対する二重課税を除去するために必要な範囲に限り、当該利得に対して他方の締約国において課された租税の額について適当な調整(対応的調整)を行うことを規定している。なお、この調整に当たっては、両締約国の権限のある当局は、必要があるときは、相互に協議することとされている。
(4)本条と他の条との関係(B・D・E:本条4)  配当や利子等、他の条で別個に取り扱われる種類の所得が企業の利得に含まれている場合には、他の条の規定が優先的に適用されることを規定している。もっとも、「配当(下記参照)」、「利子(下記参照)」、「使用料(下記参照)」及び「その他の所得」の規定は、これらの所得の支払の基因となった資産が、これらの所得が生ずる締約国内に存在する恒久的施設と実質的な関連を有する場合には、本条が適用されることを規定している。

三 関連企業(第9条)
 関連企業間の取引においては、独立した企業間で用いられる取引価格(以下「独立企業間価格」という。)とは異なる取引価格を用いることによって、所得が関連企業間で移転されることがある。
 本条は、関連企業間の取引価格を独立企業間価格に引き直してそれぞれの企業の利得を計算するという独立企業原則に基づく課税(いわゆる移転価格税制)に関するルールを定めている。

四 配当(第10条)

1 本条の趣旨
 配当に対する源泉地国における限度税率や免税等、配当に対する課税上の取扱いを規定している。

2 解説
(1)居住地国の課税(本条1)
 一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国の居住者に支払う配当に対しては、配当を受け取る者の居住地国である当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(2)源泉地国の課税(A・B・D・E:本条2及び3、C:本条2、3及び4並びに議定書1) ① リトアニア条約
 本条2は、配当を支払う法人が居住者とされる一方の締約国(源泉地国)においても配当に対して課税することができることを規定するとともに、その配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を10%と規定している。
 さらに、本条3は、一方の締約国の居住者である法人が支払い、他方の締約国の居住者である者で個人以外のものが受益者である配当に対しては、当該他方の締約国においてのみ課税することができる(配当の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
② エストニア条約
 本条2は、配当を支払う法人が居住者とされる一方の締約国(源泉地国)においても配当に対して課税することができることを規定するとともに、その配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を10%と規定している。
 さらに、本条3は、配当の受益者が他方の締約国の居住者であり、かつ、当該配当の支払を受ける者が特定される日(いわゆる基準日)をその末日とする6か月の期間を通じて、当該配当を支払う法人の議決権の10%以上を直接又は間接に所有する法人である場合については、配当の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(配当の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
③ ロシア条約
 本条2は、配当を支払う法人が居住者とされる一方の締約国(源泉地国)においても配当に対して課税することができることを規定するとともに、その配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を次のイ及びロのとおり規定している。
 イ 配当の受益者が、当該配当の支払を受ける者が特定される日(いわゆる基準日)をその末日とする365日の期間を通じ、議決権の15%以上を直接に所有する法人である場合には、当該配当の額の5%(本条2(a))
 ロ その他の全ての場合には、当該配当の額の10%(本条2(b))
 また、本条3は、配当の受益者が年金基金である場合(当該配当が、退職年金の管理や給付等の活動によって取得される場合に限ります。)については、配当の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(配当の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
 さらに、本条4は、一方の締約国の居住者が法人の株式又は同等の持分(組合、信託財産又は投資基金の持分を含む。)から取得する配当に対しては、当該株式又は同等の持分の価値の50%以上が、当該配当の支払に先立つ365日の期間のいずれかの時点において、他方の締約国内に存在する不動産によって直接又は間接に構成される場合には、不動産が存在する当該他方の締約国は、本条2及び3に規定する免税や限度税率を適用せず、15%の限度税率を適用することを規定している。
(注)議定書1は、本条4の「投資基金」には、投資基金に関する連邦法(2001年11月29日法律第156-FZ号(その一般原則を変更することなく随時行われる改正の後のものを含む。))に基づいて設立されたロシアの相互投資基金を含むことを確認している。
④ デンマーク条約
 本条2は、配当を支払う法人が居住者とされる一方の締約国(源泉地国)においても配当に対して課税することができることを規定するとともに、その配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を15%と規定している。
 さらに、本条3は、次のイ又はロに該当する場合については、配当の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(配当の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
 イ 配当の受益者が、当該配当の支払を受ける者が特定される日(いわゆる基準日)をその末日とする6か月の期間を通じて、当該配当を支払う法人の次の(i)又は(ii)に掲げるものの10%以上を直接に所有する法人である場合(本条3(a))
 (i)配当を支払う法人が我が国の居住者である場合には、法人の議決権
 (ii)配当を支払う法人がデンマークの居住者である場合には、法人の資本
 ロ 配当の受益者が年金基金である場合(当該配当が、退職年金の管理や給付等の活動によって取得される場合に限る。)(本条3(b))
⑤ アイスランド条約
 本条2は、配当を支払う法人が居住者とされる一方の締約国(源泉地国)においても配当に対して課税することができることを規定するとともに、その配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を次のイ及びロのとおり規定している。
 イ 配当の受益者が、当該配当の支払を受ける者が特定される日(いわゆる基準日)をその末日とする6か月の期間を通じ、次の(i)又は(ii)に掲げるものの10%以上を直接又は間接に所有する法人である場合には、当該配当の額の5%(本条2(a))
 (i)配当を支払う法人がアイスランドの居住者である場合には、法人の資本
 (ii)配当を支払う法人が我が国の居住者である場合には、法人の議決権
 ロ その他の全ての場合には、当該配当の額の15%(本条2(b))
 さらに、本条3は、配当の受益者が他方の締約国の居住者であり、かつ、次のハ又はニに該当する場合については、配当の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(配当の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
 ハ 基準日を末日とする6か月の期間を通じ、次の(i)又は(ii)に掲げるものの25%以上を直接又は間接に所有する法人である場合(本条3(a))
 (i)配当を支払う法人がアイスランドの居住者である場合には、法人の資本
 (ii)配当を支払う法人が我が国の居住者である場合には、法人の議決権
 ニ 配当の受益者が年金基金である場合(当該配当が、第3条1(l)(ii)(「年金基金」の定義)に規定する活動によって取得される場合に限る。)(本条3(b))
(3)配当を控除することができる法人が支払う配当の取扱い(A・B・D・E:本条5、C:本条6) ① リトアニア条約、エストニア条約、デンマーク条約及びアイスランド条約
 配当を支払う法人の居住地国における当該法人の課税所得の計算上、控除することができる配当については、本条3に規定する源泉地国免税は適用されないことを規定しており、その結果、リトアニア条約及びエストニア条約では10%の限度税率が、デンマーク条約及びアイスランド条約では15%の限度税率が適用されることになる。
② ロシア条約
 配当を支払う法人の居住地国における当該法人の課税所得の計算上、控除することができる配当については、本条2(a)に規定する5%の限度税率は適用されないことを規定しており、その結果、本条2(b)に規定する10%の限度税率が適用されることになる。

五 利子(第11条)

1 本条の趣旨
 利子に対する源泉地国における限度税率や免税等、利子に対する課税上の取扱いを規定している。

2 解説
(1)-1 居住地国の課税(A・B:本条1)
 リトアニア条約及びエストニア条約の本条1は、一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる利子に対しては、利子を受け取る者の居住地国である当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(1)-2 源泉地国の課税(A・B:本条2及び3) ① リトアニア条約
 本条2は、利子が生じたとされる一方の締約国(源泉地国)においても利子に対して課税することができることを規定するとともに、その利子の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を10%と規定している。
 さらに、本条3は、一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者である者で個人以外のものが受益者である利子に対しては、当該他方の締約国においてのみ課税することができる(利子の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
② エストニア条約
 本条2は、利子が生じたとされる一方の締約国(源泉地国)においても利子に対して課税することができることを規定するとともに、その利子の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を10%と規定している。
 さらに、本条3は、次のイ又はロに該当する場合については、利子の受益者の居住地国である他方の締約国においてのみ課税することができる(利子の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
 イ 利子の受益者が、他方の締約国の政府、地方政府若しくは地方公共団体若しくは中央銀行又は他方の締約国の政府により全面的に所有される機関(②において「政府等」という。)である場合
 ロ 利子の受益者が他方の締約国の居住者であり、かつ、当該利子が他方の締約国の政府等によって保証された債権、これらによって保険の引き受けが行われた債権又はこれらによる間接融資に係る債権に関して支払われる場合
(2)源泉地国免税(C~E:本条1)  ロシア条約、デンマーク条約及びアイスランド条約の本条1は、一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者が受益者である利子に対しては、利子の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(利子の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
(3)利子に対する源泉地国免税の例外(A:本条4、C~E:本条2)  リトアニア条約、ロシア条約、デンマーク条約及びアイスランド条約の本条は、利子の源泉地国免税を利用した租税回避行為を防止する観点から、条約に規定する利子に対する源泉地国免税の例外として、利益連動型の利子については10%の限度税率を適用することを規定している。
 ここでいう「利益連動型の利子」とは、利子の額が次のものを基礎として算定される利子又はこれに類する利子をいう。
① 債務者又はその関係者の収入、売上げ、所得、利得その他の資金の流出入
② 債務者又はその関係者の有する資産の価値の変動
③ 債務者又はその関係者が支払う配当

六 使用料(第12条)

1 本条の趣旨
 使用料に対する源泉地国における限度税率や免税等、使用料に対する課税上の取扱いを規定している。

2 解説
(1)-1 居住地国の課税(B:本条1)
 エストニア条約の本条1は、一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる使用料に対しては、使用料を受け取る者の居住地国である当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(1)-2 源泉地国の課税(B:本条2)  エストニア条約の本条2は、使用料が生じたとされる一方の締約国(源泉地国)においても使用料に対して課税することができることを規定するとともに、その使用料の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を5%と規定している。
(2)源泉地国免税(A・C~E:本条1)  リトアニア条約、ロシア条約、デンマーク条約及びアイスランド条約の本条1は、一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者が受益者である使用料に対しては、使用料の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(使用料の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。

七 譲渡収益(第13条)

1 本条の趣旨
 財産の譲渡によって取得する収益に対する課税上の取扱いを規定している。

2 解説
(1)不動産の譲渡(本条1)
 一方の締約国の居住者が他方の締約国内に存在する不動産の譲渡によって取得する収益に対しては、不動産が存在する当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(2)不動産化体株式の譲渡(A・B・D・E:本条4、C:本条4及び議定書1)  本条1では、不動産の譲渡によって取得する収益に対しては不動産の存在する国において課税できることを規定しているが、例えば、不動産を法人に保有させ、その法人の株式を譲渡することにより、実質的には不動産の譲渡をしながら本条1の適用を免れることが可能となる。
 そこで、本条4は、本条1の潜脱を防止する観点から、その価値の一定割合以上を不動産によって構成される法人の株式(いわゆる不動産化体株式)の譲渡によって取得される収益に対して、不動産が存在する国において課税できることを規定している。
 具体的には、一方の締約国の居住者が法人の株式又は同等の持分(組合又は信託財産の持分を含む。(注))の譲渡によって取得する収益に対しては、当該株式又は同等の持分の価値の50%以上が、当該譲渡に先立つ365日の期間のいずれかの時点において、他方の締約国内に存在する不動産によって直接又は間接に構成される場合には、不動産が存在する当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
 ただし、当該株式又は同等の持分が公認の有価証券市場において取引され、かつ、当該一方の締約国の居住者及びその特殊関係者が所有する株式又は同等の持分の数がその種類の株式又は同等の持分の総数の5%以下(リトアニア条約については10%以下)である場合は、本条1の潜脱のリスクが低いと考えられることから、本規定は適用されないこととされている。
(注)エストニア条約及びロシア条約については、投資基金の持分も含むこととされている。また、ロシア条約の議定書1は、本条4の「投資基金」には、投資基金に関する連邦法(2001年11月29日法律第156-FZ号)(その一般原則を変更することなく随時行われる改正の後のものを含む。)に基づいて設立されたロシアの相互投資基金を含むことを確認している。
(3)その他の財産の譲渡(本条5)  本条1から4までに規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、譲渡者の居住地国においてのみ課税することができることを規定している。

八 独立の人的役務(A:第14条)
 リトアニア条約の本条は、独立の人的役務について取得する所得に対する課税上の取扱いを規定している。

九 匿名組合(A:第21条、B・E:第20条、D:議定書2)
 リトアニア条約、エストニア条約、デンマーク条約及びアイスランド条約の本条は、匿名組合契約に関して匿名組合員が取得する所得の課税上の取扱いについて規定している。

十 特典を受ける権利(A:第23条、B・E:22条、C・D:第21条)
 両締約国以外の国(十において「第三国」という。)の居住者が形式的に締約国の居住者となること等を通じて条約が濫用されるリスクに対処するため、条約の特典を受ける権利を一定の場合に制限する以下の規定を設けている。
① 特典制限規定(LOB:Limitation on Benefits)
 条約の規定(※)に基づいて与えられる特典を享受できる者を一定の要件を満たす者に限定している。
(※)条約の「配当(上記参照)」、「利子(上記参照)」及び「使用料(上記参照)」の規定において、源泉地国免税を認める規定を指す。
② 第三国内に存在する恒久的施設に関する濫用防止規定
 ロシア条約、デンマーク条約及びアイスランド条約は、第三国内に存在する恒久的施設に帰属する所得について第三国において課される租税の額が一定の額に満たない場合には条約の特典は与えられないことを規定している。
③ 主要目的テスト規定(PPT:Principal Purpose Test)
 条約に基づく特典一般についてその取引が条約の濫用を主たる目的とすると認められる場合には特典を与えないことを規定している。
④ その他の規定
 デンマーク条約は、我が国の非永住者のように、国外源泉所得の一部が課税されない居住者については、条約に基づく租税の軽減又は免除の適用範囲が制限されることを規定している。

十一 相互協議手続(A:第26条、B・E:第25条、C・D:第24条)

1 本条の趣旨
 条約の解釈又は適用に関して生ずる問題を解決するための相互協議手続について規定している。

2 解説
(1)納税者の申立て(本条1)
 いずれか一方又は双方の締約国の措置により条約の規定に適合しない課税を受けたと認める者又は受けることとなると認める者は、その事案につき、一方又は双方の締約国の法令に定める救済手段(異議申立て、訴訟の提起等)とは別に、いずれかの締約国の権限のある当局に対して申立てをすることができることを規定している。ただし、その申立ては、その課税措置の最初の通知の日から3年以内にしなければならないこととされている。
(2)相互協議及び合意の実施(本条2)  本条1の申立てを受けた権限のある当局は、その申立てを正当と認めるが、自ら満足すべき解決を与えることができない場合には、他方の締約国の権限のある当局との合意によってその事案を解決するよう努めなければならないことを規定するとともに、両締約国の権限のある当局間で成立した合意は、両締約国の法令上のいかなる期間制限にもかかわらず実施されなければならないことを規定している。
(3)条約の解釈又は適用に関する相互協議(本条3)  両締約国の権限のある当局は、条約の解釈又は適用に関して生ずる困難又は疑義についても合意によって解決するよう努めなければならないことを規定するとともに、両締約国の権限のある当局は、条約に定めのない場合における二重課税を除去するため、相互に協議することができることを規定している。
(4)仲裁(A・D・E:本条5、B:本条5及び6)  リトアニア条約、エストニア条約、デンマーク条約及びアイスランド条約の本条は、条約の規定に適合しない課税を受けたとして申し立てられ相互協議の対象となった事案について、権限のある当局間で一定の期間内に事案の解決ができない場合における第三者による仲裁について規定している。
(注)ロシア条約の議定書3は、ロシアが、条約の署名の日の後に我が国以外の国又は地域と締結する租税条約に仲裁規定を含めることについて合意する場合には、両締約国の政府は、条約に仲裁規定を加えるための改正議定書を締結することを目的として、できる限り速やかに交渉を開始すること確認している。

十二 効力発生(A:第31条、B・D・E:第30条、C:第29条)

1 本条の趣旨
 条約の効力発生及び適用開始について規定している。

2 解説
(1)効力発生(本条1)
① リトアニア条約の効力発生
 条約は、両締約国においてそれぞれの国内法上の手続に従って承認されなければならず(注)、その承認を通知する外交上の公文の交換の日に効力を生ずることを規定している。
② エストニア条約、ロシア条約、デンマーク条約及びアイスランド条約の効力発生
 条約は、両締約国においてそれぞれの国内法上の手続に従って承認されなければならず(注)、その承認を通知する外交上の公文の交換の日の後30日目の日に効力を生ずることを規定している。
(注)我が国においては国会の承認が必要なところ、第196回国会で承認された。
(2)適用開始(本条2) ① 我が国とリトアニア、エストニア、ロシア及びデンマークの適用開始
 次のものについて条約が適用されることを規定している。
 イ 課税年度に基づいて課される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度の租税
 ロ 課税年度に基づかないで課される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に課される租税
② アイスランドの適用開始
 次のものについて条約が適用されることを規定している。
 イ 源泉徴収される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に取得される所得
 ロ その他の租税に関しては、この条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度について課される租税

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