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解説記事2018年08月27日 【SCOPE】 粉飾決算と代表取締役の責任で内部統制システムが問題に(2018年8月27日号・№752)

株主は構築義務違反があったとして訴訟を提起
粉飾決算と代表取締役の責任で内部統制システムが問題に

 リソー教育による粉飾決算をめぐり、当時の代表取締役には不正会計等を防止するための監視義務及び内部統制システムを構築すべき義務を怠った善管注意義務違反・忠実義務違反があるとして、同社の株主が当時の代表取締役の責任を追及していた株主代表訴訟で東京地裁は平成30年3月29日、株主の訴えを棄却する判決を下した。裁判所は、当時の代表取締役が本件不正会計の事実や兆候を知っていたということができないことから、監視義務違反があるとはいえないと判断。また、当時の代表取締役が整備した内部統制システムはリソー教育の事業内容、規模等に照らして通常想定される不正行為を防止し得る程度の機能ないし有用性を備えていたことから、内部統制システムの構築義務違反は認められないという判断を示している。

本件不正会計には財務担当取締役らが関与、代表取締役は関与せず
 リソー教育における粉飾は、大きく分けて2度に及ぶ。1度目の粉飾は、A監査法人の指摘を受けて発覚したもので、次期実施予定の授業の売上を先取りすることにより平成19年2月期に約6億円の売上を不正に計上していた(なお、平成20年2月期からリソー教育は監査法人をA監査法人からB監査法人に変更している)。この不適切な会計処理の再発防止を図るために当時の代表取締役(以下「被告代表者」)は、授業実施数を正確に管理集計するJシステムをB監査法人の助言の下で構築して導入したほか、内部監査室の体制強化などを図った。
 2度目の粉飾は、証券取引等監視委員会の調査により発覚したもので、授業当日に生徒が欠席した場合に役務の提供があったものとみなして売上に仮装計上することなどにより、平成20年2月期から平成26年2月期第2四半期にかけて約84億円の売上を不適切に計上していた(以下「本件不正会計」)。本件不正会計の発覚を受けて立ち上げられた第三者委員会(弁護士・公認会計士等で構成)は、本件不正会計に関与した取締役の責任を追及すべきであるとする一方で、被告代表者については内部統制システムの構築及び運用の義務違反を認めることは出来ず、法的な責任を追及することは難しい旨を記載した意見書を監査役会等に提出した。なお、リソー教育は、この意見書を踏まえ本件不正会計に関与した取締役らに3億円の支払いを求める訴訟を提起していた(本件不正会計に関与した取締役らは請求を認諾している)。
 今回紹介する裁判のなかで原告株主は、被告代表者は本件不正会計の事実や兆候を知りながら放置して適切な対処を怠ったのであるから、監視義務違反があると主張した。また、原告株主は、被告代表者は十分な監査機能を発揮できない内部監査室を設置し、虚偽の数値を入力可能なJシステムの導入など明らかに不十分な内部統制システムを導入したことから、内部統制システムの構築義務違反があるなどと主張したうえで、被告代表者に対してリソー教育に課せられた課徴金等に係る損害賠償を求めた。

通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制が必要に
 裁判所はまず、被告代表者が本件不正会計の事実や兆候を知っていたということはできないとしたうえで、監視義務違反があるとはいえないと判断した。次に内部統制システムの構築義務違反については、代表取締役は原則として、通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制を整えれば足り、不正行為が通常容易に想定し難い方法によるものであった場合には、代表取締役において不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情がない限り、その代表取締役に不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできないという解釈を示した。この解釈は、事業部長らによる不正行為等を発見することができなかった代表取締役の責任が問題となった事件で最高裁平成21年7月9日第一小法廷判決(代表取締役側が勝訴)が示した考え方を踏まえたものだ(本誌319号40頁)。
 そして本件について裁判所は、①Jシステム導入後に平成19年不正会計の手法を用いた売上の不正計上はできなくなったこと、②本件不正会計は幹部役員が指示・黙認するなど平成19年に発覚した不適切な会計処理とは全く異なる要因に基づいて発生したものであることなどの事情を考慮すれば、Jシステムを導入した当時において、本件不正会計の手法が用いられることは通常想定されるものではなく、被告代表者が導入したJシステムは平成19年の売上不正計上が発覚した当時に想定された不正行為を防止する程度の機能を有していたなどと指摘。この点などを踏まえ裁判所は、平成20年2月期以降、監査体制をさらに強化すべき状態にあったとはいえないことなどの事情も考慮すると、被告代表者の整備した内部統制システムはリソー教育の事業内容、規模等に照らして通常想定される不正行為を防止し得る程度の機能ないし有用性を備えていたことから、内部統制システムの構築義務違反は認められないと判断した。

虚偽記載による株価下落、リソー教育に損害賠償を命じる別件判決も
 今回紹介した内部統制システムの構築義務違反などが問題となった訴訟事件とは別の訴訟事件でリソー教育の株主は、有価証券報告書等に虚偽記載があったとして、リソー教育に対して金商法21条の2に基づく損害賠償を請求する訴訟を提起していた。これに対し裁判所(東京地裁平成29年3月28日判決)は、虚偽記載は連結利益の5割以上、連結純利益の8割以上に相当する水増しがなされたものであり、有価証券報告書等における重要な事項についての虚偽記載に当たるため、リソー教育は同社株式の取得者に対して金商法21条の2第1項に基づく損害賠償責任を負うと判断。虚偽記載の発覚から売却日までの株価下落分の一部について、リソー教育に対して損害賠償を命じている。

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