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解説記事2018年09月17日 【特別解説】 「収益認識に関する会計基準等への対応」として平成30年度に行われた税法・通達改正の検証(6・了)(2018年9月17日号・№755)

特別解説
「収益認識に関する会計基準等への対応」として平成30年度に行われた税法・通達改正の検証(6・了)
 日本税制研究所 代表理事 税理士 朝長英樹

 第1回から前回までは、「収益認識に関する会計基準等への対応」として平成30年度に行われた法人税法の改正を主な対象として検証を行ってきた。
 これらの検証の中でも、特に前々回及び前回の財務省『平成30年度 税制改正の解説』の「一 収益認識に関する会計基準等への対応」における説明に関する検証については、読者の方々から従来にない反応があった。
 これは、従来、改正が行われる度に、改正の説明を敷衍する実務的・技術的な話ばかりに焦点が当たり、改正の適否等を根本から考えてみるということが殆どなかったこと、今回の改正が法人税法において最も重要な22条に関するものであったこと、そして、今回の改正に対して漠然としてではあっても本当に必要な改正であったのかという疑問を感じていた読者が少なくなかったこと、この3つが主な理由となっているものと推測される。
 しかし、大きな疑問がありつつも、改正が行われたことは事実であるため、実務においては、改正に対応することが必要となる。
 今回は、国税庁がホームページで公表している「「収益認識に関する会計基準」への対応について~法人税関係~」等の説明の検証ということになる。
 今回が本稿の最終回ということになるが、本稿が何らかの形で僅かなりとも読者の方々のお役に立つようであれば、幸いである。

Ⅳ 国税庁「「収益認識に関する会計基準」への対応について~法人税関係~」等の説明の検証

1 「Ⅰ 収益認識会計の制定と30年度法人税法改正」の説明の検証
 国税庁がホームページで公表している「「収益認識に関する会計基準」への対応について~法人税関係~」は、「Ⅰ 収益認識会計の制定と30年度法人税法改正」と「Ⅱ 法人税基本通達の対応」から構成されており、「Ⅰ 収益認識会計の制定と30年度法人税法改正」においては、「収益認識に関する会計基準」の説明、法人税法における収益に関する定めの説明、22条の2の説明などが行われている。
 今回の通達改正に関しては、それが22条2項及び4項と22条の2をどのように解釈して行われたものかということが最も重要となるため、以下、1においては、「Ⅰ 収益認識会計の制定と30年度法人税法改正」の中の「7.法人税法における収益に関する定め」、「8.30改正新法22条の2の創設」と「11.収益の計上時期についての留意点」の説明に絞って検証を行うこととする。
(1)「7.法人税法における収益に関する定め」の説明の検証  「7.法人税法における収益に関する定め」(7頁)においては、22条2項、4項及び5項を掲げた上で、次のような解釈が示されている。
 当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡……その他の取引で資本等取引以外の取引に係る収益の額であるとされ、益金には会計上の収益が算入される(法22②)
 この解釈においては、「益金には会計上の収益が算入される(法22②)」と述べられているわけである。
 しかし、22条2項は、「益金の額」について、確かに「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡……その他の取引で資本等取引以外の取引に係る収益の額」としているものの、それは、「会計上の収益」と一致するものではない。
 また、「7.法人税法における収益に関する定め」においては、次のような解釈も示されている。
 法人の各事業年度の所得の金額の計算に関して、別段の定めによって税法独自の計算方法を定めているものの他は、『一般に公正妥当と認められる会計処理の基準』に従った会計処理をしていれば、その会計処理が認められる(法22④)
 この解釈においては、「『一般に公正妥当と認められる会計処理の基準』に従った会計処理をしていれば、その会計処理が認められる(法22④)」とされているわけである。
 しかし、法人税においては、無償取引を「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」による取扱いとは違って有償取引と同様に処理すること、法人税基本通達においても「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った処理が全て認められてきたわけではないことなどを思い起こすと、この解釈に疑問があることが直ぐに分かるはずである。
 これらの「7.法人税法における収益に関する定め」における解釈は、本稿のⅠ2(本誌2018.8.6号15頁)やⅢ1(2018.9.3号14頁)などにおいて述べた22条4項の捉え方の誤りが原因となって、22条2項と4項の正しい解釈という観点から見た場合に多分に疑義があるものとなってしまっている、と考えられるわけである。
 しかし、このような「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って処理をした収益の額が22条2項の「益金の額」となるという解釈は、納税者にとっては、歓迎すべきものと言ってよい。
 筆者も、国税当局自身が「益金には会計上の収益が算入される」や「別段の定めによって税法独自の計算方法を定めているものの他は、『一般に公正妥当と認められる会計処理の基準』に従った会計処理をしていれば、その会計処理が認められる」などと明確に言い切ったものを過去に目にした記憶がない(注)。
(注)従前の解説は、「原則として一致すべき」(『昭和42年 改正税法のすべて』76頁)としたり、「法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り」(平成5年11月25日最高裁判決)としたりするものばかりであったように記憶する。

 22条2項と4項の解釈は、今回の改正前には、2項が「創設的、強制的規定」と解され、4項が「企業会計を尊重するという計算心得を宣言、確認する規定」と解されてきたため、税法上、適切な処理とされるものは、現実には「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った処理の中から選ぶこととはなっても、税制の観点から適当か否かを判断して決める、ということとされてきたわけであるが、今回の改正では、4項を2項と同じく「創設的、強制的規定」と誤って解釈して改正を行っていることから、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った処理であればそれがそのまま税制においても認められる、と解することとなっているわけである。
 22条2項と4項が国税当局によってこのように解釈されることになるということであれば、今後は、収益の認識時期と金額の取扱いの根拠規定として、22条2項と22条の2の2つが適用されると考えるのか、あるいは、22条の2のみが適用されると考えるのかという問題はあるとしても、少なくとも、22条の2により、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った処理であればそれがそのまま税制においても認められる、ということになり、法人税基本通達による解釈も、そのような観点で定められるということになっていなければ、その解釈は誤っている、ということになる。
 このような状態となっているため、今後、実務においては、従前どおりの処理をすべきか、あるいは、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の範囲内で有利な処理をすべきか、というような判断が求められることがあるものと考えられる。
(2)「8.30改正新法22条の2の創設」の説明の検証  「8.30改正新法22条の2の創設」(8頁)においては、22条の2の条文を掲げた上で、同条の解釈の概要の説明が行われている。
 22条の2第2項に関しては、次のような解釈が示されている。
・公正処理基準に従って、引渡し等の日に近接する日の属する事業年度の確定決算で収益経理することも認められる
 この「公正処理基準」とは、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」のことであり、この解釈は、22条の2第2項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の前項に規定する日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」にはその処理を認めるという部分の解釈ということになっている。
 しかし、この22条の2第2項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の前項に規定する日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」の解釈は、もう少し正確に理解しておく必要がある。
 今回の収益認識の取扱いに関する改正は、22条4項について、上記(1)における引用にもあったとおり、「『一般に公正妥当と認められる会計処理の基準』に従った会計処理をしていれば、その会計処理が認められる」というように解釈して行われたものであって、法人が行った処理について同条2項に基づいて税制上の観点からそれを認めるのか否かを判断するという解釈は、採られていない。
 このような捉え方を前提に置いて、22条の2第2項の上記の部分をどのように解釈するべきかということを考えてみると、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従っており、かつ、「近接する日」に「収益として経理」をしている、という2つが要件となっていると解釈する必要がある、ということになるはずである。
 そうすると、自ずと、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従ってはいないが、「引渡基準」に準ずる基準などを採って「近接する日」に「収益として経理」をしているものは、22条の2第2項を適用できないのかという疑問、つまり、「近接する日」に「収益として経理」をしていることのみを同項の適用要件とすることができないのかという疑問が生じて来ることとなる。
 この疑問は、企業会計基準や「収益認識に関する会計基準」などの「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」が「引渡基準」を採っていないにもかかわらず、何故、それらに従うことが税制上の要件とされなければならないのか、税の理論からすると、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従うという要件が設けられていなかった従前の取扱いが正しいのではないか、という常識的な疑問でもある。
 しかし、この疑問に対する答は、22条の2第2項に要件として規定されている以上、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従っていることを示し得ない限り、同項の適用は認められない、ということにならざるを得ない。
(3)「11.収益の計上時期についての留意点」の説明の検証  「11.収益の計上時期についての留意点」(14頁)においては、次のように説明されている。
 30改正は、改正前の公正処理基準(これを補完する通達・判例)における取扱いを明確化したもの。新会計基準を適用しない場合の収益計上時期を従来と変更するものではない
 「30改正」に「明確化」でないものが多数含まれていることは、既に述べたとおりである。
 また、「新会計基準を適用しない場合の収益計上時期を従来と変更するものではない。」という部分にも、疑問がある。
 この部分が法人税法の条文のどの部分を根拠とする説明であるのか、旧通達が全面的に改正されて無くなっている中でこの部分がどの法人税基本通達を指して言っているのか、ということが明らかではなく、しかも、改正後の法人税基本通達も、「収益認識に関する会計基準」に関係するものについては、基本的には、実際に同基準を適用するのか否かということとは関係なく、同基準の適用対象となる取引について適用するものとされている。
 このように、この説明にある「新会計基準を適用しない場合の収益計上時期を従来と変更するものではない。」という部分は、実際の法改正や通達改正との関連が明確ではないわけであるが、今回の改正後も、22条2項がそのまま残り、4項も実質的に変更されていない状態にあることからすると、法解釈として、正当性があり、今後の実務において、忘れてはならない極めて重要な留意点である、と言ってよかろう。
 また、「11.収益の計上時期についての留意点」においては、次のような説明も行われている。
 引渡しの日には複数の収益計上時期がありうるところ、引渡しの日の中で法人が選択した収益計上時期の基準は継続して適用することが求められる
 引渡しの日ではなくても、公正処理基準に従い引渡しの日に近接する日を収益計上時期としている場合には、その近接する日において収益計上することが認められる(申告調整も可)。その近接する日を収益計上時期の基準としている場合、継続して適用することが求められる
 法人税法の中には、工事進行基準などのように、継続適用を求めるものも存在するわけであるが、22条2項・4項や22条の2には、継続適用を求める旨の文言は存在しない。継続適用を求めるものであることが文言上明確である条文とそうでない条文とが同じ解釈になるなどということは、有り得ない。
 このため、収益認識の時期に関しては、変更が認められることとなる。
 税の負担を減らすためだけに変更が行われたという場合には、租税回避として課税が行われることも有り得ると考えられるわけであるが、変更した方がよいという事情があって変更が行われているのであれば、その変更を否認することはできないわけである。

2 「Ⅱ 法人税基本通達の対応」の説明の検証  「Ⅱ 法人税基本通達の対応」の冒頭においては、「1.整備方針」(16頁)が示されている。
 この「1.整備方針」においては、次のように記述されている。
 新会計基準は収益の認識に関する包括的な会計基準である。履行義務の充足により収益を認識するという考え方は、法人税法上の実現主義又は権利確定主義の考え方と齟齬をきたすものではない。そのため、改正通達には、原則としてその新会計基準の考え方を取り込んでいく。
 この記述には、次のような疑問がある。
ⅰ 企業会計において、「履行義務の充足により収益を認識するという考え方」が採られるようになったのは、「実現主義」によって収益を認識するという考え方が適当ではないと考えられたためであり、「義務」の「充足」によって「収益」を「認識する」という「考え方」は、「法人税法上の実現主義又は権利確定主義の考え方」とも「齟齬をきたすもの」である。
ⅱ 法人税法においては、「実現主義」と「権利確定主義」は採らないこととされており、「引渡基準」と「完了基準」を採ることとされていた。
ⅲ 「改正通達には、原則としてその新会計基準の考え方を取り込んでいく。」ということになると、例えば、企業会計において、「履行義務」とは何か、「充足」とはどのような意味か、「履行義務の充足」とはどのようなことかというようなことに基づいて課否が判断されるという、前例のない明確性を欠く取扱いがなされる事態が生じてくることとなり、また、米国の会計基準の動向等によって会計基準が変わる度に課否が変わるなどという、前例のない安定性を欠く取扱いがなされる事態が生じてくることとなる。
 また、「1.整備方針」においては、次のように記述されている。
 中小企業については、引き続き従前の企業会計原則等に則った会計処理も認められることから、従前の取扱いによることも可能とする
 この記述は、「収益認識に関する会計基準」が全法人の2%程度にしか適用されず、全法人の約98%の法人にとっては同基準が制定されても何ら事情は変わらないことから、全法人の約98%の法人の取扱いがどうなるのかという当然の疑問に答えるものであって、非常に重要である。
 上記1(3)において指摘したことと同様に、この部分が法人税法の条文のどの部分を根拠とする説明であるのか、旧通達が全面的に改正されて無くなっている中でこの部分がどの法人税基本通達を指して言っているのか、ということが明らかではない、という疑問は残らざるを得ないわけであるが、今回の改正後も、22条2項がそのまま残り、4項も実質的に変更されていない状態にあることからすると、この部分で述べられていることも、法解釈として、正当性があり、今後の実務において、忘れてはならない極めて重要な留意点である。

3 「○ 収益認識基準による場合の取扱い例」の説明の検証  国税庁がホームページで公表している「○ 収益認識基準による場合の取扱いの例」においては、6件の取扱い例が示されている。この6件の取扱い例は、いずれも「会計」「法人税の取扱い」「消費税の取扱い」の3つの処理例を示すものとなっている。
 これらの取扱いには、収益の額の一部について、「履行義務」として残ったものを後の事業年度において「充足」することとなるということで、後の事業年度に計上することを認める、というものが多くなっており、納税者にとっては、有利な取扱いとなるものが多くなっているため、「収益認識に関する会計基準」を適用しない法人であっても、積極的に利用することを検討するべきである。
 今回の改正に関しては、法人税の取扱いが変わる部分が出てくるため、それに伴って消費税の取扱いがどうなるのかということが実務の大きな関心事となっているわけであるが、消費税の取扱いに関しては、全般にわたる取扱いが示されていないことから、「○ 収益認識基準による場合の取扱いの例」において示されている消費税の取扱いを参考として、個々に判断をする以外に対応のしようがないものと思われる。
 今後、「収益認識に関する会計基準」に関しては、米国における会計基準の動向に合わせて、度々、内容が変わることとなるものと考えられるため、税務に携わる者は、法人税法や法人税基本通達が改正されなくても、「収益認識に関する会計基準」が変わることによって法人税の取扱いが変わることがある、という前例のない事態になっていることを良く認識した上で、法人税法や法人税基本通達の改正と同じように、「収益認識に関する会計基準」の改正にも注意を払うことが必要となる、という点に十分に留意しておく必要がある。

最後に
 「収益認識に関する会計基準等への対応」として平成30年度に行われた税法・通達改正の検証を6回にわたって行ってきたわけであるが、これらの検証において述べてきたとおり、この改正には、その内容と解説の仕方のいずれにも、少なからず疑義がある、と言わざるを得ない。そもそも、会計基準が変わったことを理由として22条4項に「別段の定めがあるものを除き」という文言を追加したり22条の2のようなものを創ったりするなどということは、22条の基本構造を正しく理解してさえいれば、全く必要がない、ということが直ぐに分かったはずである(注)。
(注)本稿の読者の方々の声を聞くと、やはり、今回の法人税法の改正は本当に必要であったのかという点に関する疑問の声が一番多くなっているため、改めて、この点を確認しておくこととする。
  22条4項に「別段の定めがあるものを除き」という文言を追加する改正と22条の2を創設する改正は、既に述べたとおり、「法人税法第22条と併せて同法第29条、第31条又は第32条が適用され(る)」場合には棚卸資産に関する定めである29条、減価償却に関する定めである31条や繰延資産に関する定めである32条と22条4項とが「抵触」している(『平成30年度 税制改正の解説』280・273頁)、という独特の解釈に基づいて行われている。つまり、22条4項がそのような「抵触」規定であるという独特の解釈が正しいということでなければ、これらの改正の前提となっているものが無くなってしまうわけである。
  しかし、次の22条4項の創設時の大蔵省主税局の職員の解説からも分かるとおり、22条4項は、そのような「抵触」規定として創設されたものではない。
 この基本規定の改正に伴つて、現行法人税法令、通達に及ぼす影響については、従来から、税法関係の法令および通達は一般に公正妥当な会計処理の基準を尊重する建前をとっているので、基本規定の創設により直ちにその改正が必要になるとは考えられないが、しかし、たとえば、今回の改正で行われた減価償却制度の弾力化または割賦販売の適用要件の緩和等も、この基本規定の創設の趣旨から生まれたものということができるので、このような意味において、税法および通達のうち企業会計に関する計算原理に交渉を持つ部分については、今後、再検討をすることになるものと思われる。
 (大蔵省税制第一課 西原宏一「法人税法の一部改正」税務弘報、1967年7月臨時増刊、75頁)
  この解説から、22条4項は、税務上も一般に公正妥当と認められる会計処理の基準を尊重するべきであるということを定めた「尊重」規定として創設されたものであって、上記のような「抵触」規定として創設されたものではない、ということが明確に確認できるはずである。

 このように、必要性に疑問がある改正が行われたり、理論的に疑問がある改正が行われたりするようになったのは、平成18年の改正からである。
 平成18年には、「特殊支配同族会社の業務主宰役員給与の損金不算入制度」を創設する改正(平成22年度税制改正により廃止)や「役員給与」の税制の改正が行われており、平成22年には、「グループ法人税制」を創設する改正や組織再編成税制の改正が行われているわけであるが、平成30年の「収益認識に関する会計基準等への対応」として行われた法人税法の改正は、その内容と解説の仕方のいずれにおいても、この平成18年や平成22年の改正に酷似するものとなっている。
 生身の人間が行うことである以上、税制改正に疑義があるものがあることは止むを得ないことであり、筆者も、改正によって新たに創られるものに関しては、それがどのような内容のものであろうとも、あまり気にはならないわけであるが、しかし、改正前の正しい理論や正しい制度の捉え方が改正によって無かったこととされたり誤って捉えられるようになったりすることには、さすがに問題がある、と考えている(注)。
(注)単に当局の解説をなぞるだけでよいという改正もあれば、それだけでは済まない改正もある。
  今回の改正は、22条という法人税法の中の最も重要な条文の改正であり、しかも、その改正内容は、既に述べたとおり、多分に疑問があるものとなっているため、単に当局の解説をなぞるだけで済むというようなものでないことが明らかである。

 平成18年の改正に関して、例を挙げると、役員賞与と役員報酬(平成18年度税制改正によって「役員給与」と呼ぶことに変更されている。)の取扱いの改正に伴い、それらの損金算入の否認の理由が改変されていることである。
 役員賞与の損金不算入の制度と過大役員報酬の損金不算入の制度は、昭和34年に創設されたものであるが、これらの制度の創設時には、それらの損金不算入の理由は、それらが「利益の処分」であったり「利益の分配」であったりすることとされていた。「利益の処分」や「利益の分配」を損金としないという理論は、法人税における基礎理論と言ってもよいものである。これらの制度の創設以来、平成18年の改正前まで、半世紀近く、それらの損金不算入の理由は、そのように解されてきた。
 しかし、平成18年に改正を行った際に、「利益」に連動したものであれば損金に算入するという「利益連動給与」というものを創ったことから、「利益の分配」は損金としないという理論を採ることができなくなってしまい、あたかも従来から「恣意性を排除すること」が損金不算入の理由であったかのごとき解説を行うようになり、その後は、「利益の処分」や「利益の分配」という用語さえ全く使わずに解説を行うようになっている。
 このような動向を創った平成18年の解説は、次のとおりである。
 わが国税制では、従来から役員給与の支給の恣意性を排除することが適正な課税を実現する観点から不可欠と考えており、具体的には、法人段階において損金算入される役員給与の範囲を職務執行の対価として相当とされる範囲内に制限することとされてきました。
(財務省『平成18年度 税制改正の解説』323頁)
 この解説の前までの役員賞与と役員報酬の解説においては、当然のことながら、財務省自身も、「利益の処分」や「利益の分配」が損金不算入の理由であると説明していた。
 昭和34年の制度創設時の解説等を確認すると、当時、確かに「恣意的に御手盛りの額が定められることを防止する」ということが語られていたが、それは、商法における規制の理由として語られているものであって、当時の大蔵省主税局の担当者は、それが税制において損金不算入の理由とすることができるものではないことを正しく理解していた、ということが当時の解説等からも明確に確認できる。
 平成18年の「役員給与」の改正については、どのような経緯でそのような改正を行うこととなったのかということを正しく説明する必要があるわけであって、過去の事実や過去の正しい理論を無いものとしたり改変して解説したりすることによって、あたかも改正に理由があるかの如く解説するなどというようなことは、あってはならないことである。
 現在、役員賞与と役員報酬に関しては、このような事情にあるため、「従来から」「支給の恣意性を排除すること」が損金不算入の理由であったというように、過去を事実に反し理論的でもないものに塗り替えて捉えなければならないのか、という厄介な問題を抱えることとなっている。
 平成22年の「グループ法人税制」と組織再編成税制の改正でも、同種の問題が生じている。
 平成13年に組織再編成税制を創設した際には、「法人による移転資産に対する支配が継続する」ということであれば、組織再編成を「適格」として、その移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べる、という基本的な考え方で制度を創り、その「法人による移転資産に対する支配が継続する」というケースとしては、その移転資産が「支配関係」で捉えられる「グループ」の中に留まるケースが典型である、と整理した。
 このような整理を正確に分析すると、「法人による移転資産に対する支配が継続する」ということに含まれている「支配」と、「支配関係」に含まれている「支配」とは、用語は同じでも、それが用いられる場面と内容が異なっていることが分かるはずである。
 しかし、平成22年には、この2つの「支配」に相違があることを理解しないまま、「支配関係」があれば「適格」になるという、立体を平面にしたかのような「理論」によって「グループ法人税制」の創設と組織再編成税制の改正を行っている。
 このため、平成22年の改正後の組織再編成税制に関しては、同改正によって改正が行われなかった部分も含めて、平成13年の制度創設時から「支配」は1つであったと考えて、条文の解釈を改めなければならないのか、という厄介な問題を抱えることとなっている。
 平成30年の収益認識の取扱いに関する改正に関しても、これらと同様に、22条4項は、昭和42年から、「創設的、強制的規定」であったと考えたり、「別段の定め」にも適用されていたと考えたりして、現在の法人税法を理解することとしなければならないのかというような厄介な問題が生ずることとなる(注)。
(注)これらの「問題」が単に「理論」や「考え方」などの問題に留まるものであると勘違いしないようにする必要がある。
  「理論」や「考え方」などが変われば、当然、具体的な事案における判断に影響が出てくることがある。
  平成18年には、有利発行税制の改正が行われ、それが従前の取扱いの「明確化」と説明されているわけであるが、その改正は、実際には、従前の取扱いを誤って理解したために従前の取扱いを変更するものとなってしまっており、そのような状況となってしまったが故に、昭和48年に創設された有利発行税制における同年以後の正しい時価の捉え方が平成18年に根本から変わってしまい、本来は無用の大きな課税問題を生じさせてしまうこととなっている。この詳細に関しては、本誌2017.4.3号から2017.5.1号までに掲載されている「検証・有利発行課税事件(1)~(4)」を参照されたい。

 「役員給与」の例で言えば、「利益連動給与」(平成29年度税制改正によって「業績連動給与」に名称を変更)を無くすことができない以上、「役員給与」の損金不算入の理由を語るに当たって「利益の処分」や「利益の分配」という文言を用いることはできず、「支配」の例で言えば、「グループ法人税制」を無くすことができない以上、「支配」は2つあるという話をすることはできない。そして、これらの例に照らせば、今回の「収益認識に関する会計基準」の公表に伴う改正に関しても、22条4項に「別段の定めがあるものを除き」という文言が残り、22条の2が残る限り、22条4項は「別段の定め」には適用しないものとして創られたということや同項は「税制簡素化」のために創られたということなどは、今後、語られなくなる可能性が高い、と考えられる(注)。
(注)このように、読者が改正前の制度を誤って理解するような説明の仕方をして不適切な改正を正当化するかのごとき対応をすることは、税制に対する信頼を失わせることとなるため、大きな問題であるのみならず、制度の創設等に尽力された方々に対して、大変、失礼なことでもある。

 平成18年に改正された「役員給与」の取扱いも、平成22年に改正された組織再編成税制も、上記において述べた問題点等を解消するどころか、その反対に、これらの問題点等を更に拡散する内容の改正が平成29年に行われることとなったわけであるが、今後は、平成22年に創設された「グループ法人税制」についても、同様の改正が行われることとなっていくものと考えられる。
 そして、今回、「収益認識に関する会計基準等への対応」として改正が行われたことにより、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」が新たに創設されたり変更されたりする度に「収益認識に関する会計基準等への対応」と同様の法令や通達の改正が行われるようになって、22条4項があたかも「税制複雑化」のために創られた規定であったかのごとき様相を呈することとなる可能性が高い、と考えられる。
 (了)

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