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解説記事2023年03月20日 特別解説 我が国の上場企業による不正~第三者委員会報告書を提出した企業の調査分析~(2023年3月20日号・№971)

特別解説
我が国の上場企業による不正
~第三者委員会報告書を提出した企業の調査分析~

はじめに

 本稿では、2014年4月から2022年12月末日までの期間で、不適切な会計処理や不適切な行為について、第三者委員会報告書(第三者を含んだ社内調査報告書等を含む)を公表した企業を題材として、不正の発生原因や類型、特徴点等を分析するとともに、2022年4月から2022年12月までに発生した、特徴的な不正事例をいくつか取り上げて紹介することとしたい。

調査の対象とした企業

 今回調査の対象としたのは、2014年4月1日から2022年12月31日までの期間に、不適切な会計処理や不適切な行為等について第三者委員会報告書(第三者を含んだ社内調査委員会報告書を含む)を公表した企業(以下、「報告書公表企業」という。)である。
 これまでは、年によって凹凸はあるものの、年間にほぼ30件弱のペースで不適切な会計処理に関する調査報告書が公表されてきた(表1を参照。)。

 なお、調査報告書が公表された事例のうち、得意先が要求するスペックを満たしていない製品を偽って納入していた等の会計処理とは直接関係しないような不適切な事例は、今回の調査の対象からは除いている。

全体的な分析

 まず、2014年4月から2022年12月末日までの期間に報告書を公表した248社を、上場している市場等の区分ごとに分類すると、表2のとおりであった。なお、2022年4月4日より、東京証券取引所における市場区分の見直しが行われ、これまでの(東証1部、東証2部、ジャスダック及びマザーズ)区分から、プライム市場、スタンダード市場及びグロース市場の3つの区分に再編成が行われたが、本稿では、2014年4月1日から2022年4月1日までの期間については、東証1部、2部などの旧区分、2022年4月4日以後12月末日までは、東証プライムやスタンダード等の再編成後の新区分に基づいて分類している。

不適切な会計処理の分類と発覚の原因等

 不適切な会計処理を生じさせた当事者を分類すると、表3のとおりであった。なお、表3の「元役員・従業員」の区分には、組織的ではない、個人的な不正行為(横領、着服等)を分類している。

 新聞報道等でもよく取り上げられているが、親会社に比べてガバナンスが効きにくく、監視の目が届きにくいとされる連結子会社(特に中国をはじめとする海外の子会社)で不適切な会計処理が発生した事例が多かった。
 次に、不適切な会計処理を形態別に分類すると、表4のとおりとなった。

 会社の業績、特に売上高や利益を実力以上によく見せることを狙ったいわゆる粉飾決算が過半数を占めていたが、その一方で、個人的な動機(ギャンブル等にのめりこんだ末の借金返済や、個人的な遊興費への充当等)による資金の横領や着服等も少なからず存在していた。また、国内外の連結子会社において、本社が十分に管理監督をしないままに現地の担当者に業務を任せきりにしていたり、未知の土地で取引の拡大を拙速に進めようとしたりした結果、不透明な取引や循環取引等に巻き込まれて多額の不良債権や損失が発生したような事例もあった。さらに、「会社の私物化」には、オーナー経営者や創業者が、取締役会の決議等を経ぬままに私情が絡んだ投資を行ったり、公私混同を行ったりしていたような事例が含まれている。
 さらに、不正の具体的な内容を分類すると、表5のとおりであった。
 一つの不適切な会計処理事案の中に、表5の項目が複数含まれることはよくあり、むしろそのような事例のほうが多いが、ここでは便宜的に、それぞれの事案をどれか一つの項目に分類している。

 最後に、不適切な会計処理が発覚した契機を分類すると、表6のようになった。
 調査報告書上は必ずしも明記されていないが、表6の「社内調査」には、企業が自ら異変に気付いて行った自発的な社内調査のほかに、内部・外部から内密の情報提供を受けたうえでの社内調査も相当数含まれているものと思われる。一般的には、不適切な会計処理を外部者が発見することは難しく、したがって不適切な会計処理を発見するためには内部通報のほうが有効であると言われることもあるが、今回の調査結果を見る限り、会計監査人(監査法人)や外部からの指摘、あるいは税務調査における指摘など、外部の第三者が介在したことをきっかけとして不適切な会計処理が発覚したケースがかなりの部分を占めていた。

 また、会計監査人が不適切な会計処理の兆候等を発見して会社側に未然に是正を求めたようなケースや、不適切な会計処理が行われはしたものの、第三者委員会を設置しての調査が必要となるほどの規模になるまでの拡大は防いだようなケースも少なからず存在すると思われる。内部統制や内部的な自浄作用に加え、会計監査人等による外部からのけん制も、不適切な会計処理の抑止に一定の効果があるものと思われる。

2022年に調査報告書が公表された、特徴的な不適切な会計処理の事例

 本稿の後段では、2022年4月から2022年12月に調査報告書が公表された不適切な事例248件のうち、特徴的な次の6件を取り上げることとしたい。

・アジャイルメディア・ネットワーク
・グローム・ホールディングス
・長野計器
・ピクセルカンパニーズ
・TOKAIホールディングス
・ルーデン・ホールディングス

 最後に取り上げるルーデン・ホールディングスを除く5社は、いずれも今回の調査報告書の公表が2回目であるという共通点がある。

(1)アジャイルメディア・ネットワーク(株)調査報告書公表日:2022年4月11日
 アジャイルメディア・ネットワーク(株)(以下「アジャイル社」という。)は、東証グロース市場に上場するインターネット広告会社である。
 アジャイル社は、2021年6月21日にも第三者委員会調査報告書を公表している。この時は、ソフトウェア資産において架空の取引が計上されていたこと、業務関連性のない経費が精算されていたことにより、元役員が私的流用などの不適切な会計を行って、2億7,000万円弱の不正な資金流出が行われていたことが明らかになった。
 ところが、アジャイル社は、前回委員会による調査結果の公表後、外部の公的機関からの指摘を受けて会社内部で調査したところ、2022年1月21日、前回委員会の調査では発覚しなかった不適切な会計処理が存在することを新たに認識するに至った。
 そしてアジャイル社は、2022年2月1日の取締役会において、不適切な会計処理の疑義として「2018年12月期から2019年12月期に至るまでの期間において、台湾の取引先から対象会社台湾子会社を経由して対象会社に入金され、売上として計上されていた約4,500万円について、実際には対象会社または対象会社台湾子会社から役務の提供を行っていた事実が確認できなかったにも関わらず、売上として計上されていたという疑義」、「同期間において、国内の取引先への売上約500万円が本来計上すべき期とは異なる期に計上されていたという疑義」、及び「広告宣伝費等の費用約300万円が、本来計上すべき期とは異なる期に計上されていたという疑義」を特定した。

(2)グローム・ホールディングス(株) 調査報告書公表日:2022年6月24日
 グローム・ホールディングス(以下「グローム社」という。)は、医療機関や福祉施設等の経営コンサルティングや人事・労務に係る支援を営む企業グループであり、東証グロース市場に株式を上場している。
 グローム社は、2020年4月22日にも第三者委員会報告書を公表しているが、その際は連結子会社において、役務の提供や対象物の引渡しの事実のない売上高及び売上原価の計上や、回収可能性のない前渡金等の資産計上、収用に伴う会計処理と資産除去債務の算定にあたっての誤り等が認められたことが明らかになった。
 そして、2022年6月に明らかになった不祥事は、グローム社の連結子会社とA社、B社が業務委託契約を結ぶことにより、その結果として連結子会社を経由して外部のA社からB社に資金が移転されていたことが判明し、前記の業務委託契約に係る取引の実在性が問題視された、という事案であった。

(3)長野計器(株) 調査報告書公表日:2022年4月20日
 長野計器(以下「会社」という。)は、圧力計や圧力センサーを中心とする各種センサーなどの精密機器を開発、製造、販売している企業であり、東証プライム市場に株式を上場している。
 会社は、2014年5月27日にも第三者委員会報告書を公表している。その際は、会社の取締役が期中において仮払金の形で法人主要株主に資金提供を行うとともに、各四半期末において会社から代理店を経由し、又は会社の子会社から直接の短期融資に切り替えた形にして仮払金の形を解消し、迂回した資金提供を実行していたという事実が明らかになった。
 そして、2022年4月に明らかになった不祥事は、会社の元社員Aが、会社の取引先の担当者として知り合ったBと共謀し、遅くとも2007年3月頃から2021年10月までの間、Bが実質的に支配する4事業者より会社に対して、空調機器等のメンテナンス作業等を実施した旨の請求書又は納品書を発行して不正請求を行い、Aが、請求書又は納品書に正当な請求金額が記載されたものであるように装って支払処理を行って上記4事業者名義の銀行口座に振込入金させ、その結果、会社に少なくとも約268百万円の損害を被らせたという事案であった。
 この不正行為は実に14年8か月間という長きにわたって見過ごされ、発見の契機となったのは、関東信越国税局による税務調査であった。

(4)ピクセルカンパニーズ(株) 調査報告書公表日:2022年7月1日
 ピクセルカンパニーズ(以下「ピクセル社」という。)は、「受託システム開発」と「技術支援サービス」の二つの事業を柱として、「コンサルテーションサービス」や「パッケージソフトウェアの販売・カスタマイズ・導入サービス」といった事業を営む会社であり、東証スタンダード市場に株式を上場している。
 ピクセル社は、2017年1月31日にも第三者委員会報告書を公表している。その際は、連結子会社で商品の引渡しが完了していないにも関わらず売上を計上し、さらに、その架空売上に基づく架空の債権をファクタリングしていたことが明らかになった。
 2022年7月に明らかになった不祥事は、ピクセル社の代表取締役個人が、取締役会の承認を受けずにピクセル社を連帯保証人とする金銭消費貸借契約書を締結していたという事案であった。

(5)(株)TOKAIホールディングス 調査報告書公表日:2022年12月15日
 (株)TOKAIホールディングス(以下「TOKAI社」という。)は、石油やLPガスなどのエネルギー関連事業とケーブルテレビ、インターネット接続サービスなどを幅広く手掛ける企業グループであり、東証プライム市場に株式を上場している。
 TOKAI社は、2021年12月24日にも社内調査委員会の調査報告書を公表しており、1年足らずの間に2度も調査報告書が公表されるという残念な事態になってしまった。
 2021年の事案は、TOKAI社の元従業員(以下「行為者A」)が、行為者A自身が受注した大型太陽光発電設備工事・空調設備工事において、TOKAI社の下請業者に指示して実体のない工事代をTOKAI社に請求させ、自身の親族が代表を務める事業者を経由して不正な利益を得たというものであった。この不正行為は2014年2月から2021年7月まで行われ、被害総額は173百万円となった。
 また、さらに、TOKAI社の連結子会社であるC社の元従業員(以下「行為者B」)が、会計システムから出力される支払いデータの中に行為者B自身の銀行口座に対する振込データを追加し、送金することで不正な利益を得ていた。この不正行為は、2014年3月から2020年6月まで行われ、被害総額は368百万円であった。
 そして、2022年12月に明らかになった不祥事は、前代表取締役社長であるD氏による不適切な経費の使用である。
 特別調査委員会による調査報告書は180ページを超える大部であるが、社有車、会食、宿泊、ゴルフといった「よくある項目」に加えて、「コンパニオンとの混浴」「マッサージ代」「芸能人との交流」「歌舞伎の観劇」といった刺激的な見出しが数多く含まれていることから、一部のマスコミ等にも面白おかしく取り上げられ、お茶の間に格好の話題を提供した。
 マスコミの報道によると、D氏は高級官僚の出身で、10年ほど前から社長を務めていたようであるが、これらの報道による会社の信用失墜を考えると、現場で地道に汗水たらして働いている従業員の方々の心情は、察するに余りある。

(6)ルーデン・ホールディングス(株) 調査報告書公表日:2022年11月30日
 ルーデン・ホールディングス(以下「ルーデン社」という。)は、マンションの内装施工会社であり、東証グロース市場に株式を上場している。
 ルーデン社では、2018年12月のルーデンコイン(以下「RDC」という。)の販売により調達したと認識していた1700ビットコイン(以下「BTC」という。)が手元に確認できず、また、同BTCの調達方法は、投資家からの借入(消費貸借)だった可能性があり、かつ同BTCは既に投資家へ返却済である可能性があることが判明したため、外部調査委員会を設置して調査を行った。その結果、BTCについてはRDCの販売対価と認定するのは困難であり、BTCの流入があったかのように見せかけた可能性が高い(見せ金)という判断が下された。
 また、ルーデン社自身も、ICO(Initial Coin Offering:企業などが事業を立ち上げる際に集める資金と引き換えに「トークン」と呼ばれる独自の仮想通貨(暗号資産)を発行し、交換所に上場させることで投資家が売却益を得られる仕組み)自体は実施されていたが、BTCについては取得されていなかった可能性が高いと判断している。
 仮想通貨(暗号資産)は、よく知られているとおり無形資産の性質を持つ資産であり、将来大きく発展して利用される可能性を持つ一方で、価格の変動が極めて大きくかつ不安定であるという特徴がある。また、度重なる暗号資産の流出や消滅の事故、暗号資産の取引所であるFTX社の昨今の経営破綻などにも見られるように、大量の暗号資産の円滑かつ安全な流通を支えるインフラ基盤が十分に機能しているとは現状では言い難い。
 ルーデン社による2018年12月のICO(約7.6億円を調達。)はマスコミでも大きく取り上げられ、時代を先取りする革新的な資金調達としてもてはやされたが、今回の発表により、暗号資産の実在性の確認や外部からの検証の難しさ、というリスク・課題が改めて露呈する結果となった。
 暗号資産やトークン、ブロックチェーンといった先端技術が、「詐欺まがいの時代の徒花」で終わってしまうのか、あるいは大きな試練を乗り越えて今後も発展し続けていくのか、FTX社の破綻処理や責任の所在の追及等の件も含めて、今、暗号資産やその業界は大きな岐路に立たされているものと思われる。暗号資産の実在性の外部からの確認、検証技術の開発と確立が急務であろう。

終わりに

 本稿では、暗号資産が絡む不祥事であったルーデン・ホールディングスに加え、2度目の第三者委員会調査報告書の公表となった5社の事例を取り上げた。会計上の不祥事が発生した事情や再発を防げなかった理由等は様々であるが、共通する要因の最大のものは、TOKAIホールディングスの事例に象徴されるように、やはり経営トップのコンプライアンス意識の欠如や内部統制を軽視する姿勢であると思われる。内部統制を構築し、整備運用する責任を負うのは経営者自身であること、及び会社の役職員は経営トップの一挙手一投足を常に見ていること、そして、「組織はトップから腐る。」という点を改めて肝に銘じなければならないであろう。

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