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解説記事2018年09月17日 【特別解説】 経営者が行った判断と見積りの不確実性の発生要因に関する情報(2018年9月17日号・№755)

特別解説
経営者が行った判断と見積りの不確実性の発生要因に関する情報

 国際財務報告基準(IFRS)を作成する国際会計基準審議会(IASB)は、企業結合から始まり、金融商品、収益認識、リース、保険契約、さらには概念フレームワークと、ボリュームの大きい基準書等の作成にこれまで精力的に取り組んできたが、これらも一区切りし、開発された基準が現場で実際に適用される時期にさしかかっている。そしてIASBが現在最優先で取り組んでいるテーマは、「コミュニケーションの改善」である。その一部として「開示に関する取組み」も取り上げられており、成果物の1つとして、2017年3月30日にIASBからディスカッション・ペーパー「開示に関する取組み―開示原則」が公表された。IASBは当該ディスカッション・ペーパーにおいて、企業が会計方針を適用する際に、IAS第1号「財務諸表の表示」第122項及び第125項に記述されている、重要な判断及び/又は仮定をすることが要求される会計方針を、「財務諸表に含まれる情報を理解するために常に必要で、かつ、重要性のある項目、取引又は事象に関連する会計方針(カテゴリー1)」の1つとして、当該注記事項は開示すべきであるということを提案している。
 また、わが国で導入が間近となっている監査上の主要な検討事項(KAM)では、これまでの欧州の事例を見る限り、非流動資産の減損や税効果、引当金や収益認識等の会計上の見積りの監査に関する項目が監査報告書に記述されるケースが非常に多い。KAMは、企業が財務諸表において開示した情報を参照しつつ、監査人の観点から監査上の主要な事項を監査報告書に記載するものであるため、その実効性を担保するには、「経営者が会計方針を適用する過程で行った判断」及び「見積りの不確実性の発生要因」が財務諸表の注記として開示されることが必要になると考えられる。今回はこのような背景の下で、重要性が高まっていると考えられる、経営者が行った判断と見積りの不確実性の発生要因に関する情報について、IFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・公表した日本企業(以下、「IFRS任意適用日本企業」という。)の開示を紹介することとしたい。

今回調査対象とした企業  今回調査対象としたのは、2018年3月期までにIFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・開示したIFRS任意適用日本企業の156社である。

IAS第1号の規定  IAS第1号の第117項では、企業は重要な会計方針を開示しなければならないとされており、重要な会計方針は次のものから構成されるとされている。
(a)財務諸表を作成する際に使用した測定基礎
(b)財務諸表の理解に関連性のある使用したその他の会計方針
 企業が財務諸表を作成する際に使用した「測定基礎」とは、取得原価、現在価値、正味実現可能価額、公正価値又は回収可能価額のことを指しており、企業が財務諸表を作成する基礎が利用者の分析に大きく影響を与えるために、この情報を利用者に知らせることは重要であるとされている(第118項)。
 また、経営者は企業の会計方針を適用する過程で、見積りを伴う判断のほか、財務諸表に認識(=計上)する金額に大きく影響する可能性のある様々な判断を行うことから、企業は、重要な会計方針又は他の注記とともに、経営者が当該企業の会計方針を適用する過程で行った判断のうち、財務諸表に計上されている金額に最も重要な影響を与えているものを開示しなければならない(第122項)。
 資産及び負債の中には、その帳簿価額を算定する際に、不確実な将来の事象が報告期間の末日において当該資産又は負債に与える影響の見積りが必要となるものがある。例えば、有形固定資産の各種類の回収可能価額、技術的陳腐化が棚卸資産に与える影響、進行中の係争の将来の結果に左右される引当金、及び年金債務などの長期従業員給付債務等、直近に観察された市場価格が存在しない場合には、測定のために将来志向の見積りが必要となるものがあり、これらの見積りには、キャッシュ・フロー又は割引率に対するリスク調整、給与の将来の変動及び他のコストに影響を与える価格の将来の変動などの項目に関する仮定が必要となる(第126項)。このため企業は、報告期間の末日における、将来に関して行う仮定及び見積りの不確実性の他の主要な発生要因のうち、翌事業年度中に資産及び負債の帳簿価額に重要性のある修正を生じる重要なリスクがあるものに関する情報(その内容と、期末日現在の簿価)の開示も要求されている(第125項)。
 第125項に従って開示される仮定及びその他の見積りの不確実性の発生要因は、経営者の最も困難な、主観的又は複雑な判断が必要となる見積りに関連するものであるといえる。

財務諸表を作成する際に使用した測定基礎  IFRS任意適用日本企業は、基本的に取得原価に基づいて財務諸表を作成しており、一部の項目(金融商品、あるいは特定の金融商品等)について公正価値を利用している、というパターンがほとんどであった。金融商品や特定の金融商品等には、デリバティブ金融資産、純利益を通じて公正価値で測定する(FVTPL)金融資産やその他の包括利益を通じて公正価値で測定する(FVTOCI)金融資産が含まれている。
 「金融商品」、あるいは「特定の金融商品等」以外で、公正価値により評価しているという具体的な記述があった項目は、表1のとおりであった。

 また、表1のその他(5件)の内訳は、次のとおりであった。

見積り及び判断の使用  見積り及び判断を使用した項目として、多く記載されていたものを列挙すると、表3のとおりである。なお、各社の開示においては、それぞれの項目についての開示の最後に、関連する重要な会計方針の注記箇所が記載・参照されている。

 見積り及び判断を使用した項目として最も多く記載されていた非金融資産の減損について、コニカミノルタは、次のような開示を行った。
 減損テストを実施する際の減損の兆候となる主な要素としては、過去又は見込まれる営業成績に対しての著しい実績の悪化、取得した資産の用途の著しい変更もしくは戦略全体の変更、業界・経済トレンドの著しい悪化等があります。
 のれんについては、事業を行う地域及び事業の種類に基づいて識別された資産、資金生成単位又は資金生成単位グループに配分し、毎期及び減損の兆候を識別した時に、減損テストを行っております。
 減損テストにおける回収可能価額の算定においては、資産の耐用年数、将来キャッシュ・フロー、当該資産の固有のリスクを反映した割引率及び長期成長率等について一定の仮定を設定しております。これらの仮定は、経営者の最善の見積りと判断により決定しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果により影響を受ける可能性があり、見直しが必要となった場合、翌連結会計年度以降の連結財務諸表において認識する金額に重要な影響を与える可能性があります。回収可能価額の算定方法については「注記3 重要な会計方針(12)非金融資産の減損」に記載しております。
 表3で列挙した項目のほかに一定数の記載があった項目としては、金融資産や投資の減損(19件)、企業結合時の取得資産、引受負債の公正価値測定と見積り(17件)、営業債権等の回収可能性(14件)等があった。また、珍しい項目としては、機能通貨の判断(メタップス)、PCオンライン事業におけるゲームアイテムの利用期間(ネクソン)、石油、天然ガス及び鉱石埋蔵量の見積り(JXTGホールディングス)などが挙げられる。
 なお、JXTGホールディングスによる、「石油・天然ガス及び鉱石埋蔵量の見積り」に関する開示は次のとおりであった。
 石油・天然ガス及び金属資源に係る資産は生産単位ごとに、確定埋蔵量及び推定埋蔵量の合計に占める報告期間中の採掘量の割合にて生産高比例法により償却計算を行います。当該埋蔵量の見積りには品位、コモディティ価格、為替レート、生産費用、資本コストなど多くの不確実な仮定が含まれます。これらの仮定は、経営者の最善の見積りと判断により決定しますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、見直しが必要となった場合には、連結財務諸表に影響を与える可能性があります。
 次に、「重要な会計上の判断と見積り」において詳細な情報を開示したユニー・ファミリーマートホールディングス(以下「UFMホールディングス」という。)の有価証券報告書(2018年2月期)を題材として、開示の内容を紹介することとしたい。なお、UFMホールディングス社の開示には、表3の上位6項目がすべて含まれていた。

重要な会計上の判断及び見積りの開示(UFMホールディングス社)  UFMホールディングス社はまず、連結財務諸表上で認識する金額に重要な影響を与える会計方針の適用に際して行う判断に関する情報が、以下の注記に含まれているとしている。
・資産の減損に係る資金生成単位の決定(注記「17.減損損失」参照)
・のれんの資金生成単位グループへの配分(注記「17.減損損失」参照)
 さらに、翌連結会計年度において重要な修正をもたらすリスクのある、将来に関する仮定及び見積りの不確実性に関する情報として、次の7項目を開示している。
① 有形固定資産、投資不動産及び無形資産の耐用年数及び残存価額の見積り
② 有形固定資産、投資不動産、のれん及び無形資産並びに持分法で会計処理されている投資の減損
③ 繰延税金資産の回収可能性
④ 引当金の測定
⑤ 確定給付制度債務の測定
⑥ 金融商品の公正価値
⑦ 償却原価で測定される金融資産の減損
 以下、それぞれについて開示されている内容を紹介する(関連する注記への参照は省略)。
 ① 有形固定資産、投資不動産及び無形資産の耐用年数及び残存価額の見積り  有形固定資産、投資不動産及び無形資産の耐用年数は、予想される使用量、物理的自然減耗、技術的又は経済的陳腐化等を総合的に勘案して見積っております。また、残存価額は資産処分によって受領すると現時点で見込まれる、処分コスト控除後の価額を見積っております。これらは、将来の不確実な経済条件の変動等の結果により、減価償却額及び償却額に重要な修正を生じさせるリスクがあります。
 ② 有形固定資産、投資不動産、のれん及び無形資産並びに持分法で会計処理されている投資の減損  有形固定資産、投資不動産、のれん及び無形資産並びに持分法で会計処理されている投資に係る減損テストは、回収可能価額の算定について、当該資産又は資金生成単位の処分コスト控除後の公正価値算定上の仮定、又は使用価値算定のための当該資産又は資金生成単位の将来キャッシュ・フローの見積りや、割引率等の仮定など、多くの仮定、見積りのもとに実施されており、将来の不確実な経済条件の変動等の結果によって、減損損失額に重要な変動を与えるリスクがあります。
 ③ 繰延税金資産の回収可能性  法人所得税の算定に際しては、税法規定の解釈や過去の税務調査の経緯等、様々な要因について見積り及び判断が必要となります。そのため、法人所得税の計上額と、実際負担額が異なる可能性があります。また、繰延税金資産は、将来減算一時差異を利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で認識しておりますが、課税所得が生じる時期及び金額は、将来の不確実な経済条件の変動によって影響を受ける可能性があり、実際に生じた時期及び金額が見積りと異なった場合、翌連結会計年度以降において認識する金額に重要な変動を与えるリスクがあります。
 ④ 引当金の測定  当社グループは、資産除去債務及び利息返還損失引当金を計上しており、期末日におけるリスク及び不確実性を考慮に入れた、債務の決済に要する支出の最善の見積額を、負債に固有のリスクを反映させた税引前割引率で割引いた現在価値で測定しております。
 債務の決済に要する支出額は、将来の起こりうる結果を総合的に勘案して算定しておりますが、予想しえない事象の発生や状況の変化によって影響を受ける可能性があり、実際の支払額が見積りと異なった場合、あるいは、経済状況の変動等により支出見積額を割引く割引率に重要な変動があった場合、翌連結会計年度以降において認識する金額に重要な変動を与えるリスクがあります。
 ⑤ 確定給付制度債務の測定  確定給付制度債務の現在価値及び関連する勤務費用等は、数理計算上の仮定に基づいて算定されております。数理計算上の仮定には、割引率や昇給率等、様々な変数についての見積り及び判断が求められます。当社グループは、これらの変数を含む数理計算上の仮定の適切性について、外部の年金数理人からの助言を得ております。
 数理計算上の仮定は、経営者の最善の見積りと判断により決定しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果や関連法令の改正・公布によって影響を受ける可能性があり、見直しが必要となった場合、翌年度以降の連結財務諸表において認識する金額に重要な変動を与えるリスクがあります。
 ⑥ 金融商品の公正価値  当社グループは、特定の金融商品の公正価値を測定する際に、レベル3に分類された金融商品については、市場で観察可能ではないインプットを利用する評価技法を用いております。観察可能でないインプットは、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、見直しが必要となった場合、翌連結会計年度以降において認識する金額に重要な変動を与えるリスクがあります。
 ⑦ 償却原価で測定される金融資産の減損  当社グループは、償却原価で測定される金融資産について、期末日ごとに各金融資産に係る信用リスクが当初認識時点から著しく増加しているかどうかを評価し、12ヶ月又は全期間の予想信用損失を見積っております。予想信用損失の見積りは、債務不履行の可能性、信用状況回復の時期、発生損失額に関する将来の予測や、割引率等、多くの仮定、見積りのもとに実施されており、将来の不確実な経済条件の変動等の結果によって、減損損失額に重要な変動を与えるリスクがあります。

おわりに
 これまでわが国の会計基準においては、経営者が会計方針を適用する過程で行った判断や見積りの不確実性の発生要因に関する注記は、特に要求されてこなかった。しかし、今年に入って公表された「税効果会計に係る会計基準の一部改正(企業会計基準第28号)」では、評価性引当額の内訳に関する情報や税務上の繰越欠損金に関する情報、「収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)」では、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)の開示が新たに要求されるなど、少しずつではあるが、わが国においても会計上の見積りに関する開示が充実してきている。IFRSの後を追うようにして、日本基準で要求される開示は、今後も質量共に増えていくものと予想される。中でも不確実性が高い判断や見積りに関する情報は、財務諸表利用者のニーズや関心も高い。
 今回取り上げた経営者が行った判断と見積りの不確実性の発生要因に関する情報は、重要な判断と見積りが必要な項目を一覧で示した、いわば「目次」のようなものであるといえる。そこで概要をつかんだ上で、それぞれ参照されている注記(重要な会計方針)で詳細な情報を入手するというかたちで利用すれば、財務諸表の利用者は、効率よく求める情報を探し出すことができ、有用性が高いと考えられる。わが国においてもIAS第1号第122項、及び第125項と同様の開示を求めることは、十分に検討に値するであろう。

参考資料:
・第31回基準諮問会議資料 2017年11月13日
・意見募集「我が国の財務諸表の表示・開示に関する検討について」の公表について及び研究資料「我が国の財務諸表の表示・開示に関する調査・研究」2015年4月16日 日本公認会計士協会

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