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解説記事2018年10月08日 【ニュース特集】 個人事業主の借入金に係る債務免除益の所得区分で争い(2018年10月8日号・№758)

ニュース特集
裁判所、一時所得と認めて更正処分を一部取り消す
個人事業主の借入金に係る債務免除益の所得区分で争い

 事業(農業)や不動産賃貸業などを営む個人事業主(納税者)が受けた借入金に係る債務免除益の所得区分が問題となった税務訴訟で、所得税更正処分の一部を取り消す判決が下されていたことがわかった(東京地裁平成30年4月19日判決・確定済み)。裁判所は、課税当局が事業所得又は不動産所得に該当すると主張した債務免除益の一部を一時所得と判断した。また、本件で使途が明らかでない借入金は雑所得に該当するとした課税当局の主張を斥けたうえで、一時所得に該当するという判断を示した。本特集では、複数の事業を営む個人事業主が受けた借入金に係る債務免除益の所得区分に関する裁判所の判断内容をお伝えする。

納税者は一時所得として申告も、課税当局は事業・不動産・雑所得と主張
 今回紹介する裁判事例で問題となっていたのは、事業(農業)や不動産賃貸業などを営む個人事業主である納税者が借入金の債務免除を受けたことによる本件債務免除益の所得区分である(表1参照)。納税者は、農協に対する借入金の債務免除を受けたことによる本件債務免除益の全額を一時所得として申告していた。これに対し税務署は、本件債務免除益は借入金の目的に応じて事業所得、不動産所得及び一時所得に該当するとして所得税更正処分を行った。

 これを不服とした納税者は、所得税更正処分の取り消しを求める訴訟のなかで、債権者である農協との和解により生じた本件債務免除益は一時的かつ偶発的な所得であり、一時所得というほかないと主張した。
 一方で課税当局は、債務免除益の所得区分は債務免除益の直接の発生原因よりも、債務免除益を生み出す元となった債務の発生原因を重視すべきであるとした。
 そして本件について課税当局は、不動産等を購入して賃貸の用に供したのであればその不動産の購入等は賃貸業務の遂行と密接な関連性を有していることから、本件債務免除益のうち賃貸不動産取得借入金(借入金①及び②)に係る部分は不動産所得に該当すると主張した。また、農地及び農業用機械の取得は納税者の事業(農業)の遂行と密接な関連性を有することから、本件債務免除益のうち農地等取得借入金(借入金③及び④)に係る部分は納税者が従事する事業と関連する付随収入であるから事業所得に該当すると主張した。
更正処分の理由を差し替えて雑所得と主張  さらに課税当局は、賃貸不動産取得借入金及び農地等取得借入金以外の借入金はその使途が明らかでないことから、一時所得に該当するか否かを検討する必要があるとした。本件については、納税者が資金の借り入れ先である農協と別の農協との合併を左右し得る特別な立場にあったことなどを指摘。この点などを踏まえ課税当局は、本件債務免除益は別の農協との合併の足枷になっていた納税者の債務の整理(農協における不良債権の処理)を進める(納税者が合併に協力する)ことによる見返りというべきものであり、対価性を有するから一時所得の要件である非対価性要件を満たさないと指摘したうえで、本件債務免除益のうち賃貸不動産取得借入金及び農地等取得借入金以外の借入金に係る部分については、利子所得から譲渡所得のいずれにも該当せず、一時所得にも該当しないから雑所得に該当すると主張した。

裁判所、借入れの目的や債務免除に至った経緯等を総合考慮して判断
 裁判所はまず、借入金の債務免除益の所得区分の判断については、その借入れの目的やその債務免除に至った経緯等を総合的に考慮して判断するのが相当であるとした。そして債務免除益の不動産所得該当性については、不動産所得には不動産を使用収益させる対価として受け取る利益又はこれに代わる性質を有する利益にとどまらず、不動産貸付業務の遂行による副収入や付随収入等も含まれ、付随収入等には金銭のみならず金銭以外の物や経済的な利益も含まれると解釈した。
 本件について裁判所は、納税者が農協から借り入れた資金で農地を購入したうえで宅地に転用して賃貸用マンションの敷地として利用し始めたのは農地の購入から相当程度の期間(約5年後)があることを指摘。また、納税者が農協の依頼に応じて金銭を借り入れて農地を購入することもあったことを指摘した。
 これらの点を踏まえ裁判所は、借入金①が納税者の不動産貸付業務の遂行に関わりなく借り入れられたものであることが否定できず、その債務免除益が納税者の不動産貸付業務の遂行と関連性を有するとは認められないとしたうえで、借入金①に係る債務免除益は不動産所得に該当しないと判断した。
 一方で裁判所は、納税者が共同住宅の建築資金に充てる目的で借り入れた借入金②については、不動産貸付業務の運転資金的性質を有しているものと評価でき、借入金②に係る債務免除益も同様の性質を有するものと理解できるとしたうえで、納税者の不動産業務の遂行による収入ということができることから
不動産所得に該当すると判断している。  次に債務免除益の事業所得該当性について裁判所は、事業所得には事業の本来的な収入にとどまらず、事業の遂行による副収入や付随収入等も含まれると解釈した。
 そして本件については、納税者は農協から借り入れた資金で農地を購入しているものの、納税者が農協の依頼に応じて金銭を借り入れて農地を購入することもあったことも踏まえれば、借入金③は納税者の事業の遂行に関わりなく借り入れられたものであることが否定できないと指摘した。この点を踏まえ裁判所は、納税者が借入金③により取得した農地が事業(農業)の遂行とは関わりなく借り入れられた金銭により購入されたものであり、結果として事業(農業)の用に供されたにすぎない可能性がある以上、事業の遂行と関連性を有するということはできないとしたうえで、借入金③に係る債務免除益は事業所得に該当しないと判断した。
 一方で裁判所は、納税者が農業用機械の購入資金に充てた借入金④については、納税者が事業(農業)を営む者であることからすればその農業用機械の購入資金に係る借入金は事業の運転資金的性質を有するものであるとしたうえで、借入金④に係る債務免除益は納税者の事業の遂行による収入ということができることから事業所得に該当すると判断している。
課税当局の主張を斥けて「一時所得」と判断  最後に一時所得該当性について裁判所は、利子所得から譲渡所得以外の所得であることを前提として、①営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であること(非継続性要件)、②労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであること(非対価性要件)が必要であるとした。
 そして課税当局の主張(非対価性要件を満たさない旨)に対し裁判所は、納税者が農協の合併の可否に影響を及ぼし得る法的な権利を有していたことを認める証拠がないことなどを指摘。また、債務免除は別の農協との合併に対する納税者の協力への見返りという点ではなく、当時の状況に鑑みて農協が納税者に対する不良債権の処理として適切と判断した方法を採用した結果にすぎないと指摘した。
 以上の点を踏まえ裁判所は、本件債務免除益は非対価性要件を満たすと判断したうえで(なお、裁判所は本件債務免除益は非継続性要件も満たすと判断している)、本件債務免除益のうち不動産所得又は事業所得に該当しない部分は一時所得に該当すると結論付けた(表2参照)。

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