解説記事2022年12月12日 実務解説 令和4年分から適用される「雑所得を生ずべき業務」に係る改正(2022年12月12日号・№958)
実務解説
令和4年分から適用される「雑所得を生ずべき業務」に係る改正
税理士 松崎啓介
はじめに
シェアリングエコノミーという言葉を最近よく耳にするようになった。平成27年版通信白書によると、「シェアリングエコノミー」とは、典型的には個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがあるということである。貸し借りが成立するためには信頼関係の担保が必要であるが、そのためにソーシャルメディアの特性である情報交換に基づく緩やかなコミュニティの機能を活用することができるとされている。
また、シェアリングエコノミー協会のホームページによると、「シェアリングエコノミー」とは、インターネットを介して個人と個人・企業等の間でモノ・場所・技能などを売買・貸し借りする等の経済モデルであり、モノ、スペース、スキル、時間などあらゆる資産を共有する「シェア」の考えや消費スタイルが日に日に広がりを見せているとされている。
このように近年、シェアリングエコノミー等の新分野の経済活動が広がりを見せており、これらの新分野の経済活動はネットワーク上で行われ、①広域的・国際的な取引が比較的容易であること、②足が速いこと、③無店舗形態の取引やヒト・モノの移動を伴わない取引も存在するなど、外観上は取引の実態が分かりにくいことなどの特徴を持ち、税務の関係では、申告手続等に馴染みのない者も容易に参入が可能であることから、自ら所得を計算して、自発的な申告・納税を促すような環境を整備することが求められていたところである。
これらは、国内のみならず、国際的にも、適正課税の確保に向けた取組みや制度的対応の必要性が課題として挙げられている。
こうした中で、国税庁においては、課税上の取扱いに関する情報発信や課税上問題があると見込まれる納税者に対するお尋ね文書の送付などの行政指導の実施、厳正な調査の実施を行っているところであるが、こうした取組みを制度面からも整備する観点から、雑所得を生ずべき業務に係る申告手続等について、所得税法では、令和2年度税制改正において次の三つの改正が行われ、令和4年分から施行されている。
さらには、令和4年10月7日に所得税基本通達の一部改正が行われ、業務に係る雑所得の範囲の明確化などの改正が行われた。本稿では、これらの内容について解説するとともに、国税庁が公表した改正通達の「解説」も含めて、通達の求めているものを整理して述べてみたい。
なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。
新分野の経済活動や取引の事例
新分野の経済活動や取引の事例としては、例えば、デジタルコンテンツ、ネット通販・ネットオークション、暗号資産、ネット広告(アフィリエイト等)、シェアリングビジネス・サービスなどがある。
例えば暗号資産については、暗号資産を売却又は使用することにより生ずる利益については、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として、雑所得に区分され所得税の確定申告が必要となる。
Ⅰ 雑所得を生ずべき業務に係る所得税法の改正
(1)雑所得を生ずべき小規模な業務を行う者の収入及び費用の帰属時期の特例(いわゆる現金主義の特例)
雑所得を生ずべき業務を行う居住者で、その年の前々年分の雑所得を生ずべき業務に係る収入金額が300万円以下である場合には、簡便に所得金額の計算ができるように、いわゆる現金主義を採用することができることとなった。
新分野の経済活動は、サラリーマンが副業として行うケースも多く、毎年所得計算を行って確定申告する事業所得者等と異なり、記帳、所得金額の計算、確定申告の経験が浅い若しくは経験のない者が多い。しかしながら、このような副業等の所得による確定申告を要する者は増加しており、これらの者が簡便に所得金額の計算を行い確定申告ができるようにするため、「雑所得を生ずべき業務」についても、現金主義による所得計算ができることとされた。他方、無制限に現金主義の適用を可能とすれば所得の帰属年度を操作すること等により租税回避が可能となることから、適正公平な課税を確保するため、前々年分のその業務に係る収入金額が300万円以下である小規模な業務を行う者に限って本特例の適用ができることとされた(所法67②、所令196の2)。
(2)雑所得を生ずべき業務に係る雑所得を有する者に係る収支内訳書の確定申告書への添付義務
雑所得を生ずべき業務を行う居住者で、その年の前々年分のその業務に係る収入金額が1,000万円を超える場合には、納税者での適正な所得計算、課税当局での効率的な申告内容の確認ができるように、その者が確定申告書を提出する場合には、収支内訳書を確定申告書に添付しなければならないこととなった。
「雑所得を生ずべき業務」に係る雑所得については、確定申告書に収支内訳書を添付する義務はなかった。そこで、納税者において所得計算を適正に行うことができるようにするとともに、課税当局における申告内容の確認を効率的に行えるようにする観点から、収支内訳書の作成及び提出を求めることとされた。
ただし、作成に係る納税者の事務負担と課税当局における申告内容の確認を効率的に行うことの必要性とのバランスも踏まえて、添付義務の対象者は、雑所得を生ずべき業務を行う者の前々年分のその業務に係る収入金額が1,000万円を超えるものが、「雑所得を生ずべき業務」に係る収支内訳書を確定所得申告書に添付しなければならないこととされている(所法120⑥)。
(3)雑所得を生ずべき業務に係る雑所得を有する者の現金預金取引等関係書類の保存義務
雑所得を生ずべき業務を行う居住者等で、その年の前々年分のその業務に係る収入金額が300万円を超える場合には、5年間、その業務に係る「現金預金取引等関係書類」を保存しなければならないこととされた。
「雑所得を生ずべき業務」に係る雑所得について、従来、申告内容を証明する資料の保存義務は課せられていなかった。確定申告を行うに当たっては、所得計算の基となる領収書等の資料を自主的に保存し、その資料に基づいて所得計算を行い申告・納税することとしていた。しかしながら、新分野の経済活動が広がる中で適正課税の確保の要請が高まり、納税者の書類保存に係る負担と課税当局における所得金額の把握をより正確に行うことの必要性とのバランスも踏まえて、「雑所得を生ずべき業務」を行う居住者等で、その年の前々年分の雑所得を生ずべき業務に係る収入金額が300万円を超える者は、雑所得を生ずべき業務に係るその年の取引のうち総収入金額及び必要経費に関する事項を記載した「現金預金取引等関係書類」を保存しなければならないこととされた(所法232②)。
この「現金預金取引等関係書類」とは、納税者が雑所得を生ずべき業務に関して作成し、若しくは受領した請求書、領収書その他これらに類する書類又は自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものは、その写しのうち、現金の収受若しくは払出し又は預貯金の預入若しくは引出しに際して作成されたものをいう(所規102⑦)。
納税者は、現金預金取引等関係書類を整理して、その作成又は受領の日の属する年の翌年3月15日の翌日から5年間、その者の住所地等又は雑所得を生ずべき業務を行う場所等に保存しなければならない(所規102⑧)。
(4)電子帳簿保存法の適用
(3)の改正により現金預金取引等関係書類を保存しなければならない者は所得税の保存義務者となることから、電子取引の取引情報に係るデータ保存制度(電帳法第7条)の保存義務者に該当する。
この保存義務者が電子取引を行った場合には、その電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。
したがって、現金預金取引等関係書類に通常記載される事項の授受を電子取引により行った場合には、その電子データを保存しなければならない。
一方で、現金預金取引等関係書類以外の書類に通常記載される事項については、所得税法上保存義務は課されていないので、電子取引の取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項(電帳法2五))には該当しないものとして、その取引情報に係る電子データについては保存しないこととしても差し支えない。
ただし、その保存義務者が、その年において不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行った場合に、これらの業務に関して保存しなければならないこととされている書類に通常記載される事項については、もちろん保存義務が課される(所法232①)。
以上により、副業として行っている雑所得を生ずる活動について、電子メールやウェブサイト上等でやりとりを行っている場合には、令和4年から、その取引情報に係る電子データを保存しなければならなくなるので、注意が必要である。
なお、令和4年1月1日から令和5年12月31日までに行う電子取引については、プリントアウトして保存し、税務調査等の際に提示・提出できるようにしていれば、電子データを保存していなくても差し支えない、改正電子取引データ保存制度への円滑な移行のための宥恕措置が講じられている。
(5)「雑所得を生ずべき業務」の範囲の明確化の必要性
(1)から(3)までの改正により、「雑所得」を「雑所得を生ずべき業務に係る雑所得」と「雑所得を生ずべき業務に係る雑所得以外の雑所得」に区分し、前者については、今回の改正事項である現金主義の特例などの規定の対象となる者とされたが、この「雑所得を生ずべき業務」の範囲が法令上明確にされている訳ではなく、税務当局及び納税者の双方にとって、対象者が明確にできないことが考えられる。
また、働き方の多様化や副業等の解禁が進み、同じ内容の仕事を行っていても所得稼得形態の多様化により、事業所得か雑所得かの区分は異なり、例えば、事業所得として赤字で申告し、給与所得と損益通算を行う課税事例も多く散見されるようになり、事業所得と雑所得の区分による損益通算の差異を利用し、本来の差異を設けている制度の趣旨から逸脱した申告が行われている可能性もあることから、種々の要素の総合判断だけではなく、一定の形式基準を設けて、納税者の予測可能性も確保する必要があるといえよう。このような背景からⅡの所得税基本通達が改正されたものと考えられる。
Ⅱ 所得税基本通達の改正
令和4年10月7日に所得税基本通達の一部改正が行われた(課個2−21他)。
この通達改正の背景は、国税庁では、シェアリングエコノミー等の「新分野の経済活動に係る所得」や「副業に係る所得」について、適正申告を促すための環境づくりを行っているところ、これらの所得については、所得区分の判定が難しいといった課題があった。
この課題に対応するため、所得税基本通達を改正し、雑所得の範囲の明確化が行われ、令和4年分以後の所得税から適用されている。
税務関係の通達改正は、通常は法令改正に伴い、施行に関し必要な事項を定めるための通達改正であり、この場合にはパブリックコメントは不要とされている(行政手続法39④二、八)。これに該当せず通達を定めようとする場合には、改正案、資料をあらかじめ公示してパブリックコメントしなければならない(行政手続法39①)。
本通達改正は後者であり、令和4年8月にパブリックコメントに付され、7,059通の意見が提出された。
パブリックコメント時の通達改正案の概要は以下のとおり。
(1)その他雑所得の範囲の明確化
その他雑所得(公的年金等に係る雑所得及び業務に係る雑所得以外の雑所得をいう。)の範囲に、譲渡所得の基因とならない資産の譲渡から生ずる所得(営利を目的として継続的に行う当該資産の譲渡から生ずる所得及び山林の譲渡による所得を除く。)が含まれることを明確化する。
⇒これにより、譲渡所得には該当しない、暗号資産に関する取引により生ずる損益や外貨建預金の解約等により生ずる為替差損益のような「資産の値上がり益が生じないと認められる資産」については、原則「業務に係る雑所得」以外の雑所得に該当することが明らかにされたと考えられる。
(2)業務に係る雑所得の範囲の明確化
業務に係る雑所得の範囲に、営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得が含まれることを明確化する。
また、事業所得と業務に係る雑所得の判定について、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定すること、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証がない限り、業務に係る雑所得と取り扱うこととする。
これにより、雑所得の分類は、
① 公的年金等に係る雑所得
② 業務に係る雑所得(事業所得又は山林所得と認められるものを除く。)
③ その他雑所得(①と②以外の雑所得)
の三つに分類されることが明らかにされた。
パブリックコメント時の通達改正案
(その他雑所得の例示)【改正前】(雑所得の例示) 35 - 1 次に掲げるようなものに係る所得は、その他雑所得(公的年金等に係る雑所得及び業務に係る雑所得以外の雑所得をいう。)【改正前】「雑所得」に該当する。 (1)~(11)省 略 (12) 譲渡所得の基因とならない資産の譲渡から生ずる所得(営利を目的として 継続的に行う当該資産の譲渡から生ずる所得及び山林の譲渡による所得を除く。)【新設】 |
(業務に係る雑所得の例示) 【改正前】(事業から生じたと認められない所得で雑所得に該当するもの) 35-2 次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得【改正前】「事業から生じた」と認められるものを除き、業務に係る雑所得【改正前】「雑所得」に該当する。 (1)~(6)省 略 (7)営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得【改正前】「不動産の継続的売買による所得」 (8)省 略 (注)事業所得と業務に係る雑所得の判定は、その所得を得るための活動が、 社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するのであるが、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300 万円を超えない場合には、特に反証のない限り、業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない。【新設】 |
このパブリックコメントに対する意見の概要及びその意見に対する国税庁の考え方が公表されており、その主な内容を見ていくとともに筆者のコメントを述べることとする。
【意見】今回の通達は、従来の裁判例の考えと齟齬をきたすのではないか。増税ではないか等
≪国税庁≫今回の通達改正では、「その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかにより判定する」ことを原則としつつ、社会通念での判定で事業所得に該当しない場合を明らかにしたものです。したがって、事業所得又は業務に係る雑所得に対する従来からの考え方に変更を加えるものではありませんので、税負担額が変更されるものではないと考えています。
筆者コメント⇒今回の通達改正は、あくまでも従来の事業所得に関する判例の考え方を踏襲するものであるが、どのような場合に事業所得に該当しないか一定の形式基準を定めることにより、所得区分の判定を明確化し、円滑に申告納税できるように、納税環境を整えたものと解すべきであろう。
【意見】どのような所得が主たる所得に該当するのか不明確である。等
≪国税庁≫事業所得と業務に係る雑所得の所得区分の判定については、パブリックコメントにおける御意見を踏まえ、主たる所得かどうかで判定するという取扱いではなく、所得税法上、事業所得者には、帳簿書類の保存が義務づけられている点に鑑み、帳簿書類の保存の有無で所得区分を判定することとし、通達を別添のとおり修正いたしました。
この修正により、収入金額が300万円以下であっても、帳簿書類の保存があれば、原則として、事業所得に区分されることとなります。
筆者コメント⇒改正案では、その所得が主たる所得ではなく、かつ、収入が300万円を超えない場合には、原則、業務に係る雑所得と取り扱うということであったが、新分野の経済活動が広がりを見せる中、「主たる所得」で区分するのは判断基準が不明確であり、収入金額についても業種によって差が生じることから、基準として定めるのは如何なものかという趣旨の意見が出されたことを受け、35−2の注書きについて、通達案を修正している。代替案として帳簿書類の保存の有無を基準として所得区分を判定することとしたものであり、税務執行の現場が混乱しないように修正したとのことであろうが、令和4年分の確定申告から適用する通達であり、納税者等が混乱しないように、改正内容を短期間でしっかり周知していく必要があろう。
【意見】令和4年分の確定申告からの適用は遡及適用ではないか。等
≪国税庁≫今回の通達改正は、所得区分に関するものであり、所得区分は確定申告書の提出の際に判断するものであることから、遡及適用には当たらず、所得税法上、事業所得者には、記帳・帳簿書類の保存が義務付けられていることを踏まえれば、令和4年分の確定申告から適用したとしても、納税者に影響を及ぼすとは考えていません。
筆者コメント⇒10月の通達改正で、確定申告期には間に合ったということかも知れないが、国民全般に対して改正の趣旨・内容を理解してもらうには時間が足りないようにも思われる。また、申告手続等に馴染みのない者も新分野の経済活動には多数参入しており、そのような納税者が自ら所得区分を判断し、所得計算、申告・納税を行える環境を整備することが重要であろう。
これらのパブリックコメントに提出された意見を踏まえ、通達改正案35−2の(注)は上記のように変更された。
パブリックコメントからの変更点
(業務に係る雑所得の例示) 35 - 2 次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当する。 (1)~(8)省 略 (注)事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。 なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(資産(山林を除く。)の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得)に該当することに留意する。【新設案を修正】 |
上記の所基通35−2の(注)書きを分解して読み解くと次のようになる。
大原則として、事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定することとなる。
〇なお書きをかっこを飛ばして読むと
「なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(……)には、業務に係る雑所得(……)に該当することに留意する。」
筆者コメント⇒形式基準として、帳簿書類の保存がなければ、原則「業務に係る雑所得」に該当することを明らかにしている。
〇かっこ書きには何が書いてあるのか①
その所得に係る収入金額が300万円超で、かつ、事業所得と認められる事実がある場合は、なお書きの「帳簿書類の保存がない場合」に該当しないとしているので、「業務に係る雑所得」に該当しない。
筆者コメント⇒帳簿書類の保存がない場合でも、収入300万円超で、かつ、事業所得に該当する事実がある場合には、社会通念での判断により事業所得に区分されるかどうか判断するということであろう。
〇かっこ書きには何が書いてあるのか②
山林を除く資産の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得に該当する。
筆者コメント⇒帳簿書類の保存がない場合には、原則「業務に係る雑所得」に該当するが、その所得が資産の譲渡から生ずる所得である場合には、「業務に係る雑所得」ではなく、譲渡所得又はその他雑所得に該当することを明らかにしたものと考えられる。
これを図式化すると図表2のようになる。
所基通35−2について、国税庁ホームページにおいて「解説」が公表されている。この「解説」を筆者が個人的に要約してまとめたものを以下に述べる。
1.基本的な考え方
まず、大原則として、
① その所得を得るための活動が事業的規模である場合⇒事業所得
② その所得を得るための活動が事業的規模でない場合⇒業務に係る雑所得
に該当することとなる。
この、「その所得を得るための活動」が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかについては、これまでの裁判例の考え方に従って次により判定することとなる。
・ この社会通念による判定について、最判昭和56年4月24日では、「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」と判示している。
・ また、東京地判昭和48年7月18日では、「いわゆる事業にあたるかどうかは、結局、一般社会通念によって決めるほかないが、これを決めるにあたっては営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における企画遂行性の有無、その取引に費した精神的あるいは肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点が検討されるべきである」と判示している。
・ したがって、その所得を得るための活動が事業に該当するかどうかについて、社会通念によって判定する場合には、上記判決に示された諸点を総合勘案して判定することとなる。
2.帳簿書類を記録・保存している場合
その所得に係る取引を帳簿書類に記録し、かつ、記録した帳簿書類を保存している場合には、その所得を得る活動について、一般的に、営利性、継続性、企画遂行性を有し、社会通念での判定において、「事業所得」に区分される場合が多い。
しかしながら、帳簿書類を記録・保存している場合でも、次の①、②に掲げる場合には、事業と認められるか個別に判断する必要がある。
① その所得の収入金額が僅少と認められる場合
例えば、おおむね3年程度、収入が300万円以下で、主たる収入に対する割合が1割未満と認められる場合
② その所得を得る活動に営利性が認められない場合
例年赤字で、かつ、「赤字を解消するための取組」を実施していない場合
※「赤字を解消するための取組」とは、収入を増加させる、あるいは所得を黒字にするための営業活動等
3.帳簿書類の記録・保存はないが収入金額300万円超の規模の場合
帳簿書類を記録・保存していない場合でも、その所得を得るための活動が、収入金額300万円を超えるような規模で行っている場合には、帳簿書類の保存がない事実のみで、所得区分を判定せず、事業所得と認められる事実がある場合には、事業所得と取り扱うこととしている。
4.まとめ
一義的には、社会通念上事業と称するに至る程度で活動を行っているか否かで「事業所得」に該当するか、「業務に係る雑所得」に該当するか判断することとなるが、個々の事業者の活動状況を的確に把握して判断することは困難である。
そこで、帳簿書類を記録・保存している場合には「事業所得」に区分される場合が多いことから、逆に帳簿書類の保存がなければ、原則「業務に係る雑所得」に該当することを通達の注書きで定めている。
しかしながら、帳簿書類を記録・保存している場合でも3年程度収入が300万円以下で主たる収入に対する割合が1割未満などの収入金額が僅少と認められる場合や、赤字続き、赤字解消のための取組を行っていないような場合には、「事業」と認められるかどうか個別に判断を要することとされている。
一方で、帳簿書類を記録・保存してない場合でも収入300万円超のような規模で活動していれば、事業所得と認められる事実があるか確認して判断することが求められる。
実務上、収入金額僅少あるいは、例年赤字が続きながらも事業所得として区分し、給与所得等の他の主たる所得と損益通算しているものも散見されるところである。
従来から、事業所得と雑所得の判定は難しく、適正申告を促すためにも、その判断基準の明確化は、所得稼得形態の多様化により、より強く求められるところである。今回の通達改正は、その判断基準の明確化の観点から一歩踏み出したものと言えるだろうが、これまで述べたとおり、迅速、明快に判断することが難しい事例も多く存在するであろう。
事業所得か雑所得かで税負担に大きく差が出る場合もあり、適正な申告を行うためには、今回の通達改正の趣旨をよく理解し、事例に当てはめ、適切な判断を行うことが求められるであろう。
改正後の所得税基本通達35−1
(その他雑所得の例示) 35−1 次に掲げるようなものに係る所得は、その他雑所得(公的年金等に係る雑所得及び業務に係る雑所得以外の雑所得をいう。)に該当する。 (1)法人の役員等の勤務先預け金の利子で利子所得とされないもの (2)いわゆる学校債、組合債等の利子 (3)定期積金に係る契約又は銀行法第2条第4項《定義等》の契約に基づくいわゆる給付ほてん金 (4)通則法第58条第1項《還付加算金》又は地方税法第17条の4第1項《還付加算金》に規定する還付加算金 (5)土地収用法第90条の3第1項第3号《加算金の裁決》に規定する加算金及び同法第90条の4《過怠金の裁決》に規定する過怠金 (6)人格のない社団等の構成員がその構成員たる資格において当該人格のない社団等から受ける収益の分配金(いわゆる清算分配金及び脱退により受ける持分の払戻金を除く。) (7)法人の株主等がその株主等である地位に基づき当該法人から受ける経済的な利益で、24−2により配当所得とされないもの (8)令第183条第1項((生命保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算上控除する保険料等))、令第184条第1項((損害保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算上控除する保険料等))、令第185条((相続等に係る生命保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算))及び令第186条((相続等に係る損害保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算))の規定の適用を受ける年金 (9)役務の提供の対価が給与等とされる者が支払を受ける法第204条第1項第7号《源泉徴収義務》に掲げる契約金 (10)就職に伴う転居のための旅行の費用として支払を受ける金銭等のうち、その旅行に通常必要であると認められる範囲を超えるもの (11)役員又は使用人が自己の職務に関連して使用者の取引先等からの贈与等により取得する金品 (12)譲渡所得の基因とならない資産の譲渡から生ずる所得(営利を目的として継続的に行う当該資産の譲渡から生ずる所得及び山林の譲渡による所得を除く。) |
改正後の所得税基本通達35−2
(業務に係る雑所得の例示) 35−2 次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当する。 (1)動産(法第26条第1項《不動産所得》に規定する船舶及び航空機を除く。)の貸付けによる所得 (2)工業所有権の使用料(専用実施権の設定等により一時に受ける対価を含む。)に係る所得 (3)温泉を利用する権利の設定による所得 (4)原稿、さし絵、作曲、レコードの吹き込み若しくはデザインの報酬、放送謝金、著作権の使用料又は講演料等に係る所得 (5)採石権、鉱業権の貸付けによる所得 (6)金銭の貸付けによる所得 (7)営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得 (8)保有期間が5年以内の山林の伐採又は譲渡による所得 (注)事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。 なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(資産(山林を除く。)の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得)に該当することに留意する。 |
松崎啓介 まつざき けいすけ
昭和59年〜平成20年 財務省主税局にて税法の企画立案に従事(電帳法・通則法規等)。平成20年 大月税務署長、平成22年〜平成28年 東京国税局総務部企画課長、課税第一部審理課長、個人課税課長等を歴任。平成29年 国税庁監督評価官室長、平成30年 仙台国税局総務部長、令和元年 金沢国税局長、令和2年8月 税理士登録。主な著書に「コンメンタール国税通則法」(第一法規)、「もっとよくわかる電子帳簿保存法がこう変わる!」(税務研究会)など、著書多数。各種セミナーで講演を実施。
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