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解説記事2019年02月11日 【SCOPE】 会計帳簿等の閲覧謄写請求をめぐる最近の裁判事例(2019年2月11日号・№774)

対象範囲や請求の理由の存否が問題に
会計帳簿等の閲覧謄写請求をめぐる最近の裁判事例

 株主と企業との間のトラブルなどにより、株主が企業に対して会社法の規定に基づき会計帳簿等の閲覧謄写を請求する訴訟は少なくない。会計帳簿等の閲覧謄写請求は、大企業よりも、中小企業に対してなされるケースが数多くみられる。スコープでは、会計帳簿等の閲覧謄写請求が問題となった裁判事例を2つ紹介する。最初に紹介する事例は、会計帳簿等の閲覧謄写請求の対象に税務申告書及び月次試算表が含まれるか否かが問題となったもの。そして次に紹介する事例は、子会社への委託料名目での金銭の支払を調査する目的でなされた親会社に対する閲覧謄写請求に「請求する理由」があるか否かが問題となったものである。

税務申告書及び月次試算表は閲覧謄写請求の対象外と判断
 最初に紹介する事例は、「会計帳簿又はこれに関する資料」(会社法433①)の範囲に税務申告書及び月次試算表が含まれるか否かが問題となったものである。この点に関し原告株主(被告会社の元代表取締役)は、保有する被告会社発行株式の全部の売却を検討していることから、最新の情報をもとに被告会社発行株式の評価額を把握する必要があると指摘したうえで、「会計帳簿又はこれに関する資料」は会社の経理の状況を示す一切の帳簿資料をいうと解すべきであることから、被告会社の税務申告書及び月次試算表は閲覧謄写請求の対象になるという主張を展開していた。これに対し被告会社は、税務申告書及び月次試算表は閲覧謄写の対象にはならないと反論した。
 裁判所はまず、会社法433条1項一号所定の「会計帳簿」とは一定時期における営業上の財産及びその価額並びに取引その他営業上の財産に影響を及ぼすべき事項を記入する帳簿すなわち総勘定元帳、日記帳、仕訳帳及び補助簿等を意味し、「これに関する資料」とはかかる会計の帳簿を作成する材料となった書類その他会計の帳簿を実質的に補充する書類を意味するものと解するのが相当であるとした。原告株主の主張(会社の経理の状況を示す一切の帳簿資料をいうと解すべき旨)に対し裁判所は、企業秘密の保護の必要性及び株式会社の業務及び財産の状況を調査する制度として業務検査役制度が法定されていること(会社法358①)などに鑑みれば、採用することは困難であるとした。
 そして裁判所は、一般に税務申告書は損益計算書及び総勘定元帳に基づき作成されるものであり、月次試算表は仕訳帳から総勘定元帳の各勘定口座への転記が正確に行われているかを検証するために作成される集計表であることからすれば、税務申告書及び月次試算表は総勘定元帳、日記帳、仕訳帳及び補助簿等には当たらないと判断。また、これら会計の帳簿を作成する材料となった書類その他会計の帳簿を実質的に補充する書類に当たるともいえないと判断したうえで、税務申告書及び月次試算表は「会計帳簿又はこれに関する資料」(会社法433①)には当たらないと結論付けた(東京地裁平成30年10月22日判決)。

子会社への支払、具体的内容が明らかでないことから調査の必要性を認める
 次に紹介する事例は、会計帳簿等の閲覧謄写を請求する理由(会社法433①柱書)の存否が問題となったものである。この点に関し原告株主は、被告会社からその子会社に対して委託料名目で年額740万円程度の支払いがなされ、ほぼ同額が子会社の代表取締役(被告会社の代表取締役である)に役員報酬として支払われているという一連の金銭の流れを問題視したうえで、本来被告会社に計上される収益の一部が子会社に計上されている可能性を考慮し、これらの事情について調査をして結果によっては取締役責任追及の訴えを提起すべく会計帳簿等の閲覧謄写の請求をしているのであるから閲覧謄写を請求する理由があると主張していた。これに対し被告会社は、被告会社の子会社は100%子会社であることから、被告会社とその子会社との間の取引については利害の対立は起こり得ないとして、被告会社からその子会社への財産移転を理由として取締役の責任追及を行うべく被告会社の会計帳簿等の閲覧謄写請求を行うことは理由がないと反論した。
 裁判所は、子会社の総勘定元帳によれば、子会社は被告会社から支払われる委託料を売上高として月額60万円ないし62万円計上しており、子会社の代表取締役に対して役員報酬として月額60万円を支払っている点を指摘。また、本件では被告会社の会計帳簿等は証拠等として提出されておらず、子会社に関しても総勘定元帳以外の会計帳簿等は証拠等として提出されていないことから、被告会社からその子会社への委託料名目の支払について具体的内容は客観的に明らかではないと指摘した。
 以上の点を踏まえ裁判所は、被告会社からその子会社への委託料名目での支払について、委託に係る業務の内容や対価の相当性を調査する必要性があると認められると判断。会計帳簿等(ただし、そのうち被告会社とその子会社との間の取引に関するものに限る)について調査のうえ結果によっては取締役の責任を追及する旨の原告株主の掲げる理由は「当該請求の理由」(会社法433①)として欠けるところがないと結論付けた(東京地裁平成30年7月30日判決)。

会社法第433条(会計帳簿の閲覧等の請求)  総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く)の100分の3以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

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