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解説記事2019年03月18日 【特別解説】 国際会計基準と解釈指針(2019年3月18日号・№779)

特別解説
国際会計基準と解釈指針

はじめに

 2017年5月、国際財務報告基準(IFRS)を開発する国際会計基準審議会(IASB)は、IFRS第17号「保険契約」を公表した。リーマン・ショックや金融危機以来、金融商品、連結、収益認識、リース、保険契約と大型の基準書が立て続けに開発・公表されてきたが、おそらく、次の「IFRS第18号」が公表されるまでには、しばらく間が空くものと思われる。これからの数年間は、これまで矢継ぎ早に公表された会計基準書の円滑な適用に向けて注力する期間になる可能性が高い。IASBの前身であるIASC(国際会計基準委員会)が1973年6月にロンドンで設立されて以来、45年が経過したが、これまでに会計基準書が58本、解釈指針が54本開発されてきた。本稿では、すでに廃止されたものも含めてそれらをあらためて整理し、これまでの流れを追ってみたい。

国際会計基準(IAS)と国際財務報告基準(IFRS)
 世の中で「国際会計基準」、あるいは「IFRS」と言われている会計基準書のセットは、次のものから構成されている(表1を参照)。

 これらの基準書と解釈指針は総称としてIFRS、または国際会計基準と呼ばれることが多いが、もう少し細かくいうと、その設定された時期によって名称が異なる。これらの名称の違いは、基準書や解釈指針の設定の時期と設定主体に起因するものであり、効力の違いや優先順位があるわけではない。今後作成される基準書はIFRS、解釈指針はIFRICとなり、IASとSICは、これ以上は増えないという関係にある。

国際会計基準(IAS)と同解釈指針(SIC)
 国際会計基準審議会(IASB)の前身である国際会計基準委員会(IASC)が公表した国際会計基準(IAS)は第1号から第41号まであり、それらを一覧にすると表2のとおりである。
 IAS第1号と第2号は現在も「現役」の基準書として使用されているが、IAS第3号~IAS第6号、あるいはIAS第13号あたりは非常に短命な基準書であったため、ほとんどなじみがないと思われる。特に初期のころのIASにとっては、比較可能性が大きなテーマであったため、IASの番号が若い基準書には、財務諸表の表示方法や注記による開示方法等を定めたものが多い(IAS第1号、5号、7号、8号、15号など)。そして、IAS第16号以降は認識、測定に関する基準書が増え始め、それらの多くは、改訂を重ねつつも、今現在も現役の基準書として利用されている。
 2019年1月1日現在で、国際会計基準(IAS)は26本がまだ適用されており、IFRSへの置換え等によって廃止された基準書は15本(IAS第17号は廃止としてカウント)となっている。
 次に、IASCの解釈指針委員会(SIC)が作成した解釈指針書は、これまでに31本が公表されており、それらを一覧にすると表3のとおりである。
 SIC解釈指針は、これまでに開発された31本(第33号まであるが、第4号と第26号は欠番)のうち、現在も現役なのは、SIC第7号、第10号、第25号、第29号、及び第32号のわずか5本である。
 現在まだ生き残っている最も古い解釈指針であるSIC第7号「ユーロの導入」は、1998年5月に公表されたが、その翌年の1999年1月1日からユーロが通貨として欧州各国に導入されている。SIC第7号が取扱う論点は、「欧州連合加盟国の国内通貨からユーロへの切り替えに対するIASの適用」であり、まさに欧州の通貨統合の歴史の証人といえる解釈指針である。

国際財務報告基準(IFRS)と同解釈指針(IFRIC)
 国際会計基準審議会(IASB)が2001年以降に公表した国際財務報告基準(IFRS)は第1号から第17号まであり、それらを一覧にすると表4のとおりである。

 これまでの実務を容認した暫定的な基準書の位置付けであったIFRS第4号「保険契約」が、IFRS第17号の適用とともに間もなく廃止されるのを除き、全ての基準書がまだ「現役」である。
 IASBが発足し、21世紀に入ると、欧州の諸国を中心に、世界中の国々が自国の会計基準からIFRSへの乗り換えを始めた。IASBが設定した最初の基準書が「IFRSの初度適用」という事実がそのような動きを象徴しているであろう。IASBは、欧州以外の国も含む、これらの国々の声に耳を傾けるとともに、様々な免除・特例措置等を用意することによってIFRSの使い勝手を向上させて、世界中の国々に対してIFRSの適用を働き掛けていった。そしてその一方で、IFRSと並び立つ会計基準であった米国会計基準を設定している米国財務会計基準審議会(FASB)と共同プロジェクトを開始し、米国会計基準とIFRSとのコンバージェンス(収斂)に取り組むことになる。その取り組みの成果の第一号として、IFRS第3号「企業結合」が2004年に公表された。その後もIASBは様々なテーマで米国FASBとの共同プロジェクトを推進し、金融商品やリースでは歩み寄れない部分が一部に出たものの、収益認識では、紆余曲折の後、米国会計基準とほぼ同一の会計基準(IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」)の作成、公表にこぎつけた。
 IFRSというと、「原則主義」が代名詞であり、細則主義で基準書のボリュームが膨大な米国会計基準とよく対比される。IFRSがまだ「IAS」であった20世紀の基準書については確かにそのような傾向があったが、IFRSになってからは基準書のボリュームが増え、米国会計基準と同程度とまでは言えないにしても、「原則主義」とは必ずしも言えなくなってきている。
 IASとIFRSの主要な基準書のボリュームを比較すると(基準書本文と結論の根拠、適用指針や設例等の総合計)、表5のとおりである。

 最近公表されるIFRSは、基準書が公表されるまでの議論の過程を説明した「結論の根拠」や実務への適用を支援するガイダンスや設例等の記述が大変充実しており、規則が増えたことよりもむしろこの点が、基準書のボリュームが増加する大きな要因になっている。
 次に、IFRS解釈指針委員会(IFRS-IC)が公表した解釈指針はこれまでに23本あり、それらを一覧にすると表6のとおりである。

 IFRS解釈指針(IFRIC)は開発が始まってからまだ日が浅いが、新しい基準書が開発される場合、関連する解釈指針はその中に織り込まれるケースが多いため、23本のうち、既に8本が廃止されている。また、IFRIC第3号は、2005年1月よりEU排出権取引制度が開始されたことを契機として2004年12月に公表されたが、公表後わずか半年で廃止されている。
 解釈指針は、外貨建取引と前払・前受対価のような汎用性が高いものから、露天掘り鉱山の生産フェーズにおける剥土コストのように、極めて個別性が強い論点まで様々であり、IFRSの適用が欧州諸国のみならず、世界中の国々にまで広がってきていることが伺える。

終わりに
 20世紀から21世紀への変わり目のタイミングで行われた欧州市場の統合や共通通貨ユーロの導入、さらには2005年からの欧州企業へのIFRSの導入(会計基準の統一)は大きな社会実験であった。それから間もなく15年が経とうとしているが、様々な紆余曲折がありつつも、現在IFRSの適用を強制又は許容する国は120か国を超えると言われている。当初は、IFRSを適用する国々は欧州各国や英連邦の国々をはじめとする、欧州の各国を宗主国とする国々が中心であったが、最近は東南アジアやアフリカ、中近東の諸国など、様々な地域の、多様なバックグラウンドを持つ国々がIFRSを受け入れ、適用している。我が国も、欧州諸国の企業によるIFRS適用から5年遅れて、2010年3月期からIFRSの任意適用を開始したが、スタートから約9年で適用企業数が間もなく200社に届こうとしている。これまでにIASCとIASBが公表した基準や解釈指針を一覧にしてみると、20世紀の終わりに欧州諸国が受け入れを表明するまでは「誰も使わない基準書」であった国際会計基準(IAS)が、最初はよちよち歩きながらも次第にその地位を確立し、試行錯誤を続けながら、時代の流れにもうまく乗って、世界標準へと歩みを進めてきた様子を、見て取ることができる。

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