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解説記事2019年03月25日 【解説】 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正(2019年3月25日号・№780)

解説
企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
 金融庁企画市場局 企業開示課 開示企画調整官  八木原栄二
 金融庁企画市場局 企業開示課 課長補佐     岡村健史
 金融庁企画市場局 企業開示課 課長補佐     堀内 隼
 金融庁企画市場局 企業開示課 開示企画第二係長 片岡素香

Ⅰ はじめに

 平成31年1月31日、「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(平成31年内閣府令第3号)が公布され、同日から施行された(以下「本改正」という。)。
 本改正は、平成30年6月28日に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告―資本市場における好循環の実現に向けて―」(以下「DWG報告」という。)の提言を踏まえたものである。
 本稿では、本改正について、パブリックコメントに対する金融庁の考え方なども踏まえて解説することとしたい。なお、意見にわたる部分については、筆者らの個人的見解であることをあらかじめ申し添えておく。

Ⅱ 本改正の経緯
 企業や投資家を取り巻く経済環境が大きく変化する中、資本市場の機能の発揮を通じ、我が国全体の最適な資金フローを実現し、企業価値の向上及びその果実の家計への還元につなげるという好循環を実現することが求められている。
 企業情報の開示は、投資家の投資判断の基礎となる情報を提供することを通じて、資本市場における効率的な資源配分を実現するための基本的インフラであり、投資判断に必要とされる情報を十分かつ正確に、また適時に分かりやすく提供することが求められる。
 我が国の企業情報の開示がこのような役割を十分に果たしていくとの観点から、金融庁に設置された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(座長・神田秀樹学習院大学大学院法務研究科教授)では、平成29年12月より、計8回にわたり、有価証券報告書における開示を念頭に、その他の開示(会社法開示、上場規則、任意開示等)との関係にも配意しつつ、企業情報の開示・提供のあり方について、検討及び審議を行った(脚注1)。
 これらの検討及び審議を踏まえ、同ワーキング・グループにおいてとりまとめられたDWG報告が平成30年6月28日に公表された。DWG報告の主なポイントは図表1のとおりである。

 DWG報告を踏まえた金融庁の取組みとして、①ルールへの形式的な対応に留まらない開示の充実に向けた企業の取組みを促すため、プリンシプルベースのガイダンスの策定(脚注2)、②開示内容や開示への取り組み方についてのベストプラクティスの収集、③開示内容について具体的に定める内閣府令の改正があるが、本稿は③の取組みに関するものである。

Ⅲ 本改正の内容

1 本改正の全体像
 本改正は、DWG報告において、「財務情報及び記述情報の充実」、「建設的な対話の促進に向けたガバナンス情報の提供」、「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組み」に向けて、適切な制度整備を行うべきと提言されたことを踏まえ、企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正するものである。本改正の概略は図表2のとおりである。


2 「財務情報」及び「記述情報(非財務情報)」の充実
(1)基本的な考え方
 財務情報及び記述情報(脚注3)の開示は、投資家による適切な投資判断を可能とし、投資家と企業の建設的な対話を促進することにより、企業の経営の質を高め、企業が持続的に企業価値を向上させる観点から重要である。
 このうち、記述情報は、企業の財務状況とその変化、事業の結果を理解するために必要な情報であり、①投資家が経営者の視点から企業を理解するための情報を提供し、②財務情報全体を分析するための文脈を提供するとともに、③企業収益やキャッシュ・フローの性質やそれらを生み出す基盤についての情報提供を通じ、将来の業績の確度を判断する上で重要とされている。このため、投資判断に必要と考えられる記述情報が、有価証券報告書において適切に開示されることが重要である。
 このような観点を踏まえ、本改正では、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(以下、「MD&A」という。)」について、規定の見直しが行われた。
(2)経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
 ⅰ 背景
 経営方針については、従来決算短信に記載されていたが、中長期的な投資を行う投資家がその投資姿勢に適合する企業であるかを判断する上で有用な情報であることから、平成29年3月31日以後に終了する事業年度から、有価証券報告書の「経営方針・経営戦略等」において開示することが求められた。しかしながら、日本企業の経営戦略に関する開示は、全体としてみると、企業の中長期的なビジョンに関する具体的な記載が乏しい、MD&Aやリスク情報との関連付けがない等の企業が相当程度みられるとの指摘がある。
 こうした指摘を踏まえ、DWG報告では、経営方針、経営環境及び対処すべき課題等の開示を行うに当たっては、取締役・経営陣が積極的に自らコミットしてその見解を示すことが必要であり、投資家が適切に理解することができるよう経営戦略の実施状況や今後の課題もしっかりと示しながら、MD&AやKPI、リスク情報とも関連付けて、より具体的で充実した説明がなされるべきと提言された。
 具体的には、企業構造、事業を行っている市場、市場との関係性とも関連付けながら企業の事業計画・方針を明確に説明し、経営戦略が企業の目的を達成する上で適切であるかの判断や、企業の成長、業績、財政状態、将来の見込みの評価に資するような情報(脚注4)が提供されるようにすべきとされた。
 ⅱ 主な改正点  本改正では、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」で記載が求められる経営方針・経営戦略等の記載に当たって、企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等といった経営環境についての経営者の認識の説明を含めた上で、事業の内容と関連付けた記載を求めることとした。
(3)事業等のリスク
 ⅰ 背景
 リスク情報の開示については、全体としてみると、一般的なリスクの羅列になっている記載が多く、外部環境の変化にかかわらず数年間記載に変化がない開示例も多いほか、経営戦略やMD&Aとリスクの関係が明確でなく、投資判断に影響を与えるリスクが読み取りにくいとの指摘がある。また、投資判断に当たっては、企業固有のリスク、リスクが顕在化した場合の影響度、リスクへの対応策等の開示が重要との指摘がある。
 こうした指摘を踏まえ、DWG報告では、我が国においても、経営者視点からみたリスクの重要度の順に、発生可能性や時期、事業に与える影響・リスクへの対応策等を含め、企業固有の事情に応じたより実効的なリスク情報の開示を促していく必要があると提言された。
 ⅱ 主な改正点  本改正では、経営者が経営成績等の状況に重要な影響を与えると認識している主要なリスクについて、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策(脚注5)を記載するなど、具体的に記載することを求めることとした。また、記載に当たっては、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載することが求められている。
 パブリックコメントに対する金融庁の考え方では、事業等のリスクの記載は、将来の不確実な全ての事象に関する正確な予想の提供を求めるものではないとの考えが示された上で、事業等のリスクの記載が虚偽記載に該当するかどうかは個別に判断すべきと考えられるが、提出日現在において、経営者が企業の経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて、一般に合理的と考えられる範囲で具体的な説明がされていた場合、提出後に事情が変化したことをもって虚偽記載の責任を問われるものではないと考えられるとされている。一方、提出日現在において、経営者が企業の経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて敢えて記載をしなかった場合、虚偽記載に該当することがあり得るとされている。
(4)経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)
 ⅰ 背景
 MD&Aの開示については、平成28年4月に公表された「ディスクロージャーワーキング・グループ報告―建設的な対話の促進に向けて―」において、経営者の視点による十分な分析・検討がなされていない等の指摘がなされたことを踏まえ、平成30年1月、経営成績等に重要な影響を与えた要因についての経営者視点による認識及び分析や、経営者が経営方針・経営戦略等の中長期的な目標に照らして経営成績等をどのように分析・評価しているかの記載を求める内閣府令の改正が行われた。
 こうした制度整備が進む一方、我が国のMD&Aの開示については、全体としてみると、諸外国における開示と比して、計数情報をそのまま記述しただけの記載や、ボイラープレート化した記載が多く、更なる取組みが必要であるとの指摘がある。
 また、DWG報告では、重要な会計上の見積りや見積りに用いた仮定は、経営判断上の重要性や、見積り要因が企業業績に予期せぬインパクトを与えるリスクを踏まえると、経営陣の関与の下、充実した開示が行われるべきであると提言された。
 ⅱ 主な改正点  本改正では、MD&Aの記載に当たって、経営方針・経営戦略等の内容のほか、他の記載項目の内容と関連付けて記載すべきであることを明確化した。これにより、計数情報をそのまま記述しただけの記載や、ボイラープレート化した記載ではなく、投資家の企業に対する理解を深めるため、経営者視点からの情報の提供がなされることが期待される。
 さらに、キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報の記載について、資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向についての経営者の認識を含めて記載するなど、具体的に、かつ、分かりやすく記載することが求められた。
 パブリックコメントに対する金融庁の考え方では、キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容として、キャッシュ・フロー計算書の「現金及び現金同等物」に関する経営者の視点による分析・検討内容を含めることも求められているとの考えや、資金需要の動向についての経営者の認識の説明に当たっては、企業が得た資金のうち、どの程度を成長投資、手許資金、株主還元とするかについて、経営者の考え方を記載することが有用であるとの考えが示されている。
 また、本改正では、会計上の見積りや当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、会計方針を補足する情報の記載を求めることとした。

3 建設的な対話の促進に向けたガバナンス情報の提供
(1)基本的な考え方
 資本市場の機能を強化し、国民の安定的な資産形成を実現する観点から、政府におけるコーポレートガバナンス改革が進められている中、投資家と企業との対話をより建設的で実効的なものとしていく観点から、より充実したガバナンス情報が提供されるとともに、提供方法が改善されることが重要である。本改正では、役員報酬や政策保有株式等のコーポレートガバナンスに関する情報の提供を拡充することについて、規定の見直しが行われた。
(2)役員報酬に係る情報
 ⅰ 背景
 近年、上場企業においては、企業価値の向上に向けて経営陣にインセンティブを付与するため、業績連動報酬の導入が進んでいる。報酬体系が企業価値の向上に向けた経営陣の適切なインセンティブとして十分機能しているか否かは、企業の中長期的な成長期待を判断する要素の1つとして、投資判断や対話において重視されている。
 しかしながら、現在の我が国企業の役員報酬の開示については、「固定報酬と業績連動報酬の構成割合や、業績連動報酬の額の決定要因等、報酬プログラムの基本的内容が分かりづらい」、「企業戦略の達成の確度を計る観点から必要な経営戦略の達成度と報酬のつながりが、報酬決定の際のKPIを含めて十分に説明されていない」などの指摘がある。
 こうした指摘を踏まえ、DWG報告では、我が国においても、経営陣の報酬内容・報酬体系と経営戦略や中長期的な企業価値向上との結び付きについて検証できるようにすべき、実際の報酬が経営陣のインセンティブとして機能しているかを確認できるようにすべき、報酬決定プロセスの客観性・透明性のチェックを可能とすべきと提言された。
 ⅱ 主な改正点  本改正では、以下の記載を新たに求める改正を行った(脚注6)。
① 役員報酬の決定・支給の方法やこれらに関する考え方の記載、業績連動報酬(脚注7)と業績連動報酬以外の報酬等の支給割合の決定方針の内容、業績連動報酬の指標、当該指標を選択した理由、当該業績連動報酬の額の決定方法、役職ごとの支給額についての考え方を定めている場合にはその内容の記載
 これらの開示については、経営陣の報酬内容・報酬体系と経営戦略や中長期的な企業価値向上との結び付きを検証できるようにするため、記載を求めることとした。
② 役員報酬に関する株主総会の決議年月日や決議内容
 これらの開示については、役員報酬の決定・支給の方法やこれらに関する考え方に関連する事項として記載を求めることとした。
③ 業績連動報酬に係る指標の目標及び実績
 これらの開示については、実際の報酬が報酬プログラムに沿ったものになっているか、経営陣のインセンティブとして実際に機能しているかを確認できるようにするため、記載を求めることとした。
④ 役員報酬の額又はその算定方法の決定に関する方針の決定権者、その権限の内容や裁量の範囲、任意の報酬委員会等がある場合にはその手続の概要、役員報酬の額の決定過程における取締役会・報酬委員会の具体的活動内容
 これらの開示については、報酬決定プロセスの客観性・透明性のチェックを可能とするため、取締役会の決議によって決定の全部又は一部を取締役に再一任している場合を含めて、記載を求めることとした。
(3)政策保有株式(株式の保有状況)
 ⅰ 背景
 政策保有株式については、企業間で戦略的提携を進める場合等に意義があるとの指摘もある一方、安定株主の存在が企業経営に対する規律の緩みを生じさせているのではないかとの指摘や、保有に伴う効果が十分検証されず資本効率が低いとの指摘がある。また、政策保有株式に関する開示の現状は、保有目的の説明が定型的かつ抽象的な記載にとどまっており、保有の合理性・効果が検証できないとの指摘がある。
 こうした指摘を踏まえ、DWG報告では、政策保有株式の保有意義・効果について、資本コストをかけリスクをとって保有する以上、政策保有に関する方針、目的や効果は具体的にかつ十分に説明されるべきと提言された。また、提言の中では、政策保有株式の保有について、その合理性を検証する方法や取締役会等における議論の状況について開示を求めるべきとされるとともに、個別の政策保有株式の保有目的・効果についても、提出会社の事業内容やセグメントと関連付け、定量的な効果も含めて具体的に記載を求めるべきとされた。
 ⅱ 主な改正点  本改正では、コーポレートガバナンス改革の進展に伴い、経営者の資本効率に対する認識に係る投資家の関心が高まっていることも踏まえ、以下の記載を求める改正を行った。
① 純投資と政策投資の区分の基準や考え方
  これらの開示については、政策保有目的と思われる株式保有が純投資(脚注8)に区分されているケースがあるとの指摘があることから、純投資と政策投資の区分の基準について明確な説明を求めることとした。
② 政策保有に関する方針、目的や効果、政策保有株式の保有について、その合理性を検証する方法や取締役会等における議論の状況
 これらの開示については、コーポレート・ガバナンス報告書において既に開示が求められている「政策保有に関する方針」、「保有の適否の検証内容」と同様の記載をすることが考えられ、両書類で記載の重複が起こり得るが、有価証券報告書におけるガバナンス情報の総覧性を高めるため、記載を求めることとした。
③ 開示基準に満たない銘柄も含め、売却したり、買い増した政策保有株式について、減少・増加の銘柄数、売却・買い増した株式それぞれの合計金額、買い増しの理由等
④ 個別の政策保有株式の保有目的・効果について、提出会社の戦略、事業内容及びセグメントと関連付け、定量的な効果(記載できない場合には、その旨と保有の合理性の検証方法)の説明。個別銘柄の開示対象を30から60に拡大(脚注9)。
⑤ 提出会社が政策保有株式として株式を保有している相手方による当該提出会社株式の保有の有無
 政策保有株式として互いに持ち合っているかどうかについては、提出会社において確認できる範囲(脚注10)で、記載を求めている。
 以上の改正内容も含めた株式の保有状況の開示内容は図表3のように整理できる。

(4)その他のガバナンス情報
 ⅰ 背景
 コーポレートガバナンスに関する情報については、有価証券報告書におけるガバナンス情報を充実・整理してガバナンス情報の総覧性を高める必要があるとの指摘や、現行の企業統治の体制(任意に設置する委員会等を含む)の「概要」において、取締役会や委員会等の具体的な活動状況の記載を求めるべきとの指摘がある。
 こうした指摘を踏まえ、DWG報告では、企業価値の適切な評価や、投資家と企業との建設的な対話を促す上で、ガバナンス情報が分かりやすく投資家に提供されることが重要であることから、投資判断に必要と考えられるガバナンス情報は有価証券報告書において適切に開示される必要があると提言された。
 ⅱ 主な改正点  本改正では、従前「コーポレート・ガバナンスの状況等」と別項目とされていた「役員の状況」を「コーポレート・ガバナンスの状況等」の中に整理し、ガバナンス情報の総覧性を高めることとした。
 また、ガバナンス情報の充実を図る観点から、企業統治の体制の「概要」において、提出企業の機関設計に応じ、取締役会や委員会等の概要(名称、目的、権限、構成員の氏名(機関の長に該当する者については役職名の記載、社外役員に該当する者についてはその旨の記載を含む。))の記載を求めることとした。
 なお、DWG報告において、議論の内容を含む取締役会や委員会等の活動状況については、具体的な活動状況の記載を求めるべきであるが、取締役会や委員会等(監査委員会及び監査等委員会を除く)については、企業間で相当のバラつきがあると見込まれ、まずはコーポレート・ガバナンス報告書における記載の充実を促すことが考えられるとされた。これを受け、東京証券取引所は、平成31年2月、取締役会や委員会等の活動状況の記載を慫慂する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書記載要領」(脚注11)の改訂を行っている。

4 提供情報の信頼性・適時性の確保(会計監査に関する情報)
 ⅰ 背景
 会計監査に関する情報は、株主による監査人の選解任の判断のみならず、投資判断の基礎となる財務情報等の信頼性確保の観点からも重要であり、投資家に対して十分かつ分かりやすく提供される必要があると考えられる。
 この点に関し、平成28年3月の「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言(脚注12)は、
・企業が適正な監査の確保に向けて監査人とどのような取組みを行っているか
・監査役会等が監査人をどのように評価しているか
 等の開示を充実させるべきであるとし、併せて、監査人の独立性評価に必要な「監査人がその企業の監査に従事してきた期間」を有価証券報告書において記載すること等を提言している。
 また、DWG報告においても、
・監査人の選任、再任の方針及び理由については、監査人が被監査会社から報酬を得るという関係性に鑑みると、企業が適切に監査人を選任しているか、監査人の独立性が担保され十分に機能しているかを知る上で重要な情報である。
・監査人監査の評価については、コーポレートガバナンス・コード原則3-2、補充原則3-2①の趣旨に鑑みても開示されるべきである。
・監査法人におけるローテーション制度が導入されていない中、継続監査期間は、監査人の独立性を判断する観点から重要な情報である。
・ネットワークベースの報酬額・業務内容は、監査人の独立性を判断する観点から重要な情報である。
・グローバル企業のグループ全体の監査状況を把握する観点から、提出企業の監査人及びそのネットワークファーム以外の監査人に支払われる監査報酬全体についても開示すべきである。
・監査役会等の具体的な活動状況は、監査役会等の実効性を判断する上で必要な情報である。監査人と監査役の連携状況等を理解するため、開催頻度や出席状況等の計数的な開示だけでなく、議論された内容や監査役会が監査人の指摘にどのように対応したか等も含まれるべきである。
 と指摘された。
 ⅱ 主な改正点  本改正では、「監査の状況」として、以下の記載を新たに求める改正を行った。
① 監査役及び監査役会等の活動状況(監査役会等の開催頻度、主な検討事項、個々の監査役等の出席状況、常勤の監査役の活動等)
② 監査人の継続監査期間(脚注13)
③ 監査人を選定した理由(企業が監査人を選定するに当たって考慮するものとしている方針を含めた具体的な記載)、監査人の解任・不再任の方針、監査役会等が監査報酬額に同意した理由、監査人の業務停止処分に係る事項(脚注14)
④ 監査役会等が監査人の評価を行った場合には、その旨及びその内容
⑤ 監査業務と非監査業務に区分したネットワークベースの報酬額・業務内容(脚注15)
 なお、本改正では、「監査の状況」の項目を新設し、新たに記載を求める上記の内容に加え、これまでも開示を求めてきた事項の記載箇所の整理を行った。本改正前後の「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載項目を一覧にしたものが図表4である。


5 その他  本改正では、上記のほか、DWG報告の提言を踏まえ、新たに株主総利回りの推移の記載を求めることとした。なお、株主総利回りの推移は、一定期間の推移を示すことに意義があると考えられること等を踏まえ、「主要な経営指標等の推移」の項目で記載を求めることとしている(脚注16・17)。
株主総利回りの記載に当たっては、各企業において表に加え、グラフや図を用いる等、投資者に分かりやすく記載することが望ましいものと考えられる。株主総利回りの計算については図表5を参照されたい。


6 適 用  前記を改正内容とする開示府令は、平成31年1月31日に公布、施行されている。なお、改正後の規定は、平成31年3月31日以後に終了する事業年度を最近事業年度とする有価証券届出書及び当該事業年度に係る有価証券報告書から適用される。ただし、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題」等の一部の項目については、記載内容の充実を図るために十分な検討期間を確保する観点から、平成32年3月31日以後に終了する事業年度を最近事業年度とする有価証券届出書及び当該事業年度に係る有価証券報告書から適用される。適用時期の概要については、前頁の図表6を参照されたい。


Ⅳ おわりに
 今般の内閣府令の改正は、金融庁が取り組んでいるコーポレートガバナンス改革を進めていく中で大変重要なものと考えられる。こうした取組みは、継続的に実施していくことが必要であり、今般の内閣府令を改正して終わりというものではなく、今般の改正により拡充された開示内容に基づいて、企業と投資家の間で建設的な対話が行われ、インベストメント・チェーンを通じて企業価値の向上、更にはそれが投資リターンの増大を含めて国民の富の増大に繋がるような、より良いサイクルを描けるように進めていくことが重要である。金融庁としては、引き続き、この内閣府令の改正と、今後、取りまとめられる予定の「記述情報の開示に関する原則」と併せて、開示の充実に向けた取組みを進めてまいりたい。

脚注
1 委員による討議のほか、国内外から計10名の関係者を招いて意見交換や、より幅広い利用者のニーズを踏まえて議論を進める観点から、取り扱う論点に関して、どのような視点から、どのような情報が必要であるか等について意見募集を行った。
2 プリンシプルベースのガイダンスについては、平成30年12月21日に「記述情報の開示に関する原則」(案)が公表されている。
3 「記述情報」は、法定開示書類において提供される情報のうち、金融商品取引法第193条の2が規定する「財務計算に関する書類」において提供される財務情報以外の情報を指すことが一般的である。
4 経営戦略が企業の目的を達成する上で適切であるかの判断や、企業の成長、業績、財政状態、将来の見込みの評価に資するような情報として、目標の達成度合を測定する指標、算出方法、なぜその目標を利用するのかについての説明等を記載することが考えられるが、有価証券報告書に合理的な検討を踏まえて設定された経営計画等の具体的な目標数値を記載する場合には、有価証券報告書提出日現在において予測できる事情等を基礎とした合理的な判断に基づくものを記載すべきであり、必要に応じて記述情報による補足も含めるべきと考えられる。
 また、有価証券報告書の提出以降に有価証券届出書を提出する際には、必要に応じて当該有価証券届出書提出日現在における当該目標数値の状況等について補足して記載することが望ましいものと考えられる。(平成31年1月31日「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 6参照)
5 従来、提出会社が将来にわたって事業活動を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象等(以下「重要事象等」という。)は、「事業等のリスク」で、重要事象等を解消し、又は改善するための対応策は、「MD&A」で記載が求められていたが、「事業等のリスク」でリスクへの対応策の記載を求めることとしたため、「事業等のリスク」に統合された。
6 DWG報告では、役員報酬の個別開示のあり方については、まずは、役員報酬プログラムの内容の開示の充実を図り、その上で、報酬内容や経営戦略等との整合性の検証の進展や、我が国における役員報酬額の水準の変化等を踏まえながら、必要に応じて検討すべきと整理されている。
7 改正開示府令において業績連動報酬とは、「利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の提出会社又は当該提出会社の関係会社の業績を示す指標を基礎として算定される報酬等」と定義されている。
8 「純投資目的」とは専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とする場合を言うと考えられる。(平成31年1月31日「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 68参照)
9 DWG報告では、開示対象となる銘柄数については、日経500種企業による政策保有株式の保有銘柄数の中央値が63.0(別冊商事法務No.417「平成27年・28年の政策保有株式の比較」)であることを踏まえて検討すべきとされた。
10 提出会社の株主名簿や発行者の大量保有報告書等により確認できる範囲で記載することが考えられる。また、みなし保有株式については、EDINETの全文検索機能を用いるなど、直近の有価証券報告書や大量保有報告書等により確認できる範囲で記載することが考えられる。(平成31年1月31日「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 85、86参照)
11 コーポレート・ガバナンスに関する報告書の記載要領 
 https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/01.html 12 「会計監査の在り方に関する懇談会」提言―会計監査の信頼性確保のために―
 https://www.fsa.go.jp/news/27/singi/20160308-1.html 13 継続監査期間については、例えば、以下のとおり整理することが考えられる。
 ① 提出会社が有価証券届出書提出前から継続して同一の監査法人による監査を受けている場合、有価証券届出書提出前の監査期間も含めて算定する。
 ②-ⅰ 過去に提出会社において合併、会社分割、株式交換及び株式移転があった場合であって、会計上の取得企業の監査公認会計士等が提出会社の監査を継続して行っているときは、当該合併、会社分割、株式交換及び株式移転前の監査期間も含めて算定する。
 ②-ⅱ 過去に提出会社において合併、会社分割、株式交換及び株式移転があった場合であって、会計上の被取得企業の監査公認会計士等が提出会社の監査を行っているときは、当該合併、会社分割、株式交換及び株式移転前の監査期間は含めないものとして算定する。
 ③-ⅰ 過去に監査法人において合併があった場合、当該合併前の監査法人による監査期間も含めて算定する。
 ③-ⅱ 提出会社の監査業務を執行していた公認会計士が異なる監査法人に異動した場合において、当該公認会計士が異動後の監査法人においても継続して提出会社の監査業務を執行するとき又は当該公認会計士の異動前の監査法人と異動後の監査法人が同一のネットワークに属するとき等、同一の監査法人が提出会社の監査業務を継続して執行していると考えられる場合には、当該公認会計士の異動前の監査法人の監査期間も含めて算定する。
 継続監査期間の算定に当たっては、上記の整理も踏まえ、基本的には、可能な範囲で遡って調査すれば足り、その調査が著しく困難な場合には、調査が可能であった期間を記載した上で、調査が著しく困難であったため、継続監査期間がその期間を超える可能性がある旨を注記することが考えられる。(平成31年1月31日 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 36参照)
14 現在も会社法に基づく事業報告等において開示が求められている事項のため、事業報告等の記載を用いることも考えられる。
15 本改正では、ネットワークの範囲を監査証明業務のみではなく税理士業務などの業務を含むことを明確化している。また、改正前も記載が求められているネットワーク外の監査法人に対する監査証明業務に対する報酬として重要な報酬に該当するものについて、開示が求められていることを明確化している。
16 有価証券報告書の株主総利回りの記載に当たっては、基準となる当事業年度の5事業年度前が毎年変るため(例えば、2019年3月末の基準年は2014年3月末、2020年3月末は2015年3月末)、毎年、計算しなおすことに留意する必要がある。また、新規上場等により、基準となる当事業年度の5事業年度前の株価がない場合には、新規上場後から計算することが望ましいと考えられる。
17 統合報告書などの任意書類で既に開示している企業については、記載上の注意にある「類する他の方法により算定した割合を用いる場合」に該当すると考えられるため、算定方法の概要を記載することにより、任意書類と同じ算定方法を用いることが可能と考えられる。
18 コーポレートガバナンスに関する情報の整理に伴い、従来、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」で記載を求めていた「財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針」は、「コーポレート・ガバナンスの概要」で記載を求めることとした。
19 改正後の監査報酬に係る規定は平成31年3月期から適用されるが、平成31年3月期に旧規定を適用する場合には経過措置が適用されることとなる。

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