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解説記事2019年05月13日 【税理士のための相続法講座】 相続法改正(1)-相続法改正の経緯と概要(2019年5月13日号・№786)

税理士のための相続法講座
第46回
相続法改正(1)-相続法改正の経緯と概要
 弁護士 間瀬まゆ子

1 はじめに  これまで相続法をテーマとして連載を続けてきましたが、7月の新法施行を前に一旦これまでの連載を中断し、相続法改正について数回にわたって基本的な事項を確認していこうと思います。
 第1回の今回は、相続法改正の経緯と概要の他、施行時期と経過措置について解説します。
2 改正の経緯  改正のきっかけとなったのは、平成25年9月4日の最高裁大法廷決定です。非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法900条4号但書前段の規定を違憲とする判断を最高裁が示したもので、同年12月には、民法改正により当該規定が削除されました。その際、自民党内の保守派議員が反発し、配偶者保護の観点からの相続法改正の議論につながっていきました。
 そして、約40年ぶりの民法相続編の改正法案が可決成立したのが、昨年7月のことでした。
3 配偶者の保護  配偶者の保護のための改正という点が報道でも流れ、それに期待する一般の方も多いのではないかと推測します。では、具体的にどのような点が改正されたのでしょうか。
 実は、中間試案の段階では、配偶者の法定相続分を一定の条件のもとに上げることが提案されていましたが、パブリックコメントによる反発が強く、早々に改正事項から外されました。その代わりに、中間試案の翌年に出された追加試案で提案され、改正法にも取り込まれたのが、持戻し免除の意思表示の推定規定です。これは、相続税法21条の6(贈与税の配偶者控除)の規定を参考に新設されたもので、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産の遺贈または贈与がされたときは、特別受益の持戻しの免除の意思表示があったものと推定するという内容の規定です。詳細については、別稿で解説します。
 また、税理士の間でも関心の高い配偶者居住権も、配偶者居住権(長期居住権と言われていたものです)と配偶者短期居住権という2つの制度として、改正法に盛り込まれました。こちらについては、その評価をどうするかという難題があることもあり、施行時期は、本年7月ではなく令和2年4月1日とされました。これについても別稿で触れます。
4 改正の骨子
改正法の骨子

第1 配偶者の居住権を保護するための方策
1 配偶者短期居住権の新設 新民法1037条-1041条関係
 配偶者が相続開始の時に遺産に属する建物に居住していた場合には、遺産分割が終了するまでの間、無償でその居住建物を使用できるようにする。
2 配偶者居住権の新設 新民法1028条-1036条関係  配偶者の居住建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者にその使用を認める法定の権利を創設し、遺産分割等における選択肢の一つとして、配偶者に配偶者居住権を取得させることができるようにする。

第2 遺産分割等に関する見直し
1 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示推定規定) 新民法903条④関係
 婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産の遺贈又は贈与がされたときは、持戻しの免除の意思表示があったものと推定し、被相続人の意思を尊重した遺産分割ができるようにする。
2 遺産分割前の払戻し制度の創設等 新民法909条の2関係  相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう、遺産分割前にも払戻しが受けられる制度を創設する。
3 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲 新民法906条の2関係  相続開始後に共同相続人の一人が遺産に属する財産を処分した場合に、計算上生ずる不公平を是正する方策を設ける。

第3 遺言制度に関する見直し
1 自筆証書遺言の方式緩和 新民法968条関係
 自筆でない財産目録を添付して自筆証書遺言を作成できるようにする。
2 遺言執行者の権限の明確化 新民法1007条、1012条-1016条関係
3 公的機関(法務局)における自筆証書遺言の保管制度の創設(遺言書保管法)

第4 遺留分制度に関する見直し
 遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされている現行の規律を見直し、遺留分権の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずるものとしつつ、受遺者等の請求により、金銭債務の全部又は一部の支払につき裁判所が期限を許与することができるようにする。 新民法1042条-1049条関係
第5 相続の効力等に関する見直し  相続させる旨の遺言等により承継された財産については、登記等の対抗要件なくして第三者に対抗することができるとされていた現行法の規律を見直し、法定相続分を超える権利の承継については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないようにする。 新民法899条の2関係
第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策  相続人以外の被相続人の親族が、被相続人の療養看護等を行った場合には、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭請求をすることができる制度(特別の寄与)を創設する。 新民法1050条関係
 特別の寄与の制度創設に伴い、家庭裁判所における手続規定(管轄等)を設ける。 新家事事件手続法216条の2-216条の5関係
(法務省の公式サイトhttp://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.htmlに掲載の「相続法改正の概要について」より抜粋)

 配偶者の保護の観点から議論がはじまった相続法改正ですが、実際に改正された事項は、上記のとおり多岐に渡ります。
 その中で、本稿では税理士業務に関わり得るところ、あるいは一般の関心が高いところとして、以下の改正事項を採り上げる予定です。
◆配偶者居住権の新設
◆配偶者への居住用不動産の贈与・遺贈について持戻し免除の意思表示を推定する規定の新設
◆仮払い制度の創設
◆自筆証書遺言の方式緩和
◆法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設
◆遺留分制度に関する見直し
◆特別の寄与の制度の創設

5 施行時期  新法の施行時期は、以下のとおりとなっています。
 原則 令和元年7月1日
 例外 ①自筆証書遺言の方式緩和
 → 平成31年1月13日に施行済み
②配偶者居住権・配偶者短期居住権
 → 令和2年4月1日
③自筆証書遺言保管制度
 → 令和2年7月10日 
※その他、本稿では触れませんが、債権法改正がらみの改正についても令和2年4月1日の施行となっています。

 なお、相続法改正と言っていますが、正確には、改正されるのは民法相続編と家事事件手続法で、自筆証書遺言保管制度に関しては、法務局における遺言書の保管等に関する法律(遺言書保管法)という新しい法律が制定されました。
6 経過措置  新法は、原則として、施行日前に開始した相続には適用されないことになっています。すなわち、相続開始日によって適用されるかが変わることになるわけですが、例外として、幾つかの経過措置が定められています。その主要なものは以下のとおりです。
 ① 配偶者居住権・配偶者短期居住権  原則として施行日(令和2年4月1日)以後に開始した相続に適用されますが、例外として、施行日前にされた配偶者居住権の遺贈には適用されないこととなっています。例として、以下に具体的なケースをあげます。
Aさんが令和2年5月に亡くなった。Aさんは相続法改正のニュースを見て、令和元年中に、配偶者Bに配偶者居住権を遺贈する遺言を書いていた。
 この場合、相続開始は施行日以後ですが、遺贈をしたのが施行日前ですので、配偶者居住権に関する新法は適用されません。したがって、Bさんは配偶者居住権を取得できないことになりますので注意が必要です(ただし、相続人全員が同意すれば、遺産分割協議により取得できる可能性はあります。)。
 ② 持戻し免除の意思表示の推定規定  施行日(本年7月1日)前にされた遺贈・贈与には適用されません。すなわち、相続開始日が7月1日であったとしても、居住用不動産を配偶者に贈与したのが6月1日であれば、推定規定の適用は受けられないことになります。
 不安があるならば、持戻し免除の明示の意思表示をしておくとよいでしょう。ただ、遺贈については、免除の意思表示を遺贈と同時に行う必要があるとする説もありますので、改めて遺贈と持戻し免除の意思表示の両方を記載した遺言を作成しておくのが安心です。
 ③ 仮払い制度の創設  施行日(平成31年7月1日)以後に預貯金債権が行使されるときにも適用されます。そのため、施行日前に開始した相続であっても、本年7月1日以降であれば、新法に基づき、預貯金債権のうち一定の割合の額(上限150万円)については単独で払戻しを受けられることになります。
 ④ 自筆証書遺言の方式緩和  施行日(平成31年1月13日)前にされた自筆証書遺言には適用されません。既にある自筆証書遺言の目録がワープロで作成されたものであったというような場合、新法のもとでは適法でも、残念ながら無効となってしまうということです。

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