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解説記事2019年05月27日 【特別解説】 我が国の上場企業による不正~第三者委員会報告書を提出した企業の調査分析~(2019年5月27日号・№788)

特別解説
我が国の上場企業による不正
~第三者委員会報告書を提出した企業の調査分析~

はじめに

 バブルの絶頂期から始まった平成は、「失われた10年」や「ロスト・ジェネレーション(ロスジェネ)」、といった言葉に代表されるように、その30年余りにわたって、景気は総じて低迷が続いた。また、阪神淡路大震災や東日本大震災をはじめ、多くの台風や地震といった災害に見舞われた時代でもあった。
 このような先行きになかなか光を見出しにくい世の中にあっては、どうしても不正な会計処理によって利益をひねり出そうという動きが出てこざるを得ない。カネボウ、日興コーディアル証券、オリンパス、西武鉄道、東芝、そして最近では日産自動車やスルガ銀行など、業界をリードするような優良企業においても不正が行われ、大きな社会問題となった。
 それに対応して監査基準もたびたび改正され、上場会社向けには不正リスク対応基準まで制定されたが、それでもなお、不正会計が下火になる気配は見えてこない。
 本稿では、平成時代の最後の5年間に、不適切な会計処理や不適切な行為について、第三者委員会調査報告書(第三者を含んだ社内調査報告書等も含む)を公表した企業を題材にして、不正の発生原因や類型、特徴点等を調査分析することとしたい。

調査の対象とした企業
 今回調査の対象としたのは、2014年4月1日から2019年3月31日までの5年間に、不適切な会計処理や不適切な行為等について第三者委員会調査報告書(第三者を含んだ社内調査委員会報告書を含む)を公表した企業(以下、「報告書公表企業」という。)136社である(表1を参照)。

 年間におよそ30件のペースで、不正な会計処理に関する調査報告書が公表されていることが分かる。なお、調査報告書が公表された事例のうち、自社が納入した製品が、得意先が要求する仕様を満たしていない、あるいは資格を持たない者が製品検査を実施していた等の、会計処理とは直接関係しない不正事例は、今回の調査の対象からは除いている。
 報告書公表企業の136社を、上場している市場等の区分ごとに分類すると、表2のとおりであった。
 現在、東証における市場区分の見直しや銘柄の整理等が検討課題として挙げられているが、3,600社強の上場会社のうち、約60%が東証1部となっている。当然のことながら、絶対数で見ると東証1部上場企業(又はその子会社等)による不正会計が最も多いが、各市場の上場企業数の合計で除して比率を算出すると、東証1部が3.1%であるのに対して東証2部は4.2%、ジャスダック4.3%、マザーズが4.6%と、東証2部やいわゆる新興市場に上場している企業のほうが、相対的に見て不正な会計処理が起こりやすい傾向にあるという結果となった。

不正行為の分類と発覚の原因等
 不正を起こした当事者を分類すると、表3のとおりであった。なお、表3の「元役員、従業員」の区分には、組織的ではない、個人的な不正行為(横領、着服等)を分類している。新聞報道等でもよく取り上げられるが、親会社に比べて監視の目が届きにくいとされる連結子会社(特に、中国をはじめとする海外の子会社)で不正が発生した事例が多かった。なお、中国の子会社で発生した不正事例については後述する。
 次に、不正を形態別に分類すると、表4のようになった。会社の業績、特に売上高や利益を実力以上によく見せることを狙った、いわゆる粉飾決算が過半数を占めていたが、その一方で、個人的な動機(ギャンブルにのめりこんだ末の借金返済や、個人的な遊興費等)による資金の横領や着服等も少なからず存在していた。また、後述のように、国内外の子会社において、本社が十分に監督をしないままに現地の担当者に業務を任せきりにしていたり、未知の土地で取引の拡大を拙速に進めようとしたりした結果、不透明な取引や循環取引等に巻き込まれて多額の不良債権や損失が発生したような事例もあった。さらに、「会社の私物化」には、オーナー経営者や創業者が、取締役会の決議等を経ぬままに私情が絡んだ投資を行ったり、公私混同を行ったりしていたような事例が含まれている。

 さらに、不正の手口(具体的な内容)を分類すると、表5のとおりであった。

 一つの不正事案の中に、表5の内容が複数含まれることはよくあり、むしろそのような事例のほうが多いが、ここでは便宜的に、それぞれの事案を、どれか一つに分類している。
 表5を見ると、やはり予算や目標等を達成するために売上高を水増し(先行)計上する事例が目立つ。
 最後に、不正が発覚した契機を分類すると、表6のようになった。

 調査報告書上は必ずしも明記されていないが、表6の「社内調査」には、自ら異変に気付いた自発的な社内調査のほかに、内部・外部から内密の情報提供を受けた上での社内調査も相当数、含まれているものと思われる。不正を外部者が発見することは難しく、したがって不正を発見するためには内部通報のほうが有効であると言われることもあるが、今回の調査結果を見る限り、会計監査人(監査法人)や外部からの指摘、あるいは税務調査における指摘など、外部の第三者が介在したことをきっかけとして不正が発覚したケースがかなりの部分を占めていた。また、会計監査人が不正の兆候を発見して会社側に是正を求めたケースや、不正が行われはしたものの、第三者委員会を設置しての調査が必要となるほどの規模になるまでの拡大は防いだようなケースも少なからず存在すると思われる。内部統制や内部的な自浄作用に加え、会計監査人等による外部からのけん制も、不正の抑止に一定の効果があるものと思われる。

2018年度に発生した特徴的な不正事例
 2018年4月1日から2019年3月31日までの間に第三者委員会報告書が公表された不正事例は37件あったが、そのうち特徴的な以下の3件を取り上げてみたい。
① 中国の子会社を舞台とした不正(リズム時計工業)
② 住宅取得用の融資を行う際の預金残高データ等の改ざん(スルガ銀行、TATERU)
③ 繰り返される不正(ホシザキ)

① 中国の子会社を舞台とした不正
 2019年3月12日、リズム時計工業は、特別調査委員会による調査報告書を公表した。中国の連結子会社である麗声(東莞)社において、標準原価を操作することによる在庫の水増しや売上の前倒し計上、事業部間における利益調整等が行われていた。第三者を交えた特別調査委員会が調査した結果、麗声(東莞)社において、合計440,000千円の利益が過大に計上されていたことが判明し、2019年3月期の営業利益予想を大幅に引き下げた上で、当時の社長が辞任することとなった。調査報告書では、これらの不適切行為が行われた原因として、主観的・属人的な原因とともに制度的・組織的な原因を多数列挙している。ここでは、中国をはじめとする外国に進出する企業が直面する子会社管理の難しさが端的に記述されているため、報告書で記載された問題点と改善策とを紹介することとしたい。これらの点は、中国や東南アジア諸国等に進出している各社にとっても他山の石とすべき内容が多く含まれており、示唆に富んでいると思われる。
(1)中国子会社の側の問題点 ア.専務董事への権限の集中
イ.役員及び管理職層と一般従業員との情報共有が不十分
ウ.モニタリング(内部監査)体制の不備
エ.コンプライアンス研修の不備
オ.人事配置の長期固定化・不透明な人事評価
カ.社内の情報共有及びコミュニケーションが不十分(日本語と中国語の両方ができる一部の管理職層に情報と権限が集中している)
キ.原価計算・原価管理ルール上の処理プロセスが不適切であった
ク.決算フローにおいて財務科の独立性が確保されていなかった
(2)日本の本社の側の問題点 ア.経営指標としてのPL項目の重視と時計部門に対する過度な生産効率の要求
イ.子会社管理における事業部との連携不足
ウ.子会社幹部の任用基準の不明確性と現地任せのマネジメント
エ.本社へのレポーティング・ルートの不備
オ.子会社から本社に対して自発的に報告するというマインドの欠如
カ.過度な現地化によるコミュニケーション上の弊害
キ.グループ全体のコンプライアンス推進に向けた取組みの不備
ク.実効性のある内部監査が実施されていないこと
ケ.風通しの悪さとコンプライアンス意識の希薄化
(3)改善策 ア.生産管理部門の担当役員及び財務管理を含む管理部門の担当役員にはそれぞれ異なる人物を配置して権限を分離して、管理部門の独立性を確保する
イ.各部門において、定例の部会議や科会議を開催することを義務付けるなどして、情報共有が徹底されるような体制を構築するウ.内部通報に対して報復がなされないような防止措置を徹底する
エ.取締役会において重要事項に関する十分な議論を行う運用を徹底する
オ.従業員の育成を行いつつ、管理部門が人事ローテーションを計画的に実施する
カ.親会社の本社経営陣から明確なメッセージを発信するとともに、社内意見箱の設置等を行って現場の声を吸い上げる
キ.売上や利益といったPL項目に重視した経営は改め、キャッシュフローや在庫管理も評価項目として加える
ク.本社側の子会社管理部門による関与の強化及び事業部との連携
ケ.重要事項以外は現地マネジメントを子会社社長に一任するという運用を見直し、本社の関与を強化する
コ.中国語のできる日本人管理職を増員する
サ.各子会社の事業や地域等に照らしたリスクに応じた重点監査を実施する
シ.マイナスの情報も含め、情報を上げやすい雰囲気を作る

② 住宅取得用の融資を行う際の預金残高データ等の改ざん
 2018年9月7日、338ページに及ぶ第三者委員会調査報告書が公表された。大手地銀のスルガ銀行がシェアハウスやアパートなどの投資用不動産への資金を必要とするオーナーに対して、不適切な融資を行っていた問題である。本来なら自行の融資基準を満たさないケースでも、審査部門に提出する書類を基準に見合うように改ざん、偽装して融資を承認させるなどの不正が行われていた。審査書類の改ざんは、2018年1月、首都圏で女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を展開していた不動産会社、スマートデイズが、オーナーに賃料を払えないと通告したことを発端に発覚し、大きな社会問題となった。
 調査では、2014年以降、改ざんが疑われる書類が少なくとも795件見つかったとされている。審査部門は形骸化し、2014年下期以降、承認率は99%を超えていた。物件の仲介をする不動産業者に対しては、書類の偽造を依頼したり、物件の調査のタイミングを教えたりするケースもあった。報告書は、執行役員を含む多くの行員が不正に関与していたと指摘しており、不正の背景には、実態を無視した業績目標の設定やパワハラ行為、法令順守意識の欠如があったとされている。金融庁は10月5日、スルガ銀行に対して、10月12日から6カ月間の投資用不動産への新規の融資業務の停止命令と業務改善命令を出した。
 超低金利政策の長期化により、特に地方銀行は資金運用が困難となり、業績が低迷していると言われている。そのような中で手っ取り早く業績を伸ばせるような案件に、多少のリスクは目をつぶって飛びついたのかもしれない。
 一方、不動産業者であるTATERU社においても、顧客からの通報によって不正が発覚し、2018年12月27日付で調査報告書が公表された。それによると、TATERU社の従業員が顧客から提供を受けた預金残高データを改ざんし、実際より多く見せて金融機関、(西京銀行ほか)に提出することによって、融資を通りやすくしていたとのことであった。不正が起きた背景としては、「営業部には部下は上司の命令に服従すべきであるという厳格な上下関係が存在」し、「下から上に対して率直に物を言いにくい風土であった」。そして、「過度なノルマ達成を目的に、資金の少ない顧客との契約を進めるため書類を改ざんした」とされている。
 TATERUの場合、資料の改ざんは2010年ごろには始まっており、同社が東証マザーズに上場した2015年以前から横行していた。さらに上場の数年前には改ざんが金融機関に発覚し、いったん取引が止まった。このタイミングが、同社が生まれ変わる大きなチャンスであったと思われる。ここで全社的な調査を行ってウミをすべて出し切っておけば、今回のようなことは起きなかったに違いない。しかし残念なことに、同社は担当者個人による不正との認識にとどめ、幹部が改ざんの禁止を部内に通告しただけで、調査は実施しなかった。そのために不正行為は引き続き行われ、取り返しのつかない事態に至ったのである。
 不正行為は麻薬のようなもので、きっかけと強い決意・覚悟がなければ断ち切ることは極めて難しい。不正と決別することによって、短期的には業績が大きく落ち込み、担当者の評価が下がる可能性も大いにあるであろう。不正行為を根絶して生まれ変わるためには、全社的な理解と協力、担当者を孤立させないための全面的な支援が不可欠であると言える。

③ 繰り返される不正
 不正を根絶することの難しさを端的に示している事例がもう一つある。全自動製氷機を中心に厨房機器を製造・販売しているホシザキは、2018年12月中に2回、不正調査報告書を公表した。12月6日付の報告書によると、連結子会社であるホシザキ東海において、工事の架空・水増し発注による原価の付け替え、売上の先行計上及び営業担当者による代金の着服等が行われていた。さらに、不正発覚後、担当の監査法人による不正の調査に際し、会社グループの管理部の従業員から各子会社の管理責任者に対して、インタビューへの回答例を添付したメールを送付する方法により、不適切な指示又は示唆がなされたとの外部から担当監査法人への通報があり、12月27日付で追加調査報告書が公表されるという極めて異例の事態になった。ホシザキ(12月決算)は3月27日に株主総会を開いたが、決算が確定しないため、2018年12月期の決算報告ができなかった。有価証券報告書の提出も延期申請を行うなど、まだ混乱が続いている。

終わりに
 令和元年がスタートした。「和風」、「昭和」などに見られるように、我が国と国民は昔から「和」、すなわち話し合いによって物事を解決することを好むとよく言われる。平均して50~60ページ、長いものでは100ページを優に超える不正調査報告書を読むと、会社の業績を底上げするために行われた粉飾決算にせよ、個人が利得を得ることを目的とした不正行為にせよ、不正の実行者は周囲からの助けが得られずに孤立し、追いつめられた結果、不正に手を染めることが多いことが伺える。普段から組織の風通しがよく、構成員の勤務態度の変化や精神状態の悪化等に周囲の同僚が気付いて声をかけ、上司が一方的に厳しいノルマを押し付けるだけではなく、定期的に部下の声や悩みに耳を傾けるような組織であれば、不正の発生によって、会社と個人の両方に、大きなダメージが生じることを未然に防げたのではないかと思われるような事例も少なくない。
 昨今は働き方改革とワンセットで業務の機械化、生産性の向上、残業削減、AIへの置き換え等が進められており、経理業務は、「AI化の進展によって将来は消える仕事」の代表例としてしばしば言及される。経理マンはただ数字を整理してまとめるだけでなく、経営に対する前向きな提案や判断業務等を行うべき、と言われ続けて久しいが、残業や業務工数の削減が絶対視される中で、膨大なデータや規則等を前に、今までにも増してパソコンに張り付いて黙々と作業を行うことが増え、組織内の会話も減って、経理部員に限らず、会社人が心身ともに余裕がなくなってきているのではないかと危惧される。
 不正行為を防止するためには、内部監査の充実や役員・従業員への研修等も当然必要ではあろうが、何と言っても風通しの良い組織風土を醸成し、経営トップが率先垂範して規則を守り、組織の論理や保身よりも、人間の良心に従った行動をしていくことが最も重要であると考えられる。
 たとえ今後の景気が堅調であったとしても、不正行為や不正な会計処理がなくなることはないであろうが、実行者本人はもとより、周囲の全員を不幸にする不正事件が少しでも減ることを切に祈りたい。

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