解説記事2019年07月29日 【SCOPE】 非上場会社における株主総会、訴訟で決議取消となった理由は(2019年7月29日号・№797)
議長選任手続きや招集手続きの瑕疵が問題に
非上場会社における株主総会、訴訟で決議取消となった理由は
株主総会の決議に取消事由(招集手続きや決議の方法が法令もしくは定款に違反していることなど)がある場合には、訴訟により株主総会の決議が取り消されることがある。スコープでは、非上場会社における株主総会をめぐり、訴訟により決議が取り消された最近の裁判事例を2件紹介する。最初に紹介する事例は、株主総会における議長の選任手続きの定款違反(瑕疵)により決議が取り消されたもの。2番目に紹介する事例は、特定の株主に招集通知を送付していなかった点について、株主総会の招集手続きに法令違反(瑕疵)があるとして決議が取り消されたものである。
定款では社長が議長、適法な手続きを経ていない議長交代が定款に違反
最初に紹介する裁判事例は、株主総会における議長の選任手続きをめぐり、総会の決議の方法に法令もしくは定款に違反する瑕疵があったか否かが問題となったものである。
事実関係をみていくと、株主総会当時、被告会社の発行済株式は長男(代表取締役社長)の母が62.5%保有しており、長男の保有割合は37.5%であった。母の自宅で開催された株主総会には、長男及びその代理人弁護士、母の委任状を持参した母の三女及びその代理人弁護士が参加して、三女が議長として話しを始めた。総会では、長男の代理人弁護士が長男を取締役として選任することを希望した。だが、母が発行済株式の過半数を保有しており、母が長男の選任に反対している以上は長男を取締役の候補から外した決議が可決することはやむを得ない旨が総会で確認されて、母や三女を取締役に選任する旨の本件決議がなされた。なお、本件決議の2日後に長男は死亡し、株式の全てを長男の配偶者が相続している。
本件決議を不服とした長男の配偶者(原告)は、被告会社に対して本件決議の取り消しを求める訴訟のなかで、被告会社の定款20条には株主総会の議長は社長で、社長に事故もしくは支障があるときは他の取締役がこれに代わる旨が定められている点を指摘。株主総会において社長(長男)に事故や支障はないから、三女が議長を務めてされた本件決議は法令もしくは定款に違反する瑕疵があると主張した。これに対し被告会社は、長男及びその代理人弁護士は三女が議長になることに異議を述べていないと指摘し、社長に事故もしくは支障があるときに該当すると反論した。
地裁、定款違反により総会決議を取り消す 地裁は、本件の株主総会について、被告会社の定款20条により議長を務めることとされている長男(社長)に対する議長不信任の動議の提出や三女を議長に選任する旨の決議等が行われないままに当初から三女が議長を務めていることから、決議の方法が定款に違反していると言わざるを得ないと指摘。また、被告会社の主張に対して地裁は、長男は株主総会に出席しているから欠席の場合と同視して株主総会の運営・議事進行に支障を来たす場合であったと認めることはできないとした。以上を踏まえ地裁は、適法な手続きを経て議長の交代が行われたと認めることができないから、三女が議長を務めたことによる決議の方法には定款に違反する瑕疵があると判断して、本件決議を取り消した(東京地裁平成31年2月26日判決・確定済み)。
特定の株主に招集通知を送付しなかった点が法令違反、裁量棄却も認めず
会社法では、株主総会に先立って株主に対して招集通知を送付しなければいけない旨が規定されている(会社法299条)。次に紹介する事例は、特定の株主に招集通知を送付しなかった点について、決議取消事由となる法令違反(瑕疵)の有無、仮に決議取消事由があるとしても裁量棄却(今号42頁参照)が認められるか否かが問題となったものである。
事実関係をみていくと、被告会社は、取締役会の決議を経たうえで株主総会を開催する旨の招集通知を原告株主以外の株主に送付した。招集通知には、決議事項として、亡代表取締役に対する死亡退職慰労金贈呈の件(議案)と記載されていたほか、その具体的金額等は取締役会にご一任願いたい旨が記載されていた。総会では、亡代表取締役の配偶者たる原告株主のみが受給者として妥当であるとして、具体的な金額等は取締役会に一任する旨の本件決議がなされた(出席株主の総議決権数は約55%であった)。そして取締役会は、功績倍率法により死亡退職慰労金を1,320万円とする旨を決めた。これを不服とした原告株主は、原告株主に招集通知が送付されていないことから株主総会の招集手続きには法令に違反する瑕疵があるとして、本件決議の取り消しを求める訴訟を提起した。これに対し被告会社は、招集手続きの瑕疵が軽微であることなどから、裁量棄却が認められるべきであると主張した。
地裁はまず、当時、総議決権数の約16%の株式を保有する原告株主に対して招集通知が送付されていなかった事実を認めたうえで、株主総会の招集手続きには法令に違反する瑕疵があることから、本件決議には取消事由があると判断した。そして被告会社が求めた裁量棄却に対し地裁は、原告株主は総議決権数の約16%の株式を保有し、株主総会決議の内容と利害関係の深い原告株主に招集通知を送付しなかったとの瑕疵が重大でないということはできないとして、裁量棄却は認められないと判断。本件決議を取り消した(東京地裁平成31年1月15日判決・確定済み)。
非上場会社における株主総会、訴訟で決議取消となった理由は
株主総会の決議に取消事由(招集手続きや決議の方法が法令もしくは定款に違反していることなど)がある場合には、訴訟により株主総会の決議が取り消されることがある。スコープでは、非上場会社における株主総会をめぐり、訴訟により決議が取り消された最近の裁判事例を2件紹介する。最初に紹介する事例は、株主総会における議長の選任手続きの定款違反(瑕疵)により決議が取り消されたもの。2番目に紹介する事例は、特定の株主に招集通知を送付していなかった点について、株主総会の招集手続きに法令違反(瑕疵)があるとして決議が取り消されたものである。
定款では社長が議長、適法な手続きを経ていない議長交代が定款に違反
最初に紹介する裁判事例は、株主総会における議長の選任手続きをめぐり、総会の決議の方法に法令もしくは定款に違反する瑕疵があったか否かが問題となったものである。
事実関係をみていくと、株主総会当時、被告会社の発行済株式は長男(代表取締役社長)の母が62.5%保有しており、長男の保有割合は37.5%であった。母の自宅で開催された株主総会には、長男及びその代理人弁護士、母の委任状を持参した母の三女及びその代理人弁護士が参加して、三女が議長として話しを始めた。総会では、長男の代理人弁護士が長男を取締役として選任することを希望した。だが、母が発行済株式の過半数を保有しており、母が長男の選任に反対している以上は長男を取締役の候補から外した決議が可決することはやむを得ない旨が総会で確認されて、母や三女を取締役に選任する旨の本件決議がなされた。なお、本件決議の2日後に長男は死亡し、株式の全てを長男の配偶者が相続している。
本件決議を不服とした長男の配偶者(原告)は、被告会社に対して本件決議の取り消しを求める訴訟のなかで、被告会社の定款20条には株主総会の議長は社長で、社長に事故もしくは支障があるときは他の取締役がこれに代わる旨が定められている点を指摘。株主総会において社長(長男)に事故や支障はないから、三女が議長を務めてされた本件決議は法令もしくは定款に違反する瑕疵があると主張した。これに対し被告会社は、長男及びその代理人弁護士は三女が議長になることに異議を述べていないと指摘し、社長に事故もしくは支障があるときに該当すると反論した。
地裁、定款違反により総会決議を取り消す 地裁は、本件の株主総会について、被告会社の定款20条により議長を務めることとされている長男(社長)に対する議長不信任の動議の提出や三女を議長に選任する旨の決議等が行われないままに当初から三女が議長を務めていることから、決議の方法が定款に違反していると言わざるを得ないと指摘。また、被告会社の主張に対して地裁は、長男は株主総会に出席しているから欠席の場合と同視して株主総会の運営・議事進行に支障を来たす場合であったと認めることはできないとした。以上を踏まえ地裁は、適法な手続きを経て議長の交代が行われたと認めることができないから、三女が議長を務めたことによる決議の方法には定款に違反する瑕疵があると判断して、本件決議を取り消した(東京地裁平成31年2月26日判決・確定済み)。
>会社法831条(株主総会等の決議の取消しの訴え) |
次の各号に掲げる場合には、株主等(略)は、株主総会等の決議の日から3か月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。 一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。 二 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。 三 (略) |
特定の株主に招集通知を送付しなかった点が法令違反、裁量棄却も認めず
会社法では、株主総会に先立って株主に対して招集通知を送付しなければいけない旨が規定されている(会社法299条)。次に紹介する事例は、特定の株主に招集通知を送付しなかった点について、決議取消事由となる法令違反(瑕疵)の有無、仮に決議取消事由があるとしても裁量棄却(今号42頁参照)が認められるか否かが問題となったものである。
事実関係をみていくと、被告会社は、取締役会の決議を経たうえで株主総会を開催する旨の招集通知を原告株主以外の株主に送付した。招集通知には、決議事項として、亡代表取締役に対する死亡退職慰労金贈呈の件(議案)と記載されていたほか、その具体的金額等は取締役会にご一任願いたい旨が記載されていた。総会では、亡代表取締役の配偶者たる原告株主のみが受給者として妥当であるとして、具体的な金額等は取締役会に一任する旨の本件決議がなされた(出席株主の総議決権数は約55%であった)。そして取締役会は、功績倍率法により死亡退職慰労金を1,320万円とする旨を決めた。これを不服とした原告株主は、原告株主に招集通知が送付されていないことから株主総会の招集手続きには法令に違反する瑕疵があるとして、本件決議の取り消しを求める訴訟を提起した。これに対し被告会社は、招集手続きの瑕疵が軽微であることなどから、裁量棄却が認められるべきであると主張した。
地裁はまず、当時、総議決権数の約16%の株式を保有する原告株主に対して招集通知が送付されていなかった事実を認めたうえで、株主総会の招集手続きには法令に違反する瑕疵があることから、本件決議には取消事由があると判断した。そして被告会社が求めた裁量棄却に対し地裁は、原告株主は総議決権数の約16%の株式を保有し、株主総会決議の内容と利害関係の深い原告株主に招集通知を送付しなかったとの瑕疵が重大でないということはできないとして、裁量棄却は認められないと判断。本件決議を取り消した(東京地裁平成31年1月15日判決・確定済み)。
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