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税務ニュース2003年07月07日 最高裁、固定資産税の時価を上回る評価の違法判決を是認!(2003年7月7日号・№026) ニュース特集2 評価額決定のための『適正な時価』・『基準日』を認めず

ニュース特集2

評価額決定のための『適正な時価』・『基準日』を認めず

最高裁、固定資産税の時価を上回る評価の違法判決を是認!

 最高裁判所第一小法廷(甲斐中辰夫裁判長)は、平成15年6月26日、固定資産評価基準に係るいわゆる「7割評価通達(※)」・「時点修正通知(※)」等を適用して算定された土地の価格決定のうち賦課期日における客観的な交換価値を超える部分には、違法があると判示し、原審(東京高等裁判所)の判断を正当と是認して、東京都固定資産評価審査委員会(「審査委員会」)の上告を棄却した(平成10年(行ヒ)第41号)。
(※)7割評価通達
自治事務次官が平成6年度の評価替えに当り、各都道府県知事あてに発した取扱通達を一部改正する旨の通知(平成4.1.22自治固第3号)
宅地の評価に当っては、地価公示価格等の一定割合(当分の間7割程度とする。)を目途とする旨が付け加えられた。これにより、公示価格の2-3割とされていた評価額が公示価格の7割程度となった。

(※)時点修正通知
自治省担当官が平成6年度の評価替えに当り、各都道府県担当官あてに発した「平成6年度評価替え(土地)に伴う取扱いについて」と題する通知(平成4.11.26自治評第28号)
平成6年度の評価替えは平成4年7月1日を価格調査基準日とし、その価格の7割程度を目標に評価の均衡化・適正化を図るが、地価の下落傾向に鑑み、平成5年1月1日時点の地価動向を勘案することにした。


第1審では、7割評価の違法性も争点だったが

 この訴訟が提起されたのは、平成6年度(基準年度)固定資産の評価替えについて、いわゆる「7割評価」が行われ、負担調整措置が採用されたものの、固定資産税の負担が急激に引上げられたことに対して、司法の違法判断を求めるものであった。当時、バブル崩壊により土地価格は急激な下落状況にあり、土地所有者はバブル期の地価の急上昇・固定資産税の7割評価の導入により、固定資産税評価額が急上昇する一方で、バブル崩壊に伴う土地価格の下落については、実質基準日(平成5年1月1日)以降の地価の下落が固定資産税の評価額に反映されないという極めて厳しい状況にあった。
 東京都千代田区三崎町の本件宅地では、東京都が固定資産税の平成6年度評価額を登録した段階で、3年前に付した評価額に対して9.2倍を超える評価額となっていた。一方で、「時点修正通知」による平成5年1月1日時点における土地価格から、近傍宅地の公示価格で30%程度の土地価格の下落が見られたが、平成6年度固定資産税評価額には、反映されない事態となっていた。
 納税者は平成6年度登録価格について審査委員会に審査の申出をしたところ、若干減額された価格決定が行われたが、なお、その価格に不服があるとして平成5年度価格を超える部分の取消を求めている。第1審原告(納税者)は、「7割評価通達」の違法性とともに、時価と評価額の「逆転現象」の違法性、都市計画街路予定地の減価補正率(3割を限度)の不当(違法)性を主張していた。第1審での両当事者の主張は次表のとおりである。

原告(納税者)
被告(審査委員会)
評価基準及び取扱要領に合致しているかどうかだけでなく評価基準及び取扱要領等の内容の是非を含めて、法が定める「適正な時価」に合致しているかどうかを審査しなければならない。
審査委員会の
土地評価のやり方
評価基準、7割評価通達を取り込んだ取扱要領、時点修正通知、平成6基準年度の比準表等に基づいて本件各土地の価格を評価した。
法は固定資産税の課税基準を賦課期日における価格と規定しているのであるから(地法349①)、本件各土地の評価は賦課期日である平成6年1月1日時点でしなければならない。東京都知事及び被告は、時点修正通知に従い、平成5年1月1日以降賦課期日までの1年間の地価変動(大幅下落)を評価に反映させずに本件各土地の価格を算定した。法に反する違法な決定である。近傍宅地の価格は、平成5年公示価格と平成6年公示価格の比較を見ても、少なくとも31%程度下落したと考えるのが妥当である。平成5年1月1日時点の公示価格等の7割評価では、賦課期日時点の路線価の段階で、地価公示価格を上回る「逆転現象」を生じさせていることになり、本件価格決定が違法であることは明らかである。
評価の時点と
逆転現象
市町村における固定資産の価格の評価事務には相当の期間を要する。これらの評価事務の手続き的な制約を考慮すると、法は、賦課期日から評価事務に要する合理的な期間をさかのぼった時点の時価を基準として賦課期日における当該土地の価格とすることを当然に予定しているものと解される。平成6年度の評価替えに際し、地価が下落傾向にあることを考慮し、時点修正通知に従い、それまで評価時点を基準年度の賦課期日の1年6ヶ月前の時点(前々年の7月1日)としていたことを改めて、1年前の時点である平成5年1月1日を評価時点としたことは、法の趣旨に合致し、合理的根拠を有する。


 第1審(東京地裁)は、地方税法が「適正な時価」を固定資産税の価格としていること等から、「7割評価通達」の租税法律主義に反するという原告側主張に言及することなく、「適正な時価」に基づく課税が行われるべきであるとし、「7割評価通達」の合理性を容認した。さらに、「適正な時価」は、客観的に観念されるべき価格であるとし、基準日(平成5年1月1日)から賦課期日(平成6年1月1日)までの時点修正率を32%の下落とした上で、7割評価では賦課期日の時価を超える部分があるとし、賦課期日における適正な時価を超える部分の違法を認めた判決を下した。原告の主張により第1審で認容された評価額の減少は金額的にわずかであり、訴訟費用もその大半を(39/40)を原告が負担するものである。(H8.9.11東京地裁平成07(行ウ)235)


評価額決定の実務上の問題から審査委員会が控訴

 被告(審査委員会)は控訴し、「適正な時価」及び「適正な時価の算定基準日」「事情判決の必要性」等について、さらに主張した。固定資産税の価格等は、当年の2月末日までに決定しなければならない(地法410①)。評価額決定までの評価事務の手続的な制約を考慮すると、第1審判決の言う「基準年度の賦課期日での適正な時価」の算定には、容認できない部分があったのだろう。
 控訴人(審査委員会)は、「土地の価格をどのように算定するかについては、土地の評価を行う必要のある制度(地価公示法、相続税法、国土利用計画法、地方税法)の趣旨ごとに評価の方法が決定されており、それぞれの法律に基づいて算出される土地の価格の概念は、当該法律の規定する評価方法によって決定される価格をいう。」と主張した。そして、地方税法(341⑤)に規定する適正な時価は、評価基準に基づいて評価した価格とすることが相当であり、客観的時価による価格をいうものと解すべきではないとしている。
 また、適正な時価の算定基準日について、法は登録価格の基準日を特定しておらず、登録価格の基準日をいつとするかについては、評価基準に委ねていると主張した。
 さらに、本件審査決定を取消すとすると、公の利益に著しい障害を及ぼすことは明らかであり、一方、被控訴人には何らの損害も生じないのであるから、これらの事情を考慮して、「事情判決」を求めている。
 控訴審(東京高裁)は、控訴人主張のように客観的時価と適正な時価とを対立的に判断するものではないとして、また、法349条は、固定資産税の課税標準は基準年度に係る賦課期日(平成6年1月1日)における価格で土地台帳等に登録されたものとすると定めており、文言上、基準年度に係る賦課期日における価格、すなわち適正な時価を土地台帳等に登録し、これを課税標準とする趣旨であることは明らかであるとし、いずれも控訴人の主張を斥けている。
 さらに、事情判決の必要性については、「本判決によっても、被控訴人の登録価格が変更されるに止まり、当然に本件標準宅地甲の価格に基づき算定されたすべての土地の固定資産課税台帳登録価格を変更しなければならないことになるものではなく、・・・・・、本件処分の取消しが公共の福祉に適合しないと認める余地はない。」として控訴人の主張を斥けた。(H10.5.27東京高裁平成08(行コ)118)


「適正な時価」・「基準日」の意義明確化は、類似案件への影響必至

 最高裁では、「適正な時価」「基準日」ともに、原審(東京高裁)の判断を是認し、上告代理人の論旨を斥けた。固定資産税評価額を巡る訴訟は、各地で多数提起されており、固定資産税評価額決定に係る「適正な時価」・「基準日」が明確となった意義は大きなものである。重要な先例が確立されたと見るべきであろう。また、課税当局には、土地価格の変動に対してきめこまやかな評価額を付していく努力が求められることになる。


「審査決定の取消し」ではなく、「違法部分の取消」を容認

 最高裁判決では、審査委員会の価格決定に違法があるとして、「審査決定の取消し」ではなく、客観的な交換価値を超える部分を違法として取消した第一審の判決をそのまま認めている。
 第1審(東京地裁)は、「審査委員会の審査決定に違法がある場合には、常に審査決定の全部を取消して、審査委員会に審査決定を行わせた上で改めて登録価格等の修正手続きとらせるべきであるという見解も成り立つ。」と言及した上で、「違法の理由が審査手続きの違法である場合や内容の違法であっても例外的に審査委員会に審査のやり直しを求めるのが相当である場合を除いては、審査決定のうちの違法な部分のみを取消せば足りるというべきである。」として、審査委員会に審査のやり直しを求めず、超過部分(違法部分)のみを取消した。
 このような判断は、迅速な法的解決が図れるという意味で意義があるが、審査委員会の法的な位置付けが不十分であることを露呈させたものといえる。審査委員会は裁決機関であり、訴訟では審査委員会の決定について争われる(地法434)。原則的に原処分について争われる国税の課税処分とは、争訟の方式が異なるし、その分、審査委員会には当事者能力が認められると考えられている。審査委員会の法的整備・判決による部分取消しの法理解明も本判決が示唆する課題ではなかろうか。


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