税務ニュース2015年03月30日 債務控除否認の更正処分で理由提示不備(2015年3月30日号・№588) 審判所、債務が現に存しないと判断した理由が不明と指摘

債務控除否認の更正処分で理由提示不備
審判所、債務が現に存しないと判断した理由が不明と指摘

審判所、合資会社の無限責任社員であった被相続人の債務弁済責任に係る債務控除を否認した更正処分を理由の提示不備で取消し。
更正等通知書に記載された処分理由は、債務弁済責任に基づく債務が「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの」に該当しない理由を明らかにするものではないと指摘。
 本事案は、請求人らが相続税の申告において、本件被相続人には合資会社の無限責任社員として負っている本件債務弁済責任(会社法580条)があるとして、相続税の課税価格の計算上、本件債務弁済責任を債務として控除したのに対し、原処分庁が、調査の結果、本件債務弁済責任は債務として控除することはできないとして本件各更正処分(不利益処分)を行ったもの。
 本件被相続人は、平成17年3月1日に本件合資会社に入社し、入社から本件相続開始日に死亡による退社をするまで、無限責任社員(平成18年5月3日、代表社員に就任)であり、本件相続開始日において、本件合資会社の無限責任社員は、本件被相続人のみであった。
 争点は、本件各更正等通知書に記載された債務控除に係る処分の理由は、行政手続法14条1項に規定する「不利益処分の理由」として十分な記載といえるかどうか。原処分庁が本件各更正等通知書に記載した処分の理由は、以下となる。
 あなたは、本件申告において、×××(以下「×××」といいます。)の本件相続開始日における債務超過額1,401,816,220円を、同社の無限責任社員である本件被相続人の債務弁済責任に基づく債務であるとして本件相続税の相続財産の価額から控除していますが、本件相続開始日において、本件被相続人が上記1,401,816,220円に相当する債務を負っていたとは認められません。
 したがって、上記1,401,816,220円に相当する債務については、相続税法第13条に規定する「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの」には該当しませんので、債務控除は認められません。
 原処分庁は、行政庁が不利益処分をする際の理由を書面により提示する場合、その理由の提示の程度は、法令等を適用するにあたって根拠となる事実(課税要件事実)が理由として提示されていれば、行政庁の判断過程を検証でき、不服申立てに必要な材料を提供していると解されると主張。本件において提示すべき課税要件事実は、本件被相続人の債務で相続開始の際に現に存するものの金額であり、それに係る適用法令と金額(債務控除額)が提示されていれば、理由提示制度の趣旨目的を充足し、本件各更正等通知書においては、債務控除に関し、適用法令および課税要件事実たる債務控除額が明記されていることから、提示すべき理由として欠けるところはないとした。
 これに対し審判所は、原処分庁が記載した処分理由について、本件合資会社の「無限責任社員である本件被相続人」が負っていた本件合資会社「の本件相続開始日における債務超過額1,401,816,220円」の「債務弁済責任に基づく債務」は、「相続税法第13条に規定する『被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの』には該当し」ないため、同法に規定する「債務控除は認められ」ない旨提示されているとは考えられるものの、当該債務が、「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの」には該当しない理由について明らかにするものではないと指摘。
 当該記載からは、本件相続開始日における本件債務弁済責任に基づく債務が現に存しないと原処分庁が判断した理由が、例えば、①本件合資会社に1,401,816,220円の債務超過額が存しない、②本件被相続人が無限責任社員でない、③本件合資会社の債務超過額はおよそ無限責任社員である本件被相続人の債務ではない、④本件合資会社の債務超過額は無限責任社員の債務ではあるものの、本件においては、会社法581条《社員の抗弁》1項に該当する社員の抗弁の事実があり、無限責任社員の債務として認められるための要件を満たしていない、⑤そもそも、会社法580条1項は、債務を弁済する責任を規定しているにすぎないという法律的な見解を前提として、会社債権者からの弁済請求を受けていない以上、本件被相続人は本件債務弁済責任に基づく債務を何ら負っていないなど、様々な可能性が考えられ、原処分庁による処分(本件各更正処分)の実際の理由が、これらのどれに当たるのか、あるいはこれら以外の理由なのか、不明であるといわざるを得ないとした。
 そのうえで、当該処分の理由は、行政手続法14条1項の規定の趣旨(①原処分庁の判断の恣意の抑制、②名宛人に対する不服申立ての便宜)を満たす程度に提示されたものとはいえず、本件各更正等通知書に記載された本件債務弁済責任に係る債務控除に関する処分の理由には不備があり、本件各更正処分のうち当該債務控除に係る部分は取り消すべきであると判断している。
 なお、本事案では、①本件債務弁済責任は、「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの」(相法13①一)に該当し、かつ、「確実と認められるもの」(同法14①)に該当するか否か、②本件賦課決定処分について、本件各更正処分が従来の公的見解(国税庁HP・質疑応答事例「合名会社等の無限責任社員の会社債務についての債務控除の適用」等)を変更してなされたものとして、「正当な理由があると認められるものがある場合」(通則法65④)に該当するか否かも争われているが、理由の提示不備により債務控除に係る更正処分が取り消されたことにより、審判所の判断は示されていない。

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