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解説記事2020年12月07日 実務解説 配偶者居住権の評価~賃貸併用住宅における評価上の問題点について~(2020年12月7日号・№861)

実務解説
配偶者居住権の評価
~賃貸併用住宅における評価上の問題点について~
 税理士 竹内陽一
 公認会計士・税理士 有田賢臣


 令和2年7月に国税庁より、「配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例」(資産課税課情報第16号)が公表され、配偶者居住権の相続税評価額について、具体的な評価方法が示されている。
 配偶者居住権の評価方法を簡単に俯瞰すると共に、賃貸併用住宅における配偶者居住権の相続税評価額の評価上の問題点について整理する。

Ⅰ 配偶者居住権の民法上の評価方法・評価額

 会計士・税理士が、日々、実務で取り扱っている取引相場のない株式の評価と同様に、配偶者居住権の評価方法・評価額も、当事者間で合意を得るための評価額(ここでは「民法上の評価額」という。)と、相続税法上の評価額に大きく分けることができる。
 不動産の鑑定評価には様々な方式があるように、配偶者居住権の価額の算定方法についても様々な方式が検討されており、例えば、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会は、配偶者居住権の評価方法の1つの在り方として、配偶者居住権の価額を、「居住建物の賃料相当額」から「配偶者が負担する通常の必要費」を控除した価額に、存続期間に対応する複利年金現価率を乗じて評価するという考え方を示している(図表1参照)。

 共同相続人間で配偶者居住権の評価額(民法上の評価額)について争いがある場合には、このような評価方法によることになるものと考えられる。
 この資料で示されている評価方法は、株式の評価方法としても用いられている収益還元法であり、算式を理解すること自体はそれほど難しくないと思うが、評価対象物件の賃料や住宅価格などの見積りが必要であり、不動産鑑定士に評価を依頼するのが素直な対応と思われる。
 一方で、専門家以外の者には賃料相当額の算定が困難であるとして、法制審議会民法(相続関係)部会において、当事者が目安として利用する簡易な計算方法を示している(図表2参照)。

 この簡易な評価方法は、民法上の評価額を算定するにあたり、当該方法を用いることについて相続人全員の合意がある場合に利用されることを想定したものである。当然のことながら、相続人全員の合意があるのであれば、配偶者居住権の相続税評価額(相続税法上の評価額)を参考にして遺産分割協議をすることもあり得る。

Ⅱ 配偶者居住権の相続税法上の評価方法・評価額

 実務では、「配偶者居住権等の評価明細書」を作成することで、配偶者居住権及び所有権の価額を評価できる(図表3参照)。

 民法上の評価方法(簡便法)と同じ算式であるが、配偶者居住権を評価した上で、配偶者居住権付所有権を差引きで求めており、評価の順番が逆である。その理由は、相続税評価上は、居住建物に賃貸部分があった場合、賃貸部分の価額は配偶者居住権に反映させず、配偶者居住権付所有権に全て反映させることとしたからである。
 ここで、質疑応答事例の具体的計算例を見てみよう。前提条件が揃っているため比較すると評価上の留意点を理解しやすい。
①「12 配偶者以外の相続人が居住建物及びその敷地を取得した場合」
 居住建物(2階建一軒家)の1階・2階ともに居住用に利用しているというような、オーソドックスな場合の配偶者居住権の評価方法が示されている。

②「15 居住建物が店舗併用住宅である場合」
 居住建物(2階建一軒家)の1階を店舗として利用し、2階を居住用に利用している場合の配偶者居住権の評価方法が示されている。質疑応答事例では「設例のように、居住建物の一部が事業用である場合、当該事業用部分については、前述の賃貸部分とは異なり、配偶者が配偶者居住権に基づく使用・収益をすることが可能です。こうしたことから、相続税法上も、居住建物の事業用部分を配偶者居住権や敷地利用権の評価額の計算の基礎となる金額から除くこととはされていません。」としており、1階・2階ともに居住用に利用している場合と全く同じ評価方法・評価額となる。
③「20 賃貸あり(居住建物及びその敷地の共有なし)の場合」
 居住建物(2階建一軒家)の1階を賃貸用として利用し、2階を居住用に利用しているような場合の配偶者居住権の評価方法が示されている。

 このように賃貸部分を除いて配偶者居住権を評価する理由として、質疑応答事例11頁では次のように説明されている。(下線は筆者)

……居住建物の一部が賃貸用である場合には、配偶者居住権の評価額の計算の基礎となる金額から賃貸の用に供されている部分を除くこととされています。これは、配偶者居住権は、民法上、居住建物の全部に及ぶこととされているところ(民法1028①)、居住建物の一部が貸し付けられている場合には、配偶者は相続開始前からその居住建物を賃借している賃借人に権利を主張することができない(対抗できない)ため、実質的に配偶者居住権に基づく使用・収益をすることができない部分を除いて評価する必要があるためです。
 すなわち、居住建物の一部が賃貸用である場合においても、仮に上記(1)のように「居住建物の時価」を基礎として配偶者居住権の評価額を計算すると、賃貸の用に供されている部分が配偶者居住権の評価の対象に含まれてしまい、配偶者居住権の評価の計算上、合理的であるとは言えません。

 確かに、法務省民事局民事法制管理官の著書である「一問一答 新しい相続法 商事法務(以下、「一問一答」という。)」16頁(Q10)では、次のように解説されている。

 被相続人が居住建物の一部を第三者に賃貸していた場合でも、配偶者は配偶者居住権を取得することが可能である。配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物の所有者との関係では、第三者に賃貸されている部分も含め、居住建物の全部について使用及び収益をすることができる権利を取得する。
 もっとも、建物賃貸借においては建物の引渡しが対抗要件となるところ(借地借家法第31条)、このような事例では、通常、賃借人が先に引渡しを受けているものと考えられることから、配偶者は、その賃借人に対しては、配偶者居住権による使用収益権限を対抗することができないことになるものと考えられる。
 このような場合には、一般的には、賃借人は、賃貸人たる地位を承継した居住建物の所有者に対して賃料を支払うこととなる。

 しかし、この解説は、既存の賃借人との関係においては、建物所有者が賃料を受領すると説明されているに過ぎない。
 建物所有者と配偶者との関係では、配偶者居住権の使用収益権限は建物全体に及ぶ(民1028①)ことから、建物所有者は取得した賃料を配偶者に交付する義務を負うものと考えられる。賃貸人たる地位は建物所有者が承継するが、建物所有者は配偶者居住権という制限が付された所有権を有しているに過ぎない。建物所有者は、法律上の原因なく他人(配偶者)の財産(配偶者居住権)によって利益を受けたものとして、不当利得返還義務(民703)が生じている(税務弘報2020年12月 「配偶者居住権の相続税評価」 弁護士・税理士 坂田真吾 参照)。
 また、一問一答の20頁(Q14)では、次のように解説されている。

 配偶者は無償で居住建物の使用及び収益をすることができ(第1028条第1項本文)、居住建物の所有者はこれを受忍すべき義務を負う。もっとも、配偶者は、使用貸借契約の借主等と同様に、居住建物の所有者の承諾を得なければ、第三者に居住建物を使用又は収益させることはできないこととしているから(第1032条第3項)、実際には居住建物の使用権限を有するに過ぎず、配偶者の意思のみで居住建物の収益をすることができる場合はほとんど想定することができない。

 この解説も、賃貸部分には配偶者居住権が及ばないと早とちりしそうな文章であるが、建物所有者は配偶者の使用収益を受忍すべき義務があり、そして、『逆に言えば、配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得れば、第三者に居住建物の使用又は収益をさせることができる』のである(一問一答23頁(Q15))。
 既存の賃借人が退去し、新たに賃借する場合には、建物所有者の承諾を得れば、配偶者が賃貸人としての地位を有し、配偶者が新規の賃借人から賃料を直接取得することとなる。配偶者居住権の及ぶ範囲が、既存の賃借人と新規の賃借人で異なるという解釈は合理的ではなく、この点からも、賃貸部分には配偶者居住権が及ばないとする相続税法上の評価方法は間違いと言わざるを得ない。
 その一方で、賃貸併用住宅でも、配偶者は居住場所さえ確保できればよく、賃料は建物所有者が取得すれば良いと考え、当事者間でその(暗黙的・明示的)合意ができていることも少なくないと想定される。民法が、配偶者居住権の効力が建物全体に及び、配偶者が賃料も取得できるとしたことについては、配偶者の居住権の確保という趣旨から逸脱していないのかと疑問に思わずにいられないし、そのように規定した理由として「建物の一部について登記をすることを認めることが技術的に困難であること等(一問一答15頁(Q9))」と説明されても納得できるものではない。
 相続税法施行令5条の8を改正すべきか、民法1028条を改正すべきかは判断がつかないが、整合性のある規定となることが望まれる。
 当事者間の合意があれば、賃料を配偶者と建物所有者のいずれが取得しようとも民法上の問題は生じないのだから、配偶者居住権の相続税評価額についても、賃貸部分には配偶者居住権が及ばないという画一的な取扱いとせず、その合意に基づいて選択的に評価することを可能とすることはできないのだろうか。
 なお、配偶者が店舗併用住宅で事業を営み事業所得を申告する場合や、配偶者が賃料を得て不動産所得を申告する場合において、当該居住建物の減価償却費を必要経費に算入できるか明確ではない。所得税法49条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)では、「居住者のその年十二月三十一日において有する減価償却資産につき……」とされているため、居住建物の所有者ではない配偶者が、信託財産に係る所得税法13条と同様の規定なしに減価償却費を必要経費に算入できるのかという疑問が生じるからである。譲渡所得の取得費の計算においては、所得税法60条(贈与等により取得した資産の取得費等)により、建物を所有していない配偶者にも、配偶者居住権割合に応じた取得費の計上が認められており、事業所得や不動産所得に係る必要経費についても立法による手当が望まれる。

■配偶者居住権の早見表

適用関係 令和2年4月1日以降の相続から
意義  配偶者居住権とは、配偶者の居住建物の全部を対象として、終身又は一定期間、配偶者が無償で使用・収益できる権利のこと(民1028①)。
※内縁者は、配偶者居住権を取得できない(一問一答P.11)。
※配偶者居住権に基づき居住建物の使用・収益をする場合には、それに必要な限度で敷地を利用することができる(一問一答P.20)。
※遺留分侵害額や具体的相続分の算定から配偶者居住権が除外されるわけではない。ただし、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方に配偶者居住権が遺贈された場合、その遺贈については持戻し免除の意思表示(民903④)があったと推定される(民1028③)。
取得要件 □被相続人が所有していた居住建物であること(民1028①)。
□配偶者が相続開始時に、その建物に居住していたこと(民1028①)。
※配偶者が相続開始時に一時入院していた場合でも生活の本拠としての実態があれば居住していたということができる(一問一答P.11)。
※被相続人所有の建物が店舗兼住宅であったとしても、配偶者が建物の一部に居住していれば「居住していたこと」になる(一問一答P.15)。
□その建物が、被相続人と配偶者以外の者との共有でないこと(民1028①ただし書)。
□遺産分割・遺贈・死因贈与・家庭裁判所の審判により取得すること(民1028①、1029)。
※特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)では配偶者居住権を設定できないこととしている(一問一答P.14)。
※後妻に配偶者居住権を、先妻の子に建物所有権を遺贈することにより、後継遺贈と同様の効果を生じさせることができる(一問一答P.10)。
存続期間  特段の定めがなければ、配偶者が死亡する時まで。存続期間を定めることもできる(民1030)。
※存続期間を定めた場合、配偶者は、その期間満了時に居住建物を明け渡す義務を負う(民1036、597①)。
登記  建物所有者は、配偶者に対して、配偶者居住権の設定の登記の義務を負う(民1031①)。
※登記をしなくても配偶者居住権は成立するが、登記をしなければ第三者に対抗できない(民1031②、民605)。
※登録免許税=建物固定資産税評価額×0.2%
※(司法書士からのアドバイス)建物所有者である息子が母より先に亡くなり、仲の悪い嫁が建物所有者になるケースを想定すると、登記しておいたほうが良い。嫁は息子の地位を引き継ぐため第三者に該当しないが、嫁が居住建物を売却した場合、母はその買主(第三者)に配偶者居住権を主張することができない。
配偶者の義務 ①用法順守義務
 居住の用に供していた部分を営業の用に供することは、用法遵守義務違反となる(一問一答P.20)。一方、居住の用に供していなかった部分を居住の用に供することは妨げられない(民1032①ただし書)。
②善管注意義務
 自己のものと同一にする注意義務ではなく、他人のものを管理する善良な管理者の注意義務をもって居宅を使用することが要求される。
禁止事項 ①譲渡の禁止
 配偶者居住権は一身専属権であるため、配偶者居住権の帰属主体は配偶者に限定され、配偶者はこれを譲渡することができない(民1032②)。
※建物所有者が買い取ることは可能。
②増改築の禁止
 配偶者は、従前の用法に従って居住建物を使用収益しなければならないため、基本的に増改築はできない。居住の用に供していなかった部分について、居住の用に供するような場合においても、建物所有者の承諾なく増改築することは認められない(民1032③)。
③第三者に居住建物を使用又は収益させることの禁止
 配偶者は、建物所有者の承諾なく第三者に居住賃貸を使用又は収益させることはできない(民1032③)。なお、居住建物の収益とは、居住建物を賃貸して利益を上げることなどをいい、居住建物の一部で小売店や飲食店を営業することは、基本的には収益に当たらないと解される(一問一答P.22)。
※建物所有者の承諾があれば、第三者に賃貸することが可能。
※配偶者の同居人は第三者にあたらない(一問一答P.24)。
消滅事由  配偶者居住権の消滅原因には、①存続期間満了(民1036、597①)、②建物所有者の消滅請求(民1032④)、③配偶者の死亡(民1036、597③)、④建物の全部滅失等(民1036、616の2)、⑤存続期間中の合意解除等がある。
 配偶者居住権は一身専属権であるため、配偶者の死亡により当然に消滅して、相続の対象にもならない(民1036、597③)。
居住建物の
修繕等
 建物所有者は配偶者に対して修繕義務を負わず、居住建物の通常の必要費となる修繕費用も配偶者の負担となる(民1034①)。そこで、配偶者に修繕の一時的な権限を付与し、配偶者が修繕をしない場合に限り、建物所有者に修繕権を付与している(民1033①②)。
 建物所有者は、実際に居住建物を使用しておらず、修繕を要する状態になっていることに気付かないこともある。そこで、居住建物が修繕を要し、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は建物所有者に対し、遅滞なくその旨の通知をしなければならない(民1033③本文)。
居住建物の
費用負担
 配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する(民1034①)。

(通常の必要費の範囲)
①居住建物の保存に必要な通常の修繕費
②居住建物やその敷地の固定資産税
 固定資産税の納税義務者は建物所有者になると考えられる。そのため、固定資産税を納付した建物所有者は、配偶者に対して求償できる。
③損害保険料
 火災等に備えて支払う損害保険料は、通常の必要費とは異なることから、建物所有者が負担すべき費用と考えられる。しかし、失火について善管注意義務違反がある場合、配偶者は賠償義務を負うので(民1032)、配偶者も火災保険に加入しなければならない。
 通常、火災保険契約の被保険者は建物所有者であるが、配偶者と建物所有者の両者を保険契約者・被保険者として、いわば共有者のような形で火災保険契約を締結し、通常の建物(配偶者居住権がない状態)の価額で被保険利益を評価して保険価額を算定する方法が考えられる(商事法務No.2243)。
④その他
 不慮の風水害により家屋が損傷した場合の修繕費や、区分所有マンションの修繕積立金は建物所有者が負担すべき費用と考えられる。
 配偶者がバリアフリー化するためのリフォーム費用等の有益費(建物の改良のための費用)を支出した場合、配偶者は建物所有者に対して、現存価値相当分について償還請求ができる(民1034②、583②)。
短期居住権  配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合は、相続開始時から6ヶ月を経過する日(この日以降に遺産分割により帰属が確定した場合はその確定の日)までの間、又は建物の所有権を相続・遺贈により取得した者が「短期居住権の消滅」の申し入れをした日から6ヶ月を経過する日までの間、配偶者がその建物を無償で使用することができる権利をいう(民1037)。なお、配偶者短期居住権には財産性はない。

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