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解説記事2020年12月28日 解説 IFRS財団によるサステナビリティ報告基準の開発と今後の展望(2020年12月28日号・№864)

解説
IFRS財団によるサステナビリティ報告基準の開発と今後の展望


 IFRS財団は、9月30日に「サステナビリティ報告に関する協議ペーパー」(以下、協議ペーパー)を公表し、12月31日を締切りとして意見募集を行っている。
 協議ペーパーでは、サステナビリティ報告基準が乱立している状況を踏まえ、国際会計基準(IFRS)の開発を担ってきたIFRS財団に対して、統一的なサステナビリティ報告基準開発の期待が寄せられていることから、その可能性を検討している。
 考えられる選択肢として、(1)現状を維持する、(2)既存の取組みの進行役となる、(3)サステナビリティ基準審議会(Sustainability Standards Board; SSB)を設置して既存の取組みと協力しそれらの作業を基礎とする基準設定主体となる、の3つを提示し、IFRS財団としては(3)を支持し、SSBのあり方を展開している。

基準開発の対象

 基準開発の対象について、協議ペーパーでは「SSBの目的は、最初は気候関連リスクに焦点を当てたサステナビリティ報告基準の国際的なセットを開発し、維持管理することにある」(24項)としている。
 気候変動は、非財務要素の中でも最も投資家の関心が強く、緊急性の高いテーマであるとともに、TCFD提言等既に多くの基準が開発されており、国際的に統一した基準を作るという観点で、最優先で取り組むべきテーマであると考えたようだ。
 現在EUではグリーンディールの掛け声の下で様々な関連する施策(タクソノミ等)が展開されている。米国でも次期大統領が民主党のバイデン氏にほぼ確定し、今後パリ協定への復帰など環境政策の大幅な転換が予想され、サステナビリティ報告基準開発のルールメイキングにおいても攻勢をかけてくることが予想される。わが国としてもSSBへの積極的な関与が求められる。

マテリアリティ

 基準開発のマテリアリティ(重要性)について、協議ペーパーでは、「SSBがダブル・マテリアリティ・アプローチを開始することは、作業の複雑性を大きく増大させることになり、基準の採用に影響を与えたり遅延させたりする可能性がある。……設立することとなった場合、SSBは、最初は、投資者及び他の市場参加者にとって最も目的適合性のあるサステナビリティ情報に注力することになるであろう」(50項)としている。SSBは当面、投資家・資本市場関係者の関心の強い企業が環境や社会から受ける影響に着目した基準開発を行い(シングル・マテリアリティ)、企業が環境や社会に与える影響を含んだ基準開発(ダブル・マテリアリティ)は追求しない方針である。
 この方針は、IFRS財団が、投資家・資本市場向けに、企業の財務にどのような影響を及ぼすかとの視点で国際会計基準(IFRS)を開発してきた経緯を踏まえると、妥当なものだろう。一方、国際的には、投資家や資本市場関係者のみならずマルチステイクホルダー向けに、企業が環境や社会に及ぼす影響の開示を求める声が大きくなっており、そのような声が高まっていけば、SSBにおける検討課題として俎上に上がる可能性も十分にあり得るだろう。特に、EUは、IFRS財団に対して、SSBでダブル・マテリアリティの基準作りを要求しており、将来的には、十分に考えられるシナリオと言えるだろう。

保証・監査

 サステナビリティ報告の保証・監査について、協議ペーパーでは、「国際的に一貫したサステナビリティ報告の実務を達成するためには、企業が報告するサステナビリティ情報は、最終的には外部の保証の対象となる必要がある」(52項)としている。
 しかし、監査を含めた保証のあり方は各国規制当局が定めるものであり、基準設定主体が言及するのは筋違いだろう。また、サステナビリティ報告の監査の手法は国際的にも確立しておらず、監査現場の混乱は必至だろう。非財務情報を監査対象とすれば、各社の自由な開示が阻害され無味乾燥な内容になってしまうだろう。このように、サステナビリティ報告の監査は課題が多く、IFRS財団もそれを認識しているため、監査を前提としないかたちで基準開発が進むことが想定される。
 しかし、将来的に、SSBの作る基準が世界的に広まりグローバルスタンダードとなれば、基準の適用に当たり、IFRS財団が各国に監査を含めた保証を求めることは想像に難くない。

今後の展開

 協議ペーパーへの意見照会は年末で締め切られる。IFRS財団は、そこで出された意見を分析して次のステップに進む。SSBにおけるサステナビリティ報告基準開発の方針が固まれば、IFRS財団は、会計基準以外にサステナビリティ報告基準についても基準開発の対象とできるよう、IFRS財団の定款を書き換える作業に入る。公開草案を経て成案とすると考えられるので相応の時間がかかる。そのうえで、SSBやそのアドバイザリーボード等の人選や各国からの資金拠出について協議し、かかる人選や資金拠出に目途がつけば、晴れてSSBが稼働するということになるだろう。それまでには相応の期間を要するのではないか。
 その間、SSBにおけるサステナビリティ報告基準策定の主導権をどの国がとるのか、激しい綱引きが行われることは想像に難くない。国際会計基準(IFRS)の開発は当然重要だが、投資家を含めた関心(マテリアリティ)は非財務報告にも移っているのは疑いようがなく、非財務報告についてのルールメイキングを主導したいとの思いは各国持っているだろう。とりわけ、欧州・中国の関心は非常に高い。米国も環境政策に熱心なバイデン氏が次期大統領の座をほぼ確実にしたことから、米国も強い関心を示すことは間違いない。わが国は、金融庁や財務会計基準機構が主導して、既にSSBの基準開発を支持する声明を出しているが(脚注1)、実際にSSBの基準開発に食い込み、その強みを基準開発に活かすためには、人的・資金的貢献も含めた前向きな姿勢で臨むことが必要になろう。

脚注
1 IFRS対応方針協議会のコメント URL:https://www.asb.or.jp/jp/ifrs/ifrs_council/2020-1130.html

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