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解説記事2021年01月11日 解説 監査基準・中間監査基準の改訂について(2021年1月11日号・№865)

解説
監査基準・中間監査基準の改訂について
 金融庁企画市場局企業開示課課長補佐 中野寛之
 金融庁企画市場局企業開示課係長 水島達哉
 金融庁企画市場局企業開示課 斉京憲治

一  経  緯

1 「その他の記載内容」について

 令和2(2020)年11月、企業会計審議会は、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容(以下、「その他の記載内容」という。)やリスク・アプローチに関する論点について審議を行い、監査基準及び中間監査基準(以下「監査基準等」という)を改訂した。本稿では、改訂の経緯及びその内容を紹介したい。なお、意見にわたる部分はすべて私見である。
 近年、企業会計審議会は、財務諸表利用者に対して監査に関する説明・情報提供を充実させる観点から、監査基準の改訂を行ってきた。具体的には、平成30(2018)年7月には、監査報告書において「監査上の主要な検討事項(KAM)」の記載を求めることについて、その翌年の令和元(2019)年9月には監査報告書において限定付適正意見とした根拠の理由の記載を充実させること等について、監査基準の改訂を行ってきたところである。
 このような中、近時、我が国では、企業の任意の開示書類や有価証券報告書等の法定開示書類において、経営者による財務諸表以外の情報の開示の充実が進んでいる。これまでも、財務諸表とともに開示される財務諸表以外の情報において、財務諸表の表示やその根拠となっている数値等との間に重要な相違があるときには、監査人が表明した適正性に関する結論に誤りがあるのではないかとの誤解を招くおそれがあることから、当該相違を監査報告書に情報として追記することとされていたが、その取扱いは必ずしも明確ではなかった。
 今後、財務諸表以外の情報の開示のさらなる充実が期待される中、当該情報に対する監査人の役割の明確化、及び監査報告書における情報提供の充実を図ることの必要性が高まっている。とりわけ、監査人が当該情報について通読し、当該情報と財務諸表又は監査人が監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかについて検討し、その結果を監査報告書に記載することには、監査人の当該情報に係る役割の明確化を図るとともに、監査の対象とした財務諸表の信頼性を確保するという効果も期待される。
 こうした問題意識を踏まえ、その他の記載内容について、監査人の手続を明確にするとともに、監査報告書に必要な記載を求めることとした。

2 リスク・アプローチの強化について

 リスク・アプローチに基づく監査は、重要な虚偽の表示が生じる可能性が高い事項について重点的に監査の人員や時間を充てることにより、監査を効果的かつ効率的に実施できることから、平成3(1991)年の監査基準の改訂で採用したものである。また、平成14(2002)年の監査基準の改訂で、固有リスク、統制リスク、発見リスクという三つのリスク要素と監査リスクの関係を明らかにし、リスク・アプローチに基づく監査の仕組みをより一層明確にした。さらに、平成17(2005)年の監査基準の改訂では、監査人の監査上の判断が財務諸表の個々の項目に集中する傾向があり、経営者の関与によりもたらされる重要な虚偽の表示を看過する原因となるとの指摘を踏まえ、「事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチ」を導入し、固有リスクと統制リスクを結合した「重要な虚偽表示のリスク」の評価、「財務諸表全体」及び「財務諸表項目」の二つのレベルにおける評価等の考え方を導入した。
 しかしながら、近年、公認会計士・監査審査会の検査結果においてリスク評価及び評価したリスクへの対応に係る指摘がなされていることに加え、会計基準の改訂等により会計上の見積りが複雑化する傾向にあり、財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクの評価がより一層重要となってきている。また、国際的な監査基準においても、実務において、特別な検討を必要とするリスクの識別に一貫性がない、会計上の見積りの複雑化への対応が必要であるなどの指摘がなされたことから、会計上の見積りに関する監査基準の改訂、特別な検討を必要とするリスクの評価を含め、重要な虚偽表示のリスクの評価の強化が図られたところである。こうした動向を踏まえ、我が国においても、国際的な監査基準との整合性を確保しつつ、監査の質の向上を図ることが必要であると判断した。
 こうした状況を踏まえ、企業会計審議会は、「その他の記載内容」及びリスク・アプローチに関する論点について審議を行い、令和2(2020)年3月の公開草案に対する意見募集を経て、同年11月に監査基準の改訂を行った。

二  監査基準の主な改訂点とその考え方

1 「その他の記載内容」について

(1)監査報告書における「その他の記載内容」に係る記載の位置付け
 改訂前の監査基準では、監査人が監査した財務諸表を含む開示書類における当該財務諸表の表示と「その他の記載内容」との間の重要な相違は、監査人の意見とは明確に区別された監査報告書の追記情報の一つとされていた。
 この点、今回の改訂においても、監査人は「その他の記載内容」に対して意見を表明するものではなく、監査報告書における「その他の記載内容」に係る記載は、監査意見とは明確に区別された情報の提供であるという位置付けを維持している。また、監査報告書において記載すべき事項を明確にすることで、監査人の「その他の記載内容」に係る役割をより一層明確にした。
(2)「その他の記載内容」に対する手続
 今回の改訂では、監査人は、「その他の記載内容」を通読し、「その他の記載内容」と財務諸表又は監査人が監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかについて検討することを明確にした。
 その際、監査人が監査の過程で得た知識には、入手した監査証拠及び監査における検討結果が含まれるが、「その他の記載内容」の通読及び検討に当たって、新たな監査証拠の入手が求められるものではない。
 なお、監査人は、「その他の記載内容」の通読及び検討に当たって、財務諸表や監査の過程で得た知識に関連しない内容についても、重要な誤り(脚注1)の兆候に注意を払うこととなる。
 その結果、監査人が、上記の重要な相違に気付いた場合や、財務諸表や監査の過程で得た知識に関連しない「その他の記載内容」についての重要な誤りに気付いた場合には、経営者や監査役等と協議を行うなど、追加の手続を実施することが求められる。この追加の手続を実施しても当該重要な誤りが解消されない場合には、監査報告書にその旨及びその内容を記載するなどの適切な対応が求められる。
(3)「その他の記載内容」の記載
 監査人は、監査報告書に「その他の記載内容」の区分を設け、以下の事項を記載することとなる。
・「その他の記載内容」の範囲
・「その他の記載内容」に対する経営者及び監査役等の責任・「その他の記載内容」に対して監査人は意見を表明するものではない旨(脚注2)
・「その他の記載内容」に対する監査人の責任
・「その他の記載内容」について監査人が報告すべき事項の有無、報告すべき事項がある場合はその内容
 なお、財務諸表に対し意見を表明しない場合においては、「その他の記載内容」についての重要な誤りの有無を監査報告書に記載し、財務諸表の一部についての追加的な情報を提供することは、当該記載と財務諸表全体に対する意見を表明しないという監査人の結論との関係を曖昧にするおそれがあるため、「その他の記載内容」について記載しないことが適当である(脚注3)。
 また、監査報告書日までに「その他の記載内容」の全部又は一部を入手できなかった場合、監査人は、今後入手する予定の「その他の記載内容」を記載することが考えられる。この場合、監査人は入手後の「その他の記載内容」に対し、上記(2)に記載している通読、検討を実施する必要がある。
(4)経営者・監査役等の対応
 経営者は、「その他の記載内容」に重要な相違又は重要な誤りがある場合には、適切に修正することなどが求められる。また、監査役等は、「その他の記載内容」の報告プロセスの整備及び運用における取締役の職務の執行を監視する責任があることから、「その他の記載内容」に重要な相違又は重要な誤りがある場合には、経営者に対して修正するよう積極的に促していくことなどが求められる。

2 リスク・アプローチの強化について

(1)リスク・アプローチに基づく監査
 今回の改訂では、財務諸表全体レベルにおいて固有リスク及び統制リスクを結合した重要な虚偽表示のリスクを評価する考え方を維持しつつ、財務諸表項目レベルにおいては、固有リスクの性質に着目して重要な虚偽の表示がもたらされる要因などを勘案することが、重要な虚偽表示のリスクのより適切な評価に結び付くことから、固有リスクと統制リスクを分けて評価することとしている。(詳細は下記(2))。
 さらに、特別な検討を必要とするリスクについては、固有リスクの評価を踏まえた定義とした。(詳細は下記(3))。
 加えて、会計上の見積りについては、上記のとおり重要な虚偽表示のリスクの評価に当たり、固有リスクと統制リスクを分けて評価することを前提に、リスクに対応する監査手続として、原則として、経営者が採用した手法並びにそれに用いられた仮定及びデータを評価する手続が必要である点を明確にしている。また、経営者が行った見積りと監査人の行った見積りや実績とを比較する手続も引き続き重要である。
 なお、今回の改訂に係る部分を除いて、平成14(2002)年及び平成17(2005)年の改訂における「監査基準の改訂について」に記載されているリスク・アプローチの概念や考え方は踏襲されていることに留意が必要である。
(2)財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクの評価
 財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクを構成する固有リスクについては、重要な虚偽の表示がもたらされる要因を勘案し、虚偽の表示が生じる可能性と当該虚偽の表示が生じた場合の影響を組み合わせて評価することとしている。なお、この影響には、金額的影響だけでなく、質的影響も含まれることに留意が必要である。
(3)特別な検討を必要とするリスクの定義
 改訂前の監査基準では、会計上の見積りや収益認識等の重要な会計上の判断に関して財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事項、不正の疑いのある取引、特異な取引等は、監査の実施の過程において特別な検討を行う必要があることから、特別な検討を必要とするリスクとして、それが財務諸表における重要な虚偽の表示をもたらしていないかを確かめる実証手続の実施などが求められていた。しかし、リスク・アプローチに基づく監査の実施に当たって、財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクを適切に評価することがより一層重要となる中、監査人は、固有リスクに着目をして、特別な検討を行う必要があるか検討する必要がある。そのため、今回の改訂では、財務諸表項目レベルにおける評価において、虚偽の表示が生じる可能性と当該虚偽の表示が生じた場合の影響の双方を考慮して、固有リスクが最も高い領域に存在すると評価したリスクを特別な検討を必要とするリスクと定義することとしている。

三  中間監査基準の主な改訂点とその考え方

 監査基準は中間監査にも準用されるが、中間監査基準では主に中間監査において特有の取扱いが必要な事項に関する指示を明らかにすることとする考え方は変わるものではないことを踏まえ、今般、中間監査基準においても上記二の「2 リスク・アプローチの強化について」と同様の改訂を行っている。
 なお、中間監査は、年度監査と同程度の信頼性を保証するものではないものの、年度監査の一環として実施することから、中間財務諸表に係る投資者の判断を損なわない程度の信頼性を保証する監査という位置付けは変わらないこと、今回の改訂に係る部分を除いて、平成14(2002)年及び平成17(2005)年の改訂における「監査基準の改訂について」及び「中間監査基準の改訂について」に記載されているリスク・アプローチの概念や考え方は踏襲されていることに留意が必要である。

四  適用時期等

 改訂監査基準のうち、「その他の記載内容」については、令和4(2022)年3月決算に係る財務諸表の監査から適用する。ただし、令和3(2021)年3月決算に係る財務諸表の監査から早期適用することもできる(脚注4)。また、リスク・アプローチの強化については、令和5(2023)年3月決算に係る財務諸表の監査から適用する。ただし、それ以前の決算に係る財務諸表の監査から適用することを妨げないとしている。
 また、改訂中間監査基準については、令和4(2022)年9月に終了する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から適用する。ただし、それ以前の中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から実施することを妨げないとしている。
 なお、改訂監査基準及び改訂中間監査基準を実務に適用するに当たって必要となる実務の指針については、日本公認会計士協会において、作成されることとなる。

五  おわりに

 財務諸表監査は、企業の財務諸表の信頼性を担保する上で欠かすことのできない重要な制度である。監査の規範となる「監査基準」は、財務諸表作成の規範である「会計基準」とともに、適正なディスクロージャーを確保するための資本市場の重要なインフラである。今回の監査基準等の改訂により、監査の信頼性が確保されるとともに、開示書類の監査に関する説明・情報提供が充実されることを期待する。


脚注
1 「重要な誤り」とは、重要な相違のうち、「その他の記載内容」が不正確であり、利用者に適切に理解されず誤解を招くような重要な誤りをいい、情報が欠けている場合も含まれる(2020年11月6日 企業会計審議会総会 資料2−3「コメントの概要及びコメントに対する考え方」No.9)。
2 監査基準においては、監査人は意見を表明するとされていることから、「意見を表明するものではない」という表現としている。これは、国際監査基準(ISA)720 22(c) における the auditor does not express(or will not express) an audit opinion or any form of assurance conclusion thereonが示す趣旨と同義と考えている(2020年11月6日 企業会計審議会総会資料2−3「コメントの概要及びコメントに対する考え方」No.16)。
3 監査意見を表明しない場合には、監査報告書に「その他の記載内容」に関する重要な誤りは記載されないが、この場合でも、監査人は、経営者や監査役等に対し、「重要な相違」や「重要な誤り」について指摘することが考えられる(2020年11月6日 企業会計審議会総会 資料2−3「コメントの概要及びコメントに対する考え方」No.8)。
4 「その他の記載内容」に関する適用時期については、「監査上の主要な検討事項」の適用時期と合わせることが有用であり早期に適用すべきとのご意見もあることから、2021年3月決算を早期適用可能とした(2020年11月6日 企業会計審議会総会 資料2−3「コメントの概要及びコメントに対する考え方」No.12)。

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