カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2021年02月08日 特別解説 2020年1月以降に決算期を迎えた欧州企業の監査報告書に記載されたKAM②〜コロナウイルス関連を中心に〜(2021年2月8日号・№869)

特別解説
2020年1月以降に決算期を迎えた欧州企業の監査報告書に記載されたKAM②
〜コロナウイルス関連を中心に〜

はじめに

 本稿では、前回に引き続き、2020年1月以降に決算期を迎えた欧州企業の監査報告書に記載されたKAMを、コロナウイルス関連のものを中心に紹介していきたい。

マークス・アンド・スペンサー社の監査報告書(2020年3月期)に記載されたKAM

 まず、英国の伝統ある大手百貨店であるマークス・アンド・スペンサー(M&S)社の監査報告書に記載されたコロナウイルス関連のKAMを紹介したい(会計監査人はデロイト)。

継続企業の前提
(リスク)

 キャッシュフローに裏付けられたグループの継続企業の前提を評価する際に、取締役は、予測される将来の業績及び予想されるキャッシュフローを検討した。そうすることで、取締役は、グループが利用可能な資金調達の手段及び関連する債務の財務制限条項(資金調達の便宜に関連してグループが手に入れた財務制限条項の放棄や、政府による特定の支援スキーム(例えば一時解雇制度や税務上の恩典)を含む、Covid-19パンデミックに対応するためにグループがとることができるコスト削減のための行動を含む。)を検討した。
 当グループは、発行限度額3億ポンドのイングランド銀行のCovidコーポレートファイナンスファシリティ(「CCFF」)を申請し、これは2020年4月23日に受理されたことが確認されたが、継続企業の前提の評価にあたり、取締役はこれに依拠していない。
 取締役はまた、グループの流動性に対する逆ストレステストを含むこれらの予測に対する適切な感応度を決定し、その結果を考慮して結論を出した。進行中のCovid-19パンデミックにより、グループの主要市場である英国の主要でない小売店が強制的に閉鎖されたため、小売業者の閉鎖期間、グループの売上への影響、継続企業の前提にかかる期間を通じて予想されるコスト削減に関連する仮定、感応度を含むキャッシュフロー予測の作成に適用されるより多くの判断を考慮して、取締役は、満期となる負債を履行するのに十分な資金をグループが利用できると結論し、継続企業の前提に関して重大な不確実性はないと結論した。継続企業の前提に関して重大な不確実性がないと結論するために要求される判断の結果、我々は、継続企業を監査上の主要な検討事項として識別した。
 適用される感応度を含む取締役の評価の詳細は、戦略報告書の42−43ページ及び96ページ並びに財務諸表の注記1に記載されている。
(監査上の対応)
 識別された監査上の主要な検討事項に対応するにあたり、以下の監査手続を完了した。
これらのモデルで使用されているインプットと仮定の検討を含む、経営者による継続企業モデルに対する主要な内部統制について理解した。
・Covid-19及び逆ストレステストの影響を含む、経営者が承認した3年間のキャッシュフローの影響を含む予測及び財務制限条項の遵守予測を入手した。
・以下による予測の仮定の適切性を評価するために、社内の専門家を関与させた。
・アナリストレポート、業界データ、その他の外部情報を通読し、これらを経営者の見積りと比較して、経営者の仮定を裏付ける又は矛盾する証拠を提供したかどうかを判断した。
・予測売上高を最近の過去の財務情報と比較して、予測の正確さを検討した。
・コストを削減するための緩和措置について経営者に質問した。
・予測シナリオを作成するために生成された基礎となるデータをテストし、予測の基礎となる仮定を適切に裏付けているかどうかを判断した。
・間接税の恩典やスタッフの一時解雇などの、英国政府による支援を確認するやりとりを検討した。
・財務制限条項の放棄やCCFF基金の利用可能性を含む、グループの資金調達契約の利用可能性に関連するやりとりを検討した。
・予測に織り込まれている項目を超えてグループが利用できるさらなる緩和策の水準を理解し、批判的に検討した。
・実施した逆ストレステストの結果を考慮した。
−継続企業に関するIAS第1号の要求事項にてらして、グループの開示を評価した。

 そして、これらの監査手続を行った結果の主要な所見(Key observations)として、次のように記載されていた。

 継続企業として存続するグループ及び親会社の能力に重大な不確実性はなく、関連する開示は会計基準に準拠しているという取締役の結論に同意した。

ディアジオ社及び、JDスポーツファッション社の監査報告書に記載されたKAM

 英国の大手飲料メーカーであるディアジオ社の監査報告書では、会計監査人であるPwCは、経理業務や監査業務がリモートとなることによる影響(リスク)を次のように記載していた。
(ディアジオ 2020年6月期)Covid-19の影響
(リスク)

 多数のスタッフがリモートで作業をした結果、内部統制の運用を含む経営者の働き方がCovid-19の影響を受けた。例えば、バーチャルな検討会議が対面の会議に取って代わり、特定の在庫カウントが期末日ではなく、期末日の前後に実施されたことを意味する。ITシステムへのリモートアクセスにより必然的にリスクが増大し、サイバーリスクが高まる可能性がある。
(監査上の対応)
 我々は、Covid-19の影響から生じる内部統制上の示唆を評価するために、次のような手続を追加的に実施した。
・ITの運用及び業務プロセスの内部統制に関して質問を実施した。
・サイバーリスクの高まりを与件として、サイバーリスクへの露出を緩和するために経営者が実施している方針と手続を詳細に評価した。
・経営者が計画している内部統制又は監視活動の運用に変更があったかどうかを理解するために、追加の手続を実施するように構成単位(例えば子会社等)の監査人に指示した。
・質問と監査手続を実施した結果、統制環境が大幅に劣化しているという証拠は確認されなかった。
・ビデオ会議とリモート調書レビューを活用することにより、我々は構成単位の監査チームに対する監視の頻度と範囲を増やし、重要な構成単位で実施された監査業務の適切性について十分に検討した。
・在庫のカウントに関しては、経営者が期末日にカウントを実施しなかった場合、我々はさまざまな時点でカウントを実施し、その結果を2020年6月30日にロールバック又はフォワードするための追加手続を実施した。特定の場所での在庫カウントについては、ライブビデオフィードを使用してバーチャルで参加し、我々が必要とした水準の裏付けと証拠を入手した。
・当法人は、現在の環境の影響及び特定の会計上の見積りに対する不確実性の増大に関して、財務諸表における経営者の開示の適切性を検討し、これらが適切であると考えた。
 JDスポーツファッション社は、スポーツ・レジャーウェアの小売チェーンを展開する英国の企業である。同社の2020年1月期の監査報告書にKAMを記載した会計監査人はKPMGであった。
 KPMGは、コロナウイルスの影響の不確実性と、財務及び事業の業績に対する状況が急速に変化するという性質を考えると、考えられる影響の全範囲は不明であるとしつつも、グループ及び親会社が利用可能な財源に影響を与える可能性が最も高いリスクとして、次のものを挙げた。

・Brexitの影響
・コロナウイルス及び/又はBrexitの結果として会社の資金源が急速に減少することに起因して発生する可能性のある、顧客又はサプライヤーからの信頼度の低下
・コロナウイルス及び/又はBrexitの結果として発生する可能性のある一般的な景気後退
・市場の需要と競合他社からの圧力の高まり
・外国為替レートの不利な変動
・グループの成長に伴う運転資金の需要

 これらのリスクに対する監査上の対応(監査手続)としては、次のように記載されていた。
(監査上の対応)
・資金調達の評価:
グループが財務制限条項に違反するリスクがあるかどうかを確認するために、借入契約の遵守状況を評価し、現金の利用可能性とキャッシュフロー予測とを検討して、仮定が現実的で達成可能であり、外部及び内部環境と整合しているかどうかを判断した。
・過去との比較:達成された実際の業績との比較において、前年度の経営者による予測や過去の予測の正確さを検討した。
・感度分析:個別に及び集合的に識別されたリスクから生じる可能性のある、合理的に起こり得る(非現実的ではない)悪影響を考慮して、グループの財務予測によって示される財源のレベルに対する感度を検討した。
・取締役の意図の評価:リスクが顕在化した場合に、ポジションを改善するために取締役がとると考える行動を評価した。
・透明性の評価:全体像をリスクに対する我々の理解と比較することにより、継続企業の開示で網羅されている事項の網羅性と正確性を評価した。

 これらのリスク認識と監査手続を踏まえた結果(Results)の最後に、「ただし、企業にとっての未知の要因や将来起こりうるすべての影響を予測するような監査は期待されるべきではない。これはコロナウイルスやBrexitに関連する場合が特に当てはまる。」と記載されていたのが印象的であった。

スコティッシュ・アンド・サザン・エナジー(SSE)の監査報告書に記載されたKAM(監査人交代の初年度)

 監査報告書に記載されるKAMの項目としては、有形固定資産の減損やのれんの評価、税務上のポジションの不確実性等、会計上の見積りに関連する項目が選ばれることが多いが、前回、コロナウイルスに関連するKAMでも取り上げたスコティッシュ・アンド・サザン・エナジー(SSE)社の監査報告書(2020年3月期)では、監査初年度の移行(First year audit tran-sition)」という項目がKAMの1つとして記載された。欧州においては、監査法人の入札制度やローテーションの制度がすでに定着しており、会計監査人が交代することは珍しくないが、監査人の交代に関する留意事項や実施した手続等を、後任の監査人がKAMとして記載する事例は珍しいと思われる。なお、SSE社の前任の会計監査人はKPMGであり、監査報告書にKAMを記載した後任の会計監査人はE&Yであった。
 KAMとして記載されたリスク、及び監査上の対応は次のとおりであった。

(リスク)
 2020年3月31日に終了した事業年度は、当社グループの会計監査人としては初年度である。
 2019年7月18日に、会社が年次株主総会で当法人を正式に会計監査人として選任した後、我々は監査計画手続を開始した。
 期首貸借対照表に対する監査手続及び期中レビューの手続において、我々はグループ財務諸表に関連する過年度修正を多数識別した。それらは財務諸表の注記1〜3に開示されている。そのため、我々は、計画していた監査アプローチを修正した。それには、リスク評価の改善や重要性の基準値の再評価が含まれる。
 監査の移行活動にグループ監査チームが大きく関与すること、及び我々が当初計画したアプローチが改善されたことを前提として、我々は監査初年度の移行を、監査上の主要な検討事項と考えた。

(監査人による対応)
 我々は会計監査人に選任されて以来、初年度の移行活動や期首貸借対照表に対する手続及び割当てられた範囲の場所について、期末監査の要求事項を網羅する手続を実施した。
 移行活動には次のものが含まれる。
・我々の独立性を損なう、又は損なうと認識される可能性のある非監査業務を終了することにより、会社からの独立性を確立する。
・専門家を含む、適切なリソースとスキルを備えた監査チームを組成する。
・会社の経営者とのキックオフミーティングを開催する。
・期中の結論とその結果としての前年度の調整に基づいて、主要なリスクと監査上の着眼点を具体的に修正した監査アプローチを確立する。
・ITの信頼性を得るために実証手続を追加的に実施した後、ITアプローチを確立するとともに、事後的な改善を行う。
 期首貸借対照表に対する手続には以下が含まれるが、これらに限定されない。
・前任監査人による2019年の監査ファイルを確認するとともに、前任監査人の主任監査パートナーと面談した。
・2019年8月に計画会議を開催し、その席で会社の経営陣が、会社の組織について、当法人のグループ監査チームの主要メンバーに概要を説明した。
・期首残高に対する特定の監査手続を指示するために、特別な検討を必要とするリスク及びその他の監査事項を識別した。この監査手続には、主要な仮定と見積りを批判的に検討することと、経営者による過年度の結論の適切性について検討することが含まれる。
・特定の会計上のトピックについて、経営者が作成した会計方針書を検討することにより、会計方針及び過去の会計判断を理解した。
・主要なプロセスについて、詳細なウォークスルーを実施した。
 手続を実施した結果、2019年3月31日現在で過年度修正を6件識別した(これらは注記1〜3に開示されている)。これらの誤謬を反映するために、我々は監査アプローチを再評価したが、それには以下が含まれる。
・過年度修正が行われた根本的な原因と、期首貸借対照表に依拠することへの影響を検討した。
・誤謬は、特定の分野で長年確立された慣習と慣行から生じたものであり、我々は、それに応じて、技術的根拠が適切であることを確認するために、それらの分野のすべての会計方針書を検討した。
・より経験が豊富なチームが関与するレベルを引き上げるなど、過年度の誤謬が識別された領域への注力度を高め、これらの領域に関するすべての監査結果を監査委員会に報告した。
・当初は、手続実施上の重要性を監査上の重要性の75%に計画していたが、識別した誤謬の値を反映し、未発見の重要な虚偽表示リスクに対応するために、手続実施上の重要性を、監査上の重要性の基準値の50%に修正した。
・過年度修正を網羅した詳細は、決算書の注記1〜3に開示されている。監査手続は、構成単位のチームとグループ監査チームを組み合わせて実施された。
(監査委員会に報告した主要な所見)
 我々は、2019年11月に監査委員会に提示した、更新した監査報告書において、監査手続の実施結果を監査委員会に報告した。
 我々は、2020年2月に更新版の監査計画書を監査委員会に提示し、計画と対比させた最新の進捗状況を報告した。
 これに続いて、最初に実施した手続全体で識別された4件の過年度修正を除いて、我々は繰延税金負債について、さらに1件、過年度修正事項を識別した。
 我々は、2020年5月に、すべての監査手続が完了したこと、及び我々の見解を監査委員会と確認した。

終わりに

 2019年度から、我が国の上場企業についても、監査報告書へのKAMの記載の早期適用が認められるようになった。現在のところ、KAMの早期適用を行った我が国の企業は50社弱と、全上場企業に対して占める比率はごくわずかである。また、有価証券報告書におけるいわゆるリスク情報等の部分ではコロナウイルスに関連するリスクの開示は多く見られるものの、監査報告書におけるKAMの1項目として、コロナウイルスに関する記載が行われた日本企業はまだない。
 2021年3月期から、我が国においても、全上場企業の有価証券報告書に対する監査報告書において、KAMの記載が強制適用されるため、2021年の夏以降、3,700社を超える企業の監査報告書において、一斉にKAMの記載が行われることとなる。コロナウイルスに関する記載や継続企業の前提に関する記載が監査報告書においてなされる事例も一部に出てくると思われるが、その際に、本稿で紹介した欧州企業が行った開示例は、一つの参考例になるものと思われる。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索