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解説記事2019年09月16日 税理士のための相続法講座 相続法改正(5)―遺留分(2019年9月16日号・№803)

税理士のための相続法講座
第50回
相続法改正(5)―遺留分
 弁護士 間瀬まゆ子


1 はじめに
 遺留分も、今回の改正の中で、配偶者居住権や自筆証書遺言の保管制度とともに、税理士が注目すべき改正事項かと思います。
 遺留分に関する改正のポイントは、以下のとおりです。

① 遺留分減殺請求権(改正後は遺留分侵害額請求権)から生じる権利を金銭債権化
② 受遺者等の請求により裁判所が金銭債務の支払いにつき相当の期限を許与する制度の新設
③ 遺留分算定の基礎財産に加える相続人に対する生前贈与を10年以内にされたものに限定

2 従来の遺留分減殺請求権
 旧法のもとでは、遺留分減殺請求権の行使により共有関係が当然に生ずると解されていました。そうなると、せっかく株式や不動産を特定の相続人に遺贈していたとしても、その財産の処分が困難になってしまう等の不都合が生じます。
 実際に筆者も、不動産を取得した相続人が他の相続人から遺留分減殺請求され、納税資金が不足する中で物納もできず、最終的に双方とも経済的に破綻してしまったというケースを見たことがあります。
 そして、そのような共有状態は、当事者間の話し合いや調停で解決できなければ、訴訟で決着を図ることになります。
※遺留分について裁判手続を利用する場合、まず家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります(調停前置主義)。そこで話がまとまらない場合は地方裁判所に訴訟を提起することになります。調停後が不調の場合、家事審判に移行する遺産分割とは異なるところです。
 しかし、その判決主文は以下のようなものです。
 「被告は、原告に対し、○○の不動産について、平成○年○月○日遺留分減殺を原因とする共有持分1億0234万5600分の2345万6789の所有権一部移転登記をせよ。」
 つまり、判決までもらっても、102,345,600分の78,888,811と102,345,600分の23,456,789の割合で共有されているという状態が依然として残ることになるのです。
 と言っても、旧法においても、受遺者・受贈者側に価額弁償の抗弁が認められていました(遺留分権利者側からは主張できません。)。そのため、実際には、多くのケースで、上記のような共有状態を残すのではなく、金銭による解決が図られてきました。
 ただ、そうは言っても、少数ながら上記のような判決を得るに至る事例も存在していましたし、一時的にでも共有状態が生じることになれば、事業承継に支障が生じるという問題も指摘されていました。

3 金銭債権化
(1)改正の内容

 上記のような問題を解消するため、新法では、遺留分に関する権利行使により生じる権利を金銭債権化しました(民法1046条1項)。
 少々ややこしいのですが、ここで金銭債権化されたのは遺留分に関する権利自体ではなく、それを行使して得られる権利についてです。遺留分に関する権利自体は、遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権と名称こそ変えたものの、旧法と同じく形成権かつ行使上の一身専属権として残っています。
※形成権とは、単独の意思表示のみによって法律効果を生じさせることのできる権利をいいます。遺留分侵害額請求権の場合、遺留分権利者が受遺者や受贈者に対し遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示をすると、遺留分権利者の受贈者等に対する遺留分侵害額相当額の金銭債権が発生することになります。
※遺留分に係る権利は行使上の一身専属権ですので、遺留分権利者の債権者が債権者代位により行使すること等ができません。
 下記の図で見てみましょう。①の権利は、形成権として改正後も存続しています。しかし、①の権利を行使することにより得られる②の権利の内容が変わりました。すなわち、旧法では所有権等を遺留分権利者に復帰させる効果がありましたが、新法では①の権利の行使により金銭債権が発生することになりました。これにより、改正後は全て金銭による解決が図られることになります。

※新法における遺留分の制度上は、遺産の現物を遺留分権者に取得させることは想定されていませんが、双方が合意すれば代物弁済(民法482条)として給付することは可能です。ただ、譲渡所得税の問題が生じます。
 なお、遺留分侵害額請求権については、旧法におけるのと同様、短期消滅時効の制度が維持されています。具体的には、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈を知った時から1年間行使しないとき時効消滅します(相続開始の時から10年間を経過したときにも除斥期間の経過により消滅します。)。
(2)遺留分侵害額請求権の行使により生ずる金銭債権
 遺留分侵害額請求権の行使により生じる権利は、貸金債権等と同様、通常の金銭債権です。そのため、10年間(債権法改正法施行後は5年)の消滅時効に服することになります。すなわち、遺留分権利者は1年以内に遺留分侵害額請求権を行使して金銭債権を取得し、その後10年(または5年)以内に当該金銭債権を行使する必要が生じます。
 また、遺留分侵害額請求権の行使により生じる債務は期限の定めのない債務と解され、遺留分権利者が受遺者等に対して具体的な金額を示して履行を請求した時から履行遅滞に陥ることになります(民法412条3項)。
 遺留分侵害額請求権の行使と金銭債権の履行の請求は同時に行っても構いませんが、1年の時効の問題がありますので、遺留分侵害額請求権の行使の時点では、具体的な請求額を算定するのが難しいケースも多いのではないかと思います。ですので、遺留分侵害額請求権とそれにより発生する金銭債権を別々に行使するケースの方が多くなると予測しています。
 以上は遺留分権利者の視点からの話でしたが、受遺者らからすると、金銭債権化により遅延損害金が発生する時点が早まるという問題があります。すなわち、旧法では価額弁償の抗弁を出さない限り遅延損害金は発生しませんでしたが、新法のもとでは、金銭債権の行使と同時に(正確には初日不算入のため請求を受けた日の翌日から)遅延損害金が発生しますので、かなり早い段階から年5%(債権法改正法施行後は年3%)という高率の遅延損害金が生じてしまうことになります。
 その対策として、供託のほか、新しく設けられた期限の許与の制度を活用することが考えられます(金銭を直ちに準備することができない受遺者を保護するために設けられた制度であり、その要件を満たす必要があります。)。この期限の許与に関しては、次回解説します。
 また、より現実的には、和解による早期の解決を図るケースが増えるかもしれません。早く決着すれば、もちろん遅延損害金が発生する期間が短くなりますし、双方の話し合いで決める場合、過去の遅延損害金を免除するという柔軟な解決が図られることも多いです。
※ただ、当事者本人同士の話し合いで遺留分相当額だけを決めたというような場合、それが支払われるまでの遅延損害金の請求権は消滅しません。合意する際にいわゆる「清算条項」を入れておけばよいのですが、法律の専門家でないとその判断は難しいかもしれません。

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