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解説記事2019年10月21日 第2特集 臨時国会提出の会社法改正案を読む(2019年10月21日号・№808)

第2特集
早ければ2021年6月頃までに施行
臨時国会提出の会社法改正案を読む


 「会社法の一部を改正する法律案」及び「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」の内容が明らかとなった。法制審議会が今年2月14日に取りまとめた「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」を踏まえたものであり、同要綱からの内容の変更はない。施行は、公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内とされている。政府としては今臨時国会(12月9日まで)で会社法改正案を成立させたい意向。仮に臨時国会で同改正案が成立した場合には2021年6月頃までに施行される運びとなる。なお、株主総会資料の電子提供制度及び会社の支店の所在地における登記の廃止の施行に関しては公布の日から起算して3年6月を超えない範囲内とされている。

株主総会の電子提供、上場会社はEDINETでOK

 株主総会に関する規律の見直しでは、株主総会資料の電子提供制度が創設される(改正会社法325条の2~325条の5、図1参照)。株主総会資料の電子提供制度とは、インターネットを利用する方法による株主総会資料の提供を促進するため、取締役が株主総会資料を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し、株主に対して当該ウェブサイトのアドレス等を書面により通知した場合には、株主の個別の承諾を得ていない場合であっても、株主に対して株主総会資料を適法に提供したものとする制度のこと。会社法改正案では、株式会社は取締役が株主総会を招集するときは、株主総会参考書類、議決権行使書面、計算書類及び事業報告、連結計算書類の交付又は提供に代えて、株主がインターネットにより提供を受けることができる旨を定款で定めることができるようにしている。

 電子提供措置については、株主総会の日の3週間前の日又は株主総会の招集の通知を発した日のいずれか早い日から株主総会の日以後3か月を経過する日までの間、株主総会参考書類等に記載すべき事項などに係る情報を継続してウェブサイトに掲載しなければならないとされている。なお、上場企業など、定時株主総会に係る事項が記載された有価証券報告書の提出の手続についてEDINETを使用して行う場合には、当該事項について電子提供措置をとることを要しないものとする特例が設けられている。
 招集通知の発送期限は現行どおり株主総会の2週間前とされている。株主総会の招集通知には、「電子提供を行っているときはその旨(EDINETを使用しているときはその旨)」のほか、「株主総会の日時及び場所」「株主総会の目的である事項があるときは、当該事項」「電子提供措置事項に係る情報を掲載するウェブサイトのアドレス」等を記載することが求められる。
反対株主には書面交付
 一方、高齢者など、インターネットを利用することができない株主に対しては、書面交付請求を認めている。株主総会資料の電子提供を行う株式会社であっても、株主から書面交付請求があった場合には、株主総会の日から2週間前までに、株主総会の招集通知とともに、株主総会資料を書面で交付しなければならないとされている。
 なお、株主総会資料の電子提供制度については、システム対応などの準備が必要であるため、施行は法律の公布の日から起算して3年6月を超えない範囲内とされている。

株主提案権は「10」に制限

 近年、1人の株主が膨大な数の議案を提案するなど、株主提案権の濫用的な行使事例が発生していることなどを踏まえ、株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置が整備される(改正会社法305条4項、5項)。このため、株主提案の議案数を「10」に制限することとしている。
 なお、議案数の数え方については、①役員等(取締役、会計参与、監査役、会計監査人)の選任に関する議案は当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす、②役員等の解任に関する議案は当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす、③会計監査人を再任しないことに関する議案は当該議案の数にかかわらず、これを一の議案とみなす、④定款の変更に関する二以上の議案は当該二以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議案の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これらを一の議案とみなすとされている。
株主総会の運営が妨げられる場合も
 また、議案の数の制限に加えて不適切な内容の株主提案にも制限を設ける(改正会社法304条ただし書、305条6項)。具体的には、①法令又は定款に違反する場合、②専ら人の名誉を侵害し、人を侮辱し、困惑させ、又は自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的の場合、③株主提案により株主総会の適切な運営が著しく妨げられ、株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められる場合、④実質的に同一の議案につき株主総会において総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合とされている。

取締役の個人別の報酬内容の決定方針を開示

 取締役等に関する規律の見直しでは、取締役の報酬等の開示が見直される。上場会社等において、取締役の個人別の報酬の内容が株主総会で決定されない場合には、取締役会はその決定方針を定め、その概要等を開示しなければならないとされている(改正会社法361条7項)。
 なお、決定方針は法務省令で定めることとされているが、例えば、各取締役の報酬等についての報酬等の種類ごとの比率に係る決定の方針、業績連動報酬等(株式会社の業績を示す指標を基礎として算定される額又は数の金銭その他の財産による報酬等をいう)の有無及びその内容に係る決定の方針、各取締役の報酬等の内容に係る決定の方法の方針等が想定されている。
 また、パフォーマンスシェア(PS)やリストリクテッドストック(RS)など、株式報酬等に関する株主総会の決議事項に、株式等の数の上限等が加えられる(改正会社法361条1項)。加えて、株式報酬等について無償発行することも認める(改正会社法202条の2、236条3項、4項、361条1項、409条3項、本誌807号40頁参照)。

会社補償や役員等賠償責任保険契約に関する規定を整備

 役員が職務の執行に関し、株式会社又は第三者に対する責任を追及された場合などにおける費用等の補償の範囲が明確でないことから、会社法に会社との補償契約に関する規定が設けられる(改正会社法430条の2、図2参照)。具体的には、役員が職務の執行に関し、①法令違反を疑われ、又は責任追及に係る請求を受けたことにより対処した費用、②第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失については、費用等の全部又は一部を株式会社が補償する契約を締結することができるようする。補償契約の内容を決定するには株主総会の決議、取締役会設置会社の場合は取締役会の決議によることになる。なお、会社補償契約については、改正会社法の施行後に締結された契約について適用することとされている。

株主総会決議又は取締役会決議で
 また、役員等賠償責任保険(D&O保険)契約に関する規定も整備される(改正会社法430条の3、図3、本誌807号40頁参照)。会社法上、同保険の内容を決定するには株主総会決議、取締役会設置会社の場合は取締役会決議によらなければならないとする。D&O保険契約に関しては、株主代表訴訟担保特約部分の保険料についても、会社が負担することができることとされ、役員が個人で保険料を負担することなくD&O保険契約を締結することができるようになっていることを踏まえた対応だ。

社外取締役義務付けに経過措置

 上場会社等に対しては、社外取締役を設置することが義務付けられる(改正会社法327条の2)。すでに東京証券取引所の上場会社の98.4%で社外取締役が設置されていることから大きな影響はなさそうだが、一部の上場会社等に配慮し、改正会社法の施行後最初に終了する事業年度に関する定時総会の終結時までには適用しないとの経過措置を設けている。
社外取締役への業務執行委託が可能に
 社外取締役に対して業務執行の委託を可能とする規定も設けられる(図4参照)。マネジメント・バイアウト(MBO)等の株式会社と業務執行者等との利益相反が問題となる際、取引の公平さを担保するため、対象会社の社外取締役が対象会社の独立委員会の委員として、買収会社との間の交渉等の対外活動を行うことが期待されることがある。しかし、現行の会社法上、社外取締役がこのような行為を行うことで「当該株式会社の業務を執行した」取締役でないことという社外取締役の要件(会社法2条15号イ)を満たさなくなるのではといった指摘がなされていた。

 このため会社法改正案では、いわゆるセーフ・ハーバー・ルールとして、①取締役が株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該株式会社は、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社の場合は取締役会の決議)によって、当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができるものとし、当該社外取締役が当該行為をすることにより社外取締役の要件を満たさないことにはならないことが明確化されている(改正会社法348条の2)。
社債管理の補助を委託
 社債の管理に関する規律の見直しが行われる(改正会社法714条の2~714条の4、737条1項)。現行法上の社債管理者の制度に関しては、権限が広く、責任が重いことを原因としてなり手の確保が難しく、利用コストも高くなってしまう問題点が指摘されている。このため会社法改正案では、社債権者において自ら社債を管理することができる場合を対象として、社債管理補助者に社債の管理の補助を委託することができる制度が新たに設けられることになる(図5参照)。具体的には各社債の金額が1億円以上である場合等とされている。

子会社化する新たなスキームが創設へ
 また、株式交付制度が創設される(改正会社法2条、774条の2~774条の11、816条の2~816条の10、図6、本誌807号40頁参照)。現行法上、自社の株式を対価として他の会社を子会社とする手段として株式交換の制度があるが、完全子会社とする場合でなければ利用することができない。一方、自社の新株発行等と他の会社の株式の現物出資という構成をとる場合には、手続が複雑でコストがかかるという問題点が指摘されている。このため会社法改正案では、完全子会社とすることを予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる株式交付制度が新たに設けられることになる。

株主の住所等目的での閲覧は困難に
 議決権行使書面の閲覧について一定の制限が行われる(改正会社法311条4項)。株主名簿の閲覧謄写請求(会社法125条3項)と同様、「請求を行う株主がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき」など、議決権行使書面の閲覧等についても濫用的な行使が制限されることになる。株主の住所等の情報を取得する目的で議決権行使書面の閲覧等が利用されている実態があるが、今後はできなくなりそうだ。
 また、取締役等の責任を追及する訴えに係る訴訟について和解をするには、監査役設置会社の場合は監査役(監査役が2人以上いる場合は各監査役)、監査等委員会設置会社の場合は各監査等委員、指名委員会等設置会社の場合は各監査委員の同意をそれぞれ得ることとされる。監査役会、監査等委員会又は監査委員会の同意では足りないということになる(改正会社法849条の2)。
 そのほか、新株予約権に関する登記の見直し(改正会社法911条3項)や会社の支店の所在地における登記の廃止などが行われる。

【参考】会社法の一部を改正する法律案の概要

 
 会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑み、株主総会の運営及び取締役の職務の執行の一層の適正化等を図るため、株主総会資料の電子提供制度の創設、株主提案権の濫用的な行使を制限するための規定の整備、取締役に対する報酬の付与や費用の補償等に関する規定の整備、監査役会設置会社における社外取締役の設置の義務付け等の措置を講ずる。

1 骨子
(1)株主総会資料の電子提供制度の創設
  定款の定めにより、取締役が、事業報告等の資料をウェブサイトに掲載して株主に提供し、請求をした株主に対してのみ当該資料を書面により交付する旨の規定を設ける。
(2)株主提案権の濫用的な行使を制限するための規定の整備
  提案することができる議案の数の制限及び目的等による議案の提案の制限に関する規定を設ける。
(3)取締役に対する報酬の付与や費用の補償等に関する規定の整備
ア 取締役会に取締役の報酬の決定方針の決定を義務付ける規定を設けるとともに、株式を取締役の報酬として付与するために必要となる株主総会における決議事項等を定める規定を設ける。
イ 役員等がその職務の執行に関し責任の追及等を受けたことにより要する費用等を、株式会社が当該役員等に対して補償する契約を締結するための手続等を定める規定を設ける。
(4)監査役会設置会社における社外取締役の設置の義務付け等
  業務執行を社外取締役に委託するための手続を定める規定を設けるとともに、監査役会設置会社に社外取締役の設置を義務付ける規定を設ける。
(5)社債の管理を合理化するための規定の整備その他の整備等
ア 社債管理者よりも裁量が限定された社債管理補助者制度を新設し、関連する規定を整備する。
イ 株式会社が他の株式会社を子会社とするために自社の株式を当該他の株式会社の株主に交付するための手続等に関する規定を設ける。
ウ 会社の支店の所在地における登記を廃止する。
エ 成年被後見人又は被保佐人に係る欠格条項を削除する。
2 留意事項
(1)施行予定時期
  公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日。ただし、1(1)及び(5)ウの改正については、公布の日から起算して3年6月を超えない範囲内において政令で定める日
(2)審議会関係
 平成31年1月16日 法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会で要綱案を決定
 平成31年2月14日 法制審議会が要綱を答申

整備法案ではオンラインにより法人の登記申請が可能に

 国会で会社法改正案と一括審議される予定の「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」は、会社法の一部を改正する法律の施行に伴い、商業登記法その他の関係法律の規定の整備等を行うもの。商業登記法、民事再生法、会社更生法、破産法、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律など、合計91の法律の改正が予定されている。
 商業登記法の改正案では、法人の登記申請手続においてあらかじめ印鑑の提出を義務付ける規定を削除するなどの見直しが行われる(図7参照)。登記所に印鑑を提出することなく、オンラインによって登記手続を完了することにより、迅速に法人を設立することが可能になる。

 なお、現行どおり印鑑届書を登記所に持参又は送付することも可能。また、オンラインにより登記申請をした場合であっても、いつでも印鑑を提出することができる。ただし、書面により登記申請する場合には印鑑の提出は必須となる。

【参考】会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の概要

 
 会社法の一部を改正する法律の施行に伴い、商業登記法その他の関係法律の規定の整備等を行う。

1 骨子
 商業登記法その他の関係法律について規定の整備等を行う。
(1)会社法の一部を改正する法律の施行に伴い必要となる規定の整備を次のとおり行う。
ア 商業登記法において株式交付による変更の登記についての規定を設ける。
イ 会社の支店の所在地における登記の廃止に伴い商業登記法その他の法律の関係規定を削除等する。
ウ 社債、株式等の振替に関する法律において振替株式を発行する会社は電子提供措置をとる旨の定款の定めを設けなければならない旨の規定を設けるとともに、株式交付の対価として株式交付親会社が交付する株式が振替株式であるときの規定等を設ける。
エ 会社更生法等において社債管理補助者について社債管理者と同様の規律を定める規定を設けるとともに、更生会社は、更生計画の定めるところによらなければ株式交付をすることができない旨の規定等を設ける。
(2)ア 会社法の一部を改正する法律により株式会社について新たに定められる規律と同様の規律を次のとおり設ける。
(ア)一般社団法人における社員総会等の招集の通知に際して必要となる資料の提供について、株主総会資料の電子提供制度に関する規定と同様の規定を設ける。
(イ)投資法人における投資主が有する提案権等の行使について、株主提案権の濫用的な行使を制限するための規定と同様の規定を設ける。
(ウ)相互会社の取締役会に取締役の報酬の決定方針の決定を義務付ける規定等を設ける。
(エ)一般社団法人の役員等がその職務の執行に関し責任の追及等を受けたことにより要する費用等を、一般社団法人等が当該役員等に対して補償する契約を締結するための手続を定める規定を設ける。
(オ)投資法人が発行する投資法人債等について、社債管理補助者制度と同様の制度を設ける。
イ 法人の登記申請手続においてあらかじめ印鑑の提出を義務付ける規定を削除等する。
2 留意事項
(1)施行予定時期
  会社法の一部を改正する法律の施行期日と同様とする。ただし、元号の修正等に係る改正については公布の日とし、1(2)イの改正については公布の日から起算して1年3月を超えない範囲内において政令で定める日とし、1(1)イ及びウ(電子提供措置をとる旨の定款の定めに係る部分に限る。)並びに(2)ア(ア)の改正については会社法の一部を改正する法律案の概要1(1)及び(5)ウの改正の施行期日と同様とする。
(2)一括審議希望
  会社法の一部を改正する法律案との一括審議を希望する。

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